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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第213話:ドラゴンタワーの四天王

「誰だ!」

「僕だよ」


 ドラゴンタワーの街の真ん中にそびえ立つ一際目立つ塔。

 そう、この大陸の四天王が住む、ドラゴンタワー。


 俺はいまそこの最上階から2階層ほど下ったフロアにある部屋に居る。

 もちろん、転移で入った。

 こんな何階もあるかわからないような塔を、いちいち下から上がるのは面倒だったから。

 それだけ。

 

 部屋にはやっぱり執務用の机があり、そこに書類が積まれていた。

 ミスリルさんの部屋にあるものより、家具が全体的に大きい気がするが。

 部屋の主を見て納得。

 3m近い大男。

 顔が竜で体が鱗に覆われている。

 きっとこいつは情に厚い男だと思う。

 竜王会心撃とか打っちゃうタイプだな。


 机の上の書類は丁寧にもいくつかに分けて積まれていた。

 すぐやるべきもの、後回しで良いもの、期限の無いものなどで分けているのかもしてない。

 それだけ書類があるのに、この部屋の主は椅子の肘掛けの肘を置いて、手の甲に頬を乗せてうつらうつらとしていた。

 俺が部屋に転移した瞬間に、声を掛けられたのにはびっくりした。


 そして竜の顔を持つ男がこちらに振り返り……首をかしげる。


「本当に誰だ?」

「あれ? 知らない? これでも魔王軍の幹部の一人なんだけど」

「貴様みたいな童がか?」


 本当に心当たりがないようだ。

 それもそうだ。

 初めましてだからな。


「農業参謀役のマサキだよ」

「むぅ……お前がか」


 男は俺の方にゆっくりと近づいてくると、頭の上に手を置く。

 手もでけーな、おい!

 顔まですっぽりだわ。


「なかなか可愛らしい子供だ。にわかには信じられん」

「ここに居ることが何よりの証拠だと思うが?」

「言葉遣いはなっとらんが……ふむ、わしを恐れん童か。珍しい……わしはドラゴア。ドラゴアさんと呼ぶがよい」


 ドラゴアさんって……自分で言っちゃったけど。

 これ、完全に子ども扱いされてるな。


「そりゃ怖くなんかないさ。同僚を怖がってちゃ仕事もできん」

「そうか……怖くないか」


 俺の言葉を反芻して飲み込むドラゴア。

 一度天を仰ぐと、深く目を閉じる。

 そして再度こちらに顔を向けた瞬間に、ニッと笑みを浮かべる。


「そうか、そうか! わしが怖くないのか! そうか!」


 すっごく嬉しそうに俺の身体を持ち上げて、その場でグルグル回りながらぶんぶん振り回す。


「うわっ、いきなり何を!」

「はっはっは! わしを怖がらん子供など初めてだからな! わしの実の子ですら迂闊に近づかんというのに! こんな嬉しいことは無い!」

「なっ、えっ? 言ってる意味がわからん!」

「子供が生まれてから、子供に対する情は芽生えたというのに、子ども扱いできる相手がおらなんだらでのう! 実の子ではないが、ここにおったことが本当にうれしくての! そうだ、菓子食うか?」


 うおおお。

 想像と全然違う。

 いや、ある意味では予想通りだけど、あれは冗談で予想しただけであって。

 ていうか、魔族って子供に甘すぎるだろ! 

 魔王といい、ミスリルさんといい、トクマといいちょろすぎだよ。


「お菓子は魅力的だけど、今日は人として話をしにきたんだ」

「そうか、魅力的か! おい! 誰ぞ菓子を持て!」

「聞け! 俺の話を聞け!」

「おう、聞いてやろう! 菓子を食べながらな!」


 結局ドラゴアに押し切られる形で、簡単なお茶会の準備が進められた。

 うんうん、まあ良いけどさ。

 ダメだなー……

 魔族の知り合いが増えれば増えるほどに、魔族に親近感が湧く。

 というか、本当に種族が違うってだけで、個人で付き合うには気の良い人が多い。


「で、話というのは?」

「いま、この街に魔物の群れが集まってきている」

「ほう……確かにそのような気配は感じていたが」


 どうやらこの人は、今回の騒動と無関係っぽい。

 それもそうだろう。

 虫達調べでは、ノーフェイスが何やら画策してたっぽいからな。


「単刀直入に聞くけど、ドラゴアさんはこれに呼応して打って出るつもりは?」

「ふむ、またとない好機ではあるが、人の罠ということも考えられるしのう。お主は出て欲しいのか?」

「いや、その反対。俺は中立の立場だから、魔族と無関係なら今回は人を助けようかと」

「ん? お主は魔王様の農業アドバイザーではないのか?」


 俺の言葉に、ドラゴアが眉間に皺を寄せてこっちを睨んでくる。


「ドラゴアさん、こわーい」

「おお、すまんすまん! 別に怖がらせるつもりはなかった。ただ、ちょっと言ってる意味がわからんで」


 俺がわざと怯えたふりをすると、ドラゴアが慌てた様子でオロオロとしはじめる。

 本当に子供に対する免疫が無さそうだ。

 

「冗談だよ。ドラゴアさんが良い人ってのは分かったし。いや、中立っていうか魔族と人族の関係を修復したい人。だから、問題があれば、それに関しては種族関係なく助けるさ。そもそも、そっちが俺の本職みたいなもんだしな」

「なんとも難儀な運命を背負っておるのう」

「背負わされたんだよ」

「はっ?」


 俺が魔族も人も関係なく困ってる人を救うといったら、ドラゴアさんに同情された。

 正直に置かれた状況というか、押し付けられたっぽいニュアンスで返すとまたも難しい顔に。


「かような幼子に、このような過酷な試練を課すとは誰の仕業かしらんが、ろくでもないやつじゃな!」

「あー……そんなこと言ったら、天罰が下っちゃうよ」

「天罰? 神の啓示でも受けたか?」


 なかなかに鋭い。

 ってこともないか。

 天罰なんて神様以外に下さないだろうし。


「まあ、今回は魔族と関係ないことで人族に災害が降りかかってるから、助けるってだけ」

「そうか、わしらが手伝えることは?」

「うん、ここで魔族が打って出たらややこしいことに……いやありか? ここで魔族が魔物の群れを撃退すれば多少は人の見方も変わるか?」

「いや、表立って人を助けるつもりはないが、お主の手助けならと思っただけじゃ」


 なんだ、残念。

 もし魔族が魔物を撃退すれば、人の中になんらかの感情の種を植え付けることが出来ると思ったんだけどな。

 とはいえ、まだ時期尚早ともいえる。

 実際には魔族の印象は最悪だし、この状態で塔から魔族が飛び出たら後ろから撃たれかねん。

 何か良い方法でもあれば良いのだが。


 まあ、打てる手も少ないし、慎重に行動すべき時に余計なことを考えても仕方ないか。

 

「残念。でも、あの程度なら俺だけでも十分」

「ほう、マサキちゃんは強いのだな」


 ちゃん付けされて、思わずゾゾゾと背筋を虫が這うような感覚を覚えたが。

 純粋に子ども扱いされてるだけだ。

 きっとそっちの趣味は無いはずだ。

 ないよね?


「まあ、また暇があればくるがよい」

「うん、お菓子ありがとう。美味しかったよ」

「そうか……事前に言ってくれれば、もっと用意しよう」

「うん! それじゃあ、またね」


 それからドラゴアと硬い握手を交わすと、転移でジャッカスの元に戻る。

 この後はギルマスのミシガンと会って、今日の宿に向かうだけだ。

 魔物の討伐は、明日の早朝に向かう予定にしてあるからな。


 転移する直前にドラゴアが「こやつも、扉を使わん」というぼやきが聞こえた気がしたが。

 まあ、気にしても仕方ないか。


***

「クソガキが! 嘗めやがって!」

「おいおい、大声出すなよ」


 この街の宿の食堂で一人の剣士風の男が大声をあげて、手にしたジョッキを思いっきり机に叩きつける。

 食堂内には客はまばらに居る程度。

 この騒動前から泊まっていたであろう人達のみだ。


 男の名前はエクレール。

 ドラゴンタワーの冒険者ギルドでマサキに絡んで、適当にあしらわれていた男だ。

 エクレールのパーティのメンバーだろう男が、たしなめるように注意する。


「俺はC級冒険者のエクレール様だぞ? クソガキが不意打ちばっかりしやがって」

「2度目のは違うだろ! ご丁寧に守備の加護まで掛けてもらって一発だったじゃねーか」

「うるせー! 油断してたんだよ!」


 エクレールはあれは油断してやられたと、本心で思っていた。

 だが周囲はそうは思わない。

 本気で、しかも事前に念入りに魔法まで掛けてもらって負けたと。

 周囲からは嘲笑も漏れていた。

 そのことが、彼のプライドを酷く傷つけていた。


「大体ジャッカスさんの連れだぞ? 弱い訳が無いだろう」

「あんなガキが俺より強い訳もないだろう! きっと何かズルしやがったに違いない」

「ズルしてたのはお前……っと、俺を睨んだってしょうがないだろ!」

「お前だって、俺のこと馬鹿にしてんだろ?」


 座った目で睨みつけてくるエクレールに何か怪しさを感じた男が、お手上げだとばかりに両手を上げる。


「飲みすぎだ。これ以上飲むなら、俺は先に部屋に戻って寝るぞ」

「ちっ、もう少し付き合えよ」

「付き合ってられるかよ! こんなところでくだまいて、周囲に八つ当たりばっかするような奴の相手してたら、美味いもんも不味くなるわ」

「なんだよ!」

「じゃあな。明日までに酒抜いとけよ」


 付き合ってられないとばかりに、メンバーの男が食堂を後にする。

 その後姿を睨みつけるエクレール。


「どいつもこいつも……」


 そう言いながら、手にしたジョッキの中身の残りを一気に飲み干す。


「随分と楽しそうですね」


 そんなエクレールに声を掛ける人がいた。

 男性のような、女性のような……若いとも歳ともとれる声。

 エクレールは、聞いたそばからその声の印象が消えていくような不思議な感覚を覚える。


「付き合いますよ。奢らせてください」

「あーん? あんた、誰だよ」


 声を掛けてきたのはフードを目深にかぶった、いかにも怪しい男性。

 いや女性か?

 その人物がフードを軽くめくって、エクレールを見る。

 一瞬彼の目にうつったのはのっぺりとした、平坦。

 その起伏の無い平らな顔を見て、思わずぎょっとする。

 直後、目があるであろう場所が怪しく光る。


「久しぶりですね。私ですよ」

「ああ、あんたか。この街に来てたんだな」


 どうしうて彼のことを忘れてたのだろうか。

 古くからの友人だったはずなのに。


「あー……すまんな、ちょっと名前が思い出せん。飲みすぎたか?」

「そんな日もありますよ、それよりももう一杯どうです?」

「いつも悪いな」

「いえ、その代わり、面白い話を聞かせてくださいね」


 それから、小一時間ほどエクレールは男と会話をする。

 その中で、いろいろと面白い話を聞いた気がする。

 が、話の内容がさっぱりと思い出せない。


「それじゃあ、そろそろ失礼しますね」

「ああ? まだ良いだろう」

「いえ、次がありますので」


 そう言った男の目が、また怪しく光る。


「ああそうだな。あんたは忙しいんだったな」


 エクレールはそう言って、机に突っ伏して寝始める。

 そして彼は次に目を覚ました時、男のことの一切を忘れただただマサキに対して憎しみを募らせていた。

 その手に見覚えのない短剣をもって。


***

「くそ、なんなんだあの子供は」

「これはこれは神父様、どうなされました?」

「誰だ!」


 ドラゴンタワーの街にある教会。

 そこの奥にある神父の使っている部屋で、この教会の主が怒りに震えていると不思議な声が聞こえる。

 男とも女とも、若いとも歳とも取れる声。


「ああ、あんたか」

「ええ、しかし温和で人徳者として有名な神父様がここまで感情を露にされるとは。何があったのですか?」

「ああ、聞いてもらえるだろうか?」

「是非、聞かせてください」


 フードの下には本来あるべき顔のパーツがない、のっぺりとしたものが。

 そして口があるべき場所がパカッと裂けたかと思うと、いびつに三日月の形に歪む。 

 何か面白いことでもあったかのように……

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