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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第212話:ドラゴンタワーの街

「まあ、よくよく考えたらそうだよなー」

「物が入ってこないのに、手放さないですよね」

 

 ギルドをあとにして街に繰り出したはいいが、なんともまあ静かなものだ。

 通りを歩いているのは武装した兵隊や、冒険者ばかり。

 開いているお店も、そういった人たちを相手にした店ばかり。


 普通の食料品店なんかは扉をしめ切っている。

 木でできた扉は傷だらけで、蝶番もどこか歪んでいる。

 さすがにお店の入り口なので、簡単には壊されるような作りではなかったが。


「これも押し入りや強盗の仕業じゃなくて、街の住人の仕業っていうからやるせないよな」

「なぜ人は窮地に立たされると、こうも簡単に悪に傾くのでしょうか」


 お前が言うか? といった視線をジャッカスに向ける。

 実家では親に見限られまっとうな仕事にもつくことも出来ず、ならず者をしていたとは思えない発言だ。

 面倒見がよくおせっかいで根が優しいジャッカスですら、イケイケのチンピラだったんだ。

 この規模の街なら、簡単にそういったことに手を染めてしまうものが出てきても仕方ないか。


「すいません」

「いや、まあ人のふり見て我がふり直せだな」

「なんと含蓄のあるお言葉。感銘いたしました」


 元いた世界じゃ誰でも知ってる言葉だけど、ここの世界じゃ無い言葉も多い。

 これは過去の偉人たちの言葉を適当に並べたら、有名な哲学者になれるかもしれんな。


「人間は考える葦である」

「はっ? えっと……考えながら歩くってことですか? あー、考えながらも前に進まないといけないって意味ですね! で考えた結果、強盗に走ったと?」

「もういい、なんでもない」


 試しに知ってる言葉を言ってみたが、共感は得られなかったようだ。

 そもそも魔法もスキルもあるこの世界じゃ、この考え方は批判しか生みそうにない。

 というか俺自身が哲学に興味が無いのに、頭のいいやつに突っ込まれたらきっとすぐにボロが出る。

 やっぱり、なれないことはやめておこう。


「にしても食堂も開いてないし、宿屋も開いてないってのは想定外だったな」

「人のことを気に掛ける余裕も無いのでしょう。今夜はどうします?」

「あー、まあミシガンが泊まる場所は用意するって言ってたから、考えなくてもいいだろう。最悪帰ればいいし」


 ここに無理に宿泊しなくても、管理者の空間に戻れば済む話だ。

 しかし観光目的で来たのに、こんな緊急事態じゃ何も見ることができないな。

 せいぜいが武器屋や万屋くらいのものか?

 それすらも閉まっているところを散見するあたり、本当に状況は宜しくないみたいだな。


「いまこそ神に祈るのです。魔物に襲われてはお金なんて残してもなんの意味もありません。でしたら神のために使い、神の御心に触れ、神のご加護を得ることに力を注ぎましょう! 今なら一定額以上を納めた方には、この有難い護符を……」


 うわぁ、いやなもん見た。

 思いっきり詐欺だろう。

 いや、演説してる人は本職っぽいが祈る相手を知ってる身としては、これほど信憑性の無いものはない。


「どうします?」

「それはどっちの意味でだ?」

「寄付しますか?」

「するか、あほらしい」


 捕まえてとっちめるのかと思ったが、普通に寄付する気だったらしい。


「いえ、マサキ様を使わしてくださった神様への寄付ですよ?」

「違うよ。教会への寄付だ」


 本当に神様に寄付したいなら、俺のところに持って来いと言ってやりたいが。

 あいつらは本気で信じてるのかな?

 周囲の人達も、まあ自分じゃどうにもならないから、神にすがろうってのも分かるが。

 ただあの聖職者の言葉じゃ、金の無いやつは神様は救いませんって言ってるようなもんだしな。


 そもそも神は救ってなんかくれんぞ?

 うっかり人を殺したあげく、部下にして超長期雇用するようなしたたかさを持ってるし。

 そもそも神様自身が、あまりこの世界のことに直接的に関与しないって言ってたからな。


「ん? お布施を盗みに来たのか?」

「違うよ! これ……」


 ふとそっちに目を向けると、本当にボロボロの服を着た男の子が神父の元に駆け寄って追い払われそうになっていた。

 身なりから浮浪児とでも思われたのかな?

 手には銅貨を一枚もっている。


「お父さんが身体を壊して逃げられないから……神様にお父さんを守ってもらいたくて」

「ふむ……その気持ちは大事だぞ! ただ、それじゃあちょっと少ないかな」

「ええ……でも、これ僕が持ってる全財産だよ?」

「あー、じゃあそこに入れといてくれ。神様が気づいたら助けてくれるかもしれんぞ」

「え、そのお札「ん? あれはもっと金を払ってもらわないと、渡せないんだよ」


 あのくそ神父。

 あまりな対応に、腸が煮えくり返るかと思った。

 てか、煮えくり返った。


「そんなもんに金払っても神様は助けちゃくれんぞ」

「マサキ様!」


 思わずそっちにズカズカと近づいて、つい男の子の手をつかんでしまった。

 ジャッカスが止めようと……うわ、めっちゃキラキラした目でこっちを見てる。

 期待してんのかよ。

 止めろよ。

 いや、止めても行くけどさ。


「なんですか、貴方は?」

「お前こそ神様に寄付させるんだったら、俺を通してくれないと届かないぞ?」

「へえ、子供のくせにたかるつもりですか」


 いやたかるとかじゃなくて、事実を述べただけなんだがな。

 神父を無視して、聴衆の方に視線を向ける。

 

「貴方たちも神様なんかに頼るくらいなら、この街の冒険者や兵士のために寄付した方が良いぞ?」


 そして大声で叫ぶ。


「彼らが良い装備を手にした方が、よっぽど街の被害は減ると思うけどな」


 俺の言葉に何人かの人が考え込むそぶりを見せる。


「どうせ店も閉まってて、今更物資を手に入れることも出来ないんだ。なんだったら、開いてる武器屋とかで良いもの買って、領主様や冒険者ギルドを通じて貸し出したらどうだ? 破損して戻ってこない可能性もあるが、多少は金が返ってくるかもしれないし。何よりそれで助かったなら、よっぽど生きた金の使い方だ」


 俺の演説に聴衆はさらに考え込み、手にした財布をしまうものたちも出てきた。

 神様からなにやら、もやっとした気持ちが伝わってくるが。

 どうせ助ける気がないなら、良いじゃん。


 そして、後ろからは怒気を感じる。


「いきなり出てきたかと思えば、なんと罰当たりな!」

「罰が当たるならとっくに当てられてるだろう。何も起こってないってことは、そういうことだ」


 神父がなにやらわめいてるのを無視して、男の子と視線を合わせる。

 男の子が少し怯えた様子を見せるが、努めて笑顔で接する。


「ほら、坊主も銅貨1枚持ってるんだろ? この薬草は冒険者ギルドへの卸値が丁度銅貨1枚だ。これを煎じて飲めば、気休め程度には効果があるぞ」

「えっ? でも、神様」

「神様は居るぞ。でもな、人の神様じゃなくてこの世界の神様だ。だから、必ずしも人だけを救ってくれるとは限らないだろ? でも薬草で作った薬は、使った人を全員助けてくれる。そりゃ、この程度の初級の薬草なら治らない病気や怪我の方が多いけど」

「うーん」

「で作った薬がこれ。他にもいろいろと調合してるから、銀貨1枚ってところだな」

「そんなお金」

「どうせ魔物に襲われたらこんなの残してもなんの意味もないだろ? だったら、人のために使って、人の心に触れて、人の役に立った方が良いもんな」


 そう言って神父の方を見ながら、男の子の手に薬を握らせる。

 そして、代わりに銅貨を一枚受け取る。


「少しは効き目あると思うぞ。ジャッカス、送ってやれ」

「良いの?」

「良いさ」


 この状況で薬なんか持たせたら、きっとよこしまな考えを持つ者が現れるだろう。


「帰ったらすぐに飲ませるんだぞ! 大事に持ってたら強盗に襲われるかもしれないからな」

「えっ?」

「大丈夫、このおじさんはS級冒険者でとっても強いからな、本来なら護衛の料金だけでも金貨はいるだろうが、今日はサービスだ」

「あの……」


 男の子がもじもじとした様子で、ジャッカスの方を見上げる。


「はい、貴方の父親が薬を飲まれるのを見届けてから、マサキ様と合流するのでご安心を」

「うん!」


 そしてジャッカスに手を引かれて、男の子がここから立ち去る。


「先ほどから黙って聞いていれば好き勝手」


 とうとう我慢できなくなったのか神父が俺の肩を掴んできたので、すっと身体をひねってそれを避けて睨みつける。


「あっ、薬はあれしか用意してないからね。それじゃあ、皆解散」


 そして集まって民衆に対して、この場から立ち去るよう手を振る。


「うーん……」

「確かに、あの子の言うことも一理あるけど」


 何人かは、それでも後ろ髪を引かれているようだ。


「なにを勝手に追い返してるんだ! お前のような背教者には、私が自ら鉄槌を下してやる」

「おいっ、その有難い護符を持ってろ」

「ん?」

「その護符ってのは神の加護があるんだろ?」

「意味の分からないことを……」


 俺は神父の用意した護符の入った籠を指さして取り出すように言うが、いまいち要領を掴んでいないらしい。


「その護符があれば、身を守ってくれるんだろって聞いてるんだ」

「当り前じゃないか! これは、主神シュトーレン様のご加護を得た有難い護符だぞ!」

「あー、そもそもこの世界の神様ってそんな名前じゃないから」


 神父が取り出した護符に向けて剣を抜くと、思いっきり突き刺す。

 そして神父の胸の前でピタリと止める。


「ひいっ!」

「全然守ってくれてないじゃん。俺が止めなきゃ死んでたぞ? ってことはあんたの身を守ったのは神様じゃなくて俺の匙加減ってことだな」

「何を屁理屈を! 神をも恐れぬ所業、きっと後悔することになるぞ!」

「みなさーん! ご覧の通り、この護符にはなんの加護もありませんので、騙されないように!」

「貴様!」


 神父を無視して再度民衆に解散を促すと、チラホラとこの場を離れる人たちが。


「そもそも金額の大小で、父親思いの子供の願いも聞き入れてくれない神様なんか、神じゃないだろう。お前の態度が十分に示してたぞ」

「絶対に後悔させてやる」

「そいつは楽しみだ」


 最後の俺の言葉がダメ押しになったのか周囲から人が消えたのを見て、神父が肩を震わせながら去っていった。

 神罰なんか下るわけないだろう。


 と思ったら、頭の上に小石が降ってきた。

 下ったよ神罰。

 善神様から、調子に乗りすぎじゃという有難い神託を一緒に、

 流石に怪我をするようなものでも、痛みを感じるようなものでも無かったが。


 横から邪神様の笑い声が聞こえてくるに、邪神様には楽しんでいただけたみたいだ。

 その後合流したジャッカスからきくに、割と危険な状況だったらしい。

 というか父親が働けないので、かなり困窮していたみたいだった。

 そのため母親が働いているみたいだったが、子供どころか病床の夫にすら栄養のあるものを与えられていなかったと。


 父親の病気はこの世界特有のもので手足がマヒして内臓の機能が徐々に弱っていく、突発性の病気だとか。

 ジャッカスと一緒に行った蝶が教えてくれた、

 ちなみに治療済み。

 ちゃんとしたものを食べて、1週間もすればよくなるだろうと。

 だから一家の1週間分の食料を置いていったと。


 絶対に受け取れないと言われたみたいだが、父親が元気になって一生懸命働いたら普通に買える程度のものだから、来年にでも1週間分の食料を取りにくると伝えて押し付けてきたらしい。


「やっぱりお前っておせっかいだな」

「いえ、マサキ様に言われるのは心外です。それに……あの男の子の健気な姿に、心が震えまして」

「うん、よく分からんが、まあ良いことには違いないし、あの神父にこそ天罰が下ると良いな」

「そうですね」


 そう言って、2人で上を見上げた。


いよいよ本日書籍第1巻発売です!

期待と不安が入り混じってます……


皆様が本を購入されると、出版社が儲かります。

すると予算が増えます。

予算が増えると、新しい本が出せます。

すると、新たな書籍作家さんが生まれるのです!

皆様の力で、この素晴らしいサイクルが出来上がるのです( ー`дー´)b

何が言いたいかというと、お願いします(* ´艸`)

702円で皆が笑顔になれますよ♪

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