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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第210部:ドラゴンタワーの街

「マサキ様の合流は週末ですか」

「まあ、マルコの学校もあるしな」

「3日後……ですね」


 ジャッカスと管理者の空間で、話をする。

 というのも、ジャッカスからの相談を受けてのことだ。

 S級冒険者であるジャッカスに対して、ウエウエスト王国の冒険者組合から救援要請があったと。

 要請内容は、四天王の塔があるドラゴンタワーに大量の魔物が押し迫っているというものだった。


 そこで真っ先に思い浮かんだのが、先のヨドの森での2匹の蛇の行動。

 マサキからの依頼で一応森の調査をしたのだが、狼達がすでにあらまし調べ終えていたため新たな収穫は無かった。


 おそらく雷竜を使って、シビリアに混乱を引き起こそうとしたのではないかとの結論。

 それ以外に、目的が思い至らなかった。


 そしてそこから数百キロ離れたドラゴンタワーの街に、今度は魔物の群れが大量に迫ってきているとの情報。

 聞けば、世界中のあちらこちらで似たようなことが起きているらしい。


 となれば、これはもうノーフェイスが暗躍しているのではないかと考えるのが普通だろう。

 各地の冒険者達や騎士達がその対応にあたっているらしいが。

 四天王の塔がある街に関しては内部にも気を向けないといけないため、外に対する防衛に全ての戦力を割くわけにはいかない。


 そして街の多くの人達が、魔王軍による仕業だと噂し始めていた。

 この魔物の大群がたどり着いたとき、塔からも魔族や魔物が溢れ出てくるのではないかと。

 街の住人は不安と恐怖に苛まれながらも、すでに退路は断たれた状態。

 街に引きこもりつつも、街の中心にある塔に対しても緊張を解けない状態でストレスが溜まる一方だ。


 そんな中でそういった脅威にさらされていない国の冒険者や騎士達に救援要請がいくのは、普通だろう。

 ただし、あくまで国交が正常ならだ。

 冒険者の方は国の垣根を越えて協力することは、なんら問題ない。

 ただし騎士団の方は国としての正常な関係を築けていなければ、違った意味で脅威になりかねない。


 現にクロウニが納めるクエール王国でも同様の状態になりかけたが、そこはマサキが管轄している国だけのことはある。

 お庭番と虫たちのお陰で、早々に魔物の群れは蹴散らされていた。

 この際に多くの素材が手に入ったことは、マサキを喜ばせることになったが。


 そのクエール王国、いまは余裕がある状態なのだがこれまでが悪すぎた。

 だからなのか、クエール王国に対して救援を依頼する国は一つもなく、逆にクロウニが打診しても自国でなんとかするという答えのみが返ってきた。

 まあその打診した相手というのが、くしくも同じ大陸にあるウエウエスト王国なのだが。


 ウエウエスト王国はシビリア王国ともクエール王国とも戦争をした歴史を持つ。

 とはいえ、シビリア王国とのそれは遠い過去の話だ。

 まだこの大陸に国と呼ばれるもものが10個近くあった時代。

 クエール王国による大陸統一戦争が周辺国家に仕掛けられ、その流れにのった形だ。

 その中で、シビリア王国と戦争を起こしたことも、共闘したこともあった。

 破竹の勢いで周りの国を吸収していくクエール王国に対して、当初ウエウエスト王国は西半分の制覇を目指したがくしくもシビリア王国に阻まれることになった。

 ただウエウエスト王国はクエール王国に対する手段として領地拡大を行っていたため、最終的にはシビリアと同盟を結んでクエール王国に対抗することとなったのだ。


 流石に同規模の国を2つ相手取ってまでクエール王国の野望が成功する見込みはなく、やがてこの大陸は3つの国によって支配されることとなる。

 その後もクエール王国は時折2つの国に対して戦争を仕掛けていたが、いつしかそれもなりを潜めていた。

 その代わりにいろいろと、影で工作は行っていたようだが。

 それも国王が変わってからは、一切聞かなくなった。

 とはいえ簡単に警戒を解けるような関係性でもない。

 そもそもが国王が変わってから、まだ2年弱しか経過していないのだ。

 いくらそれが善意であったとしても、このタイミングで救援の申し出となればまた何か企んでいるのはと疑われても仕方ない。


 ウエウエスト王国は一方でクエール王国の救援の申し出を断りつつ、シビリアには協力を要請していた。

 その第1弾として、一時的に冒険者に対して国を渡る際の出入国税を免除する動きに出る。

 と同時に大陸内でも唯一のS級冒険者、ジャッカスに対する指名依頼まで出して。


 それに対してジャッカスはシビリアを離れる許可を得るために、マサキに相談していたのだが。

 そこで予想外の返答が。


「俺もちょっと、それ行ってみたいな」


 ノーフェイスが噛んでいるかもしれないということもあるが、それ以上にシビリア以外の国に興味津々だった。

 だから、ジャッカスと一緒にちょっとウエウエスト王国観光などと考えていた。

 ただ、そうなるとどうしてもマルコの休みくらいしか、出かけられない。

 今回は金曜日の授業終了後に、ベントレーと一緒にキャンプに出かける体にしてある。

 この2人ならば、家の許可も取りやすい。


 予定は長めにとって、月曜日まで。

 月曜日の朝は、ベントレーと登校すると伝えてある。

 

 そして金曜日の放課後、マルコの身体を借りたマサキはジャッカスと一緒にドラゴンタワーの冒険者ギルドに来ていた。


「おいおい、見たことない面のやつが子供連れで来てるぜ? いや、どこかで見たような……いや、でもあんなやつ会ったことないような……まあどっちにしろ子供連れでこんなとこに来るとは、なめてんな」

「えっ? 見たことない? そこに似顔絵が貼ってあるじゃないか」


 見慣れない冒険者が子供連れで入ってきたことで、面白そうなものを見つけたとやせぎすの面の悪い男が立ち上がったが連れの男に袖を引っ張られる。

 男が指さした先にはギルドの受付があり、その上に数枚の肖像画が飾られている。

 そのうちの一枚がジャッカスにそっくりに描かれていて。

 下には、S級冒険者の文字が。


「えっ? あれっ? あっ、どうりで……って、マジか! サイン貰わないと」

「おまっ、さっきの言葉のあとで、よくそんなことが言えるな」


 肖像画とジャッカスを見比べ、途端に納得がいったような表情をしたやせぎすの男が目を輝かせて駆けだそうとするのを連れの男が呆れてみる。

 しばらくして、ほくほく顔で戻ってくるやせぎすの男。


「へっへっへ、サインは貰えなかったけど、握手してもらえたぜ」

「そ……そうか、良かったな」


 心底嬉しそうな表情を浮かべる連れに、微妙な表情を浮かべる男。

 

「あと、あの子供俺より強いらしいぜ! ジャッカスさんが言うんだから、間違いない!」

「そ……そうか。絡まなくて良かったな」


 そのあと照れたようにそんなことを報告してくる連れに、苦笑いしかできない。

 子供より弱いと言われて誇らしげな連れに対して、パーティを解散したくなったがため息をついて誤魔化していた。


「へえ、ベルモントのギルドとはまた違った感じだな」

「ええ、それなりに強そうな冒険者も多いみたいですが、やはりピリピリしてますね」


 ギルド内にはそれなりに良い装備に身を包んだ冒険者が多くいたが、気持ちが高ぶっているのが見て取れる。

 彼らも魔物の群れに対抗するために集められたのだろう。


「流石S級冒険者様だな。子供連れとはよゆうっ……」

「面倒だから絡まないでくれるかな?」


 と思ったら少し上等な金属鎧を装備した剣士風の男がニヤニヤとした様子で話しかけてきたので、マサキが身体強化と敏捷強化をかけて思いっきりボディにきつい一撃をお見舞いする。

 ご丁寧に拳とお腹の間に空気の塊を作って破裂させながら。


 今回の旅でマサキは一切の自重を捨てている。 

 なぜなら自分の居る国ではないからだ。

 多少無茶をしても身元がばれることも無いだろうし。


「おいっ! エクレールが1発でやられたぞ!」

「あのガキ、何者だ!」

「ガキ?」


 その行動に周囲がざわめき、ヒソヒソと話をはじめる。

 ガキという言葉を耳ざとく聞きつけたマサキが、声の主をにらみつけると慌てて顔をそらす。


「先に言っとくが俺がジャッカスと一緒にいるのは、そういうことだと思え。分からん奴は前に出ろ! 身体で教えてやるから」


 マサキの宣言に周囲が静まり返る。

 そして少し遅れて、何人かの冒険者が近づこうとしてくるのが視界に入る。


「ガキがジャッカス様と一緒だからって……」

「ほらっ、次はどいつだ?」


 最初にマサキを威嚇するように指を鳴らしながら近づいてきた冒険者に対して、顎に裏拳を叩き込んで吹き飛ばす。

 男は壁にぶつかって、一言も発することも無く気絶する。


「おいっ、あのガキ危なすぎるだろう!」

「ガキつったか、おい?」

「あっ……うっ……」


 離れた場所でひそひそと話している魔導士風のローブを身にまとった男のそばに、マサキは一瞬で移動すると下からフードの中身をのぞき込んで睨みつける。

 そこに慌てた様子で、いかにも歴戦の戦士を思わせる中年の男が近づいてきて話しかけてくる。


「お前がジャッカスに負けず劣らず強いってのは分かったから、そのくらいにしてくれんか?」

「ん? 誰だあんた?」


 若干上からの物言いに、少しだけむっとしたマサキが睨みつける。

 

「俺か? 俺は、このギルドの責任者だ。これから魔物の大群が襲ってくるってのに、大事な戦力を減らさんくれると助かるが」

「そう思うなら、躾くらいちゃんとしといてくれると助かるんだがな」


 男の自己紹介を受けて、ようやく気を楽にする。


「あー……お前にそう言われると、なんとも言えんな。いきなり殴りかかるような子供に、躾云々言われるのはな」

「おたくがきちんと躾てないから、代わりに教えてやってるだけだ。実際にあんた含め、そこの壁際に居る人たちは分かってるんだろ? 俺が強いってことくらい」

「まあ、どうやったらこの歳でここまで仕上がるんだか」

「親と祖父の教育が良かったからだよ」


 ギルドマスターの質問に肩をすくめて応えるマサキ。

 実際に父親にも祖父にも殺されかけながらも、一生懸命に訓練をしてきた自負はある。

 マルコが訓練をすることも多いが、マサキもきっちりと訓練は受けてきた。

 他にも、管理者の空間で虫相手に戦闘訓練も魔法の訓練もずっと行っている。

 それこそ血の滲むような努力の結果である。

 本人は前世であまり受けられなかった武術の訓練ということで、モチベーション高く続けていたが。

 加えて神様に貰った配下のスキルを借り受ける力まであるのだ。

 

 正直こういった面倒ごとは当初から予測していたが、いろいろと周囲と……虫達と相談した結果、力を誇示して無用なトラブルは最初にインパクトを与えて最小限に留めようという結論に、

 最悪S級冒険者の連れだから、まあ当然かと思ってもらえたら良いかと。


 若干、調子に乗りすぎなところはあるが。


「まあ、詳しい話は俺の部屋で聞こう。ジャッカスさんも来てくれるんだよな?」

「ええ、勿論」


 少し面食らった様子のギルマスだったが、すぐに気を取り直して自分の部屋へと案内する。

 ジャッカスと一緒に。

 どうやら、そこであれこれと聞くつもりらしい。

 

「皆さんお騒がせしました。子供の自分がこんなところに来たらこうなるだろうとは思ったのですが、遠慮しなくても良いとジャッカスさんに言われたので」


 そう言って綺麗な一礼をすると、ギルマスの後ろについてこの場から離れる少年。

 しばらく、ロビーをシーンとした空気が流れていたのは言うまでもない。

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