第201話:オリビアの憂鬱
「オリビア、ドルア様からジョシュア様とマルコ様の仲を取り持つ件は、無かったことにしてくれと言われた」
はっ?
ジョシュア様の邸宅にお父様が迎えに来られました。
なんの気なしに一緒に家に帰ったと思ったら、応接間でこんなことを……
この人は何をおっしゃっているのでしょうか?
えっと、ジョシュア様の幼馴染兼側仕え候補筆頭のオリビア・フォン・コロニアです。
最終目標は永久側仕えでしたが、その目論見が脆くも崩れ去る予感。
「その件で、ジョシュア様からもお前に話があるらしい」
もしかして、私何かしましたでしょうか?
違いました。
普通にエランド様がドルア様に反旗を翻し、ドルア様も流石に匙を投げてしまわれたと。
なるほど。
分かりましたが、よく分かりません。
なぜ、そんなことに。
それについては、ジョシュア様からお話を受けました。
なんでもマルコ様を始めとした、ご学友の皆様がジョシュア様の今の状況を良くするために動かれたと。
あれ? マルコ様とあまり仲良くなれないから、私が呼ばれたのでは?
「面倒な役回りをやらせて悪かった。お父様の事で友達に迷惑を掛けたくなかったのだ」
「いえ、こちらこそ出過ぎた真似をして、申し訳ありません」
なんと……実はジョシュア様、マルコ様のご実家に遊びに行かれるくらいに仲が良いと。
しかもそのメンバーには殿下やディーン様、クリス様に、エマ様まで。
どちらのお家も、うちなんか吹けば飛ばせるくらいの超上位貴族。
ドルア様も、お父様も何をやってらっしゃるのでしょうか?
いや、本当に。
いや、マジで。
ちょっと、下手したらうちなんかどこからでも取り潰されるじゃん。
しかも私と全く関係ないところで、問題は解決しちゃってるし。
エランド様覚醒で。
そのエランド様が、ジョシュア様と一緒に住むからお前は帰って来いと。
お前の使っていた部屋をエランド様が使うからと。
うう……せっかく、これで既成事実を……もとい、より一層の忠義を向けられると思ったのに。
キー!
いや、でも兄弟の仲が良くなることは問題無いでしょうし。
ちなみに次男のダーシュ様は、すでに騎士として王城で働かれているのですが、そのダーシュ様が頻繁にジョシュア様の家に行っているのを知ったエランド様が、しばらく荒れていたとか。
せっかく兄弟に生まれたのに、俺だけ仲間外れとかなんとか。
あっ、ダーシュ様はマイケル様に剣を習ったこともあって、いまも剣鬼流を使う中隊長の元で個人的にレッスンを受けられるほどの生徒だったり。
そのダーシュ様ですら……
「私だって剣鬼様に直接師事しようと自身であれこれ努力してるのに、長兄のことで末弟に頼ろうなんてお父様は何を考えているんだ?」
と憤慨しており、エランド様と初めてジョシュア様の家で顔を合わせたときは、いきなり木剣を投げつけて表に出ろと言ったほどとか。
「お兄様がしっかりしないから、お父様が馬鹿な真似をするんだ。その根性、叩き直してやる」
と言い放ったあたりで、ジョシュア様がそんなベルモントみたいなことを言わないでくださいと諫めたらしい。
私、凄い決意をもってジョシュア様の邸宅入りしたのに、なにこの疎外感。
「あら、もう出戻ってきたの?」
ちっ、クソ姉貴が!
顔を合わせるなり、次女に絡まれた。
ムカつく。
っと、言葉遣いが。
気を付けないと。
「何よ、もう戻ってきたの? せっかく、お泊り出来ると……なんでもないわよ。もう、貴女に餞別であげたものは、買い直したから返さなくていいわよ」
「申し訳ありません。こんなことになってしまって」
「まあ、貴女が悪いわけじゃないからね」
一番上のお姉さまからはこんなことを……
私にくれた数々の物、もう、いらないし邪魔だからあげるって言ってませんでしたっけ?
なんでもお姉さまのご友人の方いわく、妹とお揃いなのと嬉しそうに買い直していたとか?
言いませんけど。
ちなみに三女からは、可哀そうなものを見るような目で見られました。
せっかく下のお姉さまから逃げられたのにね、と口パクで言われました。
私はそれよりも、ジョシュア様と離れ離れになってしまった方が心配です。
「おはようオリビア、一緒に通うか?」
「はいっ!」
とはいえ、ジョシュア様が定期的に一緒に通学してくれるようになったので、嬉しいです。
ドルア様が掛けた迷惑を気にしているようですが、立場的に迷惑だと感じることすらおこがましいことですから。
お気になさらずに。
とは言いません。
せっかくの、束の間のデートですから。
「よかったですね、ジョシュア様」
「ん?」
「お友達の方々と仲直りされたのでしょう?」
「あー……まあ、僕が一人で勝手に離れたようなものだけどね」
私の言葉に、ジョシュア様は少し照れたように返事を返してくれました。
その顔はどこか嬉しそうです。
やはり、居場所を見つけたと感じた私の勘は正しかったようです。
「おはようジョシュア、それとオリビアちゃんだっけ?」
「おはようジョシュア、オリビアさん」
一緒に校門をくぐると、後ろから声を掛けられます。
「おはようエマ、ソフィア」
「おはようございます、エマ様、ソフィア様」
丁度馬車を降りて校内に入られたエマ様とソフィア様です。
本来なら私なんかが声を掛けられる相手ではないのですが。
「固いわね、あんたの彼女」
あらエマ様。
なんて、素敵な方なのでしょう。
その気取らない言葉遣いと、その言葉選び。
大好きですわ。
「彼女では無い……かな?」
ジョシュア様……
それからすぐにベントレー様が合流され。
「彼女一人でここでってのも可哀そうだろう。せっかく懐いてくれてる可愛い後輩なんだから、教室まで送ってやれよ」
「あの、私なら一人で行けます」
「一人で行けるかもしれないけど折角の学校生活だ。楽しい時間は一秒でも長い方が……な?」
そう言ってベントレー様が私に向けてウィンクをすると、エマ様とソフィア様をエスコートして教室に向かわれます。
私とジョシュア様を残して。
あー、流石初等科で女子生徒の人気ランキングで3本の指に入るだけのことはあります。
片目を閉じた瞬間に、星が飛ぶのが見えた気がします。
髪もですが、もう全身がキラキラとしてて眩しいです。
なんと、ジョシュア様はトップ20以内には入ってます。
私の中では1位なのですが。
こうして私が巻き込まれた事案は、私の居ないところで解決してしまいました。
ですが、ジョシュア様との距離は近くなった気がしますわ。
ちなみにマルコ様は、エランド様と決闘をして引き分けたとの噂を……
実際には剣のみというハンデを貰って、どうにか引き分け。
えっと……剣士同士の闘いで剣のみというのが、どうしてハンデになるのでしょうか?
「剣だけだから、どうにか最後まで立ってられたが。もし本気だったら、俺は地面に口づけしていただろうな」
とエランド様ご自身がおっしゃってました。
マルコ様は剣鬼流の使い手ですよね?
剣を使って本気で引き分けたのなら、普通じゃないのですか?
どうしてそれでマルコ様が本気じゃないことになるのか、理解に苦しみます。
流石、近付いてはいけない男子トップ3に入るだけのことはあります。
不穏な噂しか聞きませんし。
曰く総合上級科の貴族の子供達を、親の力を借りずに全員支配下におさめたとか。
総合普通科や上級科の商家の子供達の保護者である、山千海千の猛者たる大店の店主たちを実力をもって青ざめさせたとか。
他にも小さなものから、大きなものまで。
聞けば、学園長すらどこか遠慮するほどの子供だとか。
それでも密かに、人気ランキングでもトップ10入りしてるのが不思議ですが。
やはり、ちょっと悪いくらいの方がモテるのでしょうか?
まあ、ジョシュア様には見習って欲しくありませんが。
なにはともあれ、無事に解決して良かったと思うことにしましょう「マル!」





