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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第196話:バルログさんおこ

「カイザーさん、カイザーさん」

「なんじゃ、そんなところから。こっちには、来ぬのか?」


 タブレットから、魔王に話しかける。 

 久しぶりの画面越しの会話。


「いや、なんかすっごくこっちを睨んでる人がいるから」

「そうじゃのう」


 魔王の執務室の入り口に立って、こっちをジッと睨み付ける金色の瞳。

 その目の周りには隈のようなものが出来ていて、ある種の迫力がある。


「笑った! 怖い!」


 魔王と一緒に再度彼の方に目を向けると、ニカッと笑みを浮かべた。

 その目は笑っていない。

 早く来いと言わんばかりの、悪魔の微笑み。

 こんなに分かりやすい、悪魔の誘いがあっていいのだろうか?


「怒ってませんから」


 何も言ってないのに、怒ってないアピール。

 これ、滅茶苦茶怒ってるパターンだ。


 なんで、こいつはこんなに怒っているんだろう?

 心当たりが全くないような、心当たりしかないような。

 

 視線の主はバルログさん。

 色々と苦労が絶えない、魔王様の側近。


「バルログが怒ってるの。助けて魔王様!」

「はっはっは、バルログ! お主怒っておるのか?」

「いえ、怒ってませんので。そこの人間を早く招待しましょう」


 人間呼ばわり。

 酷い。

 てか、絶対に怒ってるよこれ。


「あっ、そういえばこれから用事があるんだった」

「おや、奇遇ですね。私もそこの人間に用事があるのですが?」


 ひいっ!

 なんだろう……虫込みでいったら絶対に負ける気がしないのに、逆らえない雰囲気が。


――――――

「ごめんなさい。悪気は無かったんです」

「本当は?」

「実はちょっとだけ。面白いことになるかなって」

「はあ?」

「だから、ごめんなさいって!」


 俺はいま床に座って、立派な椅子に座った悪魔に怒られている。

 しかも、常識的な内容で。


「悪魔じゃ無くて、悪魔型の魔族です」

「うん、もう悪魔でよくない?」

「反省してるのですか」

「はい……すいません」


 余計な茶々を入れたら、説教がさらに長引いた。

 

 俺が紛れ込ませた、マサキ謹製の自立野菜のせいで最近休みが無いらしい。

 いや、まさか魔王菜園の野菜を城下町に卸すなんて。

 財政難でも無いのに。

 財政難じゃないから、野菜を格安で卸していたと。


 その中で時折、歌う野菜や叫ぶ野菜、口に突っ込んでくる野菜から、「俺を食べたければ、俺を倒せ」とかのたまう野菜が出てくると。

 味は格別なので地味な人気はあるが、陳列棚を抜け出して勝手に庭に埋まったり。

 あとは空を飛んでいって、鳥に食べられた……ああ、鳥と一緒に降ってくると。

 はた迷惑な。


「迷惑を受けているのは、主に私なのですが?」


 逃げた野菜の、捕獲部隊の隊長を兼任させられたらしい。

 一応、魔族でほぼ最速らしいし。

 凄いぞバルログさん。


「それとこれ。貴方が来るのを、どれほど待ちわびたか」

「うん、それは笑顔で出迎える人のセリフだよね? 少なくとも、まだ来ていないうちから睨み付ける人のセリフじゃないよね?」


 ようやく椅子に座ることを許可されたので、立ち上がって膝についた埃を……全然汚れてない。

 流石魔王城。

 いや、魔王城って埃っぽいイメージあったけど。

 綺麗好きなのね。

 

 そんなことより、立ち上がってバルログさんから書類を受け取る。


「なにこれ?」

「住民からの嘆願書です」

「苦情じゃなくて?」

「苦情はあっちです」


 バルログさんがチラリと向けた視線の先には、うずたかく積まれた書類の山が。


「あの中で野菜関連のクレームは?」

「全部です」

「はっ?」

「全部です!」

「またまたぁ」

「全部!」

「はい、本当にすいません」


 勝手に畑から持ち出したのは、お前らだろうと言いたい。


「勝手に抜け出した野菜も多くいますが?」

「ごめんなさい」


 取りあえず手渡された書類に目を通す。


「マジ?」

「本当ですが……出来れば、管理の方法も教えてもらいたいのですが?」


 書類には歌いながら取り囲む野菜シリーズの、購入希望者の署名が集められて書かれていた。

 

「魔族って頭おかしいの?」

「貴方には言われたくないでしょうね。まあ、怖がって無理矢理でも子供達が野菜を食べてくれることが受けたみたいです。主に、主婦の方からの要望です」

「魔族が主婦って言葉を口にするのって、なんか……」

「主婦は、主婦です。魔族蔑視ですか?」


 そういうわけじゃないんだけど。

 イメージというか。


「食べたら食べたで意外と美味しいということで、自分から食べる子も増えているみたいで。まあ、その辺りは感謝しますが」

「いやぁ」

「ゴホン!」


 感謝してるんじゃなかったのかよ。

 そこで睨まなくても。


「それと走る野菜シリーズは、子供達が育てるのにちょうどいいみたいで」

「育てるの?」

「ええ、家庭に渡ったもののなかから、いくつかは実際に飼ってるみたいですよ」

「野菜を飼うってのも、変な表現だけど」


 一緒に駆けっことかもするらしく、なかなかに良い友達になるらしい。

 そして、最後は自ら鍋に飛び込んで「僕を食べて……僕のことを忘れないでね」と言ってお別れと……

 

 それ、トラウマにならないか?

 育てて、遊んだペットを食べちゃうの?


「そこは情操教育の一環として」

「おかしくない? 題材として重すぎない?」

「ですが、一期一会を大事にするようになったり、思いやりの心が育ったり、出された食べ物を残さないようになったりとメリットも多いですよ?」

「あっ……そう」

「飛ぶ野菜シリーズも一緒でですね……」


 まあ、子供達の教育の為にもなるし、大人にとっても美味しい野菜には違いないので定量は市場に出せるようにしたいと。

 ただし、きちんと管理された状態で。


 これ、いつかひっそりと逃げ隠れして暮らしてた野菜達が大増殖して、反乱を起こすようなB級パニックホラーにならないと良いけど。

 まあ、すでに一部の魔族連中の見た目がB級ホラーだけどさ。


「終わったか?」

「ええ、大体の話し合いは終わりました」

「良い笑顔だな!」


 これまでの迷惑料として、暫くの間無料で提供することを約束させられてしまった。

 俺の嫌そうな顔が見られたからか、それとも無料で野菜が手に入るからかバルログさんの顔はホクホクだ。


 ちなみに野菜達は俺の言う事を聞くので、色々な迷惑行為に関しては暫く行わないように指示をだした。

 そこまで伝えて、初めてバルログさんが心からの笑みを向けてくれた。


「暫くは問題は起きないと?」

「うん。大人しくしてるように言ってあるから」

「良かった……3日ぶりにお風呂に入って、布団で寝られる……」


 本当にごめん。




 

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