第195話:大団円?
「なるほど……確かに、そのような話は聞いていたが」
僕たちの話を聞いたエランドさんが、腕を組んで悩むようなそぶりをみせる。
自分の父親がしてきたことに、あまり関与していなかったらしい。
というか、あまり関与させてもらってなかったとか。
「このようなことが、今までも行われてきていたのなら……あの2人の関係も頷けるか」
「というか父君と弟さんがそんな冷戦状態になっているのに、まったく知ろうとしなかった貴方にも問題があるのでは」
「うぐっ」
付き添いのミーナさんの言葉に、エランドさんが呻き声をあげたあと頭を押さえて蹲る。
「どうりで、弟がだんだん私に冷たくなってきたわけだ。そんなに迷惑を掛けていたなんて」
ガックリとうなだれてしまったエランドさんを見て、首を傾げているとミーナさんが教えてくれた。
なんでも愛する弟につっけんどんにされて、会う度に凹んでいたらしい。
おお、弟が好きなのか。
うんうん、この人は悪い人じゃなさそうだ。
「よしっ、父上に直接抗議してこよう!」
「なんて言うのですか?」
「私は自分の力でなんとかするから、ジョシュアに迷惑を掛けないようにしてくれ! あと、俺もジョシュアと一緒に住むから、今までのことは父上の独断だったと説明してくれと頼もう!」
頭は悪そうだけど。
前半は分かるけど、後半が良く分からない。
そこは、自分でジョシュアに謝って説明した方が良いと思うんだけど。
「うう……だって、また冷たい態度を取られるかと思うと、怖くて。それに、一応父上の言う事の方が、私の言葉よりも聞いているし」
あっ……色々と駄目な人かもしれない。
だから、ドルア伯爵があんなに頑張って、間違った方向にだけど色々と手を回すことになったのだろう。
個人的にはドルアさんもエランドさんには早々に見切りをつけて、優秀な弟の方を味方につけるべきだったのではと思わなくもない。
取りあえず、エランドさんがこっちの味方になってくれるだろうことは分かったので、それだけは安心だ。
あとは、優秀なブレインについてもらわないと。
チラリとミーナさんの方に目を向ける。
「なんですか?」
「いや、色々と不安なので、エランドさんには優秀な相談相手が必要なのかなと思って」
「はっはっは、酷いじゃないかマルコ君! 私は知ったのだ! 知ったからには、きちんと行動できるぞ!」
行動してくれるとは思うが、方法に色々と不安が残る。
だからこその相談役。
「そうですね。余計にこじれる気しかしないので、ただ、私に務まるでしょうか?」
「ミーナも酷いでは無いか! これでも私は、師範代なのだぞ? お前よりも立派なんだぞ?」
「「そういうところです!」」
「ぬう……」
期せずしてミーナさんとハモったことで、エランドさんもたじたじだ。
「じゃあ、お兄様はジョシュアの味方になってくれるんですね」
「勿論だとも! 私は弟が産まれたときから、弟を護ると誓ったのだからな」
「良かった!」
エマの質問に、急に立ち上がって自信満々に応えたエランドさんに、一同一安心。
「じゃあさ、ヘンリーがエランドさんにたくさんお尻を叩かれたのって」
「最初から、きちんと話をしていたら済んでたよね? 無駄だったってことかな?」
「無駄じゃないさ……超えるべき相手がまた一人見つかった、それだけでも収穫さ」
ベントレーの言葉に僕が思ったままを答えてみたが、肝心のヘンリーはまったくへこたれてなかった。
それどころか、とっても前向きな言葉が。
「今回は大変無礼な真似をして申し訳ありませんでした」
「うむ、不幸な行き違いがあったことは間違いない。もう気にしておらん。それどころか、私の弟を気遣っての行動と思えば、勇気ある事と褒めるべきだな。早計な判断で、あのような仕打ちをした私の方が逆に謝らねばならんな。すまん……そして、弟のためにありがとう」
おお!
エランドさんも立派だ!
ドルア伯爵はクズだと思うけど、子供達は2人ともとても立派に育っている。
これぞまさに、反面教師の鑑!
「いえ、ただ……これからまだまだ鍛え直します! ですので、時々胸を貸して頂けますか?」
「うむ! 良いとも! 可愛い弟の友達の頼みだ、いくらでも貸してやるしアドバイスもしてやろう」
「有難うございます」
そして、ガッチリと固く握手を交わす2人。
あー、ここでもあまり宜しくない科学反応が。
――――――
「まったく……君たちは」
次の日、いきなりジョシュアに怒られた。
「いきなり家に呼び出されたと思ったら、盛大な親子げんかに巻き込まれる身にもなってもらいたいよ」
あー……やっぱり、お兄さんは我慢できずにドルア伯爵に真っ向から文句を言ってしまったらしい。
貴族特有の根回しとか何もせずに。
うん、なんとなくヘンリーと気があってそうな雰囲気からそんな気がしたけど。
「怒ってる?」
「物凄く怒ってる。嬉しいけど、自分の力でなんとかしたかったし……こんな大きな借りを作ってしまって、どう返したら良いかも分からないし」
「聞いて! 僕のせいじゃないから! ヘンリーとエマが暴走しただけだから! ベントレーは、まあ後押ししてたけど、主犯はヘンリーとエマだから! あとソフィアは心配してたけど、見守る派だったから」
「マルコ!」
全力でヘンリーとエマを売ったら、エマに睨まれた。
「なんで、エマとヘンリーが僕なんかのために……」
「と……友達だからよ」
どちらかというと、僕やベントレーの方が彼とは仲が良い。
だから、ちょっと呆れたような、納得がいかないような。
そんなジョシュアの言葉にエマがはにかみ気味に応える。
顔が少しだけ赤い。
言ったは良いけど、恥ずかしかったらしい。
僕もクサイとは思ったけど、でも素敵なことだと思った。
「僕もみんなのことを大切だと思ったから、これ以上迷惑を掛けたくなかった。このことで、負い目を感じるような関係になりたく無かったのに」
そう言ったジョシュアは、少しだけ涙目になって僕たちを睨み付ける。
ただ、ジョシュアの言ってることは間違っている。
僕たちだって、ジョシュアに迷惑を掛けることだってあるし。
「いや、ヘンリーだって色々とおかしくなって、ジョシュアに迷惑を掛けたことあったよね?」
「ヘンリーの事嫌いになったり、恩を着せようと思ったりした?」
「してないけど」
「それに、うちに来たときに、まああれはセリシオのせいでもあるけど、うちの領内で賊に襲われたことだってあったよね? でも、その後も付き合ってくれたよね? あんな怖い思いをしたのに」
「それは、マルコが悪い訳じゃないし」
「今回のことだって、ジョシュアじゃなくてドルア伯爵の暴走が原因じゃん?」
「でも、うちの家族のことだし」
僕の言葉に対して、だんだんと声が小さくなっていくジョシュア。
「あーもう! これから色々と迷惑を掛けられることだってあるよ! だって、マルコは殿下のお気に入りだし、ベルモントだし」
「エマ……それは流石に酷い。けど、エマは自分が問題起こしそうだよね?」
「なによ!」
「なにさ!」
「ちょっと! 2人とも落ち着いて!」
エマがうちの事をディスってきたので、つい引き合いに出してしまったら怒られた。
けど引くわけにはいかない。
ソフィアが慌てて間に入って来たけど、ここは譲れない。
「ふふ……あははははは……はぁ……なんで2人が喧嘩してるの?」
「だって、エマが!」
「マルコだって!」
ジョシュアが笑いながら呆れた表情を向けて来たので、お互いを指さして彼に抗議をする。
「ジョシュア、忘れてないだろう? 俺が2年前にヘンリーやマルコにしてきたことを」
「あー、あの時のベントレーは、酷かったね」
「うっ……マルコ。まあ良い、それでも2人とも俺に対して何も無かったかのように接してくれている。俺が言うのは違うが、仲間が困っていたら何かしてあげたいって思って行動するのが、友達なんじゃないか? そのことに対して、してやったなんて思うつもりは無い」
「えっ?」
「感謝や尊重は必要だけど、そうしたいからするんだ。エゴかもしれないが恩を売るつもりなんかないし、それで良い方向に事が進んだのなら普通に有難うで良いんじゃないかな? 俺達に何かあったら、ジョシュアだって何かしたいと思うかもしれない……そこに対価を求めると思うか?」
「いや、そんなことは……」
「難しく考えるな。少なくとも俺達の間にそんな事は考えなくて良いんだ。逆の立場に立って考えたときに自分もそうすると思えるなら」
「う……うん」
やや強引だが、ベントレーの言葉に小さく頷くジョシュア。
「みんな、有難う」
そして、小さな声で……でもはっきりとお礼を言ってくれた。
――――――
「みな、余が良い方法を考えて来た! ジョシュアに爵位を与えてもらうよう、父上に頼んでみようと思う!」
「あー、もう解決したんで大丈夫です」
「そもそも、どういった名目で?」
「国に対して、まだなんの貢献もしてないのに?」
「というかディーンは?」
「あいつは反対するから、いまクリスに足止めしてもらってるけど……そうか、解決したのか」
いきなり息を切らして飛び込んで来たセリシオに、ジョシュアを含めた全員が白い眼を向ける。
解決したと聞いたセリシオが、ガックリと肩を落としていたけど。
そして、少し遅れて入って来たディーンに引きずられて退場していった。
あれはたぶん、陛下にも連絡が行ってるはずだ。
帰ってから、しこたま怒られるのだろう。





