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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第194話:マルコVSエランド ファイッ!

 どうしてこうなった……

 目の前には、剣を構えてこちらを睨み付けてくるエランドさん。

 あ、別に睨んでは無かった。


 冷静に、少しだけ涼やかな表情でこちらの出方を伺っているのだろう。

 さきほどヘンリーと対峙したことで、多少はベルモントの剣も分かったつもりなのだろうか?


「あれが、剣鬼流の力だと思わないことね」


 何故エマがそんなことを言うのだろうか。

 実際に戦っているのは僕なのに。

 とはいえ、エマの言葉に一瞬だけエランドさんの緊張が解ける。

 案外、外からの情報というか、ガヤに弱いのかもしれない。

 メルベル流って、外野が居る状態で1対1の決闘とかやってるから、そういうのには強いと思うけど。

 そんなことはない。

 周囲を見守るのも貴族だ。

 あまり、大声で邪魔をするような無粋な輩はいない。


 ……エマも貴族だけど。

 拳を振り上げて、僕を応援してくれている。


 うーん……


「来ないのっ! くっ!」


 挑発の言葉を最後まで言わせずに、一足飛びで眼前まで詰めると上段構えからの背後に回り込んでの背中に回し蹴りを放つ。

 まさか喋っている最中に攻撃されると思わなかったのか見え見えのフェイントに引っかかったエランドさんは、上段からの打ち下ろしに備えてしまい背中ががら空きだった。

 クリーンヒット。


「良いぞ!」

「やった!」


 よろめいたところを追撃とばかりに……っと。

 後ろも振り返らずに、回転斬りを放たれたので後ろに下がる。

 

「ズルいじゃないか! 剣の戦いだろ?」

「うーん……手に剣を持ってるから、一応剣術かな?」

「だから、ベルモントは嫌なんだ! 剣での勝負なら、剣だけで戦えよ!」


 エランドさんの言ってることは、ごもっとも……かな?

 僕としては、そういった綺麗すぎる剣は役に立たないと思って早々にメルベル流は、嗜み程度の訓練に切り替えたんだよね。

 現にいまの攻撃だって、僕の靴に刃物が仕込まれていたりでもしたらたぶん継戦できたかも疑わしい。


「子供相手に、情けない……」


 ミーナさんが溜息を吐いている。

 

「今度はこっちからっ! っと!」

 

 宣言して攻撃してきそうだったので、先手を打って攻撃をさせない。

 突きを放つと何か言われそうだったので、下からの切り上げを防がせてからの左フック。

 流石にこれは警戒していたのか、右手でガードされた……ところで同時に放っていた膝蹴りが左脇にめり込む。

 大丈夫かな、この人?


「ぐふぅ……小僧、私を本気にさせたな」


 膝をプルプルさせて、剣を杖代わりにしているくせに何やら偉そうなことを言いだした。

 やっぱり、メルベル流って。


「っつ……」


 一気に後ろに跳ぶ。

 何か嫌な予感がした。


 正面を見ると、エランドさんが片手で剣をこちらに突き出して右半身で構えている。

 圧が変わった。

 どうやら、本当に手加減をしてくれていたらしい。


「うわぁ……大人げない」


 ミーナさんがドン引きだ。

 というか、ミーナさんもエランドさんが本気じゃないことは分かっていたらしい。

 やっぱり、子供ということで手加減はしてくれていたのか。

 余裕じゃないか。


「ふっ……そっちも、本気じゃ無かったのか」


 両手でしっかりと剣を握り直して、正面から構える。

 どこから来ても、この剣で叩き切る。

 どこに避けても、この剣で叩き切る。

 おじいさまの構え。

 普通の構えだ。

 普通の構えだが、絶対の自信が無いと正面に構えるなんてことは出来ない。

 半身と違って、相手に向き合う面が大きい。

 狙いたい放題だ。


「行くぞ!」

「ふっ、はっ!」


 地面を蹴ったエランドさんが斬りかかって来る。

 一瞬で2連撃、両方を剣と柄で弾くと反動を利用して回転して下から顎先目がけて切り上げる。


「甘い!」


 見切られて躱されるが、左手を離して右手で薙ぎ払う。


「ちっ!」


 躱しきれずに、エランドさんの髪の毛が舞う。

 

「木剣で髪の毛が切れるの?」

「ベルモントだから」


 エマの質問に対して、ヘンリーがそっけなく答えている。

 そんな答えでいいのか?


「ああ」


 良かったらしい。

 エマに納得されてしまった。


 すぐにエランドさんは体勢を整えて、右斜め上に大きく剣を構える。

 何が来る?


「奥義! 巻き込み切り!」

 

 あっ、技名言っちゃった。

 メルベル流を習っていたから知っている。

 右斜め上段からの袈裟斬り。

 少し遅め。

 受けると、強引に力で巻き込まれて背中を斬られる。

 メルベル流には殆どない、剛の剣。


 対処法は……

 後ろ向きに相手の懐に潜り込み、背中を密着させて左手で目の前に振り下ろされる剣を持っている相手の拳を掴む。

 そのまま脇に右手を差し込んで、背負って投げると……


「ぐはっ!」


 簡単に変則の背負い投げが決まる。

 さっきの構えから繰り出される技は、3種類。

 奥義はこの一つしかない。

 だから、奥義って言った時点でどんな攻撃が来るか分かってしまう。


 すぐに倒れ込んだエランドさんに、止めの一手を打とうとするが回転されて避けられたうえに距離まで取られる。


「恐ろしい反射速度だな」


 ごめんなさい。

 どんな技か知ってたので、別に見てから反応したわけじゃないんです。

 カンニングしたようで、後ろめたくなる。


「あー……実家に居る時に、メルベル流も少し齧っていたので」

「ほう? ベルモントもメルベル流を学ぶのか? さすが、我が流派! で、メルベル流はどうだ? 素晴らしいだろう」

「ええ、とても綺麗な剣だと思います! ただ……」

「そうだろう、そうだろう! なんだったら、うちの道場に来ると……ん? ただ?」

「実践じゃ、あまり役に立たないかなって」

「ぐはっ!」


 おお、今日一番のダメージが入ったっぽい。


「貴様、我が師の剣を愚弄する気か?」


 何故か剣を杖にして、どうにか立っているといった雰囲気でこっちを睨んでくるエランドさん。

 うーん……愚弄するつもりはないけど。


「だって、剣同士の1対1のしかも正式なルールに乗っ取った戦い以外だと、案外もろいですよね?」

「そんなことはない! 我が剣は最強だ! 剣術の中では」

「でも、僕の剣に大分苦戦してますよね?」

「まあ、だが負けてはおらん!」

「僕がまだ立っていられる時点で、エランド様はおじいさまはおろか、お父様相手でも1分も持たないと思うのですが?」

「ぬぅ……」


 よくよく考えたら12歳の子供相手にここまで苦戦している時点で、うちの父や祖父には間違いなく勝てない。

 時点で、最強ではないと思う。


 というような事を言ったのだけど。


「まあ、ベルモントは手足も使うから剣術じゃない。武術だ」


 とか言い出したので、剣だけで相手することになった。

 制限時間は5分。

 5分以内に僕を倒せないと、父上よりも遥かに弱いということを懇切丁寧に説明してあげた。

 父上が本気を出したら、5秒以内に僕は意識を失うと伝えてある。

 事実そうだ。


 剣をゆっくりと構えているのを眺めていたら、腹部に鈍痛が走り……そっちに意識を向けると同時に側頭部に何かが触れる感触があり……目が覚めたらベッドの上ということもあったし。

 おじいさまも似たようなものだし。


 そして5分後。


「くそっ!」

「危なかった!」


 危なかった。

 本当に危なかった。

 剣だけでの勝負となると、かなり白熱した。

 というか、めっちゃ押されてた。

 倒すつもりで挑んだけど、途中で逃げ切ることに全力を向けた。

 それでどうにか、5分。

 なんか、試合に勝って勝負に負けた気分だ。

 

 まず綺麗に手本通りに振られた剣の威力は馬鹿にできない。

 受けて返すにも、衝撃で反応が遅れてしまう。

 ならば捌いてと思ったが、流れるように振り切った状態から連撃、もしくは回避行動に移るので追撃が難しい。

 そもそも、捌くのも難しい。


 結果、防ぐだけで精いっぱいだった。


「だが負けは負けだ! お前たちの要求はなんだ?」


 男らしい!

 ……ん?


 そういえば、勝ったらどうするんだろう?

 どうするつもりだったんだっけ?


「えっ? えっと」

「あの、ええ?」


 エマの方を向くと、エマもしどろもどろに。

 いやいや、確かベルモントの強さに感銘を受けたお兄様に弟子入りしてもらって、考えを改めてもらうって話じゃ?

 純粋に、何が望みだとばかりにこちらに問いかけてくるエランドさん。


 というか……あれ?

 普通に普通の人じゃない?

 きちんとこっちの勝ちを認めてくれるところとか。

 潔くこちらの要求を受けようとするところとか。


「これ以上、ジョシュアを苦しめないでやってほしい!」

「ん? ジョシュアを苦しめる? どういうことだ?」


 そんな僕とエマを無視して、ベントレーが訴える。

 そのベントレーの訴えに対して、首を傾げるエランドさん。

 ……もしかして、これ普通に話しても良かった感じ?

 エランドさん、普通の人っぽい!

 ちょっと、アホだけど。

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