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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第193話:決闘

 まさか、ヘンリーが直接ジョシュアの兄の居る道場にまで、果たし状をもっていくなんて思わなかった。

 たまたま師範が居なかったようだが、それでも渡した相手は皆伝の師範代。

 実質、師範といっても過言ではないし、他の街で流派の道場を開くことだってできる人。

 そんな人に、アウェーである敵方の道場で果たし状を渡すなんて。

 その話を聞いた時は、頭を思わず抱えてしまった。

 

 いや、おじいさまに師事している以上、そういった思考になるのは仕方ないかもしれない。

 しれないが、一言事前に相談があっても。


「相談したら、止めただろう?」

「当然だよ!」


 当たり前だ。

 1つの道場に、子供とはいえ他流派の剣を学ぶものが行き、そこの師範代に果たし状を叩きつける。

 その道場の看板に泥を塗る行為だし、相手方の師範が知ったらおじいさまに怒鳴り込みにきてもおかしくない。

 何より、その場でボコボコにされて腕の一本もってかれても文句は言えない。

 確か道場はメルベル流といってたっけ?

 ベルモントで僕が剣を教えていた先生も、使っていた剣。

 貴族向けの綺麗な剣ってやつだ。


 だからだろうか?

 子供相手に複数でということも無かったのは。

 それどころか、果たし状は受理されて日時まで決めて来たと。


 参加者はヘンリー。

 同行者に僕とベントレーと、エマらしい。

 らしいというのは、たったいま聞いたからだ。


 エマがよくやったみたいな顔をして、ヘンリーを褒めていた。

 久しぶりに向けられたエマの笑顔にヘンリーが嬉しそうにはにかんでいるが。


「へん、エマのためじゃねーよ! ジョシュアの為だからな」


 そりゃ当然だ。

 照れ隠しでもなんでもなく本音だと思うし、本音であってほしい。

 それと喜んでいるところ悪いけど、エマのその笑顔かなり黒いからね。

 チラリとこっちを見て親指を立てていたけど、僕はやらないからね?

 たぶん、やったらジョシュアにも怒られるんじゃないかな?


 エランドさんの方は、女性でミーナという人がついてくるらしい。

 かなりの腕前とのこと。

 

 そして決戦当日。

 場所はベントレーの屋敷の庭。


「ほう、逃げ出さずによく来たな」


 うん、悪役っぽいよヘンリー。

 やってることは友達のためだろうけど、現時点でこの騒動にエランドさんが直接関わっているような話は聞いていない。

 ドルア伯爵の独断だったら、かなり迷惑な子供だと思う。


「ふんっ、貴様こそ子供のくせに、このエランドにふざけた真似をしたことを、嫌というほど後悔させてやろう」

「そういうのは、勝ったあとで言いな! まあ、大口を叩いたことを後悔させてやろう」


 うん、ブーメランだから。

 ヘンリーこそ、勝ってから言いなよ。


 というか、結局流されてしまった。

 どうにかして断りたかったけど、ソフィアにもお願いされてしまったし。

 ディーンからも、


「エランドは大人げないところがありますからね……ヘンリーが、大けがをしないと良いですが」


 なんて言われてしまったら、心配で家でジッとなんてしていられない。

 相変わらず、イヤらしいことを言って来るやつだ。


 ふとエランドさんの方に目を向けると、隣に立っていた女性と目が合う。

 思わず軽く頭を下げると、相手も申し訳なさそうに目礼を返してきた。

 おや?


 庭の真ん中にエランドとヘンリーが向き合う。

 開始の合図を告げるのは……まあ、ルドルフさんだよね。

 審判役だし。


 2人が手に持っているのは、木の剣だ。

 当たれば、大けがだ。

 それに備えて、治療魔法が使えるメイドが2人ほど待機している。

 1人はマックィーン家のメイドらしい。


 ベントレーがかなり協力的だ。

 まあ、本当に大事な友達だし。

 でも、もっと他に出来ることあったと思うんだ僕。


 済んでしまったものは仕方ない。

 

「開始!」


 ルドルフさんの合図で、2人が剣を構えてお互いを見据える。

 まずは、隙を伺っているのだろう。

 流石、免許皆伝ということだけのことはある。

 全く隙が無い構えに、ヘンリーが攻めあぐねているようだが。

 そこは無理におじいさまの剣を使わなくても、ガンバトールさんの剣術で受けに回ればいいのに。


 2つの流派を学んでいるのが、ヘンリーの強みなのに緊張からかそこまで頭が回っていないらしい。

 分かるけど。

 エランドさんがなかなかの、オーラを放っているからね。


「貴方は?」

「あっ、えっとマルコ・フォン・ベルモントです」

「初めまして、私はミーナ・フォン・カーバイドと言います。見たところ、あなたも巻き込まれたみたいですね」


 カーバイドといったら、うちと同じ子爵家だったっけ?

 マサキに言われて多くの貴族の名前を覚えたけど、学校で関わりが無い家って忘れてっちゃうよね。

 まあ、良いや。

 なにやら、えらく気さくに話しかけて来てくれる。

 優しそうな笑みを携えた、流れるような黒髪が特徴な綺麗なお姉さんだ。

 

「ミーナさんもですか?」

「すいません、師範代が大人げなくて」

「いやいや、先に変なことしたのヘンリーなんで、ミーナさんが謝ることじゃないですし……そうじゃなくても、ミーナさんが謝ることじゃないですよね?」

「それでも、子供のやったことに対して、少し大人げないですよ。あれ……かなり本気ですし」


 なんでこの人が謝って来るのかが良く分からない。

 同じ道場の人だからかな?

 もし、他の人達もミーナさんみたいな人なら、本当に素晴らしい道場だと思う。

 

「どうした、来ないのか?」

「ふん、いまからいくところだ」


 安っぽい挑発に乗るなよ。

 不意に聞こえて来たやりとりに、2人の方に目を向ける。

 ミーナさんも、そっちに視線を送っている。


 ヘンリーが地面を蹴って、上段からの斬り降ろし……からの胸への突きか。 

 軌道の変化が甘いから、勢いも乗って無いし……

 何より遅いから、動きが丸見えだ。


「なっ!」


 と思ったけど、エランドさんが驚いたように慌てて後ろに跳ぶ。


「危ないでは無いか! 木剣とはいえ、突きは当たり所が悪いと死ぬんだぞ?」

「はっ?」


 ヘンリーの攻撃に惑わされたのかと思ったけど、はなっから突きがくると思っていなかったらしい。

 うーん、そして言ってることがいまいち分からない。

 真剣勝負だと思うし、ルールなんて取り決めてないのに。


「これは決闘であって、命の奪い合いではない! 違うか?」

「えっ? あっ、うん」


 いきなり、意味不明なことを……いや、常識的なことを言いだしたエランドさんに対して、ヘンリーが思わず素に戻ってた。

 うーん、認識の違いってやつか?


「良いか? 好きなだけ叩いてもいいが、死ぬような攻撃は無しだ!」

「はい……」


 好きなだけ叩くとか……

 そこは、斬ると言って欲しいというか。

 

 この人って……

 残念な人を見るような眼で、エランドさんを観察する。

 横でミーナさんも、残念な人を見るような眼をしてた。


 なんで、この人の弟のジョシュアがあんなにも、まともなのだろう?


「くっ、殺せ!」

「いや、殺さないと言ったであろう? ほれっ」

「はっ?」

 

 結局それなりにやり合う事は出来たが、子供が敵うはずもなく結果的にエランドさんの連撃を捌き切れずにヘンリーが剣を取り落としたところで首に剣を当てられ負けを認めていた。

 それに対してエランドさんは剣を地面に置くと、ヘンリーを小脇に抱える。


「お前みたいな悪ガキはこうだ!」

「痛い! 何するんだよ!」

 

 そしていきなりお尻を平手打ちしはじめた。

 うーん……

 死ぬほど後悔させるって、これのことだったのか?


 横でミーナさんが、呆れたような表情を浮かべている。

 が、どこかちょっと安心したようにも見える。

 もう少し、大人げないことをしそうな人だったのかな?

 そうだったんだろうね。


「さて、帰るぞいも……ミーナ」

「はい」


 いも?

 いもってなんだろう。

 そんなことを考えながら2人を見送ろうと思っていたら、背中をこずかれる。


「出番だよ」


 いや、そんな女盗賊の頭みたいな言い方されても。

 

「エランドさん、まだ終わってないですよ?」

「ん?」

「次は、このマルコが相手です!」


 そして、勝手に名乗りをあげられる。

 

「マルコって、女の子だったのか?」


 違う!

 それは、エマだ。

 エランドさんが名乗りをあげたエマに対して、盛大な勘違いをしていたが。

 やっぱり、残念な人だった。




 

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