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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第192話:エランド・フォン・マックィーン

 私の名は、エランド。

 エランド・フォン・マックィーンだ。

 マックィーン伯爵家の次期当主といえば分かるかな?


 そうだ、それなりに大きな家だ。

 そうそう、赤い屋根のひときわ目立つあれ。

 あの屋敷に住む一族の嫡男である。

 マックィーンは伯爵家の中でも、まあ中の上から上の下くらいには位置している。

 上には上が居るし、侯爵家や辺境伯家なんかを敵に回したら流石に吹き飛ぶだろう。


 ちなみに剣が得意だ! 


 それもかなり。

 これでも、王都にあるメルベル流剣術皆伝だ。 

 そして師範代……何故皆伝なのに師範ではなく師範代なのか?

 それは、王都に同じ流派の道場を2つ作れないからだ。

 だから、本部の道場で師範の補佐として、指導をしている。

 あー……老師が引退すれば、俺か兄弟子の誰かが師範になるんだろうけども。

 当分は元気だし、死なないだろうなあれ。


 だったら独立して新たな流派を築けばと思うだろう?

 それも無理だ。

 私の技はメルベル流剣術に染まり過ぎているし、この剣術をこれ以上昇華させるのにはこれまでの鍛錬の倍の時間が必要だろう。


 それほどまでに完成された剣術なのだ。


 完成された剣術だから、国内でもほぼ最強だぞ?


 剣鬼スレイズ流?


 ああ、あれは駄目だ。

 剣術としては、俺は認めない。


 剣があっても無くても、スレイズ様には勝てる気がしない。

 素手のスレイズ様ですら、手も足も出ない……時点で、あれは剣術じゃない。

 武術だ。

 私は剣を極めたいのだ。


 そのスレイズが剣を持ったら?

 ふむ……考えないようにしていたことだが、国内で最強だろう。 

 だったら、最強の剣術では?

 それは、屁理屈というのだ。


 誰がなんと言おうと、あれは総合武術。

 剣術ではない。

 別に弟子入りした初日に、記憶を半分以上なくして次の日には行かなくなったからとかじゃなくて。

 あーもう、うるさいなお前は!


 同じ道場に通う弟弟子の子爵家の子供だ。

 家格は私より下なのだが……こいつは私の剣の訓練相手をいつもしてくれる、貴重な人材なのだ。

 自然と仲も良くなるってものさ。


 基本的に我が家は出世欲の強い父のせいか、あまり家柄を気にせず利用できるやつは皆取り込むという方針だ。

 だから、まあ……こいつが少々生意気でも大目に見てやる。

 なにより、こいつの実家で取れる芋は美味いのだ。

 毎シーズン、律儀に送ってくれるからな。

 こいつと縁が切れたら、それも食べられなくなるし。


 照れ隠しじゃない。

 別にお前の事が好きだとかっていうわけじゃ……なんだその顔は。

 あー……すまん、嫌いじゃない。

 嫌いじゃないから、その機嫌を……


 分かった、好きだから!

 好きか嫌いかで言ったら、好きだから!

 

 うっ……顔が気持ち悪い事になってるぞ?

 とにかく、こいつは色々と便利な女なのだ。

 ん? その言い方は違う?


 剣の相手はしてくれるし、色々と買い物とかも付き合ってくれるし。

 何より美味い芋をくれるし。

 そうだ芋をくれる女で、芋女と呼ぼう。

 痛い! 痛いではないか! 

 急に何をする!


 女心は良く分からん。

 あれだけ怒っていたのに、飯を奢ったら許してくれるらしい。

 私の財布を心配したのか、やつは2人だけで良いと言っていたがついでだ。

 他の弟弟子たちも誘ってやろう。

 大勢で食べた方が美味いし、貴族以外の弟子たちはみなヒョロヒョロだからな。


 あー、こいつらは皆私の味方だし、将来の弟子になるかもしれないから優しくしてやってるだけだ。

 敵には一切の情け容赦は無用。

 それも、我が家の家訓だ。


 そんな私の手に握られているのは一通の果たし状。


「えらく可愛らしい、道場破りでしたね」

「う……うむ」


 持ってきたのは輝くような金髪を短く切ってツンツンに立てた弟くらいの年の子。

 ヘンリー・フォン・ラーハットを名乗っていた。

 うん。

 ラーハットは知ってる。

 いま、いけいけのバリバリ成長している子爵家だ。


 そう子爵家。

 格下だ。

 付き合うのに家格は気にしないが、敵であれば別。

 格下相手に舐められるのは、絶対に許されない。

 

 ……ふっふっふ、あいつ死んだぞ!


「まさか、受けるつもりですか?」

「えっ?」

「あんな子供の挑戦を? 本気で?」

「馬鹿野郎! 一度剣を持って対峙すれば、それすなわち宿敵である! 年齢など関係あるものか!」

「本音は?」

「子爵家のくせに嘗めたことをしくさったガキをボッコボコにして、泣かせちゃる!」

「サイテー!」


 いや、意味が分からない。

 私が悪いのか、これ?


「それで父親が出て来たら」


 むう……それは困る。

 流石にガンバトール子爵の噂は聞いたことある。

 彼は、ガンバトール流剣術の創始者。

 1つの流派を編み出した、本物の実力者だ。


 いやいや向こうが親を出すなら、こっちも父上に頼んで大人の話し合いで解決してらおう。

 伯爵家の権限で、黙らせてくれるだろう。


 ふーん。

 ヘンリーってのはマルコと仲が良いのか。

 マルコ?

 うん……ベルモントか。


 うわぁ……

 父親よりも、そっちが厄介だな。

 いや、いくらベルモントでも子供相手に負ける気はしないが。

 スレイズ様。

 あの人、理屈が通じないから。

 言いたい事があるなら、剣で語れってタイプ。

 それ、言いたい事言えないやつだから。


 そういえば、マルコは弟の同級生だったな。

 ジョシュアに頼んで、どうにか間を取り持ってもらって。

 介入しないようにしてもらえないかな?


 弟の住んでいる屋敷に行く。

 そう、露骨に嫌そうな顔をするな。

 兄は傷ついたぞ?


 というかだ、私ですら独り暮らししたことないのに、なんで弟が屋敷を与えられているのか腑に落ちない。

 ん? なんでそんな可哀想なものを見るような視線を送って来るのだ?

 ああ、お前は屋敷があって、私は屋敷が無いからな。 

 それでか……いや、分かってないみたいな溜息を吐かれても……


 弟は体よく家を追い出されたと思っているようだが、私からすれば屋敷を与えられるなんて愛されている証拠だと思うのだが。

 あー……うん、そうだな。


 弟は色々と耳に優しい言葉を掛けてくれるが、その目はまるで馬鹿を相手にしているような……

 いやいや、兄を馬鹿にする弟など古今東西いるはずがないだろう。


 ヘンリーってやつから果たし状を貰った話をしたら、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。

 お前絡みなのか?

 こんなときだけ勘が良い?

 余計なお世話だ。


 どうも父上もこいつも、私に何か隠しているような気がする。

 なんで、この2人はこんなに仲が悪いんだ。

 食事中だろうがお構いなしに2人の間に流れる冷たい空気に、何度居心地の悪さを感じて飯が不味くなったことか。


 それでいて和やかに笑顔で楽しそうな会話の応酬をする2人に、戦慄すら覚える。

 その勘の良さをもっと有用に活用しろ?

 言ってる意味が分からないが。


 私の知らない場所で、いつも2人は争っているような気がするのだが。


「せっかっく来たし、今日は泊まっていこうかな?」


 いや、えっ?

 それが肉親に向ける表情か?

 少しは隠せ。

 流石に立ち直れないぞ?

 何故私はこんなに弟に嫌われているのだ?


 分からない。

 分からないことが、腹が立つらしい。

 幸せですねと言われたが、現時点で愛する弟にいわれのない非難を受けて不幸の真っただ中なのだが?

 

 うむ、帰るぞ?

 これ以上、お前に嫌われたくないからな。

 お前って、私よりよっぽど父上に似ていて、どこか怖いというか……

 いや、父上は私や派閥の者には物凄く優しいからどうにか耐えられるが、お前は私に優しくないからな。

 その敵対した相手に向ける視線というか。

 温かな笑顔の中で、冷徹なる拒絶を表わすような表情とかまさに父上とうりふた……


 弟に家から押し出されて、ドアを閉められてしまった。


 ガチャリ


 あっ、鍵までしめられた。

 辛い。


 トボトボと家路に……うん、馬車だからカッポカッポだな。

 それもこれも、ヘンリーってやつのせいだな。

 あいつをボッコボコにして、少しでも憂さ晴らしをしよう。


「お前は剣だけを頑張っていればいい! お前には剣の才能がある! お前の将来はわしが素晴らしいものにしてやろう」


 と言った父上。


「兄上は剣だけ頑張っていればいいのですよ。兄上には剣の才能しかありませんから。兄上の将来はお父様がなんとかしてくれるでしょうし」


 と言った弟。


 なんだろう……

 ここに私が弟に嫌われる理由がありそうな気がしないでもないが。

 昔はお兄様って呼んで、いつも後ろをついてきてくれてた可愛い弟だったのに。

 流石に12歳も離れているからな。

 まあ、いまも物凄く可愛いのだが……


 取りあえず、週末にヘンリーをボコボコにして、なんでこんなことをしたか聞き出そう。

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