第7話:国立シビリア総合学園入学試験
「それでは、これより一切の私語を禁じます。始め!」
試験官の合図によって、一斉に聞こえてくる鉛筆を走らせる音。
もしかして、墨壺と羽根ペンとかかなと思ったけどさすが王立。
鉛筆が普通にあった。
日本のような真円の芯が入った見慣れたものじゃないけど。
細く練り上げた炭を使った小さな芯を、穴の開いた木の棒に刺して使う。
先端の円錐部分が取り外し可能で、短くなった芯を付け替えて使うが、替えの先端部分を用意している人も多い。
値段は一本あたり銀貨1枚、芯が10本セットで銀貨5枚と今はまだ高いが、年々安くなっていっている。
ちなみにマルコは腐るほど持ってるが。
何故かって?
作ったからだよ。
消しゴムまでは作れなかったからそこはあれだ、売れ残ったパンを消しゴム代わりに使っている。
ちなみにパンで鉛筆で書いた字が消せるのを広めたのも俺だ。
鉛筆の芯の原料となる黒鉛は、うちの領土の山から腐るほど採れたし。
粘土なんてありきたりなものは、この世界の人でも知ってる。
最初は、取れた黒鉛を使って板に絵を描いたりして興味を持たせた。
この世界では主に鋳物や煉瓦に混ぜて使われていたが、そういった工房がある村で子供たちがそうやって使っているのはよく見られた光景だ。
それを父に話して、これで絵や文字が書けるという有用性を伝えたあと、これまた例のオセロ村でより鉛筆の芯に適したものになるよう細工した。
オセロの件もあり、俺が話を持っていった窯元の主も試しにと窯の空いたスペースで焼いてくれた。
ちなみに、形成は細い筒から押し出す心太方式だ。
これにより筆と墨よりも扱いやすく、しかもパンで消す事が可能な鉛筆をこの国に広めることができた。
うちの領土でこの村だけ第二次高度経済成長を遂げることになったのだが。
オセロ特需の一件以来俺はこの村では違った意味で神童扱いされており、幼い俺の言葉でも大人たちは取りあえず実行してくれている。
実はいまシビリア王国で様々な分野で波紋を広げている技術は、このオセロ村から広がっておりその大本は俺だったりする。
元々、農業と林業が盛んだったただの農村だったが、移住者も増え日に日に大きくなっている。この村の本当の名前はメロノ村だったが、いつごろからかオセロ村と呼ばれ元の名前で呼ぶものは住人くらいになってしまったが。
とまあ手前味噌な話になってしまったが、異世界転生を夢想した時に集めた知識がまさか実際に役に立つ日が来ようとは、当時の俺は想像もしてなかった。
もし分かってたらもっと金になる知識や、自身の生活が豊かになる知識を集めたのに。
事実黒鉛は熱と電気の伝導率も高く多種多様な使い道のある鉱物なのだが、なんに使われているかは知っていても全ての物の作り方を網羅しているわけではない。
この鉛筆の芯や、竹が電球のフィラメントになる事は分かっていても真空管の作り方や、肝心の電源が用意できない。
そこは、電気を発生させる魔石がある世界に転移すればという淡い期待を持っており、実際に電気の魔石はあったが、同じ値段で光を放つ魔石が買えるので実用性はあるかもしれないが経済効果は見込めなかった。
真空封止方法を調べたが、それを作るための器具を造る事から始めないといけないので、そこも風魔法的な何かがあればと思って断念した。
まあそんな感慨深い物に、こんなところで出会うとは思ってなかったためちょっと感傷に浸ってしまったがマルコの筆はそんな俺の思考を無視して快調に進んでいる。
俺が手伝えば簡単に満点が取れるのだが、さすがに目立ちすぎるのも良くないのでここはマルコの実力任せだ。
ちなみに何故満点が取れるかというと、答えは簡単な事。
職員室に用意された採点用の答案用紙を、盗み見て教えたら良いだけだ。
管理者の空間の地図を使えば、問題無くそれを行う事ができる。
全ての筆記試験を終えたあとは、実技試験だ。
武術に関する試験は、技術云々は抜きに単純に攻撃力のみを測定するらしい。
藁人形を得意な武器で破壊するだけといった簡単な試験だ。
毎年の受験者は平均約200名ほどで、藁人形を作っている職人さんは稼ぎ時だったりもする。
ただ今年は、王子も入学するということで300人ほどの新入生が集まっている。
ちなみに入試といっても、合否を決めるようなものではなく、クラス分けのためのものだったりする。
専門科も多くあり、戦闘科等なら筆記が悪くても実技で頑張れば問題無い。
主な専門学科は、戦闘学科、魔法学科、経済学科があり、それ以外は総合上級学科、総合一般学科がある。
そして特殊な学科だが、貴族科というのもある。
子爵家でも上のものや、基本的に伯爵家以上の子息、子女はここに入る。
一般生と並ぶと、どうしても他の学生が委縮してしまうということで作られた学科だ。
いまとなっては、箔を付けるためだけの学科に成り下がっているが。
他の学科が30人から50人近くいるのに対して、この学科は年によって一桁から20人程度と人数も少ない。
ただその分教員から密な授業が受けられるという事でもあり、卒業するころには真面目にやれば相当優秀な人材に、そうでなくともそこそこには仕上がる。
そして残念なことに、俺はそこに入る事になる。
祖父は本人の身に適用される侯爵相当の地位に居るが、俺は子爵の家の子だ。
俺の発明品のお陰で、うちの領地運営はすこぶる好調だが。
できれば一般上級科に入りたかった。
ちなみに貴族科に入る生徒は事前に家庭教師を付けており、最低でも総合試験で50位以内には入る者達ばかりだ。
というか先輩方がそうなのだから、自分達がそれ以下になるということは親が絶対に許してはくれない。
「おおっ!」
そんな事を思っていたら、武闘場から歓声が上がる。
どうやらクリスが一刀で藁人形を両断したらしい。
武闘派の貴族の子供たちは、何人かに1人そういったことをやってのける。
8歳の子供が剣で藁人形を両断するとか、なんの冗談だと言いたくなるが。
俺もできるから、なんともいえない。
普通は4回から5回で藁人形を破壊する。
終了条件は、人形が戦闘を取れる形態じゃない状態にすること。
両腕部分は細いので、一時期両腕を斬って2回で終了する生徒が増えたため、腕には細い木の芯が付けられる事になった。
それでも断ち切る子供は居るが、それができる子は胴を一刀して1回で終わらせる。
「さすがビーチェ家の御子息」
「やはり目立ちますね」
そう言った声が見守る教師陣から聞こえてくる。
他の生徒たちも驚きに固まるものだけではなく、刺激されて対抗意識を燃やす子もいる。
そうこうしているうちにマルコの番になる。
ベルモントの子、そして戦鬼スレイズの孫ということもあって周囲から注目を浴び若干やり辛そうにしているが。
「ふむ……悪くはないですな」
「まあ、さすがと言いますか……」
事前に目立たないようにと意思をすり合わせていたため、無難に右袈裟と左袈裟の2回で藁人形を両断したマルコに、周囲の反応はいまいちだ。
終わったあとで、マルコがキョロキョロと周りを見渡している。
そして、視線をピタリと止めて苦笑いする。
その視線の先に居るのはセリシオ第一王子。
セリシオが不機嫌そうに、不満げな視線をマルコに送っている。
そんなセリシオに対して、マルコは苦笑いで応えるしかない。
マルコの実力に気付いているセリシオにすれば、マルコが手を抜いたのは一目瞭然だ。
その後の体力測定でも、無難にそれなり以上で留めるマルコに対してより一層不機嫌になっていくセリシオにとうとうマルコは目を背ける事にしたらしい。
「あれが戦鬼の孫か……確かに凄いが、まあ……」
「今回はビーチェ殿のお孫さんがいらっしゃいますからね、仕方ないでしょう」
「例年でいけば、優秀な子として目立ったんでしょうけど」
そんなマルコに対する教師の評価もいま一歩といったところ。
クリスがちょうど良い隠れ蓑になってくれたみたいで、助かった。
変に目立ってアホな貴族に目を付けられるくらいなら、多少ガッカリで期待外れな子供の方が過ごしやすくなる。
「138……139……140……」
「もう、十分です!」
そんなマルコに見せつけるように、全力でこの試験に挑んでいるクリス。
いまも懸垂を100回超えたところで、周囲に人が集まりだし140回でストップが掛かる。
本人は余裕の表情を浮かべ挑発的にマルコを見ているが、残念だ。
顔が真っ赤で、腕もプルプルと小刻みに痙攣している。
無理は良くない。
「98……99……もう無理です」
マルコは99回で止める。
口ではぜえぜえ言っているが、こっちは特に汗をかいているわけでもなければ、腕も顔も涼やかな元々の透き通るような地肌の白い色のままだ。
さすがにそこまでは演技できない。
「はい、十分ですよ」
「ありがとうございます」
試験官に十分ですと言われて、普通に息を整えて次の試験にスタスタと歩いて向かうマルコ。
もしかして、手を抜くのが嫌なのかな。
若干俺に対して、ささやかながら抵抗しているような気すらする。
「うーん、優秀なんだけどなー」
「どうも、クリス殿の後では……」
そんな声が聞こえてくる中、マルコをジッとみつめ首を傾げる老人がいた。
長く伸びた顎髭を撫でなながら、この人だけは微笑を携えて最初から最後までマルコの試験をじっと見据えていた。
「どうやらマルコ殿は目立ちたくないようですな」
「えっ?」
「いえ、なんでもないですよ。ほっほ」
隣に居た若い教員に聞き返されて、落ち着いた様子で誤魔化す老人。
終始クリスにドヤ顔を向けられ、セリシオに睨み付けられながらも無事体力試験も無難に、優秀な範囲で終えたと思う。
ただ、最後の魔術試験だけは手が抜けない。
何故かって?
これは専用の器具を使って適性と、魔力値を測るからだ。
実際に何かするわけではないので、実力の隠しようが無い。
できても、精々無気力に器具に向かう程度。
そもそもこの国で正式に魔法を習い始めるのは10歳から。
精神が未熟な子供に、火や雷のような危ないものを簡単に使わせる訳にはいかない。
それも10歳で学ぶのは魔法の基礎であり、魔法の使い方ではない。
魔法の危険性や、過去に起きた子供の魔力暴走による事故。
魔力枯渇による身体に対する影響や、魔法を悪用した場合に処罰される法律などを先に学ぶ。
それもそうだ。
魔法を放てるようになるなんてのは、銃火器を手に入れるに等しい。
8歳や9歳の子供に拳銃や、火炎放射器を与えるような親は普通は居ない。
実際に魔法を使い始めるのは3年目からで、いわゆる初等科の高学年。
それも生活魔法から始まり、属性魔法は習わない。
12歳、最終学年で属性魔法を習うのは魔法学科と、貴族科だけだ。
ただしそれまでに、魔法を学ぶだけの心構えを見せないと魔法学科の生徒は普通上級科に落とされるし、貴族科の生徒はその時間だけ自学に当てられる。
この国での魔法の扱いは、本当に慎重なのだ。
「おお!」
「これは……」
と思っていたら、魔力測定をしている教室からまたも教師のどよめきが。
「さすがはディーン君ですね」
「風属性は特級、水属性と地属性の適性値が上級です、それ以外も中級までなら扱えるでしょう」
「ありがとうございます」
「魔力量も入学生の平均値の倍以上あります」
「メルト様のお孫さまなら、魔法を使用するうえでの心得など私たち以上に教えておられますでしょうし、すぐに魔法を覚えても問題無いでしょう」
「いえ……祖父から魔法の勉強は固く禁じられておりますので、他の生徒方と同じように扱っていただければと」
「さすがマクベス家、国内最高峰の魔法の使い手をたくさん輩出されておられるだけあって、魔法に対する真摯な姿勢に恐れ入りました」
「国のトップに並ぶ方が率先して教えを守ろうとする姿、是非おじいさまに教師一同感動しておることをお伝えください」
「はい、ありがとうございます」
あれがディーンか。
確かディーン・フォン・マクベス……マクベス侯爵家の三男で、セリシオ王子の側付きの1人だったな。
祖父のメルトさんが前宮廷魔術師局長、父のエクトさんが現宮廷魔術師副局長だっけ?
次期局長と名高い人だったな。
クリスと違って、謙虚な姿勢が好意的だ。
あっちとなら、仲良くなれそうな気が……
うん、仲良くなれるかな?
マルコの方に向かって笑顔でウィンクしてたけど、なんのアピールだろう?
うちは代々武闘派だから、魔法畑の人とはぶつかる事は無いと思うけど。
もしかしたら、セリシオとクリスのやらかしを知った上で歩み寄ろうとしてくれてるのかな?
なんか、ようやくまともな子に会えた気がする。
「おお!」
また歓声が上がってる。
今度は誰だ?
「聖属性の適性が超特級? 他は初級止まりですが、超特級なんてここ数十年出てないのでは?」
「さすが、エメリア家の御息女様。これなら聖女様になるのも夢じゃありませんよ」
「あ……ありがとうございます」
えっとエメリアっていうと、エメリア伯爵家か。
代々治療師や、聖女を輩出してる家柄だったっけ?
「ソフィアなら当然よね」
「ちょっとエマ、恥ずかしいからやめてよ」
ああ、ソフィアっていうのか。
白い髪って珍しいな。
眼もくりくりしてて、ぷっくらと膨らんだ健康そうなピンク色の唇といい、将来有望株だな。
10年後に逢いたかった……いや、マルコも同じ年だから10年後でも釣り合うか。
まあ、マルコにはすでに心に決めた……
おい、マルコ。
なに見惚れてる。
アシュリーはどうした?
高学年になったら、この学校に来るために頑張るって言ってたぞ?
「マルコ・フォン・ベルモント君、中に」
「はい」
ボーっとしてたマルコが、教師に呼ばれて一瞬ビクッとしたあとで慌てて教室に入っていく。
直前でソフィアと目が合ってたが、ぼやっとしたマルコの様子にソフィアが首を傾げてた。
いまはコース外だが、これはこれで滅茶苦茶可愛い。
別に大人と、知り合いの子供という関係でも十分ほっこりできる。
逆に近所のお兄さん的ポジションで懐かれるのも、悪くない。
彼女の成長を眺めながら、時に恋愛の相談を受けたりしながら、大人になって綺麗になった彼女が嫁いでいくの少し寂しく思いつつも、幸せを願ったり。
でもって、子供が生まれたら紹介されたりして。
彼女の子供だったらきっと物凄く可愛くて、こっちはそれなりの年になってるから今度は孫みたいにな感じで、無条件で可愛がったり。
はっ!
いつの間にか叔父さんや、歳の離れた従兄ポジションで妄想してた。
ボーっとしたマルコの気持ちが分からなくもないが、容姿と仕草だけでここまでイメージさせるとは。
外人の子供って本当に、凄い。
これが逆の立場でもそうだから、血が離れてるってのはある意味そうなのかも。
結構白人や黒人の人が、ホームステイ先の日本の子供を猫可愛がりするっていう話を聞いたりするしね。
実際に従弟の家がよく受け入れしてたけど、物凄く可愛がってもらってたっけ。
「では、この魔法陣に両手を翳して意識を集中してください」
「はいっ」
「宝玉と意識が繋がったら、あとは勝手に潜在適性と魔力が宝玉に引き出されますから」
「はい」
マルコが案内された教室には3人の教師が居る。
3人ともローブに身を包み、いかにも魔法教師ですといった出で立ち。
マルコの両横に立つ男女2人はまだ20代後半から30代前半といった感じか。
正面の男性教諭は、50代くらい。
少し白髪交じりの、赤い髪が特徴的だ。
髭は黒いのか。
鼻の下から口の両脇に綺麗に切りそろえられた髭を蓄え、威厳を感じさせる雰囲気だ。
これが主任とかそういった役職の人だろう。
そしてマルコの前にあるのは、魔法陣に載ったどんよりと曇った透明の宝玉が7つはめ込まれた台座がある。
それぞれ、赤、青、緑、黄色、白、黒と色が変わるらしく、その色の濃さで適性値が分かるらしい。
真ん中にある宝玉は光を放つだけらしく、その光量で魔力量が分かるとか。
ゆっくりとマルコが魔法陣に両手を翳す。
それから目を閉じて、意識を集中した瞬間。
「なっ!」
「これはっ!」
「ベスト教授!」
「うむ。これは、ベルモントは肉体派の家系だと思っていたが……異常だね」
「いやこんな事、あるんですか?」
目の前の宝玉は色鮮やかに輝いており、中央の宝玉に至っては目も眩むような光を放っている。
あっ……
「聖属性、闇属性ともに観測史上もっともはっきりと色を表しておる」
「染み一つない純白……吸い込まれるような漆黒……」
「というか聖宝玉……光を放ってないですか?」
「闇宝玉は、逆に周囲の光を吸収しているような……」
「他の色も、これでもかというほどに鮮やかに色が出てます」
善神の右手と邪神の左手だもんね。
聖と、闇に適性が無いわけないもんね。
というより、むしろ人類史上もっとも適性があってもおかしくないよね?
「風と水、火と地が特級。聖と闇に至っては……」
「こんな事ってありえるんですか? 対極属性がそれぞれ最高適性を示すとか」
「もしかしたら器具の故障とか……」
「メインの宝玉は天然素材だからな、そうそう不具合を起こすものじゃない。故障というなら罅がないし、物理的な損傷が現れるはずだ」
めっちゃザワザワしてる。
最後の最後で、ミスった。
いや、防ぎようが無いよね?
「聖宝玉が光を放ち、闇宝玉が光を吸収するということは……聖属性、闇属性の親和性が神級……」
「過去200年で一度だけ火宝玉が火を放ったとされる、火の魔人スカーレット様以来だ……宝玉が属性に似合った効果を顕現させるなど」
「それ以降、同じくらいの適性値を持つ者が現れたなら水宝玉なら水を、地宝玉なら地震、もしくは雷、風宝玉なら風を呼び起こすだろうと言われていたが」
「まさか聖と闇で、2つも……」
「魔力量も……わしを超えておる……」
「何故ベルモントに?」
声でかいから。
教室の外までザワザワしてるし。
「マルコ君、少し待っていてくれたまえ! これは至急学園長に至急報告せねば」
「あの……これって不味いのですか?」
「不味くはない……不味くはないが、非常にアレなのだよ」
アレってなんだよ。
混乱し過ぎて、言葉がアレになってるけど。
なんか、このあとが不穏な事になりそうで、怖いんですけど。
マルコも若干、この後の事を想像して怯えてるし。
「オットー! すぐに学園長を呼んできてくれるか?」
「はいっ!」
そう言って、髭教師もといベストの横に居た若い男性教師が教室の扉を開く。
「ほっほ、それには及ばんよ!」
「学長!」
何故か、教室の前に学長居た。
ってか、さっき武闘場でこっち見てたおじいさんじゃん。
「なるほど……これは確かに神級の適性者のみに現れる反応じゃな」
中に入ってチラッと宝玉を見た学長が髭を撫でる。
それからマルコの方に優しい視線を送る。
「そう怯えるでない。悪い事ではないのじゃから」
「はい……」
幼い子に言い聞かせるように、腰をかがめて目線を合わせて頭を撫でてくれる。
あっ、まだ8歳の幼い子だったわ。
これって、俺が対応した方が良いのかな?
そんな風に考えると、マルコがこっちに向かってめっちゃ首を振ってるような気がした。
縦に……
そうか、やっぱり厄介事だよな。
溜息を吐いて、マルコの身体に戻る。
「ほう……」
何がほうなんだ学長。
迂闊な行動を取ったことに気付いたのは、学長と髭教師が目を細めたのを視界に捉えたからだった。
過去形。
時すでにお寿司。
くだらないことを考えて現実逃避しつつ、頭を抱える。
「少しわしの部屋で話をしようかのう」
「それに拒否権は?」
「拒否するなら、わしはお主の入学を拒否するかものう……」
学長はどうやら、クソじじいらしい。
素直に従って後をついていきつつ、周囲の他の生徒の突きささるような視線を感じて再度深く溜息を吐くのだった。
ホッとした様子のマルコに、普段俺が逃げた時に向けられる非難の目を向けつつ。





