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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第185話:冬休みの虫達

「おや? 冬なのに蝶が飛んでる」

「旦那様、ベルモントの虫達は冬でも活動をしているみたいですよ?」


 そう言って馬車の手綱を握る丁稚の少年が指さした先では、蜂達が編隊を組んで飛んでいる。

 

「ふふ、働き者が多いと評判の領地では、虫達も働き者のようだ。私達も見習わないと」

「そうですね。そのためにも、今回の仕入れでは前回入手できなかったリバーシセットをなんとしても手に入れないとですね」

 

 馬車が通り過ぎていくのを見送りながら溜息を吐く。

 あの人たちは簡単に納得したけど、どう考えてもおかしいだろう。

 タブレットで何気に冬の間の地上部隊の虫達って何してるのかなって気になって覗いてみたら、この有様だ。

 冬でも平気で活動する虫達に、頭が下がるというか。 

 少しは自重してもらいたいというか。


 まあ、色々と合成した結果、厳しい冬の気温でも耐えられるようになったし?

 体力も魔力も溢れていて寿命も延びているし?

 なによりも、主が折角冬でも活動出来るようにしてくださったのに、冬の間に巣穴に籠る選択肢なんかない?


 いやそういうつもりで、改造したわけじゃないし。

 交代制でマルコを護ってたらいいだけじゃないのか?


 なになに?

 領内で事故や事件が起きたら、将来の領主であるマルコ様の評判に傷が付く?

 付かないから。

 別に街道に山賊が現れたからって、それで領主が悪いとかってことにはならないし。

 そもそも領内の生産量が上がって、そんなに困窮していないから。

 犯罪者に身を落とすような状況じゃないから。


 確かに野盗なんかも居るけど、他所から入って来た連中ばかりだからね?

 そいつら捕まえて出自を調べて、そこの領地にクレームをつけるか……

 まあ、相手の爵位が上なら泣き寝入りだけど。

 

 普通はね。

 マイケルはそんな事気にしない。


 普通に、おたくの夜盗がこっちまで来て迷惑だから、引き取りに来てって連絡してる。

 そして相手もひょいひょいと捕らえに来る。

 スレイズの威光を思いっきり便利に使って……えっ?

 基本的に、マイケルの同級生はマイケルに頭が上がらない?

 その兄弟も?


 精々が侯爵家の関係者が、マイケルと対等に友人として接しているくらい?

 上司たらんとしているのは、王族に連ねる公爵家くらい?

 ……ふーん。


 まあ、そうか。

 そうだろう……

 ベルモントだし。


 あれ?

 なんか脱線した。

 そうじゃなくて、うちの領民から野盗に身を落とすような人はいないって話だったよな?


 流石マルコ様です?

 違う。

 いや、違わないけど。 

 確かにマルコを通じて領民の暮らしが豊かになるように、働きかけたのは事実だ。

 ただマルコはアイデアを出しただけというか、俺が手伝ったというか。


 流石マサキ様?

 いやぁ、照れるな……てそうじゃない。

 俺が褒めて貰いたいんじゃなくて、結局は領民の皆が頑張った結果。

 俺達は切っ掛けを与えただけ。

 さらに言えば、自分達の為にやった部分もあるし。

 打算あってのことだ。

 褒められるようなことじゃない。


 だから、その……

 説明すればするほど、分かってますよ。

 マサキ様にとっては大したことでは無いんでしょう? 

 ええ、分かってますとも!

 みたいな視線が増えてくるというか。

 全然分かってないよね?

 

 駄目だ、地上部隊はあまり普段から接する事が無いから、俺の神格化が激しい。

 どうにかして、早いうちに軌道修正しないと。


 ちなみに冬の間の地上部隊の仕事といえば。


「ひっ、なんでこんなところに蜂の群れが!」

「ひいっ! こいつらただの蜂じゃねーぞ!」

「戻れ戻れ!」


 領地の境で、街道を通らずに越境してくる野盗を追い返したり。


「うぇーん、ママー……あっ、蝶々……」


 ……


「エリカ! エリカどこ?」

「あっ、ママの声だ! ママー!」


 町で迷子を親元に届けたり。

 凄いな癒しの光で、泣く子も落ち着かせられるのか。


 町の警備員が絶対に欲しがる逸材だな。


 あとは、定期的に森の一角に集められ、マルコの身体を借りた俺が回収している素材集めとか。

 冬にしか現れない魔物や、冬にしか取れない植物系の貴重な素材もあるので有難いが。


 とにかく、よく働く。

 働き過ぎだと思うくらい。

 

 なになに?

 それが存在意義であり、存在価値であり、生き甲斐です?

 一言ご苦労と言って頂けたら、全てが報われる?


 いやいや……

 そんな人生というか、虫生で良いのか?

 もう少しこう、人生というか虫生にスパイスがあった方が。

 

 スパイスの栄養や効果には興味ありますが、味が分からないので勿体ない?

 違う、そういう意味じゃない。

 楽しい事も覚えて、こう人生にメリハリをだな。

 スパイスって言い方が悪かったな。

 基本的に俺の言葉を、素直に受け止めるもんなお前ら。

 うんうん、刺激って意味だ。


 俺の配下になったことが、何よりもの刺激でした?

 そうじゃない。

 そうじゃないんだ……

 なんか、こう上手く伝わらない。

 

 ああ、別にお前らが悪い訳じゃないんだ。

 だから、そんなに肩を落とさなくて良い。

 むしろ、俺の語彙が貧しいのが悪いんだな。

 うん、だから気にしなくて良い。


 素直でワーカホリックで献身的な相手に、どうやったら休みの重要性を伝えられるのだろうか。

 仕事が趣味ですと言われても、それ趣味なの? って感じの職務内容だし。

 何よりも小さな体で羽を一生懸命に動かして、あっちこっちに奔走する虫達を見ていると本当に大変そうだなと心配になる。


 一度冬でも花が咲き乱れる管理者の空間の花畑に連れて行ったが。


「ここで、蜜を作れば良いのですね」

「私達は受粉作業を行えば宜しいでしょうか?」

「土の入れ替え作業ですね」 


 と蜂と蝶と蟻に言われてしまった。

 いや、普通に蜜を取って食べたら良いよ?

 今日は、休みだ。

 と伝えたら、キョトンとされた。


「虫の命は短いのです。今やるべきことのなかに、休みという選択肢は無いのですが」

「1秒でも主の為に」


 いやいや。

 君たちの寿命、かなり延びてるからね?

 少しくらい、無駄にしても……無駄にしてもなんて言えない。

 こんなに今を一生懸命生きてる姿を見せられたら。

 

 そんなことを相談していたら、ダニのダニーが立ち上がった。

 一度管理者の空間に彼等を集めてくれと。

 そして、ダニーの眷族が集まって彼等に対峙する。


 整列していた虫達がその場でパタパタと倒れていく。

 ちょっと、ダニーさん?


「ふふ、催眠魔法に鎮静と気分の高揚を与えてます」


 鎮静と高揚って相反するものをどうやって……


「ですから、夢の中で彼等が最も望む至福の時を過ごせるように、細工をさせてもらったのですよ」


 なんと!

 夢の中身までは触れないが、気分の良くなるような夢を見るように誘導できる?

 凄いぞ、ダニー!


「良い夢見ろよ!」


 そう言って、その場を後にするダニーに賞賛の拍手を送る。


「ああ、主のために蜜を作って、それを運ぶ夢を見た。本当に嬉しそうに蜜を塗ったブレッドを食べる主に至福の時を得た」

「俺達なんか素材の加工から、製品の作成まで出来るようになる夢を見られた。俺達が作った布団で横になる主の幸せそうな寝顔を見たら、是非とも製品を作るレベルまで進化しなければ」

「私達なんか、人生に迷った主にアドバイスできるようになる夢だったわ! 的確に主の英雄への道を照らす道標となるべく色々な知識に精通して……そうだわ、本を読めるようにならないと」


 ……あー、ダニーさん?

 夢の中身が、全然幸せな内容に聞こえないのですが?


 なんだかんだで、俺に尽くしているのが幸せらしいが。

 そうじゃないんだ……

 自分達の自分達による、俺に頼らない幸せというか。


 取りあえず来年の冬までに、この働き者達に休み方を教える方法を探そう。

 

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