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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第184話:冬休みダイジェスト その6

「で、ディーンはなんで1人残ったの?」

「それは、当然1日くらいはマルコと一緒に、普通の学生の休みを過ごそうと思ったからですよ」


 ようやく武器屋喫茶に来ることが出来た。

 というか、ディーンがどうしても来ておきたかったらしい。

 実際は、アシュリーが僕が帰ってきているのにフレイやディーンのせいでお預けをくらっているからせめてとの気遣いだろう。


「マルコは、こう見えて成績も優秀ですしね」

「学年トップに褒められてもねぇ」


 先ほどからアシュリーに聞こえるように、僕の学園生活について振り返っている。

 しかも、持ち上げるような感じで。

 アシュリーも特に忙しく無いのか、先ほどから僕たちの席の近くばかり拭いている。

 うちでメイド見習いをしたからか、それとも学校に通い始めたか知らないけど僕たちの会話に割り込んでくることは無い。

 流石に貴族の子供同士の会話に、普通の一般の子供が割って入るのはあまり宜しくないと知ったのだろう。

 僕は気にしないし、ディーンも恐らく気にしない。

 気にしないけど、賢明な判断だと思う。


 ここで割って入って来てもディーンのことだから、アシュリーも楽しめるように配慮してくれるだろう。

 でも彼の中のアシュリーの評価が下がるだろうことは、容易に予測できる。


 せめてもの配慮で王都での僕の様子を、アシュリーに聞かせるつもりらしい。

 有難迷惑だ。

 正直生殺しというか……

 恥ずかしくて仕方ない。


 小一時間ほどアシュリーに僕の様子を伝えたディーンは、自分の仕事は終えたとばかりに僕に外に出るように促す。

 それから2人で街へと向かう。


「で、ディーンは何がしたいんだ?」

「うーん、ここは領主の息子であるマルコが、僕を案内するべきでは?」

「僕よりも、街について情報を仕入れてそうだけどね」


 とはいえ、まあ僕の客であることは間違いない。

 だけど、ディーンを連れていけるような場所が無いのも事実。


 ディーンが何も考えずに1人だけ残ったとは考えにくいし。

 もしかしたら、何か僕に話したい事でもあるのかな?


 そう思って、個室のある定食屋へと向かう。

 フレイも連れてきたことのある、エスニック料理のお店。

 紹介が無いと来られない場所だ。


「ここが前回殿下たちをもてなしたお店ですか」

「流石に聞いてたか」


 今回はディーンと2人なので、座敷に通して貰った。

 ディーンが靴のままあがろうとしたら注意するつもりだったが、普通に部屋の内装を見て靴を脱いであがっていた。

 

「東の大陸に見られる習慣ですね」

「なんだ、知ってたのか」


 本当に、この子の情報量はどうなっているのだろうか?

 絶対に靴のままあがると思ったのに。


「靴を脱いで座るというのも落ち着きませんが、郷に入れば郷に従えですからね」

「慣れれば、物凄く楽だよ?」


 畳までは用意できなかったので、板張りの部屋におかれたクッションの上に胡坐をかいて座る。

 ディーンは正座……だと?


「そこまで知ってるのにはびっくりしたけど、その座り方だと足が痺れてあとが大変なことになるよ?」

「でしょうね」

「いや、膝を崩していいよって意味なんだけど?」

「膝を崩す?」

「楽に座ってって意味」


 流石に膝を崩すまでは伝わらなかったけど、正座が出来ただけでも驚きだ。

 

「なるほど、勉強になりました。本当に、マルコの知識はどこから来ているのでしょうね?」

「いや、こっちのセリフだから。この店はうちの領地にあって、僕も少なからず携わっているから東の文化についても調べることになったけど、ディーンはそんな必要無さそうなのによく知ってたね?」

「まあ、殿下の傍仕えともなると、異国の方との会談もありますし。王族ではなく、いち貴族なら相手の国の文化に合わせることも必要ですからね?」


 腹立たしいくらいに立派だ。

 どうやったら、こんな子供が育つのだろう?

 クリスにも見習って貰いたい。


 ケイにはもっと、見習って貰いたい。

 

 傍仕え候補として経歴の長いケイよりも、母親を大事にするクリスの方が僕の中では評価が上だからね。

 人としての評価が。


 まあ良いや。


「私も顔を拭いた方が良いですか?」

「いや、好きにして。膝を崩して貰ったのも、慣れない座り方で折角の料理が楽しめないのが嫌だったからだし。ここでは、料理を楽しむことを第一に考えて貰ったらいいから」

「そうですか、では……ふむ、暖かいお絞りで顔を拭くのもなかなか気持ち良いですね」


 湯気が立つちょっと熱めのお絞りで顔を拭いたディーンが、顔を綻ばせる。

 どうやらお気に召していただけたようだ。


 それから運ばれてきた料理を頂く。


「今回は馬の生肉は無いのですか?」

「どこまで知ってるんだよ。まあ、食べたいなら注文するけどさ」

「いや、結構ですよ」


 昼食だったので割とガッツリとした料理をお願いしてある。

 マサキ達が観光で訪れたモンロードで仕入れたスパイスを使った肉料理だ。

 水牛の肉を使っているが、ちょっと固い。

 肉の品種改良をしたいが、知識も時間も無いのでいまはこれで我慢。

 食べられない事も無いし。


「で1人だけ残ったうえに、僕と2人で行動したってことは何か話したいことでもあるの?」

「そうですね、面倒臭い話と、面倒な話どちらから聞きますか?」


 どうやら、やっぱり僕に話しておきたい事があったらしい。

 それも2つも。

 しかも選択肢が面倒臭い話と、面倒な話と来た。

 どちらも聞きたくない。


「どっちも嫌だけど、気になるのは面倒な話かな? なんか言葉の響きが、こっちの方が重要な感じに聞こえるけど」

「ですか……では、面倒な話の方からですね」


 そこでディーンから語られたのは、ジョシュアのことだった。

 厳密にはジョシュアの父親のドルア・フォン・マックィーンとジョシュアの事か。


 いまだにジョシュアの兄を、王家の剣術指南役へ就かせることを諦めていないらしい。

 せっかく僕と仲良くなったのに、ジョシュアから肝心の情報が得られないことに相当に苛立っていると。

 また、家族ぐるみでの付き合いにまで発展出来ていないことも。

 同時にセリシオとの縁も結べていないことに対しても、面白く思っていないらしい。

 

 ジョシュアとしては自分を利用して、自分の兄にばかり利を求める父親にうんざりしていると。

 ただ親の支援なしでは学校に通うどころか、生活もままならないことを知っているので邪険にも出来ないと。

 のらりくらりと父親からの要求を躱していたが、ついに痺れを切らした父親によって使用人が全て入れ替えられてしまったらしい。

 自身の派閥に属する子爵家ゆかりの子供を、ジョシュアの側近に取り立てて常に行動を共にするように言い付けたと。

 

 ドルアの息の掛かった子供らしくまた跡取りでも無いために、そのままジョシュアのお目付け役となる予定らしい。

 まあ嫡男以外の子爵家の子供が手に職を付けるチャンスとなれば、その子も必死で指示に従おうとするだろう。


「また、子供同士ということでジョシュアもあまり邪険に出来ないらしい」

「そうなの? 立場が上なんだから、どうにでも出来るんじゃない?」


 どうにでも出来るが、その子が実績を残せなければジョシュアの父親からも、その子の親からも切り捨てられるのは目に見えてるらしく、ジョシュアはその事を思うと強引な事は出来ないらしい。

 なんであの父親の下で、こんな良い子が育ったんだろう。


「たぶん来年は、ジョシュアとセットでその子が付いて来ると思いますよ。しかも、マルコにしてみれば、家格は一緒の子爵家の子供ですからね。きっと、扱い辛いことは間違いないでしょう」

「確かに」

「もしかすると、ジョシュアはこれがきっかけでマルコと距離を取るかもしれませんね」


 個人的にはジョシュアの事は好きなので、こんな事で友達としての関係を終えるのは嫌だ。

 かといって、ジョシュアと付き合っていく以上、ドルア伯爵の子飼いの子供も付いて来ると。

 そして僕との付き合い方に、ジョシュアとその子も命運が掛かっているともなれば確かにこれは面倒な話だ。


「すでにジョシュアは、今回のエマの領地への来訪を辞退したようです」

「なんだよそれ……」


 せっかく子供らしく楽しみにしていた休みの計画まで台無しにされるなんて。


「加えて、ほぼ家で過ごしているようです。ここには来ないのかとその子からせっつかれているみたいですが、無視して読書などをして過ごしていると」

「……うん、確かに面倒なことになってるね」


 ジョシュアが不憫で仕方ない。

 かといって、今すぐどうにか出来るような案も無いし。

 とにかくだ、まずはジョシュアをどうにかしてドルアさんから引き離さないと。 

 次に、ついでにジョシュアに引っ付いている子を、どうにか良い方向にもっていけたらなと。

 ただ、無理ならそこは無難な方向に収めるしかない。


 僕としては知らない巻き込まれた子供より、大事な友達だ。


「ジョシュアのことは分かった。ついでに聞いておくけど、面倒臭い方の話は?」

「……まあ、セリシオ殿下の件ですが。マルコに今回色々と気を遣わせてしまったせいで、気落ちしてます」

「ふーん」

「ついでに、マルコの優しさに触れつつも、自分を王族として特別扱いしないその姿勢にやはり生涯の友となりえるのはマルコしかいないと張り切っております」

「面倒臭い……」


 確かにこれは面倒臭い。

 最近ちょっとだけ、前みたいにグイグイと距離を詰めて来なくなったので、ようやく成長したのかなと安心したのだが。

 どうやら、思い違いだったらしい。


「まあ、私もマルコは殿下に対して、なんというか他の子達には無い気安さを感じてますし」

「出会った当初に色々とやらかされたからね。最初の距離感がおかしかったから、そのまま上手く距離を取れないまま今に至るって感じかな」

「やはり、マルコは……」


 僕の答えに対してディーンが一度目を見張ったあと、何かに納得したかのように頷く。

 いや、途中で言葉を区切られると凄く気になるんだけど。


「殿下はマルコに対しては年相応の子供のような反応を見せます。それだけマルコを信頼しているってことです」

「迷惑な話だけどね」

「でも……嫌いではないと?」

「なに勝手に決めてるの? まあ、嫌いじゃ無いけど」

「多少は優しくしてあげてくださいね。これはマルコと殿下の共通の友達ではなく、殿下の傍仕えとしてお願いしたいことです」

「……ズルいなぁ。友達として過ごしたいと言っておいて、ここでその立場を持ち出すの? こっちに気持ちの切り替えをさせずにそんな事言うのは、反則だよ! なんでそこまで? ディーンも迷惑してたじゃん」

「殿下が私に迷惑を掛けるのは、傍仕えに対する主としての当然の権利ですね。ただ、マルコに対しては甘えているのですよ」

「王族の家臣に対する当然の権利じゃ?」

「ふふ、殿下にとってマルコは家臣であると同時に、師匠の孫でもあるのですよ」


 なるほど、セリシオの師匠の孫ということが、家臣の子供という立場と相殺されてなんとなく対等に付き合える友達認定されていると。

 さらに今回僕に迷惑を掛けたにも関わらず、僕がセリシオをセリシオという個人として扱ったことで同格の同級生認定されてしまったわけだ。

 いやいや、そんな不敬な立場は望んでいないのだが。


「殿下はああ見えてナイーブなところがあるので、マルコに迷惑を掛けたあとは態度には出してなくても正直へこんでいるのですよ」


 その情報も聞きたくなかった。

 そんな話を聞かされたら、セリシオに対してあまり冷たく出来ない。

 

 確かに面倒臭い話だった。


 まあセリシオの方は放っておいて、いまはジョシュアをどうにかしてあげないと。

 このままじゃ、彼がこれから先楽しく過ごせないだろうことは簡単に予測できる。

 そのためにも、まずは彼に付けられた子供の情報を集めないと。


 そうか……ベントレーやエマ達にも相談した方がよさそうかも。 

 巻き込んでいいものかというのはあるが。

 まずは、ベントレーかな。


 目の前でディーンが、さあ今後のことについて話し合いましょうと目を輝かせているが。

 彼に任せたら上手くいくのだろうが、色々と不安要素も多い。

 そして何よりも、彼に借りを作るのは得策ではないと、僕の心が訴えかけている。

 

 ただ、僕と一緒に悪巧みをするのを心から楽しみにしているような視線を向けられたら……

 溜息を吐いて、取りあえずの対策を話し合うことになった。

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