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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第183話:冬休みダイジェスト クロウニの冬

 冬休みの到来です。

 過去、クコ達に長期休暇というのはありませんでした。

 1日の授業の時間が少ないという点もありましたが。

 それ以上に、彼女達が勉強に熱心だったからです。


 ただ、子供らしさというか。

 いや十分に子供らしいのですが、もう少し娯楽に目を向けても。


 いやいや、別に私が休暇が欲しい訳じゃないですよ?

 子供達に、もう少し人生の楽しさを知ってもらいたいというか。

 子供じゃ無いと出来ないことをしてもらいたいというか。


「うん、そうだよね。クコ達があまりにも普通に授業に向かって、不満も漏らさないから」


 主に相談すると、苦笑いしてました。


「あんなに新しい知識を貪欲に求めるなら、その知識を詰め込むのは今しかないと思ったし」


 その意見には私も、同意します。


「クロウニの意見を採用しよう、今年は初めての長期休暇だな! よし、俺は子供達の為に色々と、楽しいイベントを企画しよう! お前はどうする?」


 ベニス領によって娘のパドラと妻の様子を見た後で、影武者たちに任せているクエール王国の執務も片付けることを伝えます。

 ちなみに影武者たちは皆マサキ様を崇拝しており、主の命令に絶対なので私が居なくても何も問題無いですが。

 流石に国を任されておきながら、ずっとほったらかしというのも。

 

 別に、パドラの様子が見たいから、口実にというわけではありませんよ。

 ええ、違いますとも!


「じゃあ、クロウニにも休暇を与えよう。ばれないならベニス領で2~3日ゆっくりしていくといい」


 主の許可を得て、ベニス領まで転移で運んでもらいます。

 何故か、スライムのライムがついて来てます。

 私の顔に張り付いて、別人の顔にするためらしいです。

 口の中に入って来ましたが、特に拒絶感もありません。


 あー

 

 喋ってみたら、全くの別人の声にびっくり。 

 自分の声なのに、そうじゃないみたい。

 ちょっと高めの、綺麗な声です。


「これなら、会話をしようと思えば出来るだろ?」


 主の優しさを感じ、感涙しむせび泣いてしまいました。


 おそるおそるベニスの街を歩きます。

 周囲を伺い見ると子供達の笑い声が聞こえ、私が統治していたときよりも明るくふくよかになった領民たちが街を行き交っています。

 確実にベニスを取り巻く環境が上向いているのを感じ、気分が高揚してまいりました。


「ねえ、あのおじさん歩き方が変」

「シッ! 見ちゃ駄目です」


 どうやら、無意識のうちにスキップをしていたようです。

 リズミカルに膝を高くあげて歩く、幸せを表現する歩き方だそうです。

 マサキ様に聞いたクコが、私に披露して教えてくれました。


 ただ、うちの領地では受け入れられなかったようです。

 マサキ様の知識にある、幸せを体現する素晴らしい舞だというのに。

 知られていないことが、物凄く嘆かわしい。


 これはですね、幸せを表現する「うちの子に近づかないで!」


 こちらを楽しそうに見つめていた子供に教えようと近付いたら、横に居た母親が隠すように背中に子供を引き込んで後ずさって……一気に走り去っていきました。

 名残おしそうにこちらを何度も振り返る子供は、素質がありそうですね。

 でも、あの母親は駄目です。


 この素晴らしさを理解出来ないなんて。


 マサキ様が管理する空間にはこういった舞だけではなく、多くの素晴らしいものがあります。

 逆にいえば素晴らしいものに溢れている空間を創り出したマサキ様が教えてくださったこの舞も、きっと物凄く素晴らしいものなのです。

 そうに、違いありません。


 母親の理解を得られなかったことに気落ちしつつ、娘の様子を見に行きます。

 今日は街の学校で、講義を受けているそうです。

 特別に講師見習いとして、学校で講義の様子を見る事になってます。

 

 どうやったのかは知りませんが、全ての学校の頂点に位置する国立総合シビリア学園のチャド学園長からの紹介状を手渡されました。

 いやいや、マルコ様が通われているのは存じ上げておりますが。

 まさか、学園長とそこまで密な関係を結んでいるとは。


 まあ、学校に通うにあたって、懐柔出来ればこのうえない後ろ盾ですからね。


 マルコ様の人脈に感謝です。


 もし苛められていたらどうしようという不安もありましたが、どうやら娘は学校でも人気者のようで一安心です。

 授業でも積極的に発表し、休み時間は他の子供達に囲まれてあれこれと習った内容について質問されているようです。


 担任の先生から領主候補として子供達のお手本となるように、勉強も実技も常にトップを取っているらしいですね。

 中央の教育が優れていたというところもありますが、代官として来ている補佐官に色々と学んでいるようです。

 もしや、うちの娘を……と思いましたが、どうやらマサキ様が過去に悪魔と一緒に粛清した貴族の1人らしく安心致しました。


 しかし、ここでもマサキ様に手助けを頂いていたとは。

 本当に主神……間違えました、主には頭が上がりません。

 過去にそれを態度で表したら


「顔をあげて話そうな? そっぽ向いてたら、後ろめたい事でもあるんじゃないかと思うぞ?」


 とご指摘を受けました。

 まさか、面と向かって直答を許されるとは……

 ああ、今まではそうでした。

 

 娘に対する過分な配慮に、つい(こうべ)を下げてしまいます。

 が、主はお気に召さない様子。

 というよりも、気にしていないというか。


 器が大きすぎて、海かマサキ様の懐かといった感覚です。

 言葉で表したら、眉を寄せて嫌そうにされてました。

 どうも、褒め称えられることが苦手なご様子。

 そういった奥ゆかしいところもまた、尊敬いたします。


「先生なんで泣いてるの?」


 娘の成長と周囲の態度に安堵したら、自然に涙が零れていたようです。

 ライムさん仕事してください。

 涙くらい、簡単に吸収できるでしょう。


 それから、昼食を教室で取ります。

 マサキ様のご配慮で、娘のグループに混ぜてもらえるように根回しされていたようです。


「ベニス様のお父様は前領主様だったのですよ!」

「ちょっと、モニカ?」


 モニカと呼ばれた少女の暴露に、娘が焦った表情を浮かべます。

 中央の学校から研修できた先生となると、この領地の政変については知っていて当然。

 であれば、この領地の前領主が反逆罪で処刑されたことも当然知っていると、思い至ったのでしょう。

 そこまで考えることのできる娘が優秀過ぎて、嬉しさのあまりスキップをしたくなりました。


「行動は間違ってるけど、結果は素晴らしいものだと街の大人たちは言ってます……今の生活をもたらした前領主様に感謝してるんです!」

「申し訳ありません! あの、この子は別に悪気があって罪人を庇っているのでは無いのです!」

 

 王族に危害を加えた反逆者に感謝を述べる子供に対して、全力で庇う姿勢を見せる娘にまたも感動。

 無邪気ながらも、確実に処罰の対象になるような言葉です。

 それを中央の人に言うなんて、なんて迂闊な。

 その程度の事も子供に教えられない大人に、げんなりしつつ娘の言動に感激しました。


 私を罪人と呼ぶことは自身の傷を抉ることになるのに、それを飲んで友達を庇うなんて。


「先生、なんで泣いてるの?」

「いえ、ベニス様は立派だなと感じたら、自然と涙が溢れて参りました」


 娘との会食を楽しんだあとは、寂しいですがお別れの時間です。

 とはいえ直接的な触れ合いが終わるだけで、もう2~3日はこの街にとどまる許可は得てるのですがね。

 娘や妻が作り上げている街を、しっかりと堪能してから自分の仕事をこなしましょう。


 ここに居る間は、完全なる休暇だとも言われてますし。

 頑張っている私に対する、ボーナスというものらしいです

 マサキ様は夏と冬の2回ほど、ご褒美をくれます。 

 それは、それまでの頑張りに反映されたものなので、皆やる気に満ちてます。

 

 ジャッカスは夏に黒い鎧を貰ってました。

 マハトールは聖水で育てたコーヒー豆でしたね。

 リザベルは訓練拒否券10枚セットでした。

 1日完全に誰からの訓練の誘いも、絶対に断れるというチケット。

 マハトールが死んだ魚のような目でそのチケットを眺めていたのが印象的です。


「では、これからも勉学に励むように」

「……?」


 私がそう言ってパドラの頭に手を置くと、不思議そうに眼をしぱたたかせてます。


「パパ?」


 思わずそう呟いたあとで、顔が見る見るうちに真っ青になっていきます。


「誠に申し訳ございません! 中央から起こしになった方を、罪を犯した父と重ねるなんて」


 今にも泣き出しそうな表情で、それでも必死にこらえて真摯に頭を下げる姿に目頭が熱くなってくるのを感じます。

 そうだよ、頑張ってるね! と言ってあげることが出来たら、どれほど楽になれるか。

 でも、それは尊敬する主を裏切る行為です。

 私を信頼してこの場を用意してくださった主に対して、取るべき行為ではありません。

 ありませんが……


「罪を犯した前領主の息女ではなく、親を失った子供の寂しさから出た言葉として受け取ります。私も迂闊でしたね。父を失った貴女に対して、似た年齢の私が頭を撫でるのは……でも、立派に頑張っている貴族の娘として、私は応援しますよ?」


 そう言って、軽く抱き寄せて背中をトントンと叩いてあげる。

 娘を慰めながら、私だけがご褒美を頂いているようで物凄く心苦しいですが。

 少しでも気持ちが軽くなれば。


「有難うございます」


 娘が素直にお礼を言ってくれたことで、幾分かは報われた気持ちになりました。

 大丈夫だと思い娘の肩を押して、少し距離を取ります。

 そして、ジッと顔を見て表情を瞼に焼き付けておきます。


 前にあった時よりも髪も背も伸びていて、娘の成長をしっかりと感じ取ることが出来ました。

 この機会を失わずに与えられたことを、何よりもマサキ様に感謝いたします。




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