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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第180話:冬休みダイジェスト その5

「世話になったな」

「御面倒お掛けしました」


 街の入り口で総出でフレイ御一行をお見送り。

 街の人達も大勢参加している。

 代表して領主一家が先頭に立っているが。


 というか、まあ僕のお客様だし。

 いや、フレイ殿下を客と言って良いものか。

 なんか、ただただひたすら僕の中の殿下の評価を下げるだけの滞在でしか無かったけど。

 勿論本人には言わないけどね。

 

 目の前の集団に目を向ける。


 お肌ツヤツヤテカテカのセリシオと、望んだ情報は手に入らなかったうえにおばあさまにこってりと叱られてしょんぼりとしているフレイ殿下が対照的だ。

 ともあれ、こうして無事に今年も王族の接待を乗り切った。


 ことにしておこう。


 それはそれとして。


「なんでディーンがこっちで手を振ってるの?」

「ん? 私はもう一泊して、明日はおじいさまとラーハットに向かう予定ですから」

「うむ、私はこう見えても昔は釣りも好きでのう。内陸の王都では川しかなかったから海での釣りの話を聞いて、ディーンに案内してもらおうと思ったのじゃよ」


 その横にはディーンの祖父のエクト様。

 どうやら、2人はここを中継して元々ラーハットに向かうつもりだったらしい。


「なに、殿下の護衛はスレイズ1人でも十分じゃろう」

「まあ、最近のベルモントの周辺は何故か治安が良いらしいし、わしももう少しここに残っても良かったのじゃが」

「スレイズ様?」


 エクト様の言葉におじいさまが不満げに漏らす横で、おばあさまが睨みを利かせている。

 たははと頼りない笑い声を漏らして誤魔化しているけど、少しだけピリッとした空気が流れていた。

 おじいさまとおばあさまの間にだけ。


「エリーゼおばあさま! また来てくれる?」

「ええ、勿論ですとも」


 テトラがテトテトと傍に駆け寄って、キラキラとした瞳で見上げて両手でおばあさまの手を握っておねだりしている。

 この1週間で、すっかりとおばあさまっ子になってしまったらしい。


 そういえば、もう一つ変化が。

 前はさほどテトラに興味を示さなかったおじいさまが、テトラが剣を握ったことで興味を向けるようになった。


 可愛いテトラが脳筋の遺伝子を開花されても困るので、間には立っていたがそれでも色々と指導を受けてベルモントに染まりつつある。

 テトラは別にそんなに強くならなくても良いのに。

 僕が守ってあげるし。


 可愛らしく成長したテトラに何かあったらいけないと思い、専属の蟻と蜂をマサキにもお願いしたし。

 サイズ感そのままで強化増し増しでとお願いしたら。


「サイズは後からでもどうにかなる。大きさを任意で変化させる素材もある程度把握しているし」


 なんて言っていた。

 いざという時に、元の体積の10倍の大きさになるようにはできるらしい。

 また、その逆もしかりと。

 

 なので30cmの蟻と蜂を作り出して、常時3cmにしているらしい。

 いざという時は30cmのサイズに戻り、最悪の場合は3mにまで巨大化する蟻と蜂……


 もはや、魔物どころの騒ぎではない。

 貴重な素材らしくそんなに数は用意できないと言われたけど、蟻と蜂それぞれ2匹ずついたら十分かな?


 加えてダニーの眷族も100匹ほど用意しておいたと。

 戦闘力は高くないが、小さな虫相手なら無双できるほどには強いらしい。

 ようは他の病原菌を運んでくるようなダニやノミ、蚊なんかを完全シャットアウトしてくれるらしい。


「多少の肉親の情は湧くが、マルコ程テトラの事を溺愛は出来んな……ただ、まあ子供は嫌いじゃないし」


 なんてことを言っていた。

 確かに僕の情熱に同意してくれるほどの愛情は感じなかったが、子供好きの部分はしっかりと反映された布陣に満足。

 ヒーリングバタフライも、1匹ほど傍にいるらしいし。

 傍といっても半径50m以内くらいで、怪しまれない範囲でと。


 まあ、冬に蝶が周りを飛んでたら、不気味かもしれない。


「行ってしまわれましたね」

「うん、そうだね。じゃあ、ごゆっくり」

「えっ?」


 セリシオ達を見送ったので、ディーンとも別れて屋敷に戻ろうかと思ったら腕を掴まれた。

 

「これからですよね?」

「何が?」

「ほらっ、親友同士ようやく仲を深める時間が来ましたよ」


 えっ?

 言ってる意味が分かるけど、分からない。

 いい加減接待というか、子守で僕も疲れてるんだけど?

 

 フレイ殿下の束縛から逃れたセリシオは時間と共に、自分の為に観光を楽しむようになってからが大変だった。

 オセロ村にも連れて行かせられたし。

 そこでもあっちにフラフラ、こっちにフラフラ。

 

 まあ、オセロ村の産業は冬でも行えるものが多いから、分からないでも無いけど。


 普通の農村だったら、家に籠って室内でしかできない手作業をやってる時期だからね。

 そんな時に農村に行ったところで、閑散とした通りを眺めるくらいしか出来ないけど。


 オセロ村は火を落としてない工房も沢山あるし、熱気の籠った工房に居るだけで冬の寒さなんて吹き飛ぶくらいだ。

 今回も、お母さまである王妃様にお土産を手作りしたかったらしい。


「まあ、今年もベルモントに行くの? 今年は何を作って来てくれるのかしら?」


 なんて期待の籠った視線で見送られて、手ぶらやお店で買ったものをお土産には出来ないとすがりつかれた。

 フレイ殿下に振り回されて、とてもそんな事を言い出せる雰囲気じゃ無かったから本当に助かったと感謝しつつも自分の都合を押し付けてくれるセリシオに、そういえば、こいつはこんな奴だったと改めて思い起こす。

 が、時すでにお寿司だ。


 手作りのガラスのコップや、宝石が本当に嬉しかったらしい。

 そもそも、王族に工房で何かを手作りさせるような不敬な配下は僕以外居ないと。

 でもそんな不敬の行いの結果、今まで送ってきたどの贈り物よりもお母様は喜んでくれたと無邪気な瞳で言われた、無下には出来ない。


 その横でクリスまでもキラキラとした瞳を向けているのだから。


 彼のところは男系一族で、女性の立場が弱い家らしい。

 女性は常に一歩下がってという感じなので、家の男どもからあまり物を贈られないと。


 そういえば、この世界には母の日なんてのも無いし。

 精々が誕生日に、何か貰える程度。

 

 クリスの家では、ぶっきらぼうに花を渡されたり。

 子供達からも、おめでとうの言葉くらいと。


 それはいけませんよ。

 と言いたいところだけど、この世界の貴族の家だと女性の扱いなんて子供を産む道具みたいに思われているところも少なくは無い。


 なんせ母親が家事をする貴族なんて、本当に下級の貴族の中でも貧乏なところくらいだ。

 大体は家人の人がやってくれる。


 女性の地位の向上が、難しいところもある。 


 そんなクリスが、ここに来ると手土産を持って帰る。

 それも手作りだ。

 

 それを貰った時の母親の笑顔がとても眩しかったらしい。

 お母様が喜んだだけなのに、何故俺まで嬉しくなるのだろうか?

 とディーンに不思議そうに漏らしていたらしい。


 ディーンが教えてくれた。


 うんうん、それはクリスが家の雰囲気に染まってるだけで、お母様が大好きだからじゃないかな?

 とは本人には言えないけど。


 たぶん、そういうことだと思う。


 母親の実家の方が爵位が上だと、家庭の立場が逆転することも多いから家によって違うけど。

 クリスの家は侯爵家だから、その上といったら公爵家……王族に名を連ねる者しかいない。


 しかもクリスの母親は、伯爵家から嫁いできているから家での身分はそんなに高くないらしい。


 ケイも家では母親のことを見下しているらしい。

 うんうん……取り敢えず僕の中のケイの評価を1000段階下げておいた。


 それにしても、セリシオもクリスもお母さんの喜ぶ顔が見たいなんて。

 子供らしくて、可愛いじゃないか。

 僕もお母様の喜ぶ顔は好きだし。

 

 特にクリスなんかは意外だったな。

 そんな理由で、僕の産まれたベルモントへの訪問を楽しみにしてくれてたなんて。

 僕の中のクリスの評価を100段階ほど上げておく。


 そして何が良いかなと考えつつも、馬車を出す僕はお人好しだと思う。

 

 手作りで風化しないもの。

 でもって、女性が喜びそうなもの。

 

 そう言えば、クリスは銀細工は上手だったかも。

 セリシオは……まあ、頑張れば。


 ディーンは天才的だったけど、彼は女性に対してもマメらしい。

 それは母親や姉に対してもと……

 ディーンはお姉さんも居るのか。


 仕方がないので、オセロ村の親方衆に相談……するのは悪手だな。

 彼等は貴族である僕の相手をするために多少の教育は受け直させられてはいるが、性根はてやんでぃな性格の持ち主ばかりだ。


 かかあ天下のところも少なくないが……むしろ多いが、それでも何かの節目に花を持って帰るようなロマンチックな奴等は居ない。

 結婚する前には、多少のそういった演出をしていたかもしれないが。

 照れて、その時の事は語ろうとしない。


 だったらと、彼等の奥様方を招集。


「うちの白豚をお坊ちゃんの前に出すなんて、恥ずかしくてとても」

「分かりました、奥様にはそう伝えておきますね、バッフォンさん」

「違います! あの……その……そうだ! 豚のように滑らかで、白く美しい肌の持ち主という意味ですよ、お坊ちゃん」

「なるほど、だったら是非」

「勘弁してください!」


 物凄く男気溢れるバッフォン工房の親方でも、奥様が怖いらしい。

 やはり普通の家庭は、女性が立場が上の家が多いのかも。

 まあ、職人に料理や家を綺麗に保つことなんて無理だろうし。

 主に家の事は、奥様方が頑張っているだろうし。


 最初から見栄なんか張らずに、多少は惚気てくれる方が僕としては好感が持てるんだけどね。

 

 そして集めた彼女たちに、殿下とクリスがお母様に喜ばれるような贈り物をしたいと伝えた。

 最初はお貴族様がお気に召すようなものなんてと不安そうにしていたが、この村とは呼べない規模の街の産業の取引相手にお貴族様も多くいらっしゃって、概ね高評価だと伝えたら驚いていた。


 それから彼女たちの意見を参考に、今年もやっぱりガラス細工になった。

 といってもそんなに簡単に出来るものでもないので、色々と考えた結果とんぼ玉を作ってネックレスにすることに。


 ガラス棒を用意して貰って、それを溶かして棒にはりつけてくるくる回して丸くして切り取るだけ。

 棒のところが穴になるので、そこに紐を通せば完成だ。

 ガラスから棒を切り離すのは、引っ張れば簡単に切れる。

 それを1時間ほど掛けて冷ませば良いだけだけど。

 

 色々な色のガラス棒を好きなように組み合わせて作ってもらう。

 切り離した後は、ゆっくりとクルクル、クルクル……

 無言で作業しているが、絵面が恐ろしく地味だ。

 それだけ、セリシオもクリスも真剣なんだろう。


 子供らしくて、良いと思うけど。


 途中で2色のガラス棒を使って、マーブル模様っぽいのに挑戦してみたり。

 変な混ざり方をして若干汚く見えたけど、しっかりと冷まして透明感が出てくると意外と綺麗だったり。


 思い思いのとんぼ玉を作ったところで、棒を立てて冷めるまでゆっくりとお茶会。

 セリシオとクリスが汗をぬぐいつつも、やり切った感じの清々しい表情を浮かべている。


 とまあ、色々とあって出来上がったネックレスを大事に梱包して持って帰るのだ。

 

 何故かユリアさんもこっちに来ていたが、彼女は自分用と母親用の2つに挑戦していた。

 フレイ殿下の方は良いのかなと思ったら、フレイ殿下の方からこっちに来ていいと言われたらしい。

 おばあさまの説教のお陰だとか。

 

 ケイは固辞していたらしい。

 彼はフレイ殿下の護衛も兼ねているので、離れる訳にはいかないと。

 別に良いけど。


 彼は母親の笑顔に思うところは無かったのだろうか?

 さらに1000段階、僕の中のケイの評価を下げておく。

 でも、その後で色々と考えた結果、傍仕えとしての彼の忠義に免じて10段階ほどあげておく。


 だからこそ、帰るときのセリシオとクリスがとても良い笑顔だったので、僕も救われた。

 王族がベルモント領にまできて、揃って暗い顔だと明らかに悪い噂も立ちそうだし。

 

 と、王族滞在のことを思い返しつつ、横を見て溜息。


 色々と期待した視線を送って来るディーンに、どうしたものかと。

 取りあえず今日1日だけだから、彼にも楽しんでもらおう。

  

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