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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第174話:ヨドの森のおっきな岩

「これが、バジリスクねえ……」

「あまり、刺激されると何が起こるか分かりませんよ?」


 夜になって、野営の陣地内も大分落ち着いて来た。

 見張りの兵を残して、大半の兵が寝静まっている。


 今ならと思って、野営地に忍び込んだ訳だが。

 別に警備が穴だらけという訳ではない。

 中に直接転移でくる相手には、外の見張りなんてなんの役にも立たないってことだ。


 で、蜥蜴の岩の周りは狼達が取り囲んでいるため、人は誰も居ない。

 何かあった時に夜目が聞かない人は足手纏いになるということで、狼達が人払いをしている。

 いや、それも狼基準で比べられたらたまったものじゃないって話なのだが。


 これ幸いとばかりに岩を色々と調べているのだが。

 取りあえずコンコンと手の甲で叩いてみたが、音がするだけで何の反応も返ってこない。

 せめて、心臓が脈打つ振動のようなものくらいしてくれたら、ワクワクもするのだが。


 これじゃあ、観光名所にあるちょっと変わった形の変な岩だ。


「よっと」

「主!」

 

 取りあえず、管理者の空間を経由した転移で岩の上に飛び乗る。

 タブレットに景色を映した状態にしておけば、その範囲内であればほぼタイムラグなしで転移が出来るようになっている。

 まあ、5年以上使っている能力だし。

 転移だけでいえば、ベテランだな。


 不用心に岩の上に飛び乗ったことで、シャインが慌てているが。

 心配そうにこっちを見上げてウロウロしている彼をしり目に岩の頭の部分をコンコンと叩いたり、首から腰の当たりまでの湾曲した部分を滑り台のように滑ったりもしてみたが全く反応が無い。


「本当に……岩だな」

「今はです! いつ動き出すやら」

「地震が起きるタイミングで、何かこの岩に異変とかはないのか?」


 尻尾の部分から地面に飛び降りると、左手で吸収できるかどうか試してみる。

 これが巨大な魔物ならば、地力だけでみればきっと向こうの方……が……


「あっ」

「あっ」

「あっ」

「あっ」


 目の前の岩の塊が俺の左手にきゅるんという音と共に吸収されたことで、思わず変な声が出た。

 それは横のシャインからもだ。

 そして影に潜んで、密かに護衛をしていたシャドーからも。


 さらにちょっと離れたところからも、声が。

 慌ててそっちを振り返ると、ジャッカスが額を押さえている。


「なんでだ?」

「それは、主の方がこのバジリスクよりも強かったということでは?」


 それは無い……と思うが。

 取りあえず、管理者の空間に戻った方がよさそうだが。

 ただ、この状況を明日、誰がどうやって説明するかが問題だ。


 出来れば召喚して、元の状態に戻した方が良いのだろうが。

 それよりも、あっちはいまどうなっているのだろう。

 いきなり巨大な岩を送り込んだから、驚いてるかな?


 でも時間も時間だし、起きているのは一部の虫だけだろうし。


「もしかして、このバジリスクは封印されていた? 身体の自由を奪われた状態で」

「なるほど……無抵抗の岩の塊だったならば、いまの主なら砕けるということでしょうか?」


 どうだろう?

 ベルモントでこの身体もだいぶ鍛えられている。

 加えて一級品の武器も持っている。

 必要とあらば、巨大なハンマーを召喚することも。

 

 空中でハンマーを召喚して、一緒に落下すれば……砕けそうだな。


 仮に空間内で一番重たい岩を召喚したとして、それは俺の攻撃手段にカウントされるのだろうか?

 それとも、その岩の上に立った方が良いのかな?


 自分より弱い相手の定義が、ふわっとしすぎていて分からない。


 両手をもいだ人間なら、相当に相手と実力差があっても吸収できることは実験済みだ。


 拘束した状態だけだと、吸収は出来なかったけど。

 

 と考えると、やっぱりカギは石化していたという部分だろうな。

 考えても分からない。


 きっと、この定義はあやふやなもので、その判断基準は善神様が定めた?

 いや、もしかすると邪神様による、綿密な計算の上で算出しているのかもしれない。

 色々な状況や、俺の持てる手段なんかを考慮したうえでの判断……


 戦って勝てるか否かだけだと……身体を封じただけのマーカス兄弟(第一章でマルコを誘拐した、現在は配下のジョシュアの実家のマックィーン家の騎士)を吸収できなかった理由が分からない。


 考えても仕方ない。

 取りあえず、管理者の空間に戻ろうか……


 空間に戻ると同時に、たくさんの蜥蜴に囲まれる。

 えっ?


「パパ?」

「パパ?」

「ごはん?」

「たべもの?」

「いや、パパだよ!」

「パパなの?」

「ごはんじゃないの?」


 キュイキュイ言っている鳴き声の意味がなんとなく、伝わってくる。

 うんうん……

 これだけは言っておこう。


「ごめんな、パパでは……無いかな?」

「なんだ」

「じゃあ、ごはん?」

「食べて良いの?」

「静かになさい……」


 俺を取り囲んで口を開けて次から次へと、俺に齧り付こうとする子蜥蜴の鼻先を手で押し返す。

 これあれに似てるな。

 あのガブガブ言う、ワニをハンマーでたたきまくるゲーム。

 途中でもー怒ったぞーとか言い出して、動きが激しくなる。

 噛むとガブッと口でいう、あれ。


 そんな事を考えていたら。

 弱々しい女性のような声を響かせる、少し低い鳴き声が聞こえる。


 ふと見ると、あーあ……

 これは、明日トトが大変だな。

 

 床中、粉まみれというか……石の破片やら粉やらが、積み上がっている。


 そしてそこに寝そべって、弱々しく息を吐く大きな蜥蜴が。

 というか、イグアナ?

 いや、蜥蜴か?

 棘のようなものが頭頂部から首筋、背中のほうまで広がって生えている。


 あれだな、アルマジロトカゲみたいだ。

 正直カッコいい。

 大きさは……岩の頃よりだいぶしぼんだが、それでも全長で3mくらいはありそうだ。


「驚かせてしまいまして申し訳ありません」


 起き上がるのも難しいのか、かなり消耗した様子で頭だけをどうにかあげて挨拶をしてくる蜥蜴になんとも言えない気持ちになる。

 さっきまで、これが目覚めたら災厄がーなんて、大騒ぎしていただけに。

 こう、礼儀正しいと、なんだろう。

 やっぱり、先入観てのは当てにならないな。


「いや、まあ……うん」

「出来ればこの子達と共に貴方様に仕えたいのですが、生憎と私の寿命はそれほど残されておりません」

「ん? いや、ここだと歳取らないから、寿命とか無いけど?」

「……はっ?」

「いや、まあ……生物に関しては、時間経過が止まるというか……その効果を解除する水を飲まない限りは、身体的な変化は無いというか……」

「……えっ?」


 えっ? と言われても、これ以上説明のしようがないというか。


「あの、ここは?」

「ここは……俺の家? というか、世界が滅びた時の為のシェルター?」

「世界が滅びる? シェルター?」


 ますます、疑問符をめいっぱい浮かべた表情になってしまった。

 説明が難しい。


「まあ良い、取りあえずなんで貴女は石化してたんだ?」

「えっと、身籠ったからですね。私達ギガントバジリスクは子供達の出産まで長い時間が必要となるのですが……卵を体内で育てるので、身籠ると激しく動けなくなるんですよ」

「なるほど……長い時間っていっても、そんな何年もってわけじゃ無いだろう?」

「私達の寿命は大体800年から1000年ほどなのですが、卵から孵化するまでに150年ほどかかりますね」

「長くね?」

「長いです」


 話を聞くとギガントバジリスクというのは、バジリスクの大型種らしくその寿命は恐ろしく長い。

 そして、知性も高くエルフと行動を共にすることも多かったらしい。

 エルフ居たんだ……


 まだあって無いけど。

 こんど、探してみよう。


 で、彼女たちは卵を宿すと、30年ほどで眠りにつくらしい。

 ただ、眠っていると外敵に襲われるため、石化して眠りにつくと。

 ただ、石化すると自分達も食事をとれないので、そのまえに出来る限り食料を腹にため込むらしい。


 なるほど。

 それが120年前か。

 そのころに、こいつは大暴れしてたんだろうな。


 伝承よりは期間が浅いが、まあ所詮は口伝でのうわさ話だ。

 多少は誇張されるのは仕方ないし……もしかしたら、その前に大暴れしてたりもしたかもしれないし。


 で卵と身体は魔力と管で繋がっていて、母体の栄養がそこに流れ込むと。

 だから、出産前後は著しく体力を消耗していて、石化が解けたあとは動く事もできず、やがて死んでしまうとか。

 うわぁ、命がけの出産とか。


 産まれたばかりの子蜥蜴たちは、体長30cmほどでいきなり飢餓状態で食欲旺盛なため、手当たり次第に周りの物に食らいつくと。

 大体は石化が解けて出産前に息絶えた母親の体がその食料になるはずが、この空間内で出産したため死ぬこともなく、また子供達も親と認識していしまったため襲い掛かって来ることは無いと。

 でもって、目の前に居た俺を父親か餌かと思っていると。


 うーん……

 だったら、俺よりもこの母親のバジリスクの方が弱いと判断されたのも納得。

 納得は良いけど、また余計な配下が増えた。


 狼の次は、バジリスクか。

 着実に、我が軍は強化されていってるが。

 使う場面が無い。


 これ……国盗りとか、簡単に出来そうだな。

 いやしないけど。


「何事ですか?」

「トラブルですか?」


 そこに土蜘蛛と大顎が顔を覗かす。


「「「シャー!」」」


 一斉に子蜥蜴たちが、威嚇する。

 小さい子蜥蜴が、全く同じ仕草で口を開けて吠える姿に、思わずほっこり。

 可愛い……かもしれない。


「ひっ」


 そして、母バジリスクが怯える。

 身体を起こそうとするが、腕に力が入らないらしい。


「大丈夫、俺の家のもんだ」

「えっ? あの巨大な蜘蛛と百足がですか?」

「ああ、2人とも色々と家の雑用をお願いしている」

「家の雑用?」


 何を言ってるのだという視線を向けてくるバジリスクを手で制して、土蜘蛛に声を掛ける。


「ああ、こいつらも新しく仲間に加わったけど、取りあえず栄養のある食べ物を作ってくれないか?」

「食べ物ですか?」

「ああ、どっちも飢え死に直前……だけど、ここにいる限りは大丈夫だが、お腹は減っているだろうし」

「分かりました」


 俺の言葉に、すぐに土蜘蛛がその場から立ち去る。


「大顎、すまんが簡単に掃除してもらっていいか? 明日トトにしっかりやらせるから」

「いえ、眷族を呼んで手伝わせましょう」


 大顎に掃除を頼むと、中サイズの百足を集めて手際よく掃除を始める。

 身体を使って、石や砂を外に掃き出す百足と、足に小さな手袋を嵌めて一生懸命磨く百足たち。

 うんうん……すげーな。

 丸型自動掃除機もびっくりの、機動性能だ。


「ひいっ、あんなに大きな百足たちが!」

「ママ! 怖いよー」

「ひっ、食べられちゃう!」

「わー!」


 バジリスクが悲鳴をあげると、子供達も数を増やした百足を前に慌てて母親の影に隠れている。

 うんうん……


 大丈夫かな?


 ハグハグ


「おいしい!」

「これもおいしいよ!」

「わあ、すごいおおきなおにく!」

「落ち着いて食べないと、喉に引っ掛けますよ」


 取りあえず部屋は綺麗になって、子蜥蜴たちも美味しい料理にありつけて満足そうだ。

 母蜥蜴も、一緒に食べて貰ったが大分顔色が良くなったように思える。

 最初から最後まで、土気色だが。

  

 そんな一段の様子を頬杖をついて、笑顔で眺めつつ……

 どうしよう……

 

 取りあえず、夜が明けるまでになんとかしないと。

 


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