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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第166話:ミスリルさんと俺

「きさまっ! くらえ!」

「おいっ! 子供相手に本気過ぎるだろ!」


 目の前でミスリルさんが、鞘に納めたままの剣を振るっている。

 当たったら、かなり痛そう。


 だから避ける。


「避けるな! くっ! 誰だ!」

「誰だじゃないね! 何してるねカイン」


 いつの間にか部屋に入って来たトクマさんに箒で頭を叩かれていた。

 やーい、ざまーみろ。


「トクマ! いや、あいつが私のおやつをだな」

「おやつ?」

「うん、美味しそうなお菓子だったからつい!」

「だったら、仕方ないね」

「おいっ! ていうか、このガキ手癖悪すぎるだろう!」


 一生懸命書類作業をしているミスリルさんの部屋にこっそりと忍び込んだら、机の書類の横に美味しそうなクッキーの置かれた皿があったのでちょっとずつつまみ食いしてた。


 そしたら一息ついてその皿に手を伸ばした、ミスリルさんにばれちゃって。

 空の皿に手を伸ばして、指をワキワキさせながら首を傾げたミスリルさんを見たらついね……


「プッ」


 って感じで吹き出しちゃって……見つかっちゃった。

 テヘッ!


「今日という今日だけは許さん!」

「いつもそれ言ってるよね? お詫びに良い事教えてあげるよ! 3枚目の稟議書さ、数字がおかしかったよ?」

「なにっ?」

「微妙に数字が水増しされてるんじゃないかな? 3時間の作業で人員1人あたり大銀貨18枚って取り過ぎでしょ? それだったら、自前で用意した方が良くない? 技術者ってそんなに給与良いの?」

「ふむ……本当だ。銀貨18枚と思ってたが、よく見たら小さく大って書いてある」

「他にも数枚そういったのが紛れていたよ? 同じ業者から」

「あーーーーー……何故その場で言わん! 殆ど終わってしまってるではないか! また、全部見直しではないか」

「疲れてるんだね」


 いつもならそんなポカをしないのだが、今日のミスリルさんはどこかお疲れの様子。

 何かあったのか?


「最近昼夜を問わずに冒険者が来るからな、うるさくてかなわんのだ」

「ああ、寝不足で集中力が切れてる感じだね。そんな貴方にピッタリの一品」

「また、怪しげな色の液体を……」


 失礼な。

 土蜘蛛と白蟻の合作、色々と誤魔化しつつ体力全開になるポーションだぞ!

 効果は抜群!

 副作用は……回復した体力を使い切るまで休めないってところかな?


 いわゆる、ここ一番で飲むやつだ。


「大丈夫だから、大丈夫だから」

「お前の大丈夫は信用ならん」

「じゃあ、僕が先に飲むよ!」


 そして飲んだふりをしつつ左手で吸収。


「うっ……うぐっ」

「おいっ、大丈夫か!」


 喉を押さえて苦しんだふりをしたら、慌ててミスリルさんが飛んできた。

 そして足を掴まれる。


「吐け! 早く吐くんだ!」


 そのまま逆さづりにされて、上下に揺さぶられる。

 うん、違う物を吐き出しそうだ。


 そうじゃない。

 早くネタ晴らししないと、縦揺れが徐々に激しくなっていってる。


「だ……大丈夫だから! 普通に美味いから!」

「えっ?」


 俺の言葉に固まるミスリルさん。

 いてー!


 そのまま手を放されて、床に頭をぶつける。

 咄嗟に手を出したけど、それでもゴツンと痛そうな音がする。

 というか、痛い。

 涙が出そうだ。

 というか、出てる。


「カイン!」

「いや、いまのはこいつが!」

「そんな乱暴なやり方はないね! もっと優しくしてたら、こんなことにはならなかったね!」

「うっ、すまん。大丈夫か?」


 ミスリルさんが手を差し出してきたので、素直にその手を掴んで……一気に引き寄せて跳び上がる。

 そのまま背中に回って肩に飛び乗ると、三角締めのようにミスリルさんの首を足で固めて右手で頭を掴んで引き上げる。


「取りあえず、飲んでみ」

「ぐっ! きさまっ!」


 そしてそのまま口に、特性栄養ドリンク(ポーション)を突っ込む。


「グハッ!」

「吐き出しちゃ駄目!」

 

 後ろに体重を掛けて顎に引っ掛けたふくらはぎで、強引に上を向かせる。


「ゴクッ……」


 しっかりと飲んだみたいなので、そのまま足を解いて一回転しながら地面に着地。


「大丈夫ね、あの薬?」

「大丈夫! 効果自体は本物だし、保証もするよ」


 上を向いて飲み込んだ姿勢のまま固まったミスリルさんを見て、トクマさんが不安そう。

 なのでばっちりサムズアップして、笑顔を差し向ける。


 というか、薬自体はマジだから。

 最近のミスリルさん働き過ぎだし。


 全身鎧着てても分かる倦怠感ってどうなの?

 てか、鎧を脱げば良いのに。

 いくら鉄より軽いっつっても、金属の塊着て書類作業は無いだろう。

 そのミスリルの小手と合わせたら、その羽ペンは何kgになるんだ?

 鍛えてるの?

 常に鍛えてるの?


「確かに美味いな」

「でしょ?」


 突如動きを取り戻したミスリルさんが、ほうっと溜息を吐いている。

 落ち着いたら、割と行けたらしい。

 そっと瓶ごと差し出す。


 一瞬躊躇したが、遠慮がちに受け取るとグイッと飲み干す。

 おお、いける口ですな。 


「あとこれ、うちの従者が作った体力回復の効果のあるクッキーね」

「おお!」


 ミスリルさんから強奪した砂糖たっぷりのクッキーの代わりに、土蜘蛛お手製のおからクッキーを差し出す。

 おからの他にレモンと蜂蜜も入っている。

 食物繊維とビタミンCも豊富だし、きっと疲れも取れるだろう。


「美味いな」


 それを躊躇することなく食べるミスリルさん。

 どうやら、甘味が意外とお好きらしい。


「トクマもどうぞ」

「ありがとうね!」


 横で成り行きを見守っていた、トクマにもクッキーとドリンクを差し出す。


「お客様ですか? お客様ですね? マサキさんですね」


 トクマにクッキーを手渡すと同時に、勝手にドアが開く。

 現れたのはミレイさん。

 いつも俺がここに来ると世話をやいてくれる、サキュバスのメイドさんだ。


「おまっ! いちおうここのトップの部屋なのだが?」


 クッキーを夢中で食べていたミスリルさんが焦った様子で、ミレイさんに声を掛けている。

 普通にノックもせずに入って来たミレイさんは、俺の目の前まで来ると満面の笑みだ。


「また来たんですね。本当に凄い子ですね、地上の冒険者達が命と引き換えにしても、たどり着けない場所なのに」

「うん、トクマさんの家でもあるし、感覚的には友達の家に普通に来た感じかな?」

「へえ、トクマ様とは仲が宜しいのですね」

「勿論! それに、黒騎士さんとミレイさんも好きだよ!」


 子供らしく振る舞ってみせる。

 ミレイさんへのポイント稼ぎ。

 一応、俺の中で俺の嫁候補だからな。


 どっちかっていうとショタ気質で、俺のことを気に入ってるみたいだが。

 だったらいまは、その武器を全力で使うまでさ。


「俺を無視するな!」

「はいはい、これ食べてて」

「ムグッ!」


 ミレイさんに夢中になってたら、ミスリルさんが妬いたみたいだ。

 ふふ、なんだかんだで俺の事気に入ってるんだな。

 だから、手ずからクッキーを口に突っ込んでやる。


 一瞬凄い形相で睨み付けて来たが、すぐにモグモグと口を動かす。

 食べ物は無駄にしない魔族らしい行動だ。

 立派だ。


 はてさて、折角だからミレイさんにもおすそ分けしよう。


「ミレイさんもどうぞ」

「私にもくれるのですか? はいっ」


 ……ん?


 ミレイさんにクッキーを差し出したら、両手を背中に回して口を半開きにしている。

 ……これって。

 あーんって、してほしいってこと?


 して欲しいってことだよな?


 なにこの子、可愛い。


「あーん」


 状況が掴めず固まってたら、催促された。


「はい、どうぞ!」

「うーん、美味しい!」


 口に優しく押し込んであげると、満面の笑みで噛みしめている。

 やばい、物凄くほっこりする。

 やだ、この子本気でうちに欲しい。


 ……なんだ、なんか複眼で背後から睨まれているような。

 ジョウオウか?

 ジョウオウだろう。

 ジョウオウなら、まあ良いか。


「マサキちゃん、私もね」


 トクマさん、それは悪乗りっていうのんだよ?

 いや、あげるけどさ。


 むさいおっさんじゃなくて、爽やかなイケメンだからそこまで嫌悪感は無いし。

 いや、見た目的に前世の俺よりもミスリルもトクマも年下だしね。


 実年齢は3桁だけど。

 それも後半。


「うーん、これは格別ね」

「そうかな? えへへ」


 一応子供っぽく照れてみたが、無邪気な笑みで喜んでいるトクマを見ると流石に少しくるものがある。

 いや、悪い意味で。


 もしかして……と思わなくもないが。

 自分の見た目を鑑みるに、完全に子供扱いされているだけだというのは分かる。

 

 そもそも、こいつら基本的にお人好しで子供好きという、良い人の条件を満たしているからな。

 下心など無いはずだ。


 流石にミスリルさんは、自分の手で摘まんで食べているが。

 そうだ、小手を付けた状態でクッキーに手を伸ばすミスリルさんを見て思い出した。


「あのさ、おやつ食べる時くらいそれ取ったら?」

「黒騎士たるもの、いかなる時も「黒く塗ってるだけだし。ミスリルだし」


 前に折角色を抜いたのに、また塗り直したらしいミスリルの小手が虚しく黒光りしている。

 

「そう思うなら、いい加減に返してくれないか?」

「ええ? ダンジョンで手に入れた物は基本、見つけた人の物なんだよ?」

「見つけたというか、おいてあるのを盗ったんだろうが! しかも、それはお前達人間が勝手に決めたルールじゃないか!」

「えへへ」

「褒めてない!」


 頭を掻きながら横を向いてはにかんだら、怒られた。

 冗談の通じない奴め。


「正直に言うね。こんな小さい子が、盗みなんて安っぽい悪事に手を染めるなんて心配だって。今のうちに更生出来るなら、どうにかしないと将来が心配ねって言ってたね」

「なっ、トクマ!」

「いつか失敗して、酷い目に合うんじゃないかって心配してたじゃないですか?」

「おい、ミレイ!」


 ふーん、へー、ほー……

 大丈夫かこの人?


 いや、心配してくれている人にこの感想はどうなのかと思わなくもないが。

 普通に考えて、そんな事を考えるって本当にお人好しだな。


 というか……魔国の幹部ってお人好しばかり……じゃないか。


 四天王の中にも、怪しそうな輩は居たし。

 ただ、魔王と牛とバルログとミスリルとトクマとミレイはお人好し。

 これは、確実だな。


 どうやったら魔王が世界を亡ぼすように動き出すのだろうか。

 カギはノーフェイスだろうな。


 他にもなんらかの要因があるとは思うが。


「ゴホン、あー……お前くらい器用なら、人の物を盗らなくても生きていけるだろう」


 彼等のやり取りを見て真剣に邪神様と善神様の言葉について考えていたら、何を勘違いしたのかミスリルさんが大真面目に説教を始めそうな雰囲気になった。

 うん……そういう空気じゃ無かったんだけど。


「あ、ごめん……純粋に黒騎士さんから黒い鎧取ったらなんになるか気になっただけだから。別にそれを売って生活費の足しになんて考えてないし」

「……きさっ「でも! まあ、僕の事を心配してくれて嬉しいよ。ありがとう……あとごめんね」

「っ……まあ、分かって貰えたなら良い」


 素直に感謝と謝罪を告げると頭をポリポリと……いや、ガシャガシャカチカチと音を立てて照れ臭そうに掻くミスリルさん。

 ヘルム越しに頭を掻いても、意味ないだろう。


「それで、鎧は返してくれるんだろうな?」

「……」

「おいっ!」


 それとこれは、話が別というか。

 鎧は鎧で合成素材にすると、どうなるか気になるというか。

 だからいま、一生懸命レプリカを作っているところだったり。

 あはは。


 もう少し貸しておいて欲しいかな?


「あー……でも鎧は、欲しいんだよね。使い道を考えてるところだし」

「きさっ!」


 正直に思いを伝えたら、心底呆れられた。


「あれは、人間が使いこなせるような物じゃない! 災厄を呼ぶ鎧だぞ!」

「大丈夫、僕こうみえて邪神様の加護も貰ってるし」

「駄目だ……何を言ってるか分からん。人が邪神様の加護とか」

「本当ね! マサキちゃんの闇属性の適正はどう考えても神級ね!」

「マサキちゃんと手を繋ぐと、心が洗われるというか……まるで、神がそこにいらっしゃるような感じなのですよ!」


 否定に入ってミスリルさんに、トクマとミレイさんが全力でアピールしている。

 まあ、嘘は吐いてないしね。


「取りあえず元気になったみたいだけど、僕も手伝うから仕事をさっさと終わらせて今日は休んだら?」

「ちっ……可愛げの無い態度で、可愛いこと言いやがって」


 ミスリルさんがデレた。

 俺が手伝うと言ったら、嬉しそうに……

 でも、魔国の機密も含まれてそうな書類作業を、人の俺に手伝わせても良いのか?


「まあ、バルログからも聞いたが、なにやら農業参謀役とかってのに就任したらしいし……こんなガキがなんの冗談かと思ったがさっきの事もあるし、お手並み拝見といこうか」


 どうやらバルログさんから、俺が魔王様を手伝っていることが漏れたらしい。

 どうりで態度が軟化し始めてるわけか。

 というか、余計な事を。


 まあ、今のところ出会った関係のある魔族に嫌いな人はいないし。

 手伝うのも吝かじゃないし、なによりミスリル働き過ぎだろうというのは本音だからな。


「終わったら、トクマさんとミレイさんと4人でお出かけしようよ!」

「あー……終わったらな」

「だったら、私も掃除頑張るね」

「お前のそれは、趣味だろう」

「私は、マサキちゃんが手伝う姿を見守りますわ」

「いや、仕事しろ!」

「口じゃ無くて、手を動かして」

「きさっ!」


 今日もミスリルさんは、大変そうです。

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