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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第165話:魔王相談室

「でさ、ノーフェイスっていうのが結局は諸悪の根源だったわけだけど、何か知らない?」

「分からんな……分からんが、いつの時代も何かしらの変革が行われた時は、扇動者が現れるからのう。いや、扇動者が現れる事で世に変革をもたらすと言った方が正しいかもしれんが」

「あっ、このお茶美味い」

「お主……まあ、良い。それも、お主が届けてくれた茶の木で取れた茶葉だからのう」


 マルコが寝たあとで身体を借りて、久しぶりに魔王カイザーのところに来ている。

 部屋で魔王様が淹れたお茶を頂きながら、ノーフェイスについて相談。

 数百年生きる魔王も、心当たりは無さそうだ。


「ただ、何故その者が人を動かして、反乱や戦争を仕掛けるようになったかを考えると、その背後に何かしらの存在がおってもおかしくない……そう思えるような事件は、無い事も無いか」


 記憶だけじゃなくこの世界の歴史を記した書物や、絵画を見ながら魔王が応えてくれる。

 なんだかんだで、真面目だ。

 それに、親身になって一緒に考えてくれる辺りは好感が持てる。


 魔王様は、今日もお人好しだ。


「それにしても、子供ってのはなんであんなに無駄なものを買うのかな?」

「ふむ、それはわしからアドバイスできるような事じゃ無いが、大人の見えるものと子供のみえるものは違うからのう。大人からして無駄な物も子供からすれば大事な物だったりするし、子供からすれば大人も理解出来ない部分は多いんじゃないか?」


 まあ、言われるまでも無く心当たりはあるが。

 これはただの愚痴だしそんな事は分かっているから、真面目に返して貰って申し訳が無い。

 真面目だ。

 そして、優しい。


「大人は経験で語る事は多いが、未経験の子供からすればそれを理解しろというのが難しい。なにせ、子供というのは自分で試したがるものじゃからのう? 経験無いか? 大人の言われたことにそんなのやってみないと分からないと反発して、無駄に頑張ってみたりしたことは?」

「あるよ」

「じゃが、そんなものはとっくに先人達がやってみて、出来なかったことばかりじゃからのう」

「そうだね」


 ごもっとも過ぎて、何とも言えない。

 いつの間にやら、子供の教育論にまで話が及んでいった。


 それにしても、この魔王人格者っぽいな。

 なんか何を相談しても、きちんとした答えを返してくれそうな気がしてきた。


 それもそうか。

 最近じゃとっつきにくさが大分無くなって、多くの魔族も魔王に相談に来ているらしいし。

 

 こうやって目に見えて頼られる事が無かったからか、魔王も張り切って本などで勉強して色々な知識を増やしていってるし。


 今度手作りの表札を用意しよう。

 そこには『魔王相談室』と彫って、勝手に扉の前に掲げておこう。


 それから魔国での農業について、新しい方向性について話し合っていたら誰かが部屋をノックする。


「誰じゃ?」

「バルログです」


 バルログさんが来たらしい。

 魔眼持ちの、魔王の側近の魔族。

 割とイケメンの努力家。


「うむ、入れ」


 もう俺の事は魔国でもそれなりに認知されてきたからか、魔王も気にせずに部屋に通す。


「失礼します魔王様。西区の自治組合からの要望書で、ちょっと判断に困る部分があったので相談したいのです……が?」


 何やら難しい顔をしながら手にした羊皮紙を見つめつつ部屋に入って来たバルログが、魔王に深く頭を下げる。

 そして、相談内容を説明しながら顔をあげて固まる。


「また、来てたのかお前?」

「来てちゃ悪いのか? これでも魔国の農業参謀役だぞ?」


 聞きかじった現代知識とお取り寄せの地球産の農業の本の知識を使った、カンニングしかしてない参謀役だけど。

 しかも、自称。


「ほう……農業参謀役に就任したのか? だったら、この国に移住するか?」

「なんだ住んで欲しいのか? 意外と、俺の事受け入れてくれてるんだな」

「冗談だ。それに受け入れているんじゃ無くて、諦めたんだよ……いざとなったら、理不尽な転移ですぐに逃げ出すし」


 俺の言葉にバルログさんが、首を横に振って溜息を吐く。


「それよりも魔王に相談があってきたんじゃないのか?」

「魔王()な? 相変わらず不敬な奴め。お前のせいで、脱線したんだ。それにお前が居たなら丁度いい。お前にも聞いて貰おう」

「おっ、割と頼りにされてる? 良いぜ、なんでも相談して」

「お主ら、仲が良いのう」

「魔王様!」


 わいわいとバルログさんとお話をしていたら、ニコニコと笑みを浮かべた魔王が会話に割って入って来た。

 俺が魔族に受け入れられつつあるのが、嬉しいらしい。

 魔王って……


 まあ、魔族の王で魔王だから、必ずしも悪とは限らないか。

 本人も、数代おきに温和な魔王は産まれるし、自分もそうだと言っていたし。

 怒ると相当にヤバイらしいけど。


 俺と仲良しだと思われたのが、バルログさんは不満らしいけど。


「まあ、先に報告をしなさい」

「はっ……最近西区で足の生えたというか根の先が2つに分かれた根菜が、夜になると街に現れるらしく」


 そこで区切って、チラッとこっちを見るバルログ。

 ……

 取りあえず、視線を逸らしておく。


「特に物理的な被害は無いのですが、野菜を残した子供のいる家に忍び込んで、ベッドの周りを取り囲んで手のように葉っぱを繋いで、グルグルと呪詛のような歌を歌いながら踊り続けるらしくてですね」


 またも区切って、こっちをチラッと見るバルログ。


「モッタイナイ! モッタイナイ! 僕たちを食べないなんてモッタイナイ! 食べられないなら食べてしまおうか? そうしよう! そうしよう! とメロディを付けて歌いながら輪を狭めて来て」


 あまりにしつこいので、ニコリと微笑みかけてみせる。

 睨まれた。


「でも子供だからもう一度だけチャンスをあげよう! そうしよう! そうしよう! と言って離れていったかと思うと、次は無いよ! 次は食べちゃうよ! そうしよう! そうしよう! とまた狭めて来てを繰り返して暫くすると部屋の入り口に向かって行って」


 ふーん。


「で、でがけにチラッと中を覗いて、本気だから……とニヤリと笑って集団でキャハハハハと笑いながら出ていくらしいです」

「そ……それで、要望というのは?」

「子供達が野菜を食べられるようになったらしいのですが、泣きながら鬼気迫る様子で食べる姿に、親の方がトラウマになってないか心配されているようです」


 ……

 もはや魔王じゃなくて、俺に話しかけている。

 というか、めっちゃ顔を近づけて下から覗き込むようにこっちを見てくるバルログさん。

 目を大きく見開いて、魔眼が全開で魔力が目から溢れ出てるのが分かる。

 それは、目力とは言わないぞ?


 いや、ごめんなさい。


 横を見ると、魔王も苦笑いだ。

 いや、笑い事じゃない。


 やり過ぎだよ。

 子供達に、食べて貰いたいのは分かるけどさ。

 そんな指示は俺も出していない。


「なんか……すまんな」

「なんかじゃないですよ! 魔王様からもこの子に、何か言ってやってください!」


 謝ったのに、許されなかった。

 それどころかここに俺が居たのをこれ幸いにと、魔王まで巻き込んで責めるつもりらしい。

 容赦のない奴だ。


「というかさ、なんで魔王様の家庭菜園にしか植えてない、改造野菜が街を出歩いてるんだ?」

「それは私が聞きたい!」


 素朴な疑問。

 基本的に農場じゃなくて、魔王城の裏庭にある魔王専用の家庭菜園の野菜しか最近は改造していないのに。

 なんで、そんなところに。


「足が生えておったら、勝手に出歩いてもおかしくないだろう」


 納得。

 自分達で勝手に食べごろになったら、街の八百屋にでも忍び込んでいるのかもしれない。

 それで食べごろなのに残されたら、腐って捨てられるしか無いからな。

 それで、子供達に?


 いや、そもそも二股の見た目の悪い野菜を、好んで買って帰る人なんているか?

 取りあえず虫達に野菜を回収させる。

 というか、集合するように伝えただけらしいが。


 で、野菜達に尋問。

 バルログさんが。


「何故、こんな事をしたのですか?」

「偏食は良くない。成長盛りの子供達なのだから、摂取する栄養のバランスには特に気をつけないと!」

「そうですよ? この間まで野菜に困っていたはずなのに、安定供給が始まるとこういった弊害も産まれるんですよね。足りない時は、親も本気で野菜を残す子供を怒っていたのに……最近は好きな野菜があるなら、それを食べさせらたら良いかなんて親も出て来てます」

「それに飽食できるほどの余裕は、この国にはまだありませんよ?」

「いざ食料不足が起きた時に好き嫌いを許していたら、最初に衰弱するのは身体も小さくて弱い子供達からだぞ!」

「私達は嫌われても構いません……それで、子供達が健やかに過ごせるなら」

「いまは怖がっているかもしれないが、いつか俺達に感謝する日がくると信じて」

「その頃には、今の子供達の誰かの血肉になれてたら良いな……」

「……」

「……」


 物凄くまともな事を言われて、バルログさんも俺も固まる。

 それからお互い顔を見合わせて、困ったように首を傾げる。


 反論の余地があまりなさそうだが?

 そう目で合図すると、貴方が作ったのですから、貴方が説得してくださいと目で返事が。


「ふむ、一理ある……一理あるが、わしは一生懸命汗水流して育てたお主達が、子供らに怖がられるのは面白くないのう」


 救世主現る。

 魔王様が、何やら良い事を言ったっぽい。


 まあある程度育ったら、勝手に栄養のある土壌に移動して、勝手に日の当たる場所で日光を浴びて、勝手に水分を補給しに移動する野菜になったが。

 それでもそこまで育つまでは、確かに魔王が一生懸命育てている訳だしな。

 魔王からすれば、子供のようなものか。


「一生懸命育てて頂いたからこそ、子供達にも残さず食べて貰いたいのです!」


 野菜の方も食い下がるな。

 代表は……やっぱり、ニンジンか。

 なんとなくピーマンや、ニンジンってこういった野菜嫌いの子供向けの話で、代表を取りやすいし。


「出来れば美味しく、笑顔で食べて貰いたい」

「私も、そうされたいのですが……」

「だったら、わしが子供でも美味しく食べる方法を考えるぞ! 手伝えマサキ!」


 いま、わしがってはっきりと言ったよね?

 で、二言目が手伝えマサキって……

 俺の知識を当てにする気満々だよね?


「マサキ! この国の未来は、子供達の将来は貴方に掛かってます!」


 バルログさん?

 なに、空気に酔っちゃってるの?

 魔王様と、野菜のやり取りにバルログさんもスイッチが入ったらしい。

 

「というかだ。農業参謀役を名乗るくらいなら、野菜を美味しく食べる方法を普及させるくらいのことは職務に含まれるんじゃないのですか?」


 痛いところをついてくる。

 流石は魔王の側近。


 仕方がないので野菜を細かく刻んで料理に混ぜる知識を……


「そんな誤魔化しでは駄目なのだ! あくまでその野菜が認識できるレベルで、笑顔で食べてもらいとうは無いか?」


 ……面倒くさいことを言い出した。

 

 結局カレーやグラタンのレシピに、天ぷら、肉詰めなどを教える。

 他にはオムレツなんかも。

 豚バラを使った炒め物や、漬物も勧めておく。


 漬物は塩分が気になるけど、野菜を食べるきっかけには……

 浅漬けなら栄養はそれなりに残っているし。

 野菜そのままに比較的近いから、慣れたら普通の野菜にもチャレンジしてくれるようになるし。

 

 あと、ぬか漬けはビタミンB1が増えるし。


 何よりも、食物繊維は殆ど損なわれない。

 

 なので、漬物も少量ならと付け加えて教えた。

 

 糠が分からないと言われて困った。

 まずこの世界に米はあるが、魔国には米が無い。

 なので米から説明。


 お取り寄せした米を使って。

 穀物の一種ということは伝わった。


 しばらくぬかは俺が卸すことになるが、小麦はこっちでも割とメジャーなので小麦ブランを使ったふすま漬けを教えておく。


 小麦ブランはパンに混ぜたり、クッキーに混ぜたりしても良いのでそれも合わせて。

 ああ、すでに食べてる人も居るのね。

 なんとなく食べていると。


 一応、栄養は豊富だということも、合わせて教えておく。

 これを魔王が公表したら、ブームが来るかもしれない。


 取りあえずそう言った感じで、野菜の起こした事件はあやふやに。

 いや、歩く野菜達は悪くない。

 ただ意識が高くて、それがマイナス方面に進んでしまっただけ。

 だから、俺も悪くない……よね?


「じゃあ、暫くは来られるだけ、ここに来てもらって相談に乗って貰えますね? 良いですよね? 農業参謀役殿?」

「……はい」


 無罪放免とはいかなかった。


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