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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第154話:モンロード観光 外からの視点3

やっぱり、1話じゃ無理です(`・ω・´)b

――――――

クレオ・フォン・パトラ


 部屋に戻って来られたマサキ様。

 どうやら、おひとりのようですね。

 ルドルフ様は飲み足りなかったらしく、1人でお出かけになられたらしい。

 見たまんまのイメージですね。


 マサキ様のお目当ては、この部屋自慢の部屋風呂。

 大理石の浴室に、白磁の湯船。

 掛け流しのお湯で、常に綺麗なお湯を提供。


 このような小さな方が、おひとりでお風呂に……

 大丈夫かしら……はあはあ。


 そうですわ、お背中をお流しするくらいならサービスの範疇ですわね……はあはあ。

 柔らかそうなほっぺに、サラサラの髪の毛。

 きっと、子供特有のスベスベのお肌をされているはず。


 危ないですわね。

 そうですわ、全身オイルエステなんてのも。

 子供のうちから、お肌の手入れは大事ですし。

 この時にどれだけお金を掛けたかで、将来に差が出るのです。


 はあはあ……


「お背中をお流ししましょうか?」

「あー、大丈夫」


 両手、両膝をついて全身でガッカリを表現。

 でも、マサキ様は浴室にいらっしゃるので私の失望は伝わらないでしょうね。


 良いでしょう。

 仕方がないので、何かあってもすぐにお助けできるように部屋の前でスタンバイを。


「あー……クレオさん? どうされたのですか?」

「ひゃっ!」


 背後から、急に声を掛けられたびっくり。

 浴室に向かって立っていたので、全然気付きませんでした。


 振り返るとジャッカス様とマコ様が。

 不審な者を見るような眼で、こちらを……


「こほん……お湯加減はいかがでしたか?」

「とても、素晴らしいものでした。マサキ様はまだあがられていないみたいですね」

「はい、喉が渇かれたでしょう? どうぞお掛けください。すぐに、お飲み物をお持ちしましょう」


 どうやら上手く誤魔化せたみたいですね。

 全力で口止め料代わりのフルーツジュースをマコ様に、ジャッカス様には当店秘蔵のワインを。

 大丈夫です、そのワインも元々料金に含まれておりますから。


 美味しそうに飲まれているマコ様に、ほっこり。

 ジャッカス様も中々に、ワインを飲む姿がお上品で様になってます。

 やはり、マサキ様のような方にはこういった気品あふるる護衛が適任ですわね。


 でも、少しばかりワイルドなルドルフ様も……


 翌朝一番に起きて来られたのは、マサキ様でした。

 寝起きだというのに、しゃっきりとしてらっしゃいます。

 とても質の良い睡眠が取られたようで、なによりです。


「何か飲まれますか? オススメは朝絞りのミルクです」

「じゃあ、それを貰おうか」

 

 マサキ様が所望されたミルクを、そっと差し出す。

 彼はグラスを持ち上げると、中身よりもそのグラスの方が気になったらしい。


 目を細めて観察する仕草に、長く上向きの睫毛が際立って見える。

 天然であの量と、あの長さ。

 羨ましいですわね。


「これって、透明以外のもあるの? 例えば透明と青とか?」


 やはり、グラスの品質や素材が気になったらしい。 

 本当にこの方は見た目通りの年齢なのでしょうか?

 耳は普通ですが、もしかしてエルフ?

 もしくはハーフリンクでしょうか?

 

 おっと、お客様の疑問には可及的速やかにお答えしなければ。


「一応色のついたガラスはありますが、こういった模様の入ったもので2色使われたものはありませんね」


 私の言葉を聞いて、笑みを浮かべて頷くマサキ様。

 まるで彼の中で、当ホテルでもスイートルーム以外では使用されることのない、最上級品のガラスのグラスを超える品の構想が出来ているのでしょうか?


 出来ているのでしょうね?

 出来ていても不思議ではない、オーラですものね。


 明け方に帰って来られたルドルフ様が、気持ち仮眠を取って起床されたようです。

 意外と仕事には真面目な方のようですね。

 

 二日酔いで辛そうなので、取りあえず水をオススメ。

 素直に受け取ってくれる。


 マサキ様とルドルフ様のやり取りに、ジッと耳をそばだてる。


 マサキ様が子供のフリをして、ルドルフ様を揶揄ってらっしゃる。

 羨ましい。

 あんなにいちゃいちゃと。


 私も、揶揄われたい。

 じゃなくて……というか、子供の見た目で子供のフリってのも、おかしな話ですわね。


 それから果物を所望されたので……なるほど、二日酔いにはグレープフルーツと蜂蜜が宜しいのですね。

 ビタミンCは知ってますわ。

 女性のお肌のケアに、必須ですものね。

 アセトアル……なんでしょう?

 聞いた事ありません。

 

 マサキ様は医学的な知識もお持ちなのでしょうか?

 今度、ホテルの勤務医に確認してみましょう。

 アセト……

 その前にあとで、マサキ様に確認しましょう。

 

 おっと、マサキ様の雰囲気がガラリと変わる。

 お仕事タイムのようですね。

 そっと、壁際で置物のように……


 ……えーっと。

 聞いてはいけない話というか……

 貴方達、ここに着いたの昨日ですよね?


 なんですか、その情報量は。

 というか、ただ飲み歩いていたと思っていたルドルフ様も、外で主であるマサキ様に有用な情報を集めておられたと。

 てっきり、ただのお酒好きと思ってました。

 申し訳ありません。


 ひっ!


 驚いた!

 心底驚いた。

 まだ眠っていると思っていたジャッカス様が、外から入って来た。

 いや、寝室に向かわれたのは知ってますし。

 もし部屋から出られたら扉に付いた紐が引かれて、私の休憩室に合図が来るはずなのですが。


 これはお客様に分からないように仕掛けさせてもらって……

 ああ、起こしちゃ悪いと思って?

 お気遣いありがとうございます?


 え? いや、気を遣われるような立場じゃ無いですし。


 それからローズ様やクコ様たちを起こして朝食に向かわれるお背中を、そっと眺める。


 ヤバい……

 あの人達、チョーヤバい!

 

 この街で敵に回しちゃ駄目な人、第3位のビグカン子爵と揉めたみたいだけど。

 どう考えても、マサキ様御一行はこの街どころかどこで会っても揉めちゃ駄目な人5指に入りそうですね。


 というかそんな相手に、ビグカン子爵が何やら気分を害することをしたと。

 えー、支配人に直通連絡。

 えっと、お客様が街でもめ事を起こしそうです。


「なに? それは……非はどちらに?」

「相手は、ビグカン子爵です」

「そうか……その情報だけで十分だ! お客様の身の安全を最優先! 手の空いている従業員で、戦闘に自信のあるものを数人マサキ様の警護に当たらせる!」

「……えっと、全ての出来事はおそらく十中八九マサキ様の掌です。見守る程度で宜しいかと……あっ、飛び火して外から茶々が入らないようにした方が。上手く行けば、ビグカン子爵を排斥できるかと」

「お客様に快適に旅を楽しんで頂く事が、当ホテルの使命。領内で余計な揉め事に巻き込まれては、旅行が台無しです!」


 私の答えに、支配人が怒っているのが分かる。 

 分かるけど……仕方ない。

 今回、マサキ様……あれ、絶対にビグカン子爵を苛めるのを物凄く楽しみにしている。 

 そこに茶々を入れることこそが、旅を邪魔することになるはず。


 お客様の事を、第一に!

 というか……ジャッカス様とルドルフ様がついていて、危険な目にあうなんて。

 想像もつきません。


「それが……ビグカン子爵を懲らしめるのを心の底から楽しみに、ウキウキとしたご様子でした」

「……よしっ! 全力を持って見守ること! それと、民衆に紛れて情報操作! 10対0ではだめだ! 100対-100くらいで、ビグカンに非があるように話の流れを持っていけ!」


 私の言葉に、支配人が指示を出す。

 あっ、これ絶対に監視部隊も出しているはず。

 うちのマスターも、こういった揉め事大好きだし。


 私もですが。


――――――

 私はビグカン。

 この街を、いやこの街一番の稼ぎ場である、ミルキーウェイの道上にある商店街を陰で牛耳っていた男。

 だった……


 いまは、死刑を待つただの罪人。


 ああ、悪夢だ。

 どこで間違ったのだろうか……

 最初からだな。

 ああ、最初からだ。


 というか、そもそも牛耳っていたつもりでもあった。

 だって、ミルキーウェイってよく考えたら、アンタッチャブルな場所だった。

 なんせ、所有者は女王陛下。


 何故忘れていたのだろうか?


 それもこれも、愛する妻だった女のせいだ。

 父上が金山を発見されて、我が家の暮らしはガラリと変わった。

 貧乏人が金を持つと、ろくなことにならない。


 元々大した特産品も無く、山菜や山から伐り出した木でどうにか収入を得ていた。

 領民の者達にギリギリの税を課すことで、ようやく貴族らしい暮らしを保っていた。

 

 そこに来て、お金の元になる金山の発見。

 あー、領土中が沸いたね。

 8割取っていた税金は、2割に減税。

 元々は5割だったが、脱税されてもそれを見抜くような調査をする人員は揃えられない。

 精々が抜き打ちで、数件を見せしめに摘発する程度。

 だったら絶対に生活が出来ない税金を課して、わざと脱税させる。

 彼等もやり過ぎは不味いと知っている。


 だから、生活に少しゆとりがある程度の誤魔化しで、成り立っていた。 

 中には馬鹿正直に8割の税を払う者もいた。

 割と沢山。

 

 結果税収は上がったが心苦しい……と父は言っていたが、何を気にすることが?

 領民なんで、道具だろう?

 そう言ったら、思いっきりぶん殴られた。

 30発から先は数えていない。

 

 これも領民のせいだ。

 腹立たしい。

 

 金山で稼いだお金をこれまでの不遇を償うかのようにインフラや、公共事業に金をバラまく父。

 いやいや、うちの金をなんでこんな奴等に?

 もっと贅沢がしたい!


 そう言ったら、思いっきり蹴り飛ばされた。

 50発から先は数えていない。

 

 これも領民なんかが居るせいだ。

 腹立たしい。


 だがそんな父も、突然の発作で亡くなられて私の時代到来!

 いやいや、まずは絶世の美女と噂の、エチバック農場のカウさんの娘に求婚。

 金の延べ棒に嫁になれと彫って、1つ放り投げる。

 返事は芳しくない。


 2つ……

 ふんっと鼻で笑われた。

 3つ……

 眉が片方だけピクリと持ち上がる。

 4つ……5つ……


 6つめで、手で制される。


「まあ、この程度なら私の夫にしてあげてもいいかしら? ただ、これだけじゃあ足りないから、もっともっと贅沢させて頂戴?」

「なら、何故5つで止めた?」

「ふふ……」

  

 物凄く冷たい視線で見つめられる。

 あー、ぞくぞくする。

 絶対に逆らえない、圧倒的強者の眼差し。


 貪欲で強欲さを体現する漆黒の瞳に対して、清楚を形にしたような美貌。

 このギャップが溜まらない。


「分からないかしら? 5つでは不足。でも、嫁ぐことで貴方に負い目を感じて貰いましょう」

「えっ?」

「そして、嫁いだら貴方の物は私の物……そう、これ以上いま受け取る必要は無いのよ! おっほっほっほ! 分かったらなら跪いて、貴方が落としたその鉄くずを拾って私に差し出しなさい」


 普通なら領民にこんな仕打ちをされたら、腰の物を抜いて無礼打ちだ。

 でも、彼女にはそれは出来ない。


 まず彼女のファンに、死ぬまで狙われる。

 あと、父親のカウさん……

 気弱でお人好しで物静かで……

 というか、本当にナヨナヨした情けない男。


 でも、家族に手を出されると、変貌する。

 やばい……

 牛や羊、山羊を手足のように扱って襲って来る。

 鬼の形相。


 人相手には強く出られない彼も、家畜には鬼のようにも仏のようにもなれる。

 屠殺する際に、お人好しでは駄目なのだ。


 ちなみに家畜認定されてもヤバい。

 人として見られなくなったら、簡単に屠殺されて皮を剥がれて、枝肉にされて証拠も残さず屠られるとの噂が。

 それは、本当に噂だった。

 

 娘さんを頂いて、義父、義息子の関係になって分かった。

 本当にこの人、対人関係が駄目すぎる。

 娘相手にも、タジタジ。

 対人恐怖症で、話し相手は家畜だけ。

 奥さんも圧倒的なマウントを彼に対して……いや、私も彼女に昼も夜もマウントを取られているけど。


 そしてうちの嫁……バートリー。

 ヤバい。

 色々と。

 とにかく我儘。

 そして、強欲。

 底知れない彼女の欲望を満足させるために、色々と無茶をした。

 そして、彼女の言う通りにすればその無茶も、大概は押し通った。

 押し通ってしまった。


 結果、勘違いして色々と大事な物を忘れて……いや、元々あまりそういったことを考えてなかったというか。

 そんな上等な教育を受けるほど、余裕が無かったというか。


 当時の事を思い出す。

 妻が連れて来た、セイシーという元スパイス商人。

 中々にそっち方面の知識も深く、それなりに野心もある。

 上手く使えば乳製品だけでなく、香辛料界隈も手中に収められる。


 酒をたらふく飲まされながら、嫁とセイシーにあれこれと吹き込まれ、煽てられその気になって行動に移した。

 ターゲットはこの街の領主のシルク伯爵御用達のお店、ケバブのスパイスショップ。

 ここさえ潰してしまえば、あとはどうとでもなる。

 いや、潰すというか傘下に収めてしまえば。


 タイミングを見計らって、ここに務めている女が出て来たタイミングで店の前を通る。

 ついでに、いちゃもんと付けて……早速邪魔が入った。


 どこかの観光客。

 ふんっ、中々に良い身なりをしているようだが。


 所詮は小金持ちだろう。

 金山を持つ私程ではないはず。


 とはいえ、相手は7人。  

 それなりに人だかりになって、注目を浴びる。

 本来なら、このままお店に乗り込むつもりであったが……


 仕方なく、軒先の壺を蹴り飛ばしてその場を離れる。


 暫くして、蜂に刺された。

 一緒に居た、従者の男と2人で。

 瞼の上と、お尻を的確に狙って来てた。

 マジヤバい。

 あんな蜂みたことない。

 

 というか、蜂ってあんなに獰猛だったっけ?

 蜜を集めるだけじゃないのか?


 まあ良い……痛かった。

 本当に痛かった。


 その夜、お風呂に入ろうと思ったけど、お尻が腫れ上がっていたので水を浴びる事に。

 湯船に入れないし、お湯を使えないのは辛い。


 湯船に入らなくて良かった。


 何やら巨大な蜂が、湯船につかってこちらに背を向けていた。

 ギギギと音を立てながら振り返る。

 妙に色っぽいけど、恐怖しか感じない。

  

 夕方の出来事がトラウマになっていたのだろう。

 幻覚……もしくは、幻覚。


 次の日、腫れは引かないが痛みは引いたので、気持ちを新たにケバブのお店に乗り込む。

 セイシーを伴って。

 

 昨日壺を蹴り飛ばした際に、ズボンの裾に付いたスパイスに違法な物が紛れていたことにした強制捜査。


 ヒャッハーと言いながら、壺を叩き割っていく部下達。

 思った以上にノリノリ。

 楽しそうだな。

 

 どれ、わしも一つ……セイシーに止められた。


「貴方様が楽しそうに壺を割られては、言葉の重みが軽くなります」

「ふむ」


 良く分からないが、そういうことらしい。

 今思えば、そもそも部下達が壺を割る必要すら無かった。

 1つずつ中身を精査していけば、良いだけの事。


 この行為も周囲の心象をかなり悪くして、後々不利な状況へと陥る証言を量産することに。

 まあ、その証言が無くても極刑は免れなかったんだけどな……HAHAHAHA……はぁ。

 笑えない。


 そうこうしているうちに、外が騒がしくな……お前達、もう少し遠慮がちに壺を割らないか?

 外で何か起こっているようだが、耳にはヒャッハーとパリーンという音しか聞こえない。

 馬鹿ばかりだ。

 私もだったが。


「おじさん達何してるの?」


 外で騒いでいた連中の1人と思われる少年が。

 うん、昨日のガキか?


 改めてみる、なんだ?

 どこかの貴族のガキか何かだろうか?


 まあいい、私はこの街一番の金持ちだ。

 こんな奴らが、何をしようとも適当に衛兵に金を握らせておけばどうとでもなるだろう。


「ん? なんだこのガキは! 護衛共は何をしている! 摘まみだせ」


 私の命令に、セイシーが部下に指示を出して襲い掛からせる。

 何々? 自分が受け取る商品がある?

 知るか、そんな事。

 それに、この店の香辛料は違法な物が混じっているって事になっている。

 持ってかれても困る……し……な?


 何をしておる!

 こんなガキ相手に、逆に腕を取られるなど。

 本当に使えん奴らだ。


 えっと、ガキの雰囲気がガラリと変わったかと思うと、屈強な男の腕からミシミシと音がなりはじめる?

 見掛け倒し……だとしても腕の太さや筋肉は本物。

 えっ?

 あんな細いガキのどこに、そんな力が?


 何やらガキが小難しい事を言っている。 

 余所者にこの国の常識を語られるとはな。

 本当に生意気なクソガキ……だ?


 何やら物凄く強そうな男性が2人、騒動の最中に入って来る。

 昨日も居た気がするけど……

 無精ひげの男が強いのはすぐに分かった。

 もう1人の身なりの良い男。

 こいつは、本気でヤバい……


 この国の女王陛下を守る近衛の兵長と並ぶようなオーラが。

 それからガキの指示で、バッタバッタとこっちの護衛達が倒されていく。 

 うん、一撃一殺というか……見えないけど、すれ違った瞬間に膝から崩れ落ちていくセイシーの部下達。

 おかしいだろ!

 

 同じ人間だろう!

 この性能差はなんだというのだ!


 むしろ欲しい。


 それからガキに説教される。

 子供に話しかけるように、分かりやすく丁寧に。


 そんな事は知っておる……知っておる?

 あれっ?


 確かに、この道はモンロードの所有物ではなく、女王陛下の所有物だ。

 うむ……


 でもって、シルク伯爵は女王陛下の許可を得て、この道を統治している。

 私は?

 別に女王陛下に指示されたわけでもなければ、自身の領地にミルキーウェイは通っていない。

 無関係。

 

 完全に、無関係。


 そして、シルク伯爵はこの街の領主だが、この道に関する権限は代官。

 ようは、女王代理……

 すなわち、女王……


 あれ?

 これ、私って詰んでない?


「分かったなビグカン! お前がやってることは、国家反逆罪だ! それと、証拠の品は出て来たのか? おいっ、ジャッカス! すぐにそこのオールバックの男を取り押さえろ!」


 分かってる!

 分かってるから、少し黙ってくれ。

 頭を整理し……ておい、セイシー何を隠している!

 おまっ、なんでとっととそれ混ぜとかなかったんだ!

 入れ物だって一緒に割って置けば、壺の破片に混じって誤魔化せただろうが!


 ああ、落ち着いたら急に頭が冴えてくる。

 何故、私はこんな愚行に。


 あーそうだ。

 妻に毎晩、囁かれ続けたからだ。


「貴方はどうしようもないクズね……お金以外に何も持っていない。そして貴方は私の所有物なのよ」

「貴方はお金以上の物を手に入れたわね……私よ! せいぜい私に見捨てられないようにね。愛してるわ……今はまだ」

「お金に逆らえるものは居ないのよ、女王陛下? 彼女自身には勝てなくても、彼女の周りを全てお金で変えてしまうことはできるのよ。貴方はこの国で最も強い武器を手に入れたのよ。私を失望させないで頂戴ね。愛しい人」

「お金があっても、貴方はなんにもできない……少しは自分で考え……られないから、馬鹿なのよね。良いのよ愛しいおバカちゃん。貴方は、私の言う事を聞いていればいいの」

「貴方には本当に呆れたわ……あんな街の商店街1つ手に入れられないなんて。良いのよ、貴方が馬鹿なのは知っているから。私の言う通りにしてくれているうちは、愛しい貴方だからね」


 こんな風に罵倒され、愛を囁かれ、彼女に捨てられたくないと思うようになっていき……

 やがて、彼女の言葉さえ聞いていれば、彼女から見捨てられることはないと考え……

 気が付けば、彼女の言葉が全てだった。


 せめてもの抵抗に、全責任をセイシーに……

 押し付けようと頑張ったけど無理ですね。


 だって、あちらのお坊ちゃま……

 どう考えても、この世の美の結晶と言えるような綺麗な絹の衣を、従者の獣人に簡単に与えるような方だ。

 その時点で、おかしい事に何故気付かなかった。

 

 どう考えても、触れちゃ駄目な相手だろう。

 私の馬鹿!

 本当に、妻の言う通り大バカ者だ。

 

 大人の腕を簡単に捻り上げる子供?

 倍以上のゴロツキを、一瞬で制圧する護衛が2人?

 いや、あれ1人でも全員瞬殺だったよね?


 そんな化け物が、2人?

 どう考えても、どこかの国の要人じゃないか!


 仮にこの国で、万が一の奇跡が起こって恩赦を受けられて、死刑は免れたとしよう。

 あの子の本国が名乗り出たら、確実にそっち方面で殺される。

 国際問題に発展するくらいなら、私1人の命なんて軽いものだ。

 

 そうなると、家は取り潰し。

 金山は国のお預かりとなるはずだし……

 

 わあ!

 終わった!

 私、死んだ!


 父上!

 何故、私をもっと殴ってくださらなかったのですか!

 何故、もっと蹴ってくれなかったのですか!


 頭がパーになるくらいにボコボコにしてくれていたら、あんな女なんかに引っかからなかったのに。

 おそらく、屋敷からも出なかったでしょう。

 

 現在牢屋にて、謹慎中。

 死刑執行を待つ身だ。


 反省する気はない。

 だって、反省しようがしなかろうが殺されるのは確定ですしね。

 

 結果的に、死刑は免れた。 

 代わりに強制労働。

 一生……


 国家反逆罪ではあるが、直接人身に危害を加えなかった事。

 それから、未遂で終わった事。

 加えて、あのお坊ちゃま……マサキ様とおっしゃられるようだけど、あのお方からなんらかの口添えがあたとの事。

 

 良かった……

 本当に良かった。


 ちなみに妻が私を唆せたという証拠はなく、涙ながらに私の愚行を屋敷に乗り込んで来た調査官に誠心誠意謝っていたとのこと。


 完全に演技だな。

 しかしながら、調査官はその演技にコロリと騙されて、彼女が私の愚行に対して何か関与したという可能性は無いと報告。


 まあ、あんなのでも一度は惚れた相手だ。

 私も敢えて、何も言うまい。


 今頃、私の残した金山から持てる限りの財をかき集めて、逃亡の計画を立てている……


 さらに上手だった。

 どうにか、領地だけは守る様に領民の情にまで訴えて、動いているらしい。


 そんな中、彼女を不幸のどん底に突き落とす報告が


 私の持つ金山に、蟻が大量発生。

 金を喰らう蟻なのか、片っ端から金を掘って巣穴に運んでいるとの事。


 恐ろしく強いらしく、誰も手も足も出せないと。

 魔法まで使うらしい。

 それなんて蟻?

 

 暫くして、突如金山から消えて居なくなる蟻。


 調査隊が編成され金山をくまなく調査。

 巣には何一つ残されておらず、もぬけの殻だったと。

 ちなみに金も取り尽くされていたらしい。

 あー、神様って居るんだな。

 あのアホに天罰が下ったようだ。

 私にも下っているが。

 まあ、お金大好きのあいつが受けた罰に比べたら軽いものだ。


 正直、金が取れなければ、あそこの領地になんの旨味も無い。

 ギリギリでやっていかないと、赤字を垂れ流すだけだ。


 まあ、私はこっちでゆっくりと肉体労働に勤しむとします。

 反省はしてないけど、充実はしている。



新作のプロットに取り掛かってます。

隔日更新にして、両方同時進行にするか。

1日1000文字程度書き溜めして、1章分になったら公開するか。


後者にしましょうね……

読み直す時間もあったほうが、誤字も減るでしょうし(;^_^A


次はケバブ、領主、女王で終わりかな?

終わるかな?


(;´・ω・)

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