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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第153話:モンロード観光 外からの視点2

祝トータル100万文字超え!

の作品が、閑話(* ´艸`)

 私は金の皿亭で給仕を務めて15年のベテラン給仕。

 名前は……まあ、誰も気にしないし、名前で呼ばれたことはない。

 「おいっ!」とか「そこの!」と呼ばれることばかり。


 私には、ロードルマルスクトという立派な名前を親から頂いているというのに。

 とはいえ、親ですらロードと呼ぶくらいに、この名前を全部覚えてる者は少ない。

 そんな事はどうでも良い。

 このお店の主役は皿の上にあり、私ではない。


 お客様に声を掛けて頂けるキャストも、その料理を作った者だけだ。


 私なんて脇役以下の存在だ。

 エキストラ……そう、エキストラかな?


 色々なお客様が訪れる金の皿亭。

 今日来られた中でも特に目を引いたのは、金色の髪をした10歳くらいの少年とそのお付きの者達。


 それなりに高級店として有名な当店には、やはりお召し物も立派な物を纏われている方が多い。

 訪れるのも高貴な方や、富裕層の方ばかり。

 たまに一般の方も自身へのご褒美として来られるが、一張羅で来られる事が多い。

 月1で来られる方の大半が、毎回同じ服だ。

 

 私もプロだ。

 流石に三度訪れると、顔は覚えられる。

 

 そんな中で一際目立つ集団。


 落ち着きのある上品な少年と、3人の獣人の子。

 それと護衛か保護者と思われる男性2人と、女性が1人。


 ただ、お召し物が輝いている。

 全員がシルクと呼ばれる、絹の衣を纏っている。

 少年を除く子供達と、女性の方は色の付いた絹のお召し物。


 あれは……染物というよりも、元々その色なのでは無いかと思われるほど色が馴染んでいる。

 それでいて、シルク特有の輝きと滑らかさも。


 あー、そんな服の前には私なんて、道端の砂埃のような存在ですね。

 いや、これでもお店の支給品である制服を身に纏って、それなりに高級店に相応しい恰好をさせて頂いてますが。

 

 格が違う……という言葉で表すのも、おこがましい程の品質差。

 思わず上着の裾を摘んで、溜息を吐いてしまう。


 そして代表と思われる少年の着ている物に至っては……あれは、教皇様の聖衣か何かでしょうか?

 白です。

 オーソドックスに白の絹で作られたシャツだというのは分かります。


 白?

 白って……発色というか、発光してましたっけ?

 あれはもう、光の反射というよりも自らが輝いているような…… 

 絹職人の本気度が違うというよりも、蚕から本気出してますというような。


 まあ良いでしょう。

 誰が来ても、何を着ててもいつも通りの仕事をするだけです。


「来た来た」

「落ち着きがないですよ、ルドルフ」

「そうかてーこと、言いなさんなって」


 料理を運ぶと、この中で一番馴染みを覚える男性の方が揉み手で料理を出迎えてくれる。

 少しほっとする。

 たぶん、この方は護衛。


 そして横の紳士がそんな護衛の肩を、窘める。

 うん……これは、執事かな?

 でも、物凄く強そう……

 護衛の方よりも。


 気にしたら負けですね。

 執事は最も主に近い存在。

 であれば、最も強い者が務めるというのも理に叶ってますし。


 はてさて、最初に提供させて頂いたのはスープですが。

 格好はどうであれ、舌の方はどうでしょうか?


「これは胡椒の他に、タイムとオレガノが使われてるな」


 なん……だと?


 まさか、10歳のお坊ちゃまが隠し味を全て言い当ててしまわれた。

 胡椒だって、本当に風味付け程度。

 ヨーグルトを混ぜてますので匂いをまろやかにするために、タイムも。

 そして、香りの強いオレガノが主張し過ぎないように、本当に隠し味程度に一撮みだけ入れただけ。


「あら、気付かれました? 隠し味なので、他の方には言わないでくださいね」

「へえ、流石ですね」

「すごい、マサキおにい!」


 物凄くびっくりした。

 けど、取りあえずそんな事を微塵にも感じさせないように笑みを張りつかせて、唇に人差し指を当てて誤魔化す。


 さらにスープのベースとなる当店秘伝の、玉ねぎを飴色になるまで炒めたペーストまで……


 どんな舌を持っているのだろう。


 その後も仕事をしつつも、そのお客様の事が気になってチラチラと見てしまう。

 続いて運んでいった料理を匙で掬ったお坊ちゃまが固まる。

 あれは……


「これは……」


 そうでしょう、そうでしょう。

 この国の出身の方には見えませんものね。

 そもそも、見た事も無いのではないでしょうか? ……ラクダを。

 ようやく私の出番ですね。

 

 お客様が存じ上げない材料や料理の説明をして、不安を取り除き期待感を煽る。

 それも、給仕として大事な役割なのです。

 ウキウキで襟を正して、お客様の元へと近づく。


「流石に、お客様でもご存知ないでしょう?」

「ラクダのコブか?」


 なん……だと?

 

 知ってらっしゃいましたか……

 そうですよね、当然でしたね。

 大体、このようなお若い方がタイムやオレガノなんて香草を知っている時点で、大層なグルメなのだと気付くべきでした。


 あやうく神様に布教をするところでした。


「なるほど、これは塩コショウとヨーグルトに漬けて下味をつけたラクダのコブだな。なんとも贅沢な……そして一緒に炒めることで出た油を使って野菜や鶏肉も炒めたと。これ自体は脂身でしかなくクドイが、思いのほかヨーグルトのお陰かさっぱりと仕上がっているな」


 ……はい。

 もうお手上げですね。

 この方は口にしただけで、材料から調理法まで分かる程に色々な物を食べなれているのですね。


「若いのに、恐ろしい慧眼と舌をお持ちですね。商売あがったりですよ」

「ただの貴族の子供だから、気にしなくて良いよ」


 ただの貴族にも無理な芸当をする子供……

 ただのではありませんよ。

 あれはお坊ちゃんじゃなくて、旦那様なのでしょう。


 おそらくあの方が、すでに実権を握っているのではないでしょうか?

 もし、あの方に相応しい方が両親であるならば……それはもう、雲上人と呼ばれる位の人達では。


「はは……ありがとうございます」

 

 給仕失格だ。

 今の私の笑顔は、笑っていないのだろう。

 お坊ちゃまが首を傾げているのが、何よりの証拠だ。


 そして事件が。

 思わず二度見してしまった。


 あれほど立派な絹の衣が、当店の料理に使われたソースでベタベタに。

 香辛料も含まれているから、なかなか落ちないんですよね。

 あー……売ればおそらく1年は暮らしていけるだろう服が。

 

 とはいえ、ここは給仕歴15年の腕の見せどころ!


 濡れた布巾と、染み抜きを持って近寄って行って固まる。

 旦那様が手を翳した瞬間に、服についていた染みが一つ残らず消えてしまった。

 思わずボーっとしてしまう。


「一緒にパンが来ただろ? それに、お皿に残ったスープを付けて食べるといいよ」

「うん!」

「良いのですか?」


 何やらスープだのパンだのといった会話が聞こえてくる。 

 なんの話でしょうか?

 染みをパンで取るという裏技でしょうか?


「あー、そういった食べ方は、この国のマナーとしてはどうなのですか? うちの方では、普通に行われているのですが」


 と思っていたら旦那様に声を掛けられる。

 えっ?

 食べ方?

 マナー?

 あー、パンに残ったスープやソースを付けて食べたいのですね。

 構いませんよ。

 そのために、味の無いパンを用意してますから。

 そういったことを確認するあたり、本当によく出来た方だ。


 自国のマナーが他国の恥とも知らずに、堂々と振る舞われる方も多いですからね。

 このお店に来られるようなクラスの金持ちともなると。


 うんうん……

 何かとんでもないものを見たような気がしますが、すっかり忘れてしまいましたね。


「ええ、こちらでも問題無いですよ」


 取りあえず、聞かれたことには答えないと。


 その後も旦那様の子供らしからぬ大人の余裕にところどころ触れる事になり、人を見た目で判断すべきではないと改めて思い知らされた。


 それにしても、従者の子供と思われる獣人の子に、デザートまであっさりとあげるなんて。

 一瞬だけ、若い青年のようにも見えたが、気のせいだったのでしょう。

 久しぶりに本物に出会った気がして、身が引き締まる思いでした。


――――――

 私はケバブ。

 この前うちに来た、大店(おおだな)の若旦那の話をさせてもらおう。


 彼との出会いは、とある事故がきっかけ。

 うちで雇っている若い娘で、チャチャという子がいるのだが。


 その子が、不用意にお店を出た瞬間に、当時この商店街ででかい顔をしていたビグカン元子爵の通行を邪魔して突き飛ばされたのだけど。

 たまたま居合わせたマサキ様の……ああ、マサキ様というのが先の大店の若旦那だ。

 彼の従者の獣人の娘のトトさんが、こけそうになったチャチャを受け止めてくれたのがきっかけだ。


「気を付けて歩け! 貧乏人が! 高価な服に染みが出来たらどうするんだ」

「旦那様大丈夫ですか?」


 当時イケイケだったビグカンとそのお付きの者が、あまりなセリフを吐いてうちのチャチャを威嚇する。

 これはいけません。

 とはいえ、彼と揉めるのもここで商売をする上では、なるべく避けたい事態。


 とはいえ、チャチャはうちの大事な従業員。

 両親を早くに亡くして、働ける兄弟と一緒に小さな子を養っている立派な子。

 私も子供のように可愛がっている、大事な従業員です。


 勇気を振り絞って……いやいや、チャチャを庇っている集団。

 どう見ても、ビグカンよりも身なりも良ければ、風格も上ですね。

 思わず息をするのも忘れて、見惚れてしまう程に。


「おーお、そんな小汚い娘なんか助けるから、折角の服が台無しだぞお嬢さん! 次からはそんな奴等は放っておけばいい……まあ、その娘じゃ取れるもんも無いだろうから、助け損だな! ハッハッハ」


 余りに立派なお召し物に、思わず固まって居たらビグカンから心無い言葉が。

 これにはさしもの私も……


「なにっ?」


 ちょっと待ちましょうか異人様。

 相手の身分も分からないのに、相手の国でもめ事を起こすものではありませんよ。

 とはいえ、本格的に揉めたらビグカンの方が危ういでしょうが。


 ただ、流石にうちの子の為にかような高貴の方にこれ以上、ご迷惑をお掛けするのも申し訳ない。


「やめなさい」


 あえて少しだけ偉そうに言う事で、ビグカンの注意をこっちに引き付ける。

 逆にお坊ちゃまを刺激しないように、言葉は偉そうだけど最大限に大人の雰囲気と優しい声で語り掛けるように制止。


「何か言ったか小僧?」


 失敗。

 ビグカンには私の言葉など、耳に入っていないかのようだ。

 こいつの、こういった肝心なところで鈍いのは本当に頂けない。

 近いうちに痛い目を見るだろう……と思って、もう数年も経つが。

 憎まれっ子世に憚るというのは、本当だな。

 

「いえ、私がこの子にお勧めの香辛料があると声を掛けただけですから、旦那様はお気になさらずに」


 それでも強引に私の方に、注意を向けるようお坊ちゃまを背中に隠して笑顔で話しかける。

 それから誠心誠意、心を込めて頭を下げる。

 頭を下げるだけで、チャチャの恩人様にこれ以上の御迷惑をお掛けしないで済むなら安いものだ。


「チッ……まあ良い、折角服が汚れなかったというのに、気分が悪いな……行くぞ」

「はいっ」


 チッ……

 舌打ちをしながら壺を蹴って割っていったビグカンに、私も思わず心の中で舌打ちをする。

 が、ビグカンと揉めて一壺の香辛料なら、安く付いた方だ。


「やれ!」


 と思ったら、後ろのお坊ちゃまから不穏な言葉が。

 確かに腕の立ちそうな護衛の方も、一緒にいらっしゃいますが。


「えっ?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れ出る。

 が、誰も動く様子が無く安心。

 流石の護衛も、この命令に従うと主人が不利益を被ると承知しているのだろう。

 立派だ。


 見た事も無い蜂が、ビグカンを追いかけて行ったけど。

 幻だろうか?

 香辛料に囲まれて、気分がハイになっているのかもしれない。


 取りあえず振り返って、チャチャを助けてくれた方々にお礼を言わなければ。

 チャチャもこの方達も無事で、本当に良かった。

 最近のビグカンは目に余るものがあったから。


「すみませんお坊ちゃま。それにお嬢様も……チャチャを庇っていただき有難うございます! 大丈夫かいチャチャ?」

「ええ、私は大丈夫ですが……旦那様、この方のお召し物が」


 気遣うように声を掛けたチャチャの表情が真っ青だ。

 お召し物?


 目をやればチャチャを受け止めた少女のお召し物に、赤や茶、黒など様々な香辛料が色移りしている。

 それを見て、私も思わず青くなる。

 見ただけで分かる、高級な絹織物。

 羽織われたカーディガンは、色付きの絹。

 どう見ても、それだけでこのお店の香辛料が全て買えるような高級品。


 それを台無しにしてしまったのだ。


「ああ、これは……本当に申し訳ありません。私で出来ることがあれば」

「旦那様、迷惑を掛けたのは私です……申し訳ありません」


 黙ってなさいチャチャ。

 貴女じゃ、一生かかっても支払い切れませんよ。

 店を取られたら流石にどうにもできませんが、店さえ無事なら分割でどうにか……

 ふふ、10年もあればなんとか出来るかな?

 出来たら良いな……


「私の事は大丈夫ですから、洗えば落ちますし」

「そうですよ、構いませんよ。悪いのはさっきの人ですから」

「それではこちらの気が済みません」


 驚いた。

 いや、貴女は大丈夫でしょう。

 大丈夫じゃないのは、その超高級なお召し物ですから。

 それを汚してしまって、気にしないと?

 何者ですか、貴方達は!

 とはいえ、それは私が許しません。

 

 商人にとって、ただより高いものはありませんし。

 何がなんでも。


「あの、一生懸命働いてお返ししますので……」


 だから、チャチャ……お前じゃ一生かけても無理だと思う。

 借金にしたら、利息を返すだけで終わると思うぞ?

 ここは、責任者である私に任せてくれればいいものを。

 この責任感の強さも、彼女の良いところだ。

 美徳ではあるが、この場合は逆効果。

 

 こんなところで、どうあっても出来ないことを相手に白紙の小切手を切るものではありません。

 私の教育が悪かったのか、彼女の心根が良すぎたのか。


「ギャッ! なんでこんなところに蜂が! ぎゃぁぁぁぁぁ! 来るな! お前、わしを助けろ」

「旦那様! 待ってください! あー、走られるとあぶなっ、痛い痛い! なんでこっちにまで」


 その時、遠くからビグカンとそのお付きの者の叫び声が。

 あれ?

 蜂?

 

 さっき、「やれ」って言ったのって……いやいや、まさか蜂を操るなんて。

 そんな訳。

 それよりも、今はお坊ちゃまの付き人の方のお召し物の件を、どう片付けるか。

 出来れば、半分負担とかにしていた……いやいや、助けて頂いてそれは浅ましいですね。

 さっきの蜂って……

 服の事を考えていたのだが、蜂の方が気になって思わず思考がそっちにもっていかれる。


「おいでトト……」

「はい!」


 横でお坊ちゃんと従者の方のやり取りが耳に入って来る。

 そして、チラリとそっちに目をやる。


 ……はっ?


「えっ?」


 声のした方を見ると、チャチャも同じように固まっていた。

 まあ、目の前でこんなものを見せられた、同じような反応になりますね。

 手を翳しただけで、あんなにべったりとついていた染みが無くなるなんて。

 どんな魔法でしょうか?


「ぷっ、なんですか2人揃って同じような顔をして。本当に2人は良い関係を築いているようですね」

「いえ、私が旦那様となんて恐れ多いです」


 と思って2人で眺めていたら、お坊ちゃんに揶揄われる。

 そして、全力で否定するチャチャ。

 それは、ちょっと悲しいですよ。

 私も。

 これでも、目いっぱい可愛がってきたつもりなのですが。


「そんなに目いっぱい否定されると、私は悲しいよ……これでも、娘のように接してきたつもりなのだが」


 思わずチクりと本音が漏れる。

 私の言葉に、チャチャが申し訳なさそうに頭を下げている。


 それからお店にあがってもらって、色々と話をする。

 チャチャも帰るのをやめて、話に加わる。

 恩人に当たる訳だし、このままというのも気が引けたのだろう。


 家の方は、彼女の姉が今日は早いらしいので大丈夫とのこと。


 ちなみにチャチャを助けてくれたのは、トトという獣人の女の子で同い年だった。

 トトさんの服を眩しい物を見るようにしているが、卑しい目ではない。

 あれは、純粋に綺麗な目を愛でる感じの視線かな?


 まあ、良い物を見る事は目を養う上でも重要ですしね。

 この機会に、しっかりと学ぶのですよ。


 そんな私の目の前に居るのは、トトさんの妹でクコちゃんという獣人の女の子。

 熊と狼のハーフでしょうか?

 耳は熊のようですが、尻尾はフサフサですね。

 香辛料の匂いを嗅いで、ピクピクと動いたり、ブンブンと揺れたりとせわしないですが。

 見ていても、とても和みます。


 ああ、それはかなり細かく粉に轢いてますから、そんなに鼻息荒く嗅ぐと。


「クシュン! きゃっ」


 ほらほら、言わないことはない。

 真っ白な粉を顔に浴びて、白粉(おしろい)を塗ったみたいになってますね。


「酷い顔、ほらっおいで」


 お姉さんのトトさんが、ハンカチを手にクコちゃんを呼んでますが。

 もしかして、そのハンカチで拭く気でしょうか?

 まあ、絹織物の問屋さんの一行なので普段使いの一品……なわけないでしょう!

 どう考えても、店頭で一番目立つところにあってもおかしくないクラスの……

 もしかして、本当にそれが普段使いになるような桁違いの大店……


 もし彼がここに出店したら、この商店街の布を取り扱うお店は軒並み……


「うぅぅ……めにはいったよー」


 そんな事を考えていたら、クコちゃんが目に入った粉を手で擦っている。

 そんなに擦ったら真っ赤になりますよ。


「ああ、辛味の無いものですが、あまり擦っては駄目ですよ」

「まあ……ふふ……」


 真っ白に白粉を塗ったクコちゃんを見て、チャチャからようやく笑い声が。

 どうやら、元気になったようですね。

 何から何まで、本当に申し訳ない。

 

 それからお坊ちゃんではなく、この若さで若旦那を務めているというマサキ様から色々と話を聞かれる。

 主にビグカンに対するものだ。

 

 ビグカンの事から、彼の義理の父親にあたるエチバック商会の事まで包み隠さず教える。

 無駄な衝突を避けて貰うためだ。

 いくら観光客とはいえ、ここでビグカンと揉めるのはあまりにも危険が大きすぎる。

 

 それに、他領どころか、他国で揉めたとなると彼の立場も悪くなっては申し訳が立たない。

 そうおもって、詳細にお話をしたのですが。


 話をすればするほど、マサキ様の顔が黒い笑みに変わっていくのは何故でしょうか?

 まるで、どうにかする算段が出来たかのような。


 いやいや、無茶はやめてください。

 観光に来られたのであれば、全力で観光を楽しんで……ひっ!


 何やら彼に獰猛な魔獣のようなオーラを感じる。

 これは……蟲系の凶悪な魔物を彷彿させる、圧倒的捕食者のオーラだ。

 それが向けられていない私ですら、服を脱いで皿の上に大の字で寝転んでしまいそうなほどの絶望感。

 

 気のせいか、蜘蛛や蜂の幻影がチラチラと……

 

 目を擦ってもう一度だけ、マサキ様をはっきりと見る。


 気のせいだったようだ。

 最初に出会った頃のような、人懐っこい笑顔に戻っていた。

 さっきのは、一体……


「さて、お前達。もう帰るよ」

「「「ええ?」」」


 それから暇を告げるマサキ様の言葉に、トトさんとクコちゃん、マコちゃんが不満そう。

 そんなにチャチャを気に入って貰えたのかと思うと、本当に嬉しい。

 けど、宿で夕飯を取る時間のようだ。

 その予定が無ければ、夕飯くらいこちらで御馳走したかったのだが。


「マサキ様、明日もここに来ませんか?」

「えっ? でも、もう買うもの無いぞ?」


 それから帰る事になったマサキ様達だが、トトさんが明日もここに来たいとのこと。

 それに対して、マサキ様からは連れないお言葉が。


「調味料だったら、いくらでもあっても良いじゃ無いですか! それに、私もチャチャちゃんともっとお話ししたいですし……」


 それに食い下がるトトさん。

 うんうん私としても、ずっとここで働き詰めのチャチャにたまにはゆっくりと、同世代の子とお喋りする機会を設けてあげたいですね。


 どうやら、マサキ様も同じようなお考えらしく、トトさんを困ったように見つめながらもその目は凄く優しい。


 あれ?

 どう見ても、マサキ様の方が年下ですよね?

 その身に纏う雰囲気は、相当に大人びて見える。


「それは、ケバブさんとチャチャちゃんの許可が取れたらだな」


 さらにこちらの都合を気遣う余裕まで。

 本当に、子供なのでしょうか?

 伊達に、10歳そこそこの見た目なのに大店の若旦那を務めているだけのことはありますね。


「うん、あの……」


 そんなマサキ様のお言葉に、遠慮がちに声を掛けてくるトトさん。


「構いませんよ私は、というよりお店ですし。チャチャはどうかな? 仕事が終わった後なら、そこのテーブルを使っても良いから」


 そんな気になさる必要は、全く無いのですからね。

 ここは、来るもの拒まずの商店ですし。


「宜しいのですか、旦那様?」


 チャチャも一応、確認を取って来る。


「勿論だとも……こうやって、上客をしっかりと掴むのも大事だよ」


 彼女も気兼ねなくトトさんとお喋り出来るように、名分を用意してあげる。

 いつも頑張っている彼女へのご褒美でもあるわけですし。


「私はそんな……」


 堅く考えなくても良いというのに、この子は本当に真面目です。

 まあ、そこが好ましく、こうやって甘やかしてしまう原因なのですが。


 歳不相応にしっかりもので同世代の子達は、まだ遊んでいるというのに。

 幼い弟や妹の為に、早くから仕事をしてるわけですし。

 少しくらい、報われても罰はあたりませんよ。


「それは建前というものさ……そう言えば、チャチャも気兼ねなく、この場所を借りられるだろ?」


 そう思っていたら、マサキ様からも助け船が。

 まさに、私の想いをそのまま代弁してくださる。

 本当に不思議な方だ。


「マサキ様は不思議な方ですね。どう見ても子供なのに、どこか大人のようにも感じます」

「そうかい? 一応、彼女達を面倒見る立場として、精一杯背伸びしているだけさ」


 それこそ建前というものでしょう。

 どう見ても、それが貴方の本質のように思えます。

 まるで、保護者のように彼女達に接していますが。

 その眼差しは、まさしく親の持つ愛に近しいものかと……


 彼を子供だと思う気持ちは、出会って数分で消えてなくなりましたが。

 今は、そこらの大人よりも立派な大人のように思えてきました。


 今回のお礼に、いくつかお勧めの香辛料を見繕いますということで、彼が訪れる理由をこちらも用意。

 お代結構ですと伝えたら、遠慮されてしまった。


 お礼なのに。

 だったらと、対価としてチャチャにハンカチを、私にはパンツを留める腰帯を頂いてしまった。

 幅広の、赤茶色の絹の帯。

 用意した香辛料と、全然釣り合わない。


「商品にならない端切れだよ」


 と言われても……すでに、このハンカチと腰帯が商品として問題無いクオリティなのですが?

 

 そして、また彼に会えることを私も楽しみにしていたり……

 

えー……次で後日談を締めたいのですが。

恐らく1万文字で纏める自信がありません(;´・ω・)


2話に分けるか、1日お休みするか(実質、執筆はするので休みでは無いですがw)


ケバブ後編。

ダイカン編。

領主編。

女王陛下編の4人分ですね……

領主と女王編は短めでしょうが(;^_^A


それにしても100万文字で、まだ学生編って(*´▽`*)

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ゴブリンの管理の仕事に出向する話

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是非お手に取っていただけると、嬉しいです(*´▽`*)
カバーイラスト
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[一言] もう作者様含め大好きです!ww 思う存分いくらでも何万字でも大量に 書いちゃってください!!
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