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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第150話:旅も終わり

駄目だ……頭が働かない(-_-;)

「本当に有難うございました」

「何から何まで、お世話になりました……」


 ビグカン達が連行された後のお店の軒先で、ケバブさんとチャチャから礼を言われる。

 ただ、チャチャの顔はどこか物悲しそうだ。

 その視線の先には、割られて店内に散乱したスパイスが。

 かなりの量の香辛料が、台無しにされてしまった。


「ケバブさんも、チャチャちゃんも元気をお出し。手伝えることがあったら手伝うから」

「あいつら、ひでーことをしやがって」


 散り散りになっていた野次馬だが数人が残っていて、ケバブさん達を慰めつつも手伝いを買って出ている。

 どうやらこの商店街で、ビグカンの下についていなかった他の商店の人達なのだろう。


「すいません。皆さんも忙しいですし、そこまでご迷惑はお掛けできません」

「旦那様と、ボチボチ片付けていきます」


 その人たちに、2人は頭を下げながらも手伝いを固辞していた。

 割れた壺を拾うケバブさんの背中が、物悲しさを表している。


「マサキおにい!」

「マサキ様」


 その様子を見ていたクコが俺の右手を、トトが俺の左手を掴んでジッと見つめてくる。

 安心しろ、俺もこのままなんてつもりはないさ。

 2人を安心させるために頭を撫でようとして、両手が塞がっていることに気が付き苦笑いする。


「いや、まだこれからだよ。ケバブさん、割れてない壺を用意できるかい?」

「えっ? 何を? いや、はい」


 ケバブさんは俺の言葉に首を傾げつつも、奥から空っぽの壺を持ってくる。

 いや、一個じゃ足りないから。


「どんどん持ってきてもらう事になるが、取りあえずそこで見ているといい」


 俺は左手を店内に翳すとそこに散らばっていた残骸を全て吸収する。

 そして、右手でクミンシードだけを壺の中に呼び出す。


「えっ? はっ?」

「その壺を覗いてごらん? スパイスは1種類しか入っていないはずだから」

「はっ?」


 俺の言葉の意味が分からなかったのか、それでも変な声を出しながら壺を覗き込む。

 そして、目を見開くケバブさん。


「こっ、これは……」


 壺の中身を手に取ってパラパラと壺の中に落としている。

 それから、手で壺の口の上を仰いで匂いを確認する。


「間違いない……というか、えっ? うちで出してた時より、色が綺麗で不純物が無い」

「あー、そういった意味では完全に壺の中身を再現するのは無理か……でも、売り物にはなるだろ?」


 そうか……手作業でやってるから、どうしても完全に選り分けるの難しいのか。

 それに引き換え俺の能力だと、それだけを召喚出来るから純度が上がると。

 まあ、別にだからといって手間がかかる訳じゃないし。


 むしろ、完全再現の方が難しい訳で。


「売り物になるというか……先の状態より3割増しくらいで売れるかと」

「そうか? それは幸運だったな」

「幸運? いえ、お足が出た分はマサキ様に還元させてもらいますよ!」

「ハハハ、完売するまでこの街に居ろと? 宿泊費の方が高く付くさ。じゃあ、そうだな……次にこの街に来た時に、また美味しいお茶でも御馳走になろうか」

「そのくらいは先の騒動を収めて頂いた分だけでも、全然お礼に届かないです! そのうえ恩を重ねるなんて、どうやって返したら良い物か……」


 黙って自分の懐に入れとけば良いのに。

 まあ、良いけどさ。


 取りあえず、喋っている時間が惜しい。


「チャチャちゃん、どんどん壺を持ってきておくれ。ここにあった全ての調味料を移したいからね」

「はいっ!」

「あっ、こらチャチャ!」


 これ以上はケバブさんのことだから、断られそうなのでチャチャにお願いする。

 足りない壺の分は、管理者の空間から取り出してそれに入れる。


「そっ! そんな立派な壺まで」

「ふふふ、この壺は貸しだよ! いつか、返して貰いにくるから……ほらっ、約束に信憑性が出るだろう」

「ハハ……貴方様には敵いませんね。その……恩人様の詮索をするのは大変な無礼と存じますが、貴方様は一体……」

「ただの旅のちりめん問屋の若旦那だよ……ちょっと、お節介なね」

「ふぅ……でしたら、いつか貴方様のお店で、一等良い布を買わせてもらいます」

「並の価格じゃ無いが、その時は目いっぱい勉強させてもらうよ」


 お店を現状復帰するのに大体20分くらい掛かったが、大方商売が出来る状態にまで持ってこられた。

 これ以上は手伝えることも無いし、観光を再開。

 適当にお土産を買い足して、宿へと戻る。


「大変なお手柄でしたね。貴方様のような方に宿泊頂いて、支配人も光栄とのことです。後程お会いして、是非挨拶を申し上げたいそうです」

「はは、たまたま現場に居合わせただけだよ。わざわざ支配人に挨拶を貰うほどの事でも」

「大丈夫ですよ、旅の邪魔をしないようにと宿泊中は面会を求めませんが、出立の際には宿に居れば挨拶とお見送りは必ずされる方なので。特にスイートルーム以上に宿泊のお客様に対しては、他の予定をキャンセルされてでも行われてますし」


 宿に帰るなりクレオさんに褒められて、ちょっと気恥ずかしかった。

 それに、支配人まで俺のことを知ってしまったとは。


 別に良いけどね。

 旅の恥は掻き捨てだ。


 クレオさんの耳が早いことにも驚きだが、もしかしたらホテルから密かに護衛か何かを付けてくれていたのかもしれない。

 まさかクレオさん自身が付いて来てたりなんて……


 アホな事を想像しつつ、クレオさんにフルーツを適当に切って貰って皆で小休憩。

 その後部屋にやってきた支配人さんに握手を求められ、色々とその時の話を聞かれた。

 うん……純粋に会って、事件の詳細が聞きたかっただけっぽい。

 壮年の男性だったが意外と子供っぽく、少年のように目を輝かせながら事件の顛末を聞いていた。


 もしこれが演技で、究極の聞き上手のスキルとかだったら、俺は彼を尊敬するぜ。

 ってくらいに、スラスラと話が出てくる出てくる。

 自慢話なのに、なんというか気持ちよく話せてしまった。

 相手も嫌な顔一つせずに、山場、山場でテンション上げて叫んだりするものだから余計に。

 お陰で、気持ち良い時間を過ごせた。


 うーん、落ち着いて考えると純粋に仕事が忙しくて、こういった娯楽に飢えていただけかもしれないな……

 

――――――

「この度は、我が国の者が見苦しい姿をお見せして申し訳なかったな」

「いえ、あれはあの者が思い上がって暴走しただけ、他領の貴族の愚行までこの地の領主様の責とは思いません」

「随分と、優しいのじゃな」


 それからシルク伯爵家から迎えが来たため、こうして彼女の屋敷の応接間で会っている。

 お互い迷惑を掛けられた身であるが、それでもシルク伯爵は頭をきっちりと下げてくれた。

 得体の知れない、子供の姿の俺相手に。

 

 これは、侮れない。

 油断ならない人物だと、少しだけ自身の中の警戒レベルを上げる。


「それでお主達は、どこから来たのじゃ?」

「シビリア王国からの、観光客ですよ」

「ほう、西の大陸か……どうりで見慣れぬ恰好をしておるわけじゃ」


 見慣れぬというか、あっちでも見慣れないかも知れないけどね。

 参加者は俺と、ジャッカスの2人だけ。

 一応ジャッカスにも、それなりの衣装を用意して身に纏わせている。

 

 それに合わせてか、シルク伯爵側の護衛も1人だけだ。

 他にはお茶を出してくれた執事の男性が、入り口に待機しているだけ。


「聞けば西の大陸の織物商人の息子との事だが、見たところかなりの大店とお見受けするが?」

「いえ、吹けば飛ぶような小さなお店ですよ。今回は、コツコツと溜めた売り上げで、どうにかこの地に旅行に来られたわけで」

「そうか、苦労して訪れて頂いたのに、本当に申し訳なかったな。何か、侘びとお礼がしたいのじゃが」

「お気になさらずに。あれも含めて、旅の醍醐味かと」


 腹の探り合いは得意じゃ無いんだよな。

 シルク伯爵の発する一言一言に、こちらを探っているような意図を感じる。

 完全に、俺が商人だとは信じてない様子がありありと伝わってくる。


「それでは妾の面目が立たぬ。かといって、どういった物を送るのが妥当なのかのう」

「でしたら、こちらの布を女王陛下にお渡しください。とても良い街でしたと、一言添えて頂けたらと」

「はあ? それはお礼なのか? こちらが物を頂くなど」

「良いんですよ、いずれここで繋いだご縁が何かの役に立つかもしれませんし……この布は2つとない、我が商会の秘蔵の一品です。これと同じものを出せるのは、うちだけですし」

「なるほど……」


 俺の言葉に、シルク伯爵が考え込む。

 それから、深く頷く。


「何かの折にこの街に商売に来たときの布石か。こちらが贈る礼の品としては何とも言えぬが、女王陛下との縁を繋ぐのは礼としては妥当か……実質的に顔を合わせる訳ではなく、献上品を届けるだけだしのう」

「でしょう? それだけで、この国に来た意味があったという事になりますし。父や祖父にも良い報告が出来ます」

「であれば、ここはそなたの言葉に甘えるかのう」

 

 大袈裟にならずに、何かあった時の保険を送り込むことは出来た。

 ついでに、シルク伯爵にも反物を1つ渡す。


「うーむ……これは、本当に恐ろしい童じゃ」


 お近づきの印と言われてしまったうえに、負い目のある立場で贈り物を無下に出来る訳もなく素直に受け取るシルク伯爵。

 その顔は渋面を作っているが。


 ただ、それも箱を開けたらすぐに驚きに変わった。


「色付きの絹か? それにしても、なんと涼やかな色合いじゃ」


 渡したのはパステルブルーの絹。

 うだるような暑さにあって、涼しさを感じられる色合いだ。

 それもグラデーションで白に向かっていく感じの布。

 これだけで、羽衣として使用できそうなクオリティ。


 女性だからか、綺麗な布に目が釘付けだ。


「気に入って頂いたようで、何よりです」

「ん? んん……ああ、余りに美しくてつい見惚れてしまった。いや……これ、値段を聞くのが恐ろしいのう」

「普通の絹に少し色がついた程度ですよ」


 色付きだけにね。


「この手触りで普通の絹とは言いおる。まあ、数が出回らなければ、そら恐ろしい金額になると思うが……まあ、良い。いや、良くない……こんなものを受け取っては、後が怖すぎるぞ」

「いたいけな子供を掴まえて、なんて失礼な」

「いや、他国の街で、そこの領主相手に堂々と渡り合える童をいたいけな子供で済ませるのか、お主の国は?」

「これが、普通です」

「嘘を申せ!」


 それから暫く談笑して、夕飯を御馳走になってから宿に戻る。 

 クコ達が帰りが遅くなって、一緒に夕飯を食べられなかったことを怒っていたが。


 目いっぱい宿の夕食を自慢されたが、それよりも良い物を御馳走になったことは黙っておこう。


 最後に色々とあったが3日目は虫達に乗って街を空から眺めたあと、ケバブさん達に挨拶してから管理者の空間に戻った。

 久しぶりに、観光が出来て楽しかった。

 子供達も、良い思い出が出来たみたいで良かった。


 管理者の空間では、ベントレーがさらに土蜘蛛と仲良くなってたみたいだが。

 

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