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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第149話:モンロード勧善懲悪

予定調和

「おお、なかなか迫力が……」

「あまり無いな……」


 闘技場はかなり広く前から11列目という席のせいもあって、広い闘技エリアを駆け回る戦士と魔獣の戦闘があまりよく見えない。

 それぞれが、思い思いに気に入った料理を持ち込んでみたものの……

 子供達はすでに食べ終わっている。

 ルドルフも目を細めて眺めている。

 

 戦っているのは角の生えたウサギと、屈強な戦士。

 うん……

 うん?


 まあ、確かにこのくらいの力量差が無いと勝ち続けるのは無理か。


 戦士の男の突きをピョンと飛んで躱すと、そのまま穂先に乗っかって。

 手元まで一気にダッシュする兎。

 戦士の男は慌てて槍を下に振り下ろすが、すでにウサギは柄を蹴って男の眼前でクルリと反転。

 後ろ足でキック。


 中々に威力があったのか、男の首が後ろに思いっきり跳ねる。

 尻餅をつかされた男は、首を左右に振って意識を取り戻そうとしているがウサギは待ってくれない。

 男の周りを跳ねては後ろ足でキックを繰り返している。


 ガッガッという音を立てて、男の装備が歪んでいく。

 というか……角、使わないのか。


 一瞬だけ男が左手の掌を上下に振ると、ウサギが僅かだけ動きを止め高く飛び上がる。

 そこに向かって、地面の砂を掴んで投げる男。

 砂の礫に驚いたウサギの体勢が崩れる。


 そしてそれをチャンスとばかりに、男が拾った槍を思いっきり薙ぎ払う。

 凄い勢いで吹き飛ばされるウサギ……というか引っ掛けて投げ飛ばしたような。

 地面を何度もバウンド……地味に手や足を使って衝撃を抑えてないかあれ?

 しかも、あそこだけ妙に砂が柔らかそうだし。


 一気に距離をつめて倒れたウサギを蹴り上げる……

 足に乗せてから、打ち上げたよなあれ……

 あれ?

 これ?


 そのまま降って来たウサギの首を掴んで自身も膝を付いて、地面に叩き付けたように見せて試合終了。

 ウサギはどう見ても死んだふりじゃないかな?

 思いっきり右手でウサギを叩きつける瞬間に、左の肘を地面に叩きつけて音を出していたし。


 まあ良いけどさ。


 その後のメインイベントは、ライオンと獣人の女性。

 ちなみにライオンは尻尾が2つに割れていて、先に棘を持っていた。

 近くに座っていた地元の人の話だと、気性は到って温厚で頭も良いらしい。


 基本的に魔獣といっても、魔力を多分に摂取した変異種の系統。

 動物とさして変わらないものも多いとか。


 知性が高く、気性はまちまち。

 狂暴性に特化したものから、知恵ある隣人として人と接するものもいるらしい。


 現に、魔獣を使った乗り物も少なくはない。

 勿論地域によった特性もあって、昔から人間と敵対している魔物や魔獣が多い。

 害獣として認知されて人間が駆逐を行うと、同族愛の強い彼等は人間に強い恨みを抱くからだとか。


 世間では往々にして人に害するものを魔物と呼ぶことが多いらしいが、大分類でいったら魔獣に含まれる。

 

 目の前のライオンと女性をジッとみる。

 どう見ても、会話が出来ている。

 何か目配せをして、お互いに頷いてみたりと。


 そして激しい戦いにも関わらず、お互いに傷を負う事は殆ど無い。

 息がピッタリの演舞を見せられた感覚。


 最後は女性のハイキックを喰らったライオンがヨロヨロと数歩歩いた後で横にコテンと倒れて終了。


「面白かったね」

「さいごのおねえちゃんかっこよかった」

「ああ、そうだな」


 クコとマコは大興奮しているから、良いけどさ。

 つい、味気ない返事をしてしまった。


 クコ達は流石に獣人の女性とライオンの戦闘になると、目を輝かせて見ていた。

 トトは余り興味無かったのか、表情も変えずに見えているだけだったけど。


 外に出ると、魔獣触れ合いコーナーなるものも。

 良いのかそれで!

 まあ、観光客向けのショー的要素を多分に含んだものだから良いのだろう。

  

 幕間ではライオンの火の輪くぐりや、クマの玉乗りなどなど。

 そういったものも見られたし。

 魔獣を調教しているのは、素直に感心。


 その後商店街に戻ってゆっくりとお店を見て回る。

 昨日寄っていないお店に行ったり。


 流石に広すぎて1日で回る事は出来なかったからな。


「何をするんですか!」

「やめてください!」


 何気なくケバブさんのお店に向かっていたら、丁度イベント勃発の最中だったらしい。

 人の垣根が出来ていて、中から壺の割れる音や怒号が聞こえてくる。


「昨日ここを通ったビグカン様のズボンの裾についていた香辛料から、中毒性と気分を高揚させる効能のあるヒビの実の匂いがついていたらしいぞ」

「ええ、ケバブさんのお店に限ってそんなはずはないと思ったのに」

「見ろよ、セイシーの野郎だ」

「あいつ……」


 周りを取り囲んでいる人達の会話が漏れ聞こえる。

 地元の人達なのだろう。

 他には野次馬根性丸出しの観光客も。


 人ごみを掻き分けて、中に突き進む。


「何事ですか?」

「あっ、マサキ様! いまは……」


 こういう時は背が低い子供で良かった。

 スルスルと中に入り込むことが出来たわけだが。

 俺の姿を発見したケバブさんが、険しい顔で首を横に振っている。


「なんだ、小僧?」


 声を掛けた俺に入り口で民衆を威嚇していた強面の、ザ・下っ端チンピラが近付いて来て睨みを利かせる。

 そんなもので怯む俺……ちょっと待て、まだ早い。


 俺が威嚇されたと感じたのか、右手を通してジョウオウの威圧が漏れ出ているのを感じる。

 何故、お前が見ているんだ?


 いや、まあそんなことよりも。


「あー、おじさんちょっと邪魔! 僕はここの店主に用事があってね」

「おじさんだとっ? 俺はまだ23歳だ!」


 ……

 うん、分かったから。

 それはいま、重要ではない。


 目の前のチンピラが、物凄く悲しそうに怒っているのが表情から良く分かる。


 奥には昨日の貴族……が瞼と唇を腫らした状態で喚いている。

 それと一緒に居た従者……も瞼と唇が腫れているな。

 というかビグカンのやつ、ズボンがやけに膨らんでいないか?


 ああ、お尻も真っ赤に腫れあがっていると。

 念入りに毒を注入しておきました?

 座ることも、仰向けに寝る事もできません?


 ……うん、よくやった?


「分かったよ坊や、で彼等は何をしているのだい?」

「ぼっ! 坊やだと!」


 いちいち反応しないといけないのは、チンピラの運命なのか。

 話が進まないから、出来ればどいてほしい。


「どうした?」

「何事だ?」


 そこに壺を割っていたチンピラ達も集まって来た。


「マサキ様!」

「お逃げください! あの方は関係ありません」


 チャチャとケバブさんが慌てて店から飛び出してきて、俺の前に庇うように手を広げて立つ。

 良い人たちだなー。


「マサキ様!」

「大丈夫ですか!」


 そこに遅れてジャッカスとルドルフもやってくる。

 子供達は?


 ああ、ローズが見ていると。

 1人で3人を?

 大丈夫かローズで?


「おいおい関係無いなら、余計な揉め事には口を挟まない方が身のためだぜ坊っちゃん」


 チンピラの1人が俺に向かって近づいて来ると、手を伸ばしてくる。

 その手をヒラリと躱して、ケバブさんの横を通り過ぎて中に入る。


「その壺も全部叩き割って中を調べろ! 底の方に隠してあるかもしれんぞ!」

「セイシーの言う通りにしろ」

「はいっ!」


 真っ白な布に身体を包んだ茶髪オールバックの男性の指示を、後押しするように声を張り上げるビグカン子爵。


 うんうん……誰だお前?

 ってくらいに、酷い顔だ。


「おじさん達何してるの?」

「ん? なんだこのガキは! 護衛共は何をしている! 摘まみだせ」

「はいビグカン様! お前達、この子供を外に放り出しなさい」


 ……やっぱり、馬鹿なんだなこいつら。

 俺の素性を調べようともせず、すぐに暴力行為に移ろうとするなんて。


「おいおいお坊ちゃん、怪我をしないうちにここから出て行った方が身のためだぜ」

「いや、昨日ちょっとした縁があってね。いくつか、香辛料を譲り受けたんだ。で昨日は手が塞がってて運べなかったから、今日それを引き取りにきたんだけど……何をしてるの?」

「ん? それは良かったな! ここの香辛料に違法な物が含まれていたらしくてね。その検分をしているところさ。食べる前で良かったな坊っちゃん。さ、出てった、出てった」


 ニヤニヤと笑いながらそんな事をのたまったチンピラが、俺の胸をドンと突き飛ばそうとしてきたのでその手を掴んで捻り上げる。


「イテテテテ」


 腕を逆に捻られて上から押さえ込んだことで、チンピラが膝を付いて悲鳴をあげる。

 そいつを見下ろす形で睨み付ける。


「ん? 話聞いてたのか? 俺が貰ったものがそこにあるって言ったんだけど? それを勝手に捨てるってことは、俺の物を捨ててるってことだからな? あっ?」

「イタイつってんアイタタタタ!」


 生意気にも抵抗をしようとしたので、身体強化でさらに倍々ドン!

 腕からミシミシと音がなりはじめる。


「そんな子供1人に何を手こずっているのですか?」


 男の悲鳴を聞いたセイシーが面倒臭そうに店から出てくる。

 チンピラを3人引き連れて。

 奥ではビグカン子爵が不愉快そうに、顔を歪めている。


「で? あんたらは何をしてるんだ?」

「聞いてなかったのですか? ここに違法な種子がある可能性が高いので検分を「誰の権限で?」

「ビグカン様ですよ」


 あっさりと、指示を出した者の名前を出すアホ。


「ふーん……そのビグカンってのが、この街の領主か?」

「いえ、領主様はシルク伯爵です」

「じゃあ、代理執行権でも貰ったのか? 証明する書類とかあるのか?」

「何をガキが分かったような事を」


 うんうん……

 他所様の領地で、勝手にこんな事しちゃ駄目でしょ。

 いくら、この商店街のフィクサー的存在だとしても。


 あー、あれか。

 商店街を掌握しかけてることで、勘違いしちゃったのかな?

 このビグカンさんは。


 それとも、奥さんにそそのかされてまともに考える事も出来ないのか?


「ここに多大な出資をしているのは私だ。その私が、自分の財産の一部ともいえる場所で悪どい商売などされたら、私の評判にも響くからな」

「あー……そうなの? でも、ここシルクさんの領地なんでしょ? あんた関係無いじゃん」

「あん? 口の利き方も知らん余所者が、偉そうに」


 そう、俺余所者。

 それも、かなり身なりの良い余所者。


 俺の素性とか気にならないのかな?

 気にされても困るし、大した身分でも無いけど。


 どっかの国の要人とかだったら国際問題だぞ?

 自分の商品を引き取りに来たら、それを木っ端貴族が壺ごと破壊してましたーとか。


 そもそも勘違いしているが、この領地は確かにシルク伯爵のものかもしれない。

 でも、この大通りは女王陛下の所有物だからね?

 だから、そこにあるお店ってのは領主が代理で管理しているわけで。


 その管理権を持っていない人間、しかもその国に属しているものが口を挟むって国家反逆罪……


 これ、シルクさんに付き出したら、一瞬でお縄になるやつじゃないのかな?


「私が金を出して、また私の下で商売をしているものが多数居るのだぞ? 自分のお店をどうしようが、私の勝手だろう?」

「でも、ここは違うよね?」

「近所の者が迷惑を掛けるなら、それは対処すべきだろう?」


 駄目だ、こいつ話が通じないというか……余所者の俺以上に何も分かっていない。


「マサキ様! 私達なら大丈夫ですから」


 そこにようやくケバブさんが、飛び込んでくる。

 青い顔をして跪いて、子供の俺に縋って来る。

 いや、本気で問題の無い揉め事だった。


「いや、ケバブさん達は大丈夫だよ? 大丈夫じゃないのはこの人達」

「えっ?」

「何が、大丈夫じゃないというのだ! いい加減な事をほざくなよ、クソガキが」


 うわあ、この人も大概手が早いな。 

 ケバブさんを宥めていたらビグカン子爵に首根っこを掴まれて、強引に彼の方を向かせられる。

 そして、睨み付けられる。


 直後……

 ドサッという音が立て続けに聞こえる。

 そして「おおっ!」という歓声が。


「貴様、我が主に何をしている」

「いくらなんでも、子供に手を出すのは大人げないんじゃないですか?」


 ジャッカスとルドルフが指を鳴らしながら、近づいて来る。

 後ろにチラリと尻を突き出して、倒れているチンピラが3人。


 虫達がざわついているのが分かるが、そこは大人しくさせておく。


「なんでこういう奴って金を持つと、ここまで馬鹿になるんだろうね……」

「馬鹿だと?」

「手を放せよ」


 ビグカンの手を軽く払いのけると、地面にすとんと立つ。


「ジャッカスさん、ルドルフさん、少し懲らしめておやりなさい」

「なんすか、そのじじくさい喋り方」

「黙って、働け!」


 俺の口調にルドルフが首を傾げていたが、ジャッカスに尻を蹴られていた。

 凄い速さでチンピラどもが駆逐されていく。


「あんたさー……外国人でも知ってるけど、この道って女王陛下の所有物だよ?」

「あーん? そんな当たり前のことを、外人のガキに言われたくないな」


 うん、当たり前のことだし知ってるんだ。

 尚更、立場が悪くなったよ。 

 民衆の皆もしっかりと聞いていたし。


「でもって、女王陛下の指示のもとシルク伯爵が差配してるんだよね?」

「そうだな」

「そこに勝手に手を出す、しかも他に領地を持った貴族が」

「それは、シルク伯爵が頼りないからだ! 自身の領地の秩序も守れないなぞ」


 うんうん……

 もう駄目だな。

 はっきりと言おう。


「越権行為もはなはだしいな、ビグカン! お前は誰に手出ししてると思ってるんだ? 女王陛下の代役としてここを収めるシルク伯爵、すなわち女王陛下の統治が頼りないと言って手を出してるに等しいんだぞ!」

「えっ? ……? ……? ……! あっ! いや、そういうつもりじゃ……」


 俺の発言に暫く何言ってんだこいつといった顔をしていたビグカンだが。

 何やら重要な言葉が隠されていたことに、ここまではっきり伝えてようやく思い至ったらしい。

 しばらく一生懸命唸っていたあとに、分かったぞ! といったスッキリした顔をあげた後で、一気に青褪めて行った。


「分かったなビグカン! お前がやってることは、国家反逆罪だ! それと、証拠の品は出て来たのか? おいっ、ジャッカス! すぐにそこのオールバックの男を取り押さえろ!」

「はっ!」


 会話の最中にセイシーが胸元の視線を落とし、両手で襟を合わせてゆっくりと後ずさりし始めたのを見逃さない。

 なんて、分かりやすい!


 すでにチンピラの処理を終えたジャッカスに指示を出して、セイシーを取り押さえさせる。

 と同時にゆっくりと彼に近づいて行くと、その胸元に手を突っ込む。


「おいっ! 馬鹿! やめろ!」


 虫の報告で全ての企みはお見通しだ。

 懐から茶色の小瓶を取りだす。


「これはなんだ? もしかして、これをここのスパイスに混ぜようとしていたんじゃないのか?」

「何を、言い掛かりだ!」


 セイシーを無視して、その小瓶を急展開についてこられずにポカンとしていたケバブさんに手渡す。


「匂いを確認して貰って良いですか?」

「あっ、はい」


 俺の言葉にようやく再始動を始めたケバブさんが、小瓶を受け取って蓋を開ける。

 それから手で煽って匂いを嗅ぐ。


「これはっ! 間違いない! ヒビの実を炒って粉にしたスパイスです!」

「馬鹿な! 何かの陰謀だ!」


 ケバブさんの言葉を聞いたセイシーが喚き出す。

 そして、俺はニヤリと笑みを浮かべると、ゆっくりとセイシーに近づく。


「これ……打ち首確定でしょ? 女王陛下のおひざ元にあるお店に対する、悪質な妨害。それも、こんな物まで用意して。陰謀を企てたのはお前らだろ、ビグカン! セイシー!」


 俺の言葉に2人とも真っ青だ。

 民衆もざわついている。


「なっ! なんてことをしてくれたんだセイシー! 私は知らん! なんにも知らんぞ!」

「なっ、ビグカン様! それはあんまりです!」


 出たお決まりの三文芝居。

 とことん、お約束の流れが始まった。

 これは……こうなったらこう、ああなったらああという流れの神様でも居るのではなかろうか?


 善神様とか、善神様とか、善神様とか?

 まあ、彼に人の運命をどうこうできる力は無いが。


 おっと……何やら威圧感が上から降って来た。


 流れ的にはそろそろ……


 遠くから馬の蹄の音が聞こえてくる。


「何事だ! 何があった!」

「何を揉めているのだ!」


 出たな、間の悪い警備兵!

 こういう流れだと、いっつも事件が解決し終わった後に出てくるポンコツになるのは何故なんだ?

 ある意味で、最高に空気を読んだ登場ともいえるが。


 いや、まあその辺りも含めて、虫達が時間をコントロールしたのかもしれない。

 馬を足止めしたり、通報に行く人を足止めしたり。

 やめてくれ……

 簡単に解決出来るなら、簡単に解決出来た方が。


 ちらっと管理者の空間で、日本の時代劇の流れを話したのは間違いだったかもしれない。


「これはビグカン殿、何事ですか?」

「あっ、えっと! そうだ、そこの男がこのお店に違法な物が置いてあるというから、この通りに店を持つ者として確認しに来たのだが……そやつの、狂言だった! 私は、もう解決したみたいなのでこの辺りで失礼を」

「ん? その男? またお前か、セイシー!」


 一際立派な服を着た警備の賛成にビグカンが早口でまくし立てると、その場を後にしようとする。

 のを、民衆が許さない。


 隙間なく包囲されている状態で、抜け出そうとすると押し返される。


「そいつもグルですよ、警備隊長さん」

「ん? ああ、貴方はどちらの方でしょうか?」


 ゆっくりと警備隊長に近づいて行って、笑顔で声を掛ける。


「いえ、ただの旅のちりめん問屋の息子ですよ……」

「なるほど、相当な大店の御子息とお見受けしました。が、そのような方がどうして、この場所で騒ぎの中心に?」


 流石は観光客の多い街を警備する人だけのことはある。

 見た目をしっかりと見て、子供相手でも真摯に接してくれる。

 これは、話が早い。


「なんと、それはお恥ずかしいところをご覧に入れてしまいましたね。ご協力感謝いたします」

「貴様! 何故私を捕らえるんだ! そこのガキとケバブがグルだったんだな! そうだ、そうに違いない! 警備兵! あいつだ! あいつを「貴様は少し黙れ、この恥さらしが!」


 俺に対して深々と頭を下げるビグカンが、怒鳴り散らす。

 が、警備隊長に睨みつけられて、すぐに俯いてしまった。


「貴様……覚えておれ」

「あのさあ? 格が上の貴族に喧嘩は売るわ、女王陛下の所有物には手を出すわ、彼女の代理人に唾吐くわ、あげくに無碍の市民に冤罪をでっちあげて損失出すわ……それも他国の観光客が集まるこの場所で、これほどの国の恥を晒したお前が、日の目を見られると思うのか? それほどまでに、女王陛下ってのは慈愛に満ちている方なのか?」

「……えっ?」

 

 えっ? じゃねーよ!

 最高に楽観的に考えても、お前は打ち首獄門だよ!

 奥さんも連座確定だし、義父も不味い事になるんじゃないか?


「来い!」

「あ……ああああああああ」


 頭を押さえて蹲る……事も許されず膝を付く前に腕を引き上げられて、縛られるビグカン。

 アホ過ぎる。


「本当にこの度はありがとうございました。行くぞお前達!」

「はっ!」


 そして、パカパカと馬を歩かせて去っていく警備兵達。

 民衆もポカンとその後ろ姿を見送る。

 とんだ茶番だった。


 それを見送っていた警備隊長が、こちらを振り返ると膝を付く。


「この度はご協力、誠に有難うございます。後程恐らく伯爵から改めてお礼を望まれると思いますので、宜しければ宿泊先をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「いやあ、ただの商人にそんな大それた対応は、身に余ります」

「ただの商人ですか……それは分かりましたが……これほどの事をしていただいて黙って返したともなると、私の首が飛びますよ」

「あー……はい。でしたら……」


 それから宿泊先を伝えて、笑顔で去っていった警備隊長を見送る。

 というか、商人じゃない事がバレバレだったかもしれない。

 まあ、良いか。


 これにて、一件落着と。

ビグカンがアホ過ぎるとか、セイシーがおバカ過ぎると思われるでしょう。

が……時代劇の悪役と言うのは、常にこのレベルでアホなのです(`・ω・´)b

今回はそういった物語として、お読み頂ければ(*´▽`*)


次回は旅の終わりと、ほのぼのパートで良い感じかな?

評価いて頂けると、ハッスルします( ̄ー ̄)ニヤリ

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