第148話:モンロード勧善懲悪 嵐の前
ほのぼの観光回
「おはようございます」
「随分と早いのですね」
「いえいえ、それはクレオさんもでしょ?」
まだ横で爆睡しているクコとマコを放置して、とっととリビングへと向かう。
すでにクレオさんが部屋の入り口に立っていて挨拶してきたので、ちょっとビックリ。
もしかして、昨日の晩から?
という訳はない。
きちんと彼女も休んでいる。
この部屋備え付けの、従業員の休憩スペースで。
「何か飲まれますか? オススメは朝絞りのミルクです」
「じゃあ、それを貰おうか」
クレオさんが、部屋の隅に置かれた箱から瓶に入ったミルクを取り出す。
……
いや、確かにそうだよな。
うんうん……
流石はスイートルーム。
箱から取り出されたのは色取り取りにゴージャスに装飾された、陶器の瓶。
箱はクーラーボックスのようで、蓋に氷の魔石が取り付けられていた。
ただこの魔石は消耗品らしく、冷蔵庫のように長期稼働は出来ないと。
魔石があるのに、冷蔵庫はまだ開発されていない辺りにチグハグさを感じるが。
俺の為に取ってあるのかもしれない。
確かに瓶は立派で、ベルモントでも中々にお目に掛かれない一品だ。
だが、量産品のガラスの瓶であれば恐らくうちで作った物の方が品質は上だろう。
……そうだよね!
量産品のガラスの瓶でも割と高級品扱いだし。
本気で貴族の為に用意するなら、装飾は必要か。
いや、そこで真似したら負けた気がするな。
ここは、切子ガラスの制作を急がせるか。
透きも良いが、それよりも色ガラスを被せて透明な模様を切り出すタイプの。
こちらは量産する必要は無いから、手作業で職人に作らせたら良いだろう。
朝から創作意欲を刺激される一品が見られて、それだけでここに来た甲斐があった。
……ですよね。
いや、まだまだだ!
これは透きだからね。
透明のガラスを彫って、模様を付けたガラスは既に存在していたらしい。
綺麗な透きガラスのグラスに、ミルクが注がれる。
だって……
基本西の大陸だと、木のジョッキが多かったし。
屋敷で使っているのも、銀製品がメインだし。
グヌヌ……やるじゃないか、南の大陸。
ただし、流石に色付きではない……が確認。
「これって、透明以外のもあるの? 例えば透明と青とか?」
「一応色のついたガラスはありますが、こういった模様の入ったもので2色使われたものはありませんね」
よしっ!
まだ、付け入る隙はあった。
「あー、頭痛い……」
「おはよう」
「あっ、おはようございますマル……マサキ様」
そこにルドルフが入って来る。
頭を押さえながら。
「ルドルフ様は、お水の方が良さそうですね」
「あー、すいません」
ルドルフの様子を見たクレオさんが水を用意する。
飲む前だったらミルクは、二日酔い防止に役立つんだがな。
にしても、酒くせーなこいつ。
こっちはこの身体のせいで、旅行中は酒を我慢してるっていうのに。
「頭痛そうだねー! 風邪?」
「アイタタタ……こんな近くでそんな大声出さなくても聞こえますよ」
すまんな、わざとだ。
「なんすかその笑顔? もしかして、わざとですかい?」
「さあな? 護衛の癖に随分な身分だな」
「おっと、これは大変失礼を。姿がマルコ様なので、つい子供のような感覚で」
「ああ、仕方がない事だ。まあ、仕事さえしっかりとしてくれれば良いさ」
俺の雰囲気の変化を感じ取ったのか、ルドルフが居住まいを正す。
一応、見た目は子供でも俺に対しては、基本的に大人に対する態度を取ってくれる。
寝起きと二日酔いで油断していたらしい。
「ふう、すいません。少し楽になりました」
「それは良かったです朝食までまだお時間ありますし、果物でも用意しましょうか?」
「そこのグレープフルーツに蜂蜜を掛けてもらうと良い。二日酔いには、水分とビタミンCの摂取が良いぞ! アセトアルデヒトを分解してくれるからな」
「ビタミン……アセトアル……また、よく分からないことを」
「ハッハッハ、神の知識とでも思っておいてくれたらいいさ。それに蜂蜜の果糖は頭痛を和らげてくれるからね。クレオさん、すまないが彼にグレープフルーツを切ってやってくれ。それと、蜂蜜を」
「はい、畏まりました。マサキ様は何か要りますか?」
「いや、私は大丈夫だよ」
「では、すぐにご用意いたしますね」
俺の言葉にクレオさんがニッコリと微笑むと、すぐに籠からグレープフルーツを取り出してシンクへと向かう。
その後ろ姿を見送りながら、ルドルフに声を掛ける。
「で? ただ、飲み歩いていた訳じゃ無いんだろ?」
「おっ? 流石はマサキ様! これで、本当に飲み歩いてただけなら怖いところですね。ちょっと、気になる事がありまして」
「ビグカン子爵の事か? それとも彼の妻に取り入っている元スパイス商人の男の事か?」
「えっ?」
俺の言葉に、ルドルフが固まる。
それから、数度頭を振って……
「アイタタタ……」
二日酔いで頭を振ったからか、頭痛がぶり返したらしい。
「何をやっているんだ、お前は」
「すいません。まさか、そこまでお耳が早いとは思いませんで」
それからルドルフと情報のすり合わせを行う。
男の名前はセイシーというらしい。
元々はセイシーショップとして、スパイスを扱っていたとか。
今回は、ビグカン子爵のズボンの裾についていたスパイスから、中毒性のある魔種の匂いを彼が発見したと。
それを元に、ビグカン子爵が乗り込むらしい。
うんうん……
馬鹿だな?
本当に馬鹿だこいつら。
いや、面白いから良いんだけど。
踏み込む時刻は昼前と。
なるほどなるほど……
流石にその時間に、ケバブさんのお店を訪れるのは不自然だな。
やはり夕方までは、適当に時間を潰すしかないか。
その後はトトが起きて来て、クコとマコを起こしに行った。
ローズは爆睡中と。
そうこうしているうちに、朝の見回りに出ていたジャッカスも戻ってくる。
そんな事をしてたのか。
「周辺に怪しい人影はありませんでした」
「少しは素直に旅行を楽しめ」
「いえ、私は仕事で来てますので」
お堅い奴め。
朝食に向かうのにローズを起こさせる。
起こさないときっとうるさいからな。
時差ボケ的なものもあるのかもしれないが、一番最後という事に恐縮していたが。
朝食はホテルの食堂で、伝統的なブレックファストを。
パンは普通にちょっと固めのパンだった。
けど、ジャムが出て来た。
卵とココナッツミルクを使った、カヤっぽいジャム。
うん、何度も言うがココナッツミルクは乳製品のくくりに入れて良いのか?
美容という点ではありなのかもしれないが。
それとカレー味のマッシュポテト。
他にはフルーツサラダと。
バナナと葉野菜がメイン。
飲み物はミルクかオレンジジュースね。
中々に美味しそうだ。
「このジャム美味しいですね」
「この芋も、こういう味付けならいくらでも入りそうです」
うんうんポテトチップスやらポテトサラダなどなど、定番の異世界食チートを真っ向から牽制してくる料理が使われていた。
ガレットや、ジャーマンポテトでジャガイモ無双が……
というか身近な食べ物のジャガイモ料理の派生が、そんなに無い訳無いか。
ジャガイモ自体が無いという設定ならともかく。
ジャガイモがあるなら、少しでも美味しい物をと考えるのは普通だな。
ジャガバターで、感動を生めると思うなよ!
と真っ正面から釘をさされた気分。
よしっ、料理面でも本気出そう。
土蜘蛛が。
南の大陸の食文化に感動させられつつ、今日の行程を確認。
昨日できなかった川下りをしつつ、観光名所めぐりと。
まず運河を下って港へと向かう。
それからモンロードを見渡せる灯台、ゼペットの塔に上って景色を堪能する。
そして、そこから馬車に乗って北上。
モンロード大聖堂で、美術品の鑑賞。
壁面や天井にも、絵が描いてあるとか。
それに建物自体も、それなりに特徴のある建物らしい。
昼食は、今日は商店街に戻って屋台で食べ歩きにしてある。
各々好きな物を買って、食べられるようにと。
そして、闘技場で観戦。
今日は人と魔物の対戦が行われるらしい。
午前の部と午後の部、そして夜の部の3部構成。
どれも同じ人が出るところを見ると、必ず勝てる魔物を相手にするのだろう。
それが終わったら商店街に戻って、ケバブさんのお店に向かうと。
本当ならその時間に、トトとローズの女性陣にオイルマッサージ、ジャッカスとルドルフの男性陣には普通のマッサージを用意していたのだが。
その間クコとマコを連れて、お菓子の美味しい喫茶店に行こうと思っていたのに。
まあ良いか。
――――――
「それじゃあ、渡し賃は1艘貸し切りで大銀貨2枚(2万円)だけど良いかい?」
「ええ、お願いします」
ホテルから運河に向かって歩いて、それから少し北上したところで目的地の遊覧船の船着き場に付く。
そこには個人所有の船から、営業用の船までズラリと並んでいた。
そうだな、いずれはこの沿岸に別荘を買って、船をここに繋ぐのも悪くないか。
そんな事を考えつつも船会社の運営する、観光用の船が止めている場所で受付の男性にお金を渡す。
なかなかに色黒で、いかにも海の男といった感じだ。
ここはまだ、河の範疇だが。
そして案内された先には綺麗に磨かれた純白のヨットが。
中々に立派な船だ。
帆はあるが、手漕ぎのオールが並べられた場所が3カ所あり、そこにそれぞれ屈強な男性陣が座っている。
ちなみに男性陣は獣人だった。
そして最後尾は舵取りのための、船頭さん……見た感じは優男が立って笑顔でこっちに頭を下げる。
観光案内も兼ねている、この船の顔でもある。
なかなかにイケメン。
いや、オールを握っている3人もイケメンだが。
こっちは爽やかな、肉体派イケメン。
あっちは、美青年。
うんうん……野郎相手にはなんの意味も無い。
どうせなら、美人のガイドでも付けてくれたら良いのに。
「うわぁ、凄ーい!」
「ああ、下から見るとまた違った景色に見えるな」
「こちらはこの国でも美観地区の1つとして、とても有名なのですよ。河から眺める壁面においては特に色彩にこだわっておりまして専門部門から指定が入ります」
「えっ?」
「土地の持ち主や建物を建てる人の意見よりも、この地区の景観を管理する国の専門部署の意見が優先されるということですよ」
お……おおう。
ある意味で国権乱用だが。
まあ、川面なんてのは、住んでる人からすれば気にしないのかな?
「ただし定期的な塗り直しにには、国から補助も出ますので」
「悪い事ばかりじゃないってことか」
「他には、ほらっ……」
そう言って船頭さんが指さした先には洗濯物が干してある紐が。
「外側に干すもの、内側に干すものも指定があります。主に河から見える外側には手拭や民族衣装などが、内側には普段着や下着類が干されてます」
お……おう。
正直どうでも良いが、どうでも良い事も無いか。
こうやって河から眺めるのにおっさんや、ばばあの下着が見えたら全てが台無しだもんな。
全力で作られた景色だが、なるほど中々に洗練されている気がしないでもない。
それから、街の事を色々と聞きながら港の方へと到着。
この後も予定が詰まっているから、買い物は……出来なくもない。
なので海鮮市場を覗く。
「わあ、綺麗なお魚」
「そうだな……」
綺麗な魚だが、食べるのに勇気がいる。
けどまあ、南国の新鮮な魚だと思えば普通に食えるかな?
緑やら青やら、赤い魚。
うん、真鯛の赤は気にならないのに、この思いっきり原色系の赤い色をした魚はどうも……
でも、キンメやカサゴも赤いし。
いや、のっぺりとした赤が食欲を……
緑とかも、うーんって感じだな。
皮を剥いでしまえば、普通の白身なのだろうが。
一応それでも適当に買って、管理者の空間に送ってみる。
ようやく、まともにあっちでも魚が食べられそうだ。
「うわあ、凄い綺麗」
「ああ、これは一見の価値ありだったな」
「あそこが私達の泊っているホテルですか?」
それから必死の思いでゼペットの塔に上って、街を一望。
こうやって見ると綺麗に区画整理してあって、それ自体が1つの完成された絵画のようだ。
これは、スケッチブックを持ってきて子供達に写生をさせても良かったかもしれない。
「マサキおにい! あれみて! おーい!」
「ああ、あっちも気付いてくれたみたいだな!」
クコが指さした先には、ここまで送ってくれたヨットが。
船頭のお兄さんや、オールを漕いでいた男の人達がこっちに手を振っているのが見える。
サービス精神満載だ。
「次に向かうモンロード大聖堂はあれだな」
「善を司る神である、ゼシーン様を祀っているんだっけ?」
「うーん……ゼシーンって名前なのか」
ゼシーンっていうか、善神様な。
名前は無かったはずだが、善神というのが間違って伝わった感じがしなくもない。
まあ、あの人は細かい事は気にしないだろうが。
一応善神様に聞こえなくもないし。
その教会の上には5つの輪が重なって1輪の花を模していた。
それぞれに意味があるらしい。
優しさや愛情、幸せ、喜び、楽しみを表しているとか。
その中でさらに細分化されるらしいが、大まかに5つの正に属する心の象徴と聞いた。
ここで十字架が上に乗っかっていたらどうしようかと思ったが。
流石に、そんな事は無かった。
それから灯台を下りて、モンロード大聖堂に向かう。
が、その前に道すがらの茶屋で一服。
熱すぎて、クコ達がちょっとしんどそうだったからね。
熱中症には強そうだけど、流石に灯台を上がったりしたら子供達は汗だくだ。
当然、大人たちもだけど。
一応昨日同様、日傘をさせばそれなりに涼しいのだが。
それでも、それだけじゃ凌ぎきれない暑さだ。
「うわぁ、きれい」
「あははは、面白れーなこの絵」
モンロード大聖堂の中には、壁画や天井の絵の他にも絵画が飾られていた。
子供達にはちょっと退屈かなと思ったが、そうでも無かった。
天井には両手を広げた善神様の絵が。
とはいえ、顔を書くのはご法度らしく、布で顔は隠されているが。
その周りに多くの人や亜人、動物や魔物が手を伸ばしている。
まるで、救いを求めるかのように。
動物たちも二足歩行をしているかのように立ち上がっていて、その絵を見てマコが喜んでいる。
子供には理解出来ない部分が……ごめん、俺もちょっと立ち上がって手を伸ばす動物の絵の良さは分からん。
日本の鳥獣戯画よりも、生々しい写実的な絵だし。
いってみれば、完全なる獣人。
少し不気味だったり。
壁画は後光を背負った善神様が手を広げて、花を芽吹かせている絵。
旅の途中で力尽きたであろう旅人を、召し上げる絵などなど。
旅人の身体から魂が抜けているかのように、同じ顔の人物が白いローブを纏って善神様に手を引かれていたり。
ベッドの上に横たわる老婆から、若返った美人の女性が笑顔で両手を組んで善神様を見上げていたり。
いかにもな宗教画が描かれていた。
絵画の方には、髑髏の仮面を被った邪神様が亡者を地獄に引き込む絵なども。
あとは良く分からない幾何学的な絵や、抽象的過ぎて面白くなった人の顔の絵なども。
ある意味で美術館的な。
その抽象的な絵は子供達に大人気だった。
トトやローズ、ジャッカスは写実的な絵の方が好みっぽい。
ルドルフは全く興味なしと。
こうやって絵を見た時の反応でも、それぞれが違った反応を見せてくれてそれが俺は面白いのだが。
正直絵の良さは良く分からない。
分からないけどリアルな絵ほど凄いと感じる辺り、芸術を理解する力は低そうだ。
いや、幻想的な絵なら惹かれる事も無くはない。
そして商店街に戻る。
時間的には昼過ぎだから、ケバブさんのお店は騒動後かもしれない。
通りがかった時に、まだ揉めているようなら口を出させてもらうつもりではあるが。
そうじゃなくて、もし衛兵とかに連れていかれていたら牢獄から救い出すつもりでもある。
どっちに転んでも、彼は助ける予定だ。
予定ではあるが、どう転んでもこの騒動はビグカン子爵に取って不利益にしかならないだろう。
俺が手を出さなくても。
ただ知り合いになったからには、お節介を焼かせて貰う。
ちりめん問屋の御隠居ならぬ若様は、お節介なのだ。
「マサキ様、このお肉美味しいですよ。いかがですか?」
「ああ、1つもらおうか」
トトから差し出された葉っぱにくるまれた鶏肉を1つ分けて貰う。
香辛料で味付けされた、焼き鳥。
骨付きの鳥のもも肉だが、半分を葉っぱでくるんで持って食べるものらしい。
「マサキおにい、こっちのパンみたいなのもおいしいよ」
「ああ、それも貰おう。クコ、こっちにおいで。お口」
クコが手に持った、パイ生地を揚げたような食べ物を勧めてくれたので一口貰う。
ただその前に濡らした布で、彼女の口を拭いてあげる。
折角のベッピンさんが溶かした砂糖を塗ったパンのせいで、口がベトベトなうえにパイ生地が付いていて酷い顔になっている。
「んー」
口をゴシゴシと拭くと、小さいながらも顔を顰めていて可愛らしい。
「マサキ兄、こっちの腸詰もオススメ!」
「有難う」
クコの口を拭いていたら、横からマコが大きなウィンナーを差し出してきたのでそのまま一口齧りつく。
グルグルに巻かれた長いウィンナーの中心に串がさしてある食べ物だ。
子供用の辛味の無い香辛料が使われたものだが、シナモンも使われている。
匂いを嗅いでうーんと思ったが、まあ悪くはない。
悪くはないが。
「うん、流石は食いしん坊のマコが勧めるだけあって、美味いね」
折角食いしん坊のマコが分けてくれたので、心から美味しいと笑顔で応える。
ある意味で本心だ。
子供達が、俺に食べて貰いたいと思った食べ物だ。
不味い訳がない。
というか……
こうやって、子供達が自分の選んだ食べ物を勧めてくれるのが本気で嬉しい。
これがやりたくて、各々に気になった料理を屋台で選ばせたのだ。
勿論、外れもあったりするが。
「これも美味しい……」
と言いつつも、こっちには勧めてこない。
そして、食べる速度も遅い。
何より笑顔がぎこちない。
それだけで、ああ外れだったんだなと分かる。
分かるからこそ……
「そんなに美味しいなら、俺も食べてみたいね」
「うーん……マサキ兄の好みには合わないかもしれないよ?」
「いや、気になるからね」
けど俺が渡した金で買った事もあるし、何より食べ物に困っていた彼等は食べ物を粗末にしない。
だからどうにか自分で処理しようとしているのが、嬉しく思える。
そもそも大人と子供の味覚は違うし。
うん……マコの気持ちが良く伝わって来た。
何故に、豚肉を砂糖と混ぜた小麦粉の衣で包んで焼いて、果実系のジャムまで塗ったのか。
しかも豚肉に香辛料で下味をつけているのが、なお頂けない。
その豚肉の中に、砂糖を焼いて固めたものまで入っている。
「確かに美味しいね。もう一口貰っても良いかな?」
「良いけど……」
マジかって顔をマコにされた。
俺の味覚がおかしいみたいな表情をするな。
お前だって、美味しいって言って食べてたじゃないか。
「これおいしくなーい! マサキおにいたべてみて!」
「ははは、美味しくないのにくれるのかい? うん、クコが美味しく無いって言うなら、俺も食べてみたいかな?」
クコは素直に美味しくないから、食べてみてと勧めて来てくれた。
進めてくれたのは見るからに美味しく無さそうな魚料理。
シナモンシュガーに漬けた魚に、アイシングまで振っている。
そして砂糖多めで割と良いお値段。
アイシング……グラニュー糖とレモン汁か。
うう……魚が生臭い。
これは美味しくない。
「ふふ、確かにこれは美味しくないね」
「うん、ぜんぶあげる!」
クコ……容赦ないな。
貰うけど。
彼女たちには、美味しい物をいっぱい食べて貰いたいし。
「こらっ、クコ!」
「良いから。折角の旅行だし、美味しくないものを無理に食べさせなくてもいいだろ?」
「でも食べ物を粗末にするどころか、マサキ様におしつけるなんて! 全く、あの子はもう」
トトがプリプリと怒っているが、別に最悪は虫達にあげたら良い。
うちにはなんでも美味しく食べてくれる、子も居るし。
そういうトトも盛大な失敗をしていたが。
「無理しなくても良いよ。美味しくないんだろ?」
「ええ……そんな事は……」
「まあ、これは俺に任せて、美味しい物をもっと探そう」
渋るトトから奪ったのは、彼女が昨日大層お気に入りだった現地のカレー。
いや、カレー自体は何度か食わせてたけど、こっちのシンプルな香辛料で作ったカレーも好きだった様子。
ただ……
オーブンで焼いたであろうシナモンシュガーたっぷりの林檎に、カレーを掛けるって……
いや、美味しそうに食べてる人も居るけど。
正直……
上級者向けの味だったとしか。
変わった美味しさともとれなくも……うーん、判断に困る。
けど、個人的にはアリかナシかで言えば、有りよりの無しかな?
まあ、お腹の調子が悪くなりそうだったら、左手で強制的に胃洗浄だなこれは。
「あの、マサキ様……これ」
「あー、美味しそうだな。是非、1人で食べてくれ」
ちなみに冒険したローズは無視だ。
いくらなんでも虫食は俺には無理だ。
立場的にも、日本人的にもな。
でも前世で食った、蜂の子のバター炒めは……美味かった。
美味かったけど虫達には内緒だし、前世の事は時効だとしている。
今は美味しかろうがなんだろうが、絶対に食べない。
何より美味しかったななんていったら、僕の身体を食べなよ展開はまったなしだし。
そうなったら、土蜘蛛が泣きながら調理する姿しか見えない。
勿論、当たり料理も多くあったよ?
特にジャッカスやルドルフは、冒険しないからね。
彼等は無難な料理ばかりを選んでいたし。
彼等もまた当たり料理は、子供達に分けてくれていた。
ルドルフがちょっとずつ子供達と距離を詰めていくのは、見えていて微笑ましいものがある。
それにしても、この旅行でどうにか希望が1つ叶った。
こうやって子供達が自分の選んだ料理を、俺に食べて貰いたいと思って勧めてくれることだ。
だから、俺も自分では何も買っていない。
彼等がオススメしたものが、食べられるようにと。
あー、幸せ。
この後の大仕事の為に、少しでも英気を養って置かないと。
文字量空白込みで9.5K……
信じられるか? これでも、かなり箸折ったんだぜ?
本気出したら、この1話を3話くらいにして20K超える自信が(* ´艸`)
自己満に走るか、ある意味で空気を読むかってところですね(;^_^A
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