第143話:海外旅行 出発編
「さてと、それじゃあ留守は宜しくな」
管理者の空間にて、マルコとベントレーにお留守番をお願いする。
彼等の為に、快適空間な建物も準備してある。
一応彼等は彼等で、管理者の空間で色々と予定を立てていた。
地竜のランドに乗って、森を散策。
蜂による、空中散歩。
空飛ぶ大百足による、スリリング空中遊泳。
そう言えば、湖の中道なんてアトラクションも……
湖に住む魚達が、水魔法で水中トンネルを作り出してくれると。
でもって、接待回遊。
温泉施設にも1日は行くらしい。
ちなみに、大顎と土蜘蛛が常に傍にいると。
三食、土蜘蛛の料理。
おやつは、10時と15時の2回。
……中々に、優雅な過ごし方だな。
さらにマルコもタブレットは使えるんで、ある程度までなら欲しいものは交換していいと言ってある。
「知らない人が来ても、決して扉を開けちゃだめだからな」
「知らない人なんて来ないし」
言ってみたかっただけだ。
この世界で、ほぼ一番安全な場所だし。
あとはマハトールとリザベルも居るし、そんなに心配はしてない。
そして、タブレットの地図に向かっていざ出発。
の前に。
「忘れ物はないか?」
「無いです」
「うん、ちゃんとぜんぶもった」
「任せて」
荷物はきちんと持っているらしい。
といっても、持たせているのは肩掛けの鞄と小銭入れ。
少しばかりのお小遣いだ。
渡した鞄には小さな蟻と、蜂が1匹ずつ入っている。
ぬかりはない。
「トイレは済ませたか?」
「うん! いってきた」
「大丈夫ですよ」
「うん、大丈夫」
トイレも済ませたと。
じゃあ、早速出発だな。
ジャッカスとローズ、ルドルフの3人が苦笑いしているが。
まあ、良いだろう。
――――――
「ここが、今回の目的地! 南の大陸にあるモンロードだ!」
そう言って俺が指した先には、綺麗な大きな道が突き抜けている。
といっても街の道というだけではない。
この道は、この国を真っすぐ横断しているのだ。
そして、その道沿いにある街でもそこそこ大きな街。
一応、ここにも運河が流れていてそれなりに、建物が並んでいる。
ただ、その運河の上も通り抜ける大きな道のお陰で、割と広い土地を贅沢に使った商業区などの比較的見通しの良い地理の分かり易い区画もある。
運河は街を縦断しており、大きな道は街を横切っている。
この道は、ミルキーウェイと呼ばれ、昔は乳製品などを運ぶのに使われていたと。
王都では、昔はチーズや牛乳などの乳製品が重宝されていたらしく、集中的に集められていたと。
理由としては、当時の女王が乳製品による美肌効果や、豊胸効果を期待してとのこと。
実際に効果があったかは分からないが。
各領地の貴族は、より品質が高く新鮮な乳製品を多く運んだ者こそが、この国に貢献しているというような節もあったらしい。
ちなみにこの道は、国の所有物だ。
早く運ばせるために、女王主導による国家事業として造らせたと。
まあ……女王存命の間に、完成はしなかったらしいが。
それでも、大部分の工事は終わっていて、実際に途中までは使われていたと。
そしてここは運河を通って、内陸部からも乳製品を運ぶ人達を迎え入れていたため、かなり大きな都市として発展したと。
うんうん、事前に調べたガイド情報をおさらいしながら、横を見て溜息を吐く。
一応、ジャッカスがクコを、ローズがトトを、ルドルフがマコを面倒見ている。
がだ……
俺に、周囲の視線が集まっている。
理由は分かる。
3人の獣人の子供を監視するように傍に立つ、2人の屈強な男とそこそこやりそうな女性。
その先頭で偉そうにしている、立派な服を着た子供。
顔には怪しげなお面を被っている。
目立って仕方ない。
でも、それは関係無い。
俺が、ガッカリした理由……
そう……現地について、ジャッカスを見上げてから気付いた。
俺……子供の姿だ。
10歳児相当。
子供なのだ……
クコ達の保護者気分で連れて来てやったのは良いが、トトの方が背が高いしどう見ても年上だ。
最近は栄養価の高い物を食べているせいか、身体も丸みを帯びて来て背もスクスクと伸びて女の子らしくなってきたし。
ショックだ。
とはいえ、いつまでも凹んでいる訳にはいかない。
気分を切り替えて、観光をしないと。
「ここモンロードは乳製品を使った食べ物が有名で、他にも周辺領地から色々な物があつまる中継都市として栄えてるんだ」
「へえ、マサキ様よくご存じですね」
くぅ……子供達と手を繋いで観光して、おねだりされてとかって色々と想像していたけど。
クコとマコはともかく、トトが俺におねだりって……
どうみても、健全な関係じゃないだろう。
「どうされました?」
「あー……うん、なんでもない。まずは宿に荷物を置こうか」
「はい」
昨日の内に忍び込ませた虫達情報による、評判のホテルへと向かう。
「いらっしゃいませ」
入り口前で、ドアマンの男が歓迎の言葉と共に扉を開いてくれる。
クコ達にもちゃんとした服を用意したし、ジャッカス達も身綺麗にしてある。
だから、嫌な顔をされることもない。
それに……
ロビーに入って中を見渡すと、フロアーには色々な種族の人が立っている。
その中には獣人も居て、普通にお客さんとして利用している。
そう、この国は人種差別というものが存在しない。
綺麗が正義な部分があり、王宮において亜人だろうが普通の人族だろうが美しければ重宝される。
といっても、重役に据えるのはきちんと実力のあるもの達ばかりだし。
序列もきちっと役割に沿ったものだ。
ただ、対外的な職務が多い部署には、そういった美男美女が配属されると。
なんだろう? 器量外交?
まあ、確かに綺麗な人が綺麗な所作で出迎えてくれたりしたら嬉しいけど。
そういった人員登用を行って来た過程で人種的なことは特に気にしないというお国柄が、そのまま国自体の流れとして定着した。
性格が良ければ、人種は関係無い。
仕事が出来れば、人種は関係無い。
お金を使ってくれれば、人種は関係無い。
などなど。
それだったら、クコ達を連れて歩いてもなんにも問題無いだろう。
事実ホテルの従業員にも、亜人がチラホラと。
豪華なシャンデリアがキラキラと美しい光を放っている。
ところどころに金色の装飾が目立つ、豪華絢爛な内装。
従業員の恰好も、綺麗な制服っぽいもので統一されている。
「部屋は5階の510号室です」
「ありがとう」
フロントで鍵を受け取って、昇降機のある場所に向かう。
といっても機械的なものじゃない。
魔導士による、魔法によったものだ。
ホテルは7階建てで、4階以上の客が利用できる。
その分、値段はかなり割高だが。
エレベーターの箱の底には、浮遊と風の魔石が埋め込まれている。
その魔石に魔力を込めることで、箱が軽く持ち上がる。
あとは、滑車で繋いだワイヤーを手動で巻き上げるだけ。
巻き上げる係も3人程常備しており、2人がハンドル操作で1人が監視役。
トラブルや、異変が無いかをしっかりと見張る。
ちなみに1人でも簡単にハンドルは回せるが、片方に何かあったときのために2人体勢。
魔導士も待機していることもあり、この昇降機が導入されて80年の間、事故は一度も起きていない。
ホテル自体も200年前から営業しているが、間に何度も改装が行われているのでとても綺麗だ。
流石は虫調べ。
間違いないホテルだ。
「うふふ、可愛い……姉弟かしら?」
「あら、でも1人だけ普通の人族の子も混ざっているわ」
エレベーターの前に立っていたら、通りすがりの御婦人たちの話声が聞こえる。
そうだろうそうだろう、うちの子供達はべっぴんぞろいだろう。
「他の子達も慕っているところを見ると、腹違いの姉弟じゃなくって?」
「ああ、あの子が長男ってことね……お姉ちゃんも、気になるのかな? 凄く気を遣ってる感じ」
「うーん、まああれだけ可愛いだもん……お姉ちゃんが気に掛けるのも仕方ないわね」
あれこれと気を遣った様子で話しかけていたトトを見て、御婦人たちからそんな声が。
うーん……やっぱり、どう頑張っても腹違いの弟か。
他人と思われなかっただけ、よしとするか。
そして部屋に案内される。
荷物を運んでくれたポーターの人に、チップを渡して中に入る。
部屋の中は寝室が3部屋と、大きなリビングルーム、そして応接室まである。
フロント直通の通信管もあり、またリビングのテーブルの上にはフルーツまで置いてある。
ポーターの男性はそのまま、部屋の前で扉の横に立って待機しているし。
中には、メイドの女性が1人居て出迎えてくれる。
俺達のお世話係だ。
ふっふっふ……
かなり奮発した。
このホテルでも各階層に1つしかない角部屋。
末尾、10号室は……スイートルームなのだ!
しかも4階以上はロイヤル!
1泊金貨6枚(60万円くらい)もしたが、滅多にできない家族旅行だしな。
「ほえー……町が一望できる」
「すごいすごい! ガラス? これガラス?」
むぅ……
少しばかり荒く、透明度は濁っているが確かに窓にはガラスがはめ込まれている。
開ければ景色をくっきりと一望できるが……それでもこのガラスをここに持ってくるのはやるじゃないか。
流石に完全に透明な1枚ガラスを、この大きな窓枠にははめられなかったようだが。
この不透明さと、ちぐはぐな継ぎ足しのガラス。
きっと夜になったら、外の灯りがぼやけて幻想的な景色を演出してくれるに違いない。
ちなみに小さな丸い窓枠に透明なガラスもはめられていた。
「ここ……普通に凄すぎだろ」
「いえ、マサキ様にはこのくらいが相応しいかと」
「わぁ! これ食べても良いですか?」
ルドルフがソファにどっかと座ると独り言ちて溜息を吐いているが、ジャッカスは当然といった様子でテキパキと荷物を部屋に運んでいる。
ローズは、テーブルの上の果物に視線が釘付けだ。
あとローズと手を繋いでいたクコも涎まで垂らしてみつめている。
「長旅お疲れさまでした、今日から3日間、皆様のお世話係を務めますクレオです」
「よろしくクレオさん」
メイド服を身に纏ったブロンドの女性が、恭しく頭を下げる。
切れ長の目がエキゾチックな、ちょっと魅力的な女性だ。
「よろしければ果物をお剥きしましょうか?」
「ああ、そうだね。クコ、好きなのをクレオさんに教えてあげて」
「うんっ!」
「マッ! マサキ様、私も!」
「ああ、ローズも」
ローズ……
普段泊まれないような部屋に泊まれてテンションが上がっているのは分かるが、もう少し落ち着いて貰いたい。
一応、ローズに関してはこないだ迷惑を掛けた穴埋めとして、観光を楽しんでもらうように言ってある。
警護の仕事は、虫達だけでも事足るし。
万が一の保険として、トトの傍に居て貰うようにはしてるが。
ルドルフも迷惑を掛けているので、楽にしていいとは伝えてある。
とはいえ、一応子爵家の子供なので俺には気安く話しかけることはないが。
それでも、多少はリラックス……出来てないな。
「あっ……ども」
「ふふふ、お気になさらずに」
クレオさんに氷を浮かべた水を手渡されて、顔を赤くして頭を下げている。
ちょっと指先が触れてしまったようだが、それで赤面とか思春期の子供か。
意外と女性慣れしていないのかもしれない。
「ジャッカスさんは、何をしてるの?」
「ああ、マコか。まあ、隣の部屋との壁の厚さを確認したり、窓やバルコニーに侵入出来るような穴が無いか確認しているのですよ」
「へえ……それ、いま必要?」
「いかなるときも、油断は禁物ですよ。貴方達が何も気にせず楽しむためなら、このくらいはしても損は無いですから」
うーん……真面目だ。
それに、気も利く。
クレオさんが苦笑いしているが。
「トト?」
「あっ、すみません……あまりに素敵な景色だったもので」
トトも、ボーっと窓の外を眺めたまま固まってしまっていた。
そして、部屋の中をぐるぐると見渡す。
「凄い部屋ですが……高かったんじゃ?」
「うーん? 特に問題無いかな? トトが着てる色付きの絹のチュニックで2泊くらいは出来るかな?」
「そうですか……それはこの服が高いのか、この宿が安いのか……」
「ちなみに服は自家製でタダだから、ちょっと申し訳ないかな」
「なんとも、返答の難しい」
それまでニコニコとポーカーフェイスで傍に控えていたクレオさんが、色付きの絹の下りで一瞬だけ笑顔が崩れていた。
もしかしたら、異国のちりめん問屋の御隠居ならぬ、御曹司とかって思われたかな?
ちりめんってのは絹の平織りの織物のことで、ちりめんじゃこの事じゃないし、じゃこは蝦蛄じゃなくて雑魚だ。
どうでも良いか……
さてと、まだ昼前だし取りあえず、お昼は豪勢に行こう。
それから、街をぶらぶらと観光しながら商業区を回って買い物かな?
終わったら夜は、運河を船で下って宿に戻って夕飯と。
俺もワクワクしてきた。
次話から、いよいよ子供達もワイワイと観光が始まります(`・ω・´)b
いやあ……うん……良いよね?
あんまり意味の無い回だけど、異国情緒を感じて貰えるように……いや、異世界情緒を感じて貰えるようにしっかりと頑張ります( ̄ー ̄)





