第140話:唐突に閑話です
【管理者の空間のスライム】
私は、スライムのライム。
名付けの親は……クコちゃん。
マスターが最初名付けをしようとしていましたが……
スラムンとか、スライムンとか……とにかく全力で拒否。
ライムも似たようなもの?
いえいえ、ライムって可愛らしくないですか。
私は気に入ってますので。
その時までは何も考えていなかったのですが、気が付いたら目の前に黒髪の人間。
その瞬間に自我が芽生えた事が分かりました。
そして、スライムに関する……自分の事ですが。
自分に関する知識も。
能力やら、特徴やら。
思考能力を得た状態で、目の前の人間を見る。
うわぁ、カッコイイです。
それにオーラが……
そんな彼が、恐る恐る手を伸ばしてきます。
えっ?
そんな急に?
あっ、やめて、あっ……もう逆らっちゃ駄目って分かってますから。
その……あっ……
……
……
……
……もうお嫁にいけない。
いきなり、身体の中に手を突っ込んでくるなんて。
ちなみに、何故そんなことをしたのかと主に尋ねると夏で暑かったからとのこと。
ヒンヤリして気持ち良かった?
そんな理由で?
私は、そんな軽い女じゃありません!
性別は無いですけど。
雌雄同体……出産は分裂。
とはいえ、いつでも分裂できるわけじゃありませんけどね。
私達の力の上限値は低いのです。
核によって違いますが、その上限値に到達すると核が分裂する感じです。
力を蓄える方法?
ひたすら食べる事ですね。
食べ物に含まれる魔力を元に、核に生命力が蓄えられていく感じ?
それが一定値を超えると、ポロっと子供が生まれます。
そんなちょっと乱暴な主の名前は、マサキ様とおっしゃられるとのこと。
産みの親ではないけれど、育ての親? とも違うかな?
ある意味では、あの方のお陰で育ってますが。
関係性としては、マッドサイエンティストと被験者?
元々、私の身体は自由に形を変える事が出来ます。
その力を買われて、ここに連れて来られ……いや、ただの興味本位とのことでした。
まず、卑猥な事以外で彼が私にしたこと……
変な部屋で強引に、いかにも怪しい魔法陣に乗せられて……目の前のお皿には大量の石を砕いた粉が。
天然岩絵の具?
えっと……あっ、はい。
言ってる意味分かりませんが?
これ混ぜたら、着色された変身が出来るかも?
混ぜる?
体内に?
違いました。
魔法陣が光ったかと思うと、目の前の皿に乗せられた天然石絵の具が消えて。
理解しました。
確かに色を自在に変えられるようになりました。
というか、これ?
ですよね?
魔石を砕いて作った絵の具も混ざっていたとの事。
全属性の魔石……
あー、この全能感。
全属性の魔法が操れる気がしてきました!
自前では魔力が全然足りませんが。
ただ、この空間内は魔素に満ちてます。
必死で、魔素を回収。
調子に乗り過ぎました。
こんなに集めたら、分身が……あれっ? 生まれない?
不変の効果が、この世界全体にかけられている?
一応、任意で解除する水はあると……
1杯で、1日分の制限解除。
マサキ様に差し出される。
飲んだら、おそらく4体くらい分裂しますが?
すぐに回収された。
取りあえずは、私だけで様子を見るとのこと。
嬉しいような、複雑な気持ちです。
「ライムちゃん!」
クコちゃんが全力で突っ込んできます。
まあ、私クラスになると簡単に受け止められますが。
……これは、なんというか。
来た当初は直径30cmくらいしか無かった身体が、今では1mを越えてます。
お陰で、大体の何かには変化できるようになりました。
とはいえ、知っているものにしか変化できませんけど。
1mもあれば、子供が突っ込んで来たところでどうということはないです。
「ふふふ、ヒンヤリしてて気持ちいい」
顔の周りには空気を送り込まないといけないので、空気穴を開けておきます。
髪が汗で顔に張り付いているので、汗を全部吸収してあげます。
子供は本当によく汗をかきますね。
水分を取った方がいいですよ。
水の魔法で、空気中の水分を集めて純水を。
ちなみに冷気系の魔法も、炎熱系の魔法もある程度使えるので体温は自由自在。
あまり冷えすぎないように、いまは20度くらいに調節。
ちなみにマサキ様は、夜になると私を部屋に呼ばれることが多いです。
マサキ様の部屋……夏でも快適温度なんですけどね。
一人だけ、ズルしてます。
子供にエアコンは身体の毒?
おっしゃってる意味はわかりませんが、大人の黒い部分を垣間見た気がします。
ちなみにマサキ様の部屋に行くと。
「36度くらいで」
夏ですが?
ガンガンに冷やした部屋で、人肌の温もりを感じる贅沢?
あー……
良く分かりませんが、主が幸せなら別にかまいませんけどね。
でも、それってなんだか寂しく無いですか?
何故か、思いっきり抱きしめられた。
失言だったかもしれません。
ちなみにカイロや氷代わり以外にも仕事は割と多いんですよ。
今でこそ色々と出来るようになりましたが。
当初はトレースという能力を、主に使っていました。
10秒以内の行動であれば、記憶して完全に再現できる能力。
勿論、動きだけです。
魔法であれば、魔力が足りなければ魔法を放つポーズだけ。
格闘術であっても、武技などのスキルは使えません。
それでも、かなり有用との事で。
何度もマサキ様に攻撃させられました。
主に手をあげるなんて……
でも、望まれるなら。
マサキ様が、じじいと呼ばれるご老体。
あの方の行動をトレースすると、微妙に身体の一部が飛び散るんですよね。
すぐに、回収しますが。
ちなみに、最初の頃は全くマサキ様も反応できずに吹き飛ばされてましたが。
徐々に対応できるようになっていくのは、流石かと。
私も、再現すればするほど色々な何かが成長していってる気が。
なんていうか……
こう、武の頂に近づいているというか。
この扉は開いちゃだめなやつ。
なんとなく、そんな気がします。
それは、さておき。
それからも、色々なものを合成に使われ。
時にこっそりとお皿に追加で、自分で置いてみたりして。
結果、完全擬態を覚えるまでに。
とはいえ、知っているものにしかなれませんが。
ちなみにマサキ様や、クコちゃん、マコくん、トトさん、ジャッカス、マハトール、クロウニ、ベントレー君などなど、人からはこっそり髪の毛を拝借して合成させてもらってます。
マサキ様には内緒で。
あざといとか、言わないでくださいね。
細く伸ばした身体で、合成直前にそっとお皿に。
デオキシリボ核酸と呼ばれるものを取り込んだことで、より完成度は上がってます。
が、マサキ様だけは何故か、完全擬態が出来ません。
マルコ様は出来たのですが。
そもそも、この管理者の空間でのマサキ様の身体は、神智学におけるアストラルボディと呼ばれるものとの事。
物理的身体を持っていないので、完全トレースは無理でした。
代わりに、諸々の能力が大幅に伸びた気が。
特に、擬態の精度は天元突破したかも……
最近ではこの能力を買われて、色々な任務を頼まれることも増えてきました。
身代わりに斬首されたり。
女の子の身体に擬態して、化け物のフリをしたり。
マハトールに変身して、好き放題したりと。
楽しいから良いんですけどね。
取りあえず仕事は終わったので、ご褒美としてマサキ様が回収しにくるまで自由にして良いと。
まずは、ベルモントの街の観光ですわね。
味覚の再現も出来てますので、美味しいものをたらふく。
お金なら、お小遣いを頂いていますので。
まあ、無くても身体を切り離してお金に擬態させれば……
でもって、後で回収すれば……
しませんけどね。
今は……
「あっ、お姉さん! それ美味しそうですね! おいくらですか?」
「あらやだわぁ、お姉さんだなんて! あらやだ、天使みたいに可愛いお坊っちゃんね! 良いわよ、1本なら持って行って! その代わり、大通りで美味しそうに食べてもらえたら」
「良いんですか?」
「貴方みたいに、可愛い坊やが美味しそうに食べてたら、きっと他の人も食べたいと思うから」
「はいっ! いっぱい宣伝してきます」
ふふふ、得しちゃいました。
あっ、この砂糖ミルクに浸してたバナナ美味しい。
あっ、あっちから美味しそうな匂い。
嗅覚は鋭いんですよ。
匂いが色で分かるレベルで。
「おじさま、それはおいくらですか?」
「ん? おじさまだなんて、背中が痒くならぁ! おっと、これはどこの天使様だ?」
「天使様? いえ、あの……シビリアディアからおじいさまのお家に遊びに来ました」
少しだけオドオドとした態度で、上目遣いでみるのが味噌です。
「へえ、こんな可愛いお嬢ちゃんが1人であぶねーぞ! これ持ってとっととじいちゃんのとこに戻りな」
「えっと……お代は?」
「へへ、構わねーよ。その代わり、どこで買ったか聞かれたら、ガブルスさんの屋台って応えてくれたら良いからさ。美味しそうに食べながら、街を歩いてくれよ!」
「良いの?」
「子供が遠慮すんなって」
頭をグシグシと撫でられて、焼き鳥串が5本入った袋を渡される。
その後も色々なお店に寄ってみた。
けど、どこもお金を受け取ってくれない……なんでだろう?
あっ、あそこの屋台は、20代の女性か……
てことは……
5歳くらいの、黒髪のマルコ様っぽい感じに擬態。
「美味しそうなジュース!……あっ」
「ぼく、大丈夫?」
屋台に駆け寄る途中で、うっかり石でつまづいてしまいました。
屋台のお姉さんが駆け寄ってきます。
「痛い……」
「あー、泣かないで! ほらっ、これ飲んでみて! 美味しいよ」
「うぅ……でも……」
「あー、泣かない、泣かない! 男の子は簡単に泣いちゃだめなんだぞ! ほらっ!」
「美味しい」
強引に口にストローを突っ込まれました。
甘い苺とミルク、それに林檎の味が口いっぱいに広がります。
「うふふ、これ美味しいです」
「良かった!」
「そうだ、おいくらですか?」
「良いのよ! お姉ちゃんが勝手にあげたんだから! それに、あんなに痛そうに転んだのにボク泣かなかったでしょ? とっても偉いぞ! だから、お姉ちゃんからのご褒美」
「うん! ありがとう! お姉ちゃん!」
お姉ちゃんのほっぺに軽くチュッとしてみたら、顔が真っ赤です。
「えへへ、ボクの初めてのチューだよ! 優しくしてくれた、お礼!」
「やだ、なにこの天使。えっ? そういえば、うちにこんな感じの弟が居た気が……いや、居た! 絶対に居た! というか、この子私の弟! うん、そうだ! 間違いない」
「エヘヘヘヘ! また、来るねー!」
「あーっ! 待ってー! 私の天使の弟ちゃーん!」
なにか、ヤバい空気を感じたので急いで逃げます。
なにか、こう……目に狂気が……
やり過ぎては駄目ですね。
次はと……
色々と満足しました。
人間さんは、みんな心優しいですね。
エヘヘ……





