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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第138話:お祭り騒ぎ

やる気はあっても、身体が付いてこないことってありますよね?

 森の奥から、断末魔の叫び声が聞こえる。

 何が起こっているのか気になるが、いまはそれどころじゃない。

 子供達の救出は終わり、あとはアシュリーに対する事後処理。


 街の方の様子を見に行くと、意外と大事になっていて焦る。

 分からないでもない……

 

 魔女狩りならぬ、悪魔狩りが行われている。

 メインターゲットはマハトール。

 その過程で、町に忍び込んでいた悪魔達は全て滅ぼされていた。


 合計で3体の悪魔が忍び込んでいたらしい。


――――――

 遡ること、3時間前。

 ベルモント邸。


「「申し訳ありません」」



 マイケル・フォン・ベルモントの前で土下座するファーマとローズ。

 大事な護衛対象を、悪魔に奪われるという大失態。

 即座に切腹ものの、申し開きの出来ない状況。


 それでも、ファーマとローズは真剣な面持ちでマイケルに対峙する。

 その横ではニコニコと、笑みを携えているベルモント夫人の顔が。


 マリア・フォン・ベルモント。

 笑顔の下に般若の素顔を隠し、その手に込められた力は指にはめられた指輪のリングを歪める。


 ローズの背筋を冷たい汗が流れる。

 彼女は、そもそもなぜ私がこんな目にと心の中でぼやく。

 そんな彼女の心情を読み取ったのか、笑顔のままマリアが冷めた視線を送る。


 ローズが慌てて頭を下げる。

 とはいえ、彼女がマハトールを見逃したのは他ならぬマルコの指示。

 であるにも関わらず、命を危険を感じる程の鬼気を放つマリアにそれを伝える事も叶わず、ただただ全身でその威圧を浴びて耐え忍ぶしかなかった。


 辺りに漂う、重苦しい空気。

 ベルモントの家人一同、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ拳を震わせている。


 そんな空気を払拭するかのように、手を打って大きな音を弾かせるベルモント家当主。


「良く知らせてくれた」


 愛する息子が悪魔に攫われたというのに、目の前で震えている2人に対して笑顔で力強く答えるマイケル。


「我が街に魔の者が忍び込んでいる、これは非常に不味い……そう思うな?」

「はっ」


 後ろを振り返って問いかける当主マイケルに対して、ヒューイが顔を下げて短く答える。

 その言葉に満足したのか、マイケルが大きく頷く。

 

「皆の者、ベルモントの街に悪魔が侵入している。全力を持ってこれを排除せよ!」


 そして、館が震えるような大きな声で指示を飛ばす。

 

「ただちに! 散れ! 街の衛兵の力も借りてくまなく探し出して……どこに手を出したか、奴らの魂に刻み込め!」


 続くヒューイの言葉を受け、全ての警備のものがその場から駆け出す。


「マイケル様! マルコ様が攫われたのです! そちらは!」

「それはお前の失態であり、それを救うのはお前の仕事だ! 私はベルモントの街の領主! 街の民の安全を第一に考えて動いて何がおかしい」

「っ!」


 マイケルの言葉に、ファーマが言葉を詰まらせる。

 マルコは現在スレイズに預けられている。

 そして、そのスレイズの信頼を受けてマルコを守っているのがファーマ。

 ならば、マルコを救うのもまたファーマの仕事だと。


 この街の領主は、そう言ってのけた。

 このような失態をおかしてなお信用して貰える事。

 そして、仕事を任せられること。


 その事に申し訳なさと、そして不謹慎ながらも喜びを感じ……行動を許された事でファーマが立ち上がる。


「直ちに、御子息の捜索と救出に向かいます!」

「ああ、ただ……忘れるな! あいつもまた、ベルモントだ……今頃、悪魔のやつを逆に脅して居るかもな」

「であれば、マルコ様と共に不届きな悪魔を滅して戻ります。今回の失態の罰は、その後いかなるものでも受け入れます」

「時間が惜しい……早く行け!」

「はいっ!」

「あっ!」


 トントン拍子で話が進み、あり得ない速さで屋敷を飛び出すファーマ。

 慌てた様子で、ローズが後を追う。

 

 実際に悪魔を脅しつけて、自分を誘拐させている時点でローズはこのやり取りをなんとも言えない表情で見ていた。

 故に初動が遅れて、彼女が飛び出した時にはすでにファーマを見失っていた。

 仕方なしに、ジャッカスが隠れ家として使用している家へと向かう。


「まったくあなたは……あなたは領主かもしれませんが、私は母親です! 好きにやらせてもらいますからね」

「ほどほどにな。悪魔の方は俺に任せとけ」

「そのくらいしか任せられません! 子供のことは私が見ます!」


 そう言って、マリアが全身から魔力を放つ。

 町全体へと届くような、強力な魔力波。

 その波は、街に潜んでいる異質な魔力を洗い出す。

 

 悪魔のような……


「手厳しい……」


 すぐに最寄りの悪魔を発見したマリアが、すぐに館を飛び出していた。

 彼女の実家でも言われていたが、今の彼女からは想像もつかないほどおてんばで活発な女の子だったマリア。

 そして、ベルモントへと嫁ぐということは、どこか何かがおかしいのだ。

 

 彼女の場合は、魔力操作と魔力量。

 この2つが常人の倍どころか、天才と呼ばれる者のさらに上をいっていた。


 天賦……まさにそれだ。

 マイケルに嫁いでから2度ほど、大きな夫婦喧嘩があった。

 館が壊れるのではないかというほどの、血で血を洗う大喧嘩。

 その様子を見た屋敷の者達は、彼女の事を鬼の嫁(オーガ・ブライド)と呼ぶ。

 

 マイケルはマイケルで、自身の嗅覚を使い悪魔の居場所を探る。

 とはいえ匂いが分かる訳ではない。

 それに、気配を読み取る事はできても、それが悪魔かどうかまでは分からない。

 

 が、街に悪魔が居る。

 その情報だけで、彼は動くことが出来る。

 他の者が聞いたら、本当にふざけたものだと思える力。

 そう、直感だ。


 彼の場合、その直感は窮地に陥るほど精度が増す。

 命がけのやり取りにおいて相手から追い込まれれば追い込まれるほど、その動きが洗練され、動きを読み、先を行く攻撃を放ち始める。

 相手からすれば優勢になればなるほど、自身が危機に陥っていく。

 ふざけるなと言いたくなるような、厄介な相手。

 それがスレイズの息子、マイケルなのだ。


 マイケルとマリア。

 この2人が動いた時点で、街に潜む悪魔は2体は確実に滅ぼされる。

 その事を知っているからこそ、街に散った警備の者達の動きもさらに鬼気せまるものとなる。


 ただ、マイケルもマリアも実際は自分の息子のことはそこまで心配していない。

 

 マイケルは純粋に、自分の息子の実力を知っている。

 そして、何か力を隠していることも。

 

 正直レッサーデーモンどころか、アークデーモン相手でもどうにかしてしまうのではないかと思えるほど、底が知れない。

 親ばかと言われるかもしれないが客観的に能力分析を行っても、表面に出した力だけでアークデーモン相手に逃げ出すくらいの力はある。

 たとえ相手がデーモンロードでも、何かしらの信号は送れるだろう。

 そういった信頼から、緊急性は無いと踏んでいる。

 

 もし、そういった痕跡を一切許さずにマルコを攫えるなら……それは、魔王クラスの天災級の悪魔だと言える。

 そうなれば、息子の命どころか国家の危機だ。

 そういった線引きはしているが、流石にそのクラスの悪魔の侵入を許す程、彼の気配探知はざるではない。


 一方のマリアは、ローズの表情を見た時に全てを悟っていた。

 悪魔との関連性や、その他もろもろの事情が分かるわけでない。

 ただ漠然とではあるが、ローズの表情だけでマルコが無事だと分かってしまった。

 そして、ローズがマルコが無事だということを知っていることも。


 そもそも彼女の愛は、常軌を逸している。

 マルコに何かあったならば、マイケル以上の直感力で即座に現場に急行するくらいの自信はある。

 故に、その危機センサーが働いていないことで、少しだけ安心している部分もあった。


 そこに来てローズの気まずそうな表情を見て、全てが合点がいっていた。

 マルコはわざと攫われたのではないか?

 そう考えてしまう程に、母は息子の事を良く知っていた。

 発案者はほぼ他人のマサキだが。


 その瞬間に、彼女の張りつめていた気は一気に緩んでいった。

 が、それはそれ。

 マルコを攫ったという事実だけは、たとえ悪魔でも許すつもりはない。

 

 そして、蹂躙という名の戦争がいま始まった……


――――――

「さてと、子供を攫った悪魔を知らないか?」

「しっ! 知らない!」

「なら、消えろ」


 マイケルに捕まった悪魔は、皮肉にも教会に潜んでいた。

 教会に集まる人間の気性を操って、色々と出来心というなの小さな犯罪を起こさせるために。

 

 その時は、商業区の方で何か問題が起こったのは知っていた。

 しかし自分が担当しているのは、西区。

 問題が起こったのは北区なので、自分には関係ないと高を括っていたところはある。


 これから、街で少しずつ人の心が荒んで揉め事が増えるのを楽しみにしつつ、人の心を操作しようと魔力を集めていたところ急に辺りが暗くなるのを感じる。

 何かで陽が遮られたかのような。


 思わず顔を上げた瞬間には、上空から降って来たそれに背中の両翼と尻尾をを切り落とされ、そのまま教会の屋根から地面に蹴り落とされた。


 受け身を取ろうと手を伸ばそうとして、自分の腕が切り落とされていることに気付く。

 

 そのまま腹と顔面を地面に激しく打ち付け、衝撃に思わず視界が奪われる。

 直後、両足まで切り落とされるのを感じる。


 ヤバい。

 すでに、かなりヤバい。

 というか、もう手遅れこれ。


 そんな事を思いながら、後ろを振り返ることを全力で身体が拒否をする。 


 それもそうだ。

 仮に身体を転がして仰向けになったところで、両足も翼も無いのだ。

 逃げ出せるわけがない。

 

 なんの悪夢だ。

 そう思う暇もなく、何者かの爪先で腹を蹴り飛ばされ身体が宙を舞う。


 そして核のわずか数mm下を剣で貫かれ、壁に縫い付けられる。


 そして問いかけられる先の質問。


 涼やかな笑みを浮かべ、柔らかな声で問いかけてくる優男。

 だが、身に纏った雰囲気は悪魔以上に禍々しい。

 そのオーラに身を震わせつつも正直に答えた瞬間……腹に突き刺さった剣が上に振り抜かれ、核ごと身体を両断される。


 一切の躊躇が無い行動。

 もしかして、知っていてブラフを吐いたと思わないのだろうか。

 そんな疑問が浮かぶのと同時に、完全に意識が闇の中に堕ちる。


「正直な悪魔で良かった」


 悪魔の身が消えると同時に、剣についていた血糊も蒸発する。

 が、一応は剣を振って血糊を払うそぶりをする。

 マイケルは手に持った剣を、紙で丁寧に拭いてから鞘に戻す。


 不意打ちを行い、思考を乱す程の連撃。

 そして、なるべく分かりやすい質問。

 それに対して笑みを浮かべるでもなく、本気で焦った表情の悪魔の答えにシロと判断し切り伏せる。


「性格は当たりだったが、ターゲットは外れだな……まあ、もう手遅れか」


 マイケルのいう手遅れは、マルコの生命の危機ではない。

 他の悪魔が優秀な妻と、部下の手に堕ちたことを感じ取ったからだ。


 出来れば、自身で息子を救いたかったと残念に思いつつ、無駄だろうなと考えながら部下達が捉えている悪魔の元へと向かう。


――――――

「正直に言えよ!」

「本当に、知らないんだって!」

「嘘を吐くな!」

「嘘じゃない! 助けてくれよ」


 8人のベルモント家の警備の者と、30人を超える街の衛兵に囲まれた悪魔が必死で命乞いをする。

 街の情報屋を使って、怪しい場所をくまなく調べさせたヒューイ達は、すぐに悪魔を発見する。

 南区で、街に出入りする人間に悪戯をしているだろうと予測して。


 現にこの悪魔は、外から入って来た人間の心を乱すように行動していた。

 悪魔が忍び込んだと聞いた時点で、門を守る衛兵がこっそりと魔術に長ける者達を集めて気配探知と隠密看破を使わせた結果だ。


 また、観光客の犯罪も起こっていたことで、ヒューイ自身も数ヶ所当たりを付けた場所にここが入っていた。


 この悪魔が隠れていたのは、門のある城壁の天井の影の中。

 そこに忍び込んでいた。

 魔術師が配置されると同時に、即座に気配を読み取られ逃げ出そうとしたときには既に手遅れだった。

 入り口を囲むように、聖職者による結界が張られている。

 

 この街に勤めるものは、みなこの街を愛している。

 故に、行動も早い。


 即座に人海戦術により、蟻の這い出る隙も無いレベルの捜索が行われる。

 それも、伝言ゲームのように口伝で話が広がっていくのだから、その速度は驚異的だ。


 その時点で逃げる場所を失った悪魔は、街の外に飛び出そうとして……

 全身をハリネズミのように槍で貫かれて、城壁に縫い付けられる。


 逃げ出す隙も見いだせず涙目の悪魔。

 勘違いしないで欲しい。

 これでも、彼は街に災厄をもたらすアークデーモン。

 その上位のシュバリエだ。

 爵位を持つデーモンロードの、僅か1つ下の階位である。

 そんな彼が、矮小な人相手に命乞いをしている。

 

 本心から。


 それほどまでに、彼を取り囲む人間達は全身から殺気と怒気を浮かび上がらせている。

 冗談じゃない。


 いくら主の命令とはいえ、こんな化け物が多く潜む町に送り込まれるなんて。

 心のなかで、自分の主のノーフェイスに悪態をつきつつ彼は、どうにか逃げの一手が無いか考える。

 が、それすらも許してもらえない。


 指をピクリと動かした瞬間に新しい槍が飛んできて、彼の指を弾き飛ばす。

 とはいえ、超回復を持っているためすぐに再生が始まるが。


「本当に知らないんだな?」

「あっ、そうだ! そう言えば!」


 剣呑な眼差しを向けつつ、感情が抜け落ちたような声で話しかけて来たヒューイに身の危険を感じる。

 ここで、知らないと言ったら確実に消される。

 そう考えた彼は、咄嗟に嘘を吐く。


「そう言えば?」


 が、目の前の武装した集団どころか、門の後ろにいるおおよそ戦えるとは思えないような一般人からも視線を集め、言葉に詰まる。

 数百の瞳が、色々な感情を込めて悪魔を射抜く。

 そのプレッシャーに、答えを間違えたらとんでもない目に合う未来が思い浮かぶ。


 だが、ここを乗り切るような誤魔化しも思いつかない。

 

「早く答えろよ!」


 黙り込んだ悪魔に苛立った市民が、石を投げつける。

 その石は真っすぐに悪魔の方に飛んでいき、顔面に直撃する。


「クソガッ! 調子に乗るなよ! 虫けら!」

 

 目の前の強者ではなく、群れるだけの虫けらに石をぶつけられたことで悪魔が怒りに我を忘れ。

 そして、どうにか集めた魔力で魔法を民衆に放つ。


「こいつ!」

「攻撃してきやがった!」

「ふざけるな!」

「マルコ様を返せ!」


 その瞬間、数百の石の礫が飛んでくる。

 中には、魔石も含まれている。

 さらに聖水の入った瓶も。


 物を投げた者の大半が訓練も積んでいない、純粋な一般人。

 だが、数の暴力というのは、そんなものは関係無い。


 悪魔の放った闇の魔法は、向かって来る石にぶつかる度に僅かながらに威力を落とす。

 さらには魔石も含まれているため、その魔力によって相殺されたりとさらに威力は激減していく。

 そこにぶつけられる聖水の入った瓶。

 途中で他の人が投げた石にぶつかり、空中で瓶が粉々に割れ……飛び出した聖水が完全に闇の魔法を消し去る。

 それどころか、他の石に掛かっている。


 いくら武を極めた達人であっても、間合いの外から数百人に石を投げられたら……

 少なくとも、スキルなんて便利なもののない地球なら、確実に死んでしまうだろう。


 聖水が掛かった石も含め、それでも100を優に超える石が悪魔と彼を取り囲んでいるヒューイ達に襲い掛かる。


 それもそうだ。

 鍛えていない膂力の者が投げた石が、必ずしも標的に当たるとは限らない。

 が、ヒューイ達はそれを手に持った剣の鞘で全て悪魔に向かって打ち上げていく。


「ブハハハハハ!」


 笑っているわけではない。

 声が震えるほどの礫の連撃が悪魔に襲い掛かっているのだ。

 やり過ぎ感はあるが、仕方ない。

 それほどの、重要人物に彼等は害をなしたのだ。


 いや、実際にはなしてない。

 触れてすらいない。

 

 完全に悪魔のせいにする作戦の、マサキのせいである。

 それと、ノリノリでマルコを攫って行ったマハトール。


 だが、そんなことはこの場に居る誰も知らない。

 正直に話そうが、嘘を吐こうが結果は一緒だった。

 核を守る事も出来ず、また核など関係ない程の物量によって完全に体を消し飛ばされた悪魔は。

 それでも、まだ幸せだったかもしれない。


――――――

「なんだ、柔らかそうな女だな」

「こんにちは」


 北側、ベルモントの屋敷を視野に収めつつ活動していた悪魔にマリアが対峙していた。

 笑顔で話しかけている彼女に対して、街路樹の上に立って見下している悪魔が少しだけ顔を顰める。


「悪魔を前にしたっていうのに、随分と余裕だな……もしかして、俺に殺して欲しい奴でも居るのか? 残念だが、先約があってな」

「そうですか……まあ、関係無いですけどね」

 

 マリアが、スカートの裾を自分でビリビリと太もものあたりまで引き裂く。


「ほほぉ、美味しそうな太ももだ。もしかして、太ももと引き換えに主を変えろって事か?」

「そうですか、ならばどうぞ、心行くまで喰らってください」

「っ!」


 その太ももにイヤらしく目を見開いた悪魔が、笑みを深めて話しかける。

 次の瞬間に、マリアの姿が掻き消え……見えたのは顔面に迫りくる白い何か。


 躱す暇もなく、自慢の牙を生やした口目がけて膝蹴りが叩き込まれる。

 そのまま木の上から落下する悪魔。

 そして、立場を変えて木の上からそれを見下ろすマリア。


「きさっ……」


 落下しながら、マリアに対して怒りを爆発させる悪魔。

 そして翼を広げてブレーキを掛けた瞬間に……マリアが木の上から飛び降りて来て、膝を悪魔の顔面に叩き込みながら一緒に落下する。

 そして、地面と膝のサンドイッチになる悪魔。


 顔が半分以上陥没している。

 すぐに再生が始まっているが、マリアは悪魔の腹を蹴って飛び上がると空中で一回転して再度膝を悪魔の顔面に叩き込む。


 1度だけじゃない。

 何度も何度も、繰り返し腹を蹴って飛び上がって一回転からの膝蹴りを放つマリア。

 背中が地面に埋め込まれ、次いで顔面が地面に埋め込まれる。


 数十回繰り返されたそれは硬い地面を激しくえぐり、胸と首、腰から下を少しだけ地面の上に出した状態の不思議なオブジェが出来上がる。


 完全に平らに均された顔面は首をあり得ない角度に曲げて、地面に埋め込まれている。

 お腹も同じように。


「……」


 そこにやってきたのは、巨大なハンマーを担いだマリー。

 マイケルと、マルコを世話した乳母だ。

 そう……マイケルの世話もしているのだ。


 すなわち、スレイズベルモントの元家人でもある。

 覚えているだろうか?


 スレイズベルモント家の家人は、料理人から庭師、メイドに到るまでがファーマが一目置くレベルの武芸者であることを。


 即ち……


 ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべた思秋期の女性に、そこはかとない恐怖を感じた悪魔がどうにかその場から逃げ出そうともがく。


 が、腹を思いっきりヒールの踵で踏み付けられる。

 身体の大きさから、そこまで体重は無いだろうマリアに踏み付けられた悪魔が必死でもがくがすぐに諦める。


 まるで大木の根元に埋められたがごとく、ビクともしないからだ。


 そして、巨大なハンマーが思いっきり振り下ろされ顔面で寸止めされる。

 おおよそ百キロはありそうなハンマー。

 それを思いっきり振り下ろして、ピタリと止める膂力。

 

 本当に人か?

 そんな言葉が喉元まで出掛かる。


「悪魔さんや……うちの大事な坊っちゃんは知らんか?」

「……」

「私には核が分からんからのう……答えてくれないと体が粉々になるまで、この鎚を振るうことになるが」


 嘘を吐け!

 悪魔は、心底そう叫びたかった、


 何故なら、マリーの視線は確実に自分の核を見据えている。

 知っていて、わざと全身を砕くと言って来ているのだ。

 それも脅しじゃない。


 だが、ここで困った事態が訪れる。

 彼は……マルコを攫った犯人を知らない。

 仲間の悪魔かも知れないが、そんな情報は入ってきていない。


 勝手な行動を取った事も、報連相を怠った事も含めて誰か分からないが、行動に移した悪魔を心底恨めしく思う。


 もしかして、フルカス様……だったら、間違いなく情報を送ってくれるはず。

 そう考えた彼は、もっとも不正解だと思われる沈黙を選択した。

 いや、選択したわけではない。


 思考中なのだ。

 次の瞬間に、足の感覚が消える。

 目の前にあった鎚がブレたかと思うと、パッと消えてなくなった。

 そして足元から聞こえてくる、破壊音。

 

 痛みすら感じない。

 そこを見る事すら出来ない。


「すみませんね、歳のせいかちょっとよろめいてしまいました」


 ……

 これはドジっ娘アピールなのか?

 可愛らしく頭をコツンとやっている女性。

 手にもったハンマーで。

 ヤバいヤバい……

 このままだと……


「奥様、この悪魔は本当に何も知らないようですよ!」

「そうですか……では、どうすればいいかしら?」

「まあ、この街にも人にも害でしかないですし」


 黙っていたら、そんな会話が聞こえてくる。

 本格的に不味い事になった。

 そう思った瞬間に……


 視界が消えてなくなる。


「ちょっと、ばあや!」

「あらら……不穏な気配を感じたので、うっかりくしゃみが出てしまいまし」


 くしゃみをした拍子にハンマーが、数度地面を跳ねて悪魔の身体を粉々に砕く。

 マリアが何やら文句を言っているが、マリーは素知らぬ顔でハンマーを布で包んで背負う。


「ここは外れだったみたいですね」

「全くもう! あらっ? あの子の匂いが街から」

「奥様……それは、流石に私でも引きます」


 マリアが上空を見上げて鼻を引くつかせるのを見て、マリーが溜息を吐く。


「夕飯までに帰ってくるかしら?」

「ファーマさんが、真っすぐ向かっているようですし……マイケル様も向かわれたみたいですよ」

「私もこっそりと……」

「でしたら、私も」


 そして、2人の女性がその場から姿を消す。

 地面に大きな穴を残して。


 




すいません……終わりませんでした(´;ω;`)

次こそ必ず(`・ω・´)


言い訳させてください……

ツイッターで少しやり取りしていたら、色々と見たいMVが出て来て……なんでもないです(-_-;)



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