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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第136話:色々と入り乱れる

「しかし、どうしたものかな……」

 

 眼下では、リザベルが冷蛇(レイダ)と呼ばれた大蛇に捕まってもがいている。

 が、すでに全身が真っ青に染まるほどに冷やされているのがよく分かる。


「悪魔も凍死とかするのかな?」

「いや、凍らされて砕かれたら、割と復活に時間が掛かるのですが?」


 リザベルがこっちに向かって、話しかけてくる。

 なんだ、割と余裕がありそうだ。


 フルカスの方もスライムの拘束を逃れ、身体の感覚を確かめるように手を握ったり開いたりしている。

 思った程の影響は無かったのか、すぐに剣を呼び出しニヤリと笑っている。

 その視線の先はレイダに捉えられたリザベル。


 流石にちょっと不味いかなと。

 ただ、魔力の扱い方は知っていても魔法に関してはそこまで詳しくない。

 迂闊に火の魔法を放ったところで、魔力を込め過ぎると森が焦げるかもしれない。


 それよりも気になるのは、遠くで爆炎を放っていたジャッカスと大蛇。

 その爆炎や戦闘音が徐々に近づいて来る。

 森の中を土煙をあげながら。


 その先頭に、人影が……

 というか角は無いけど、悪魔の影が。

 両脇に何やら抱えている。


 徐々に露わになる巨体。

 目の前のレイダに負けず劣らずでかい。


「待て!」

「くそがっ! 子供を放せ悪魔が!」

「貴様が、この蛇を操っている主か!」


 その蛇の後を追いかけるジャッカスと、愉快な仲間達。

 キアリーをはじめとした、上位冒険者達だ。

 頼もしいような、頼もしくないような。


 はっきりと姿を現したマハトールが、既に涙目だ。


「マスター! 失敗しました」


 慌てた様子でふざけたことを言いながら、走って来るマハトール。

 両脇にフレイとユリアを抱きかかえている。

 そして、巻き込まれた一般人が2人掛かりでケイを運んでいる。


「ていうか、ジャッカスさん酷い! めっちゃ他人のフリするんですよ!」

「奇遇だな、俺もお前に対して他人のフリがしたいなと思っていたところだ」


 馬鹿かこいつは。

 悪魔だとバレた時点で、ジャッカスが保身に走るのは当然の事だろう。

 

「子供達を連れて逃亡中に、ジャッカスさんの気配を感じたので助力を乞いにいったら戦闘中で」

「あんな爆音を立てて、戦っていたのに気付かなかったのか?」

「まさか、こんな化け物を相手にってひいっ! 目の前にも化け物が!」


 こいつはよほど、酷い目に合いたいらしい。

 最近では目覚めたのではないかと思えるほどに、俺をイラつかせる。


「子供達が無事ならいい。取りあえず邪魔にならないように、脇にどいてろ!」

「はいっ!」


 素直に闇の球体をいくつも作り出して、その陰にかくれるように茂みに潜むマハトール。

 凄いな。

 球体に込められた魔力に惑わされて、蛇がマハトールを見失っている。

 というか、それよりもアシュリーは?


「あはは、隠れても無駄だよ」


 居た。

 

「あそこに撃って!」


 紫電を走らせる巨大な蛇に。


「いいわよ」


 そして、アシュリーの指示に従って雷を放つ蛇。

 

「わぁっ! 尻尾が焦げたぁっ!」


 そうか……

 ちょっと攻撃が掠っただけで、そんなに気になるのか。

 その尻尾……


 ならそんな尻尾なんて邪魔でしか無いよな?

 角同様にもいでやろう。

 決めた。

 そうしよう。


「ひいっ、何やら敵がもう一体増えたような感覚が」

「ほう? 俺の怒気を敵意扱いか……良い度胸だ」

「ひゃぁぁぁぁ!」


 管理者の空間の御三家(カブト・土蜘蛛・ラダマンティス)全員の威圧を借りて放つと周囲が途端に静まり返る。


「なんだ、この馬鹿げた覇気は!」

「ありえない……神獣クラスの威圧だわ」

「くっ……アシュリー、降りろ! こいつは……」


 何か視線を集めていると思って下に目をやると、フルカス、レイダ、そしてもう一匹の大蛇がこちらを驚愕の表情で見上げていた。

 見るとジャッカス達も足を止めて、こっちを見上げている。

 ジャッカス以外の冒険者達は、半数以上が武器を取り落として震えている。

 そうじゃないものたちも、冷や汗を流しつつどうにか体勢を維持しているようだ。


 レイダの気がそれた隙に、そそくさと逃げ出すリザベル。

 そのまま、姿を闇へと消す。

 レイダは完全にこっちに気を取られていて気付いていない様子。


 というか、マハトールは?

 ああ、居た居た。

 俺から隠れるように、フレイとユリアと一緒に茂みの奥へと伏せていた。


「みいつけた!」

「「「「ひいっ!」」」」


 マハトールが肩を跳ねさせて、後ずさりする。

 それは、分かる。

 だが、何故かフルカスと2匹の大蛇まで悲鳴をあげている。


 そうか……

 そうか、そうか。

 確かにそうだな。


 これが1匹分の威圧なら、彼等もここまでの反応は示さなかっただろう。

 だが、今回俺は3匹分の威圧を1人で放った訳だ。

 純粋にカブト、ラダマンティス、土蜘蛛を足した実力者の威圧と。


 それは、相当に威力を秘めているらしい。


 なるほどね。


 蜂達に支えられつつ、風の魔力を操って宙に浮いている俺はニヤリと笑みを浮かべる。

 だったら、威圧が使える全ての虫の威圧を足したらどうなるのかと。


「どりゃあっ!!」

「【風の囁き(ハイ・ブースト)】!」


 と思ったら、流石は上級冒険者。

 キアリーが斧をマハトール目がけて投げると、マハトールが防御に転じた隙にユミルという冒険者がありえない速度で残像を残しながらフレイとユリアを救出する。

 マハトールから。


「あっ」


 一瞬の隙を突かれて、子供達を奪われたマハトールが軽くなった自分の手を見て唖然としている。

 ちなみにユミルはマルコに弓を教えていたレンジャーだ。


 それなり以上に強い。


「隙だらけですよ!」


 そして、そこに突っ込んでいくジャッカス。

 粘鉄蚯蚓(ビスカスワーム)の扮した剣を伸ばして木の枝に巻き付けると、一気に距離を縮める。


「何をしているのですか、貴方は」

「ご、ごめんなさい」


 そして茂みの中で、何やら相談。

 

「子供達を無事に逃がす事も出来ないなんて」

「面目ない」

「まあ、それは良いですからあの悪魔だけでもなんとかしてください」

「はい……」


 物凄く、ジャッカスに怒られてた。

 シュンとした様子のマハトール。

 そんな事で、へこむな。

 これが終わったら、管理者の空間でもっと辛い目にあってもらう予定だから。


 場が混沌としてきたので、そろそろ役割を分担した方が良さそ……

 えげつない。


 この混乱に乗じて、リザベルが相当の魔力を練っていた。

 さらに、虫達もレイダを取り囲むような布陣を敷いている。


 となるとフルカスの相手は、マハトールで確定として。

 レイダはリザベルと虫達が抑えるだろう。


 そして、もう一体の蛇は……マルコの師匠達に任せるか。

 俺の仕事が無くなった。

 ノーフェイスの気配は完全に消えてしまっているし。


「くっ!」

「なっ!」


 と思ったら、アシュリーの魔力が一瞬膨れ上がり、腕輪が激しく光を放ったかと思うと冒険者目がけて青い光が放たれる。

 その光に一瞬早く反応したキアリーが、ユミルを庇うように前に飛び出し直撃する。


 光の一撃を受けたキアリーが、ピキピキと音を立てて凍っていく。

 不味い!


 すぐに蝶達に指示を飛ばして、回復に当たらせる。

 と同時に、蟻と蜂にキアリーに追撃が来ないように、守備に当たらせる。


「貴方達、遊んでないで仕事しないと怒られちゃうよ?」

「あっ……ああ」

「はいっ」

「すいません」


 それからフルカス、レイダ、大蛇を睨み付けて注意する。

 アシュリーに注意された3体が、面目無さそうに顔を伏せる。


 ここでは、アシュリーの方が立場が上なのか。


『不味いですね……あの腕輪の力で魔力を強引に引き出されているようですが、足りない部分は生命力で補っていますよ』


 そこに、土蜘蛛から俺に対して警告が入る。

 なるほど……

 それ、不味くね?


 いきなりアシュリーがスキルを使った事に驚いたが、腕輪の力らしい。

 そして、特別才能があるわけでもないアシュリーが、そういった攻撃を行うには魔力が足りず生命力を変換していると。


 あー……悪魔どもがちゃんとしてないから、アシュリーに影響が出ていると。

 俺も遊んでいる場合じゃなくなった。


「マハトール、これ以上ふざけると本気で消すぞ」

「ひっ、分かりました!」


 本気でマハトールを怒鳴りつけると、マハトールが慌てた様子で茂みから飛び出してフルカスに斬りかかる。


「リザベル、皆、とっととレイダを滅ぼせ」

「はいっ!」

「御心のままに!」


 そして、タイミングを見計らっていたリザベルと虫達に指示を飛ばす。


「ジャッカス、そっちの蛇は任せた」

「はい!」


 そして、ジャッカスにももう一匹の蛇の対応を命ずる。

 俺は、とうにかしてアシュリーの腕輪をなんとかしないと。

 先の土蜘蛛の発言を聞いたマルコが、かなり焦っている。


「お嬢さん、そんな物騒な腕輪は外したほうが良いかな?」

「マルコ? ……じゃないわね。不思議な人、マルコみたいな空気を纏っているのに、全くの別人みたい」

「そうだ、俺はマサキって言うんだ。覚えて貰わなくても良いけど」


 一気に距離を詰めて、アシュリーの腕を掴んで腕輪を吸収しようとして……失敗した。

 まるで、腕輪自身が完全にアシュリーと同化しているような。

 そんな感じだ。

 

 となると、アシュリーごと吸収するのが手っとり早いけど。


「ふふふ、そんな乱暴に掴まないで。彼氏が嫉妬しちゃうわ」

「くっ!」


 腕輪が一瞬光ったかと思うと、物凄い衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 これもスキルだろうが、スキルを使用したということはまた生命力を削ったという事か。

 これは、厄介だ。


 どうすれば良い?

 腕を斬り飛ばして、蝶に回復させる方法が一番手っ取り早いが。

 もし、腕輪から根を伸ばしてアシュリーの身体に侵入していたらと思うと。

 確かめようも無いが。

 

 前世で無駄に得た知識が、色々な可能性を示唆する。

 無論ファンタジーな知識だから、その物語を作った作者の想像上の能力でしかないが。

 だが、ここもファンタジーな世界。

 その可能性を馬鹿にして、切り捨てる訳にもいかない。


 そしてこういった操作系の魔道具のお約束は、装着した部分から根を張って体内に侵入しているケース。

 もし腕輪を吸収出来れば、根ごと取り除くことも可能だが。

 現時点では無理だった。

 次の手を考えないと。


「取りあえず、お兄さんはお呼びじゃないかな!」

「ちっ!」


 また腕輪を使ってスキルを放つ予兆を感じたので、腕輪に集められた魔力を強引に吸い取る。

 と同時に、カブトの【魔素空間(マナ・プール)】をアシュリーの周りに展開する。

 魔力が足りれば、生命力を削る事は無い。

 が、これは同時に相手に対して、魔力を供給する行為。

 こっちの危険が増すことになる。


「あれっ? 不発? でもなんだか、力が漲ってくる」

「そりゃ、結構」


 さてと、これは長期戦にもつれこみそうだ。


――――――

「貴方が余計なことをするから、私は現在生命の危機を感じてます」

「なんだ、いきなり」


 マハトールが情けないことを言いながら、フルカスに斬りかかる。

 伸ばした爪で。


 ただ、その攻撃は驚くほどに遅い。

 まるで、カウンターをどうぞと言っているかのように。


「遅い!」


 しかし、不意打ちで攻撃をされたことで、フルカスはついカウンターの一撃を放つ。

 その腕に向かって。


 そして、斬り飛ばされるマハトールの腕。

 飛び散る鮮血。

 

「ぐっ! 貴様!」


 その鮮血を顔面からもろに浴びたフルカスが、顔を背ける。

 その顔から蒸気をあげながら。


「隙だらけですよ」

「チッ!」

 

 目にも思いっきり血を浴びた為、視界が全く確保できない状態で音と気配を頼りにマハトールの攻撃を受ける。

 が、その衝撃は思いの他、軽い。


 そして腹部に感じる、強い衝撃。

 マハトールが放ったのは、自分の腕。

 斬り飛ばされた右手を左手で拾って、投げつけたわけだ。

 

 勿論、一発目は囮。

 敢えて、相手に斬り飛ばさせるように仕向けた遅い攻撃。

  

 そして、自身の血で相手の目を眩ませたあとに自分の腕を投げつける。

 勿論、この攻撃はあっさりと弾かれる。

 そこまで織り込み済み。

 

 本命は……

 その腕に隠れて突進した白蟻。

 ここに来て他人任せ。

 どこかの誰かに似ているが、敢えて言わない。


「くそっ、なんだこの感覚は……」


 腹に牙を突き立てられ、聖気を流し込まれたフルカスが眩暈を覚える。

 と同時に、背後に寒気も感じる。

 

 すでにマハトールがフルカスの背後を取って、斬り飛ばされたはずの右腕を首筋に突き立てる。

 そのまま一切の迷いもなく腕を振り切ると、フルカスの首が斬り飛ばされる。


「さてと、デーモンロードともなると核を完全に破壊しないこと……に……は」


 そこまで言ったところで、マハトールの身体が崩れ落ちる。

 バランスを崩しながら自分の胸に目をやると、細く長い槍が突き立てれている。


「ほっほ……まさか、真の姿をさらすことになろうとはのう」


 首の無いフルカスが、そう言葉を発すると彼を包む漆黒の甲冑がガラガラと音を立てて崩れていく。

 そして、中から現れたのは小柄な老人。

 白髪と長い髭を携え、手には先ほどマハトールに突き立てた長い槍を持っている。


「堪えるじゃろう? ドレインランスは」

「……ドレインランス?」

 

 嫌な予感しかしない槍の名前。

 ところがこの小柄な身体でどうやってあの巨大な鎧を纏っていたのかの方が、マハトールは気になっていたりする。


「この姿を見せたからには、わしのしもべになるか消えて貰うしかないが、いかがする?」


 フルカスが胡坐をかいて宙に浮かぶと、地面からズプズプと音を立てて真っ青な馬が現れる。

 その途中過程はまるで地面から馬が生えているかのような、光景だ。


「それが、貴方の本気の姿と……」

「そうじゃよ、あまりこの姿で戦うことはないのじゃがのう」


 楽しそうに笑うフルカスを睨み付けるマハトール。

 馬の上に綺麗に収まったフルカスが、少し高くなった視点からマハトールを見下ろし……ゆっくりと横倒しになっていった。



 



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