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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第135話:見る者、見られる者

 管理者の空間で、タブレットを使ってフレイ達を捜索する。

 ホテルを出て、おおよそ2時間が経過しているらしい。

 森の入り口に見覚えの無いそこそこ立派な馬車が。

 ただ、盾の後ろに鍬が。

 ベルモント本家の家紋だ。


 森までは馬車で来たのだろうか?

 というか……


 蝶に指示して、浄化の魔力をぶつけさせる。

 一瞬青白い炎が上がったかと思うと、家紋や馬車の装飾が消えみすぼらしい荷馬車へと変わる。

 幻術……いや、幻惑魔法か?


 決定的だ。

 これは、王都の事件と一緒で悪魔を使った何者かの仕業……

 あれ?

 王都の事件は、デーモンロードが首魁だったはず。

 何かを見落としている気がする。

 

 が、いまはそんな事を考えて時間を無駄にしている場合じゃない。


 いくら馬車で森に来たとはいえ、そこからは子供の足。

 そこまで深部には進んでいないだろう。

 そう思って、入り口から順にタブレットに映る範囲を広げていく。

 地上では虫達が、広範囲に広がって探している。

 

「見つかりました」


 すぐに、蜂から報告が入る。

 入り口から2km地点を、先頭に豪華な鎧を付けた騎士が。

 その後ろをアシュリー、さらに後ろをフレイ、ユリア、ケイの3人が歩いている。 

 そして、それを取り囲むようにしてついて歩く3人の騎士。


 先頭の騎士とアシュリーだけが楽しそうに歩いているが、周りを取り囲んでいる騎士達に表情は無い。

 というか、そもそも生気すら感じられない。

 

 そしてフレイ、ユリア、ケイも焦点の定まらない目で淡々と後ろをついて歩いている。

 これは宜しくない。


 アシュリーが時折、愛おしそうに見つめている腕輪が気になる。

 マルコも気にしていたが、かなり禍々しい気を放っている。

 気なんて分かるのかと言われたら困るが。

 分かってしまう。

 何故かって?


 時折チロチロと青紫の光を放っているからだ。

 そして、その光に呼応するように3人の騎士の目が怪しく光っている。

 

 あの腕輪は……

 一癖も二癖もありそうだ。

 

 さてと、先頭を歩いている騎士が間違いなくキーパーソンだろう。

 あれが、アシュリーを操って、今回の騒動を起こした人物となんらかの関わりがあるはずだ。


 ただ目的が分からない。

 魔族からなら何人か恨みを買ってしまったかもしれないが、悪魔とは基本的にマハトールとリザベル以外関わりは無い。

 こともないか。

 デーモンロードのヴィネ絡みか?


 ヴィネを下したのが俺だとバレた?

 から、どうしたというんだ?

 それで、興味を引いたのか?


 駄目だ、情報が少なすぎる。

 ヴィネの関係者……もしくは、ヴィネを倒した俺を倒す事で名を上げようとする悪魔か……

 デーモンロードのヴィネには勝てなくても、(マルコ)になら勝てそうと思われたのかもしれない。


 しかし、あの時に目撃者といったらリコと虫達くらいしか居なかったと思うが。


 兎に角、この状況を変える手を打たないと。

 騎士達と子供達を引き離すのが一番だが。


 ジャッカスは雷蛇の足止めを喰らっているし。

 

 チラリと横を見る。

 バッと顔を背けるマハトール。


 囮に丁度いい人材が居るじゃないか。


「嫌ですからね?」

「ほう? まだ何も言ってないのだが? というかさ……仮に何か言ったとして、下僕のお前に拒否権があるとでも?」

「いや……いまちょっと、ベルモントに関りのある人間に見られたくないのですが?」

「ふふふ……そんな時のための、これだろう?」


 そう言って、マハトール用の仮面を取り出す。

 泣きながら笑っている仮面はクロウニ用。

 怒りながら笑っている仮面はジャッカス用。

 そしてマハトールといえば!


「えぇ……」


 その仮面を見たマハトールが、嫌そうな表情を浮かべている。

 上半分は苦痛に顔を歪めているが、下半分は穏やかに微笑んでいる。

 そう、苦しみながら笑う仮面。

 

 これも、じじいの部屋から失敬した。

 流石にそろそろバレそうだが。

 かなりの数の仮面があるから、大丈夫だと思いたい。

 東南アジア系のガルーダの仮面とか、ツタンカーメンっぽい仮面もあったし。

 能面や、狐のお面、ひょっとこなんかも。

 絶対に地味に善神……様が介入しているっぽいけど。


 あれだ、インスピレーションが降って来る的な感じで、仮面職人にビジョンを送ってたり。

 いや……まあ、仮面なんてバリエーションは無限にあるとはいえ、どこかしら似通って来るのは仕方ない事か。


 目と鼻と口をメインに作ってるんだから、世界によって大きく違う事なんてあまり無いだろうし。

 その世界の固有種を模した物じゃ無ければ。


 とはいえ、空想で作ったりもするわけだし。

 いや、仮面の事はいまはどうでも良い。


 気持ちを落ち着かせようと余計な事を考えていたら、余計な事しか考えてなかった。


「笑う仮面シリーズだ! お前達人型の配下にしかまだ配っていないし、それは信頼の証だ」

「信頼の証……我々しか貰っていない」


 俺の言葉に、マハトールの表情が固まる。

 そして、跪いて両手を柔らかく開いて掲げてくる。


「有難く、下賜頂きます」


 チョロい。

 こいつはこの空間で雑な扱いを受け続けてきているから、こういった特別を演出するとコロリといきそうだなと思っていたが。

 こいつを有用な配下として重用することに不安を覚えるレベルで、チョロい。


 まあ、扱い易いという点では満点だが。


「ああ、思う存分搔き乱して来い! どうせ、あいつらは下っ端だ」

「はっ! きっと、満足いく結果をご覧頂けるかと」


 仮面を受け取ったマハトールが、その仮面を顔にはめる。

 そして、セットで渡した漆黒のローブに身を包む。

 バサッとマントを翻すかのように、大きな動作でローブをはためかせ身体の前で閉じると肩のボタンできっちりと留める。


 本当に、調子に乗らせたら無駄に役者掛かるのは、見ていて面白い奴だと思う。

 

 転移で森の上空に移動すると、マハトールを召喚する。


「ここに」


 空中で跪いて、臣下の礼を取るマハトール。

 ここにも何も、お前が転移を遣えないから俺が運んでやったんだろ。

 しかも、さっきまで一緒に居たし。


 まあ、そんな事を突っ込んで折角のやる気に水を差しても、良い事にはならんだろうし。


「騎士達を子供達から引き離せ」

「御意に! 身命を賭して成し遂げます」


 大袈裟だ。

 それに、こんなところで死んでもらっても……いや、後任にはリザベルも居るし。

 まあ、良いか。


 そしてこっちにもお客様がいらっしゃったようだ。

 今居る場所よりさらに上空から視線を感じる。


 逃げるように管理者の空間に転移して、正体を探る。


 !


 さっき居た場所で視線を感じた方向にタブレットを寄せると、待っていたとばかりにこちらに向かって人差し指を立てて左右に振るローブの人物の姿が。


 そしてローブ姿の人物がその指をクルリと回すと、頭に軽い衝撃を受ける。

 実際に何かされた訳じゃない。

 だが、色々な記憶が蘇る。

 

 何故、こんな重要な事を忘れていたのか。

 クエール王国の前国王の傍にいた人物。

 そして、王都でヴィネを従えていた人物。

 さらに言えば、最近ベルモントでも見ている。


 その人物がこっちを見てニヤリと笑う。

 違和感の正体にようやく、思い至る。

 こいつは、記憶を操る……いや、そこまでの影響は受けていないはず。

 ということは、こいつに関する記憶のみを消す事が出来る何らかのスキルを持っているのだろう。


 傍に控えている土蜘蛛に、思念伝達で指示を出す。

 こいつはきっと、俺に用があるのだろう。


 もしかしたら、クエール王国の件で邪魔をした俺に面白くないと……逆だな。

 興味を引いてしまったのかもしれない。


 厄介な奴に目を付けられたと思いつつも、今回の騒動は完全に俺のせいでフレイやアシュリーを巻き込んでしまった事に気が付く。


 これは……誰にも気づかれていないけど、自分に対して……そして、マルコに対して汚名返上をしないと。

 気付かない間に、迂闊に厄介事に首を突っ込んでしまったようだ。

 ベニス領の件で、クエール王国の影に怪しい人物がいると報告を受けていたのに。

 無警戒に、好き放題やらかしたツケがマルコや周りの人物にしわ寄せとなって来てしまった。


 マルコの事をあれこれと言う資格は、今の状況だと俺にはないな。

 神から与えられた能力に対して、全能感に浸っていたのは否定のしようが無いからな。


 ここは……自分で尻ぬぐいをして、マルコに大人としての手本を見せないと。

 自分が撒いた種は、自分で刈り取る。

 自分の尻は自分で拭く。


 といいつつ、配下を便利に使ったりするけど。

 そこはあれだ……大人ってのは汚いもんだ。


 まずはあのローブの人物に対する対応からだな。

 何故タブレット越しの俺の姿が見えるのか……


 魔王は言っていた。

 自分に向けられた視線は、なんらかしらの繋がりを持っていると。

 そこから辿れば、たとえスキルの力だとしても大概の監視スキルは看破出来るうえに、彼の場合はパッシブスキルのレベルにまでその警戒が到っているらしい。

 改めて規格外の化け物だということが分かる。

 

 バルログは……魔眼の力でその空間の景色を転写する信号を読み取ることが出来るようになったと。

 魔力ないし、神通力ないし、何かしらの力が働いているのを見る事が出来ると。

 涙ぐましい努力の結果だが、漠然とした力の流れを読み取ってなんとなく把握することが出来るようになったと。


 この両方に対して、対策を張れば……


「何よ! 貴方!」

「フフフ……悪魔ですよ? お嬢さん、そんな悪い友人と仲良くしてたら、身を滅ぼしちゃいますよ?」


 マハトールが動いたらしい。

 馬鹿正直に、一行の前に翼をゆっくりと羽ばたかせながら舞い降りたと……


 報告をしてくれた蟻が、盛大に溜息を吐いている。

 とはいえ、蟻と蜂はすでにマハトールに視線が集中している隙にかなりの距離まで近づいていると。


「こんなところで小悪魔風情に出会うとは……皆さんお下がりください」


 そして先頭の騎士がハルバートを右手に持って、後ろの子供達を庇うように左手を広げる。

 立派じゃないか。

 形だけ見れば子供を攫いにきた悪魔と、それから子供達を守る騎士。

 どっからどう見てもマハトールが悪役だな。


「ふふふ……大悪魔様に相手して貰えるとは、光栄ですね」

「ほう?」


 仮面を付けたマハトールが、悪い笑みをこぼしながら闇の魔力を集めている。

 気付けマハトール。

 お前が悪魔だと、バレバレだぞ?


 子供達にも聞かれたぞ?

 まあ、精神支配を受けているから、後々覚えているかは定かじゃ無いが。

 万が一覚えていて、ファーマに報告されたら……


 まあ、マハトールだし良いか。


「リザベル、お前も準備しておけ」

「はっ、主の御心のままに」


 マハトールと違って、きっちりと忠誠を誓ってくれたリザベル。

 真名を明かしてまで、主従の契約をしてくれている。


 マハトールよりも、よっぽど信頼おける悪魔だ。

 

 再度現地に転移して、リザベルと大量の蛾を呼び出す。

 

「子供達は返してもらいますよ」

「攫うの間違いだろ!」


 マハトールが一気に距離を詰めると、騎士がハルバートを振るう。

 それを翼をはためかせ、上空に逃げるように躱すと背後の子供達に迫る。

 が、護衛の3人の騎士達が剣を抜いてマハトールに斬りかかる。


 マハトールの身体に刃が食い込み、鮮血が飛び散る。

 そして……


「あれ?」

「オラ、こんなところで何を?」

「ひっ! 大丈夫かい兄さん!」


 マハトールの血を浴びた騎士達が慌てふためいて、手に持った武器を手放す。

 マハトールの血に含まれた聖水の成分で、悪魔の支配を強引に解除したわけだ。


「なるほど……主がいう通り、面白い身体をしているみたいだな」


 騎士扮した一般人だろう人達が状況を把握できずにいると、ハルバートを持った騎士が感心したように頷く。

 

「私の名はフルカス……シュバリエだが、序列50位のデーモンロードだ」

「えっ?」


 フルカスと名乗った悪魔の言葉に、マハトールが固まってしまった。

 あー、そういえばデーモンロードの中には、騎士もいたんだっけ?

 というか、序列と爵位があってなかったりするのも悪魔の面白いところ……

 というか、地球産の悪魔?


 それとも悪魔は各世界共通で、行き来してるのか?

 まあ、そんな事はどうでも良いか。


 アークデーモンのリザベルには余裕をもって対峙していたマハトールだが、相手がデーモンロードと分かってちょっと弱気になっている。

 それよりも、巻き込まれた一般人と子供達をさっさと避難させろ。


『私が避難したいのですが?』

「身命を賭してと言っていたのは、嘘だったのか?」

『いや、本当にそんな事になるとは……』


 本当にこいつのお調子者には困ったものだ。

 仕方ない……


「五月蠅い、黙って役割をこなして死ね」

『酷い!』

「骨くらいは拾ってやる」

『……』


 うん、仮面を付けているからどんな表情か分からないし。

 しかし、虫達は優秀だ。

 すでに蟻達が巻き込まれた者達とフレイ達を掴んでその場から離れると、蜂達が抱きかかえるようにして距離を取っている。


「ほう……虫を操るのか?」

「いえ、あれは私の主の力です……というか、彼等は私より強いというか、先輩というか……」

「虫以下か、お前は!」

「ええ……まあ」


 この会話だけ聞くとマハトールがかなり卑屈な悪魔のように聞こえるが。

 実際に、事実なだけになんとも言えない。


 上空のローブの人物にチラリと視線を送る。

 こっちの視線には気付いているのだろうが、場の行く末を楽しみにしているらしく軽く一瞥しただけだった。


「喰らえ!」

「はっ! 不意打ちか!」

「マスター!」


 そして、突如フルカスの頭上に転移した俺が、剣を抜いて斬りかかる。

 咄嗟に後ろに跳んだフルカスが、すれ違い様にハルバートを振って来る。

 マハトールはホッとした様子で、こっちを見ていたが。

 馬鹿野郎!


 今の隙になんらかの攻撃を仕掛けろよ!

 全く、息が合わない。

 虫達だったら、きっと……


「くっ!」


 後ろに跳んだフルカスが、バランスを崩している。


「くそ、虫けらが!」


 ナイスだ。

 白蟻が、フルカスのくるぶしの辺りを、思いっきり噛んでいた。

 フルカスが足を振って振りほどこうとしていたが、それよりも一瞬早く距離を取る蟻。

 そして、キラキラとした目で成り行きを見守るマハトール。

 

 本気で使えない。

 ここでもチャンスを物に出来ないとは。


「痛い!」


 俺のイライラを感じ取った蟻が、マハトールに噛み付いていた。

 ようやく我に返ったマハトールが、俺を見て頷く。

 本当に分かってるのか?


「子供達は私に任せてください!」


 そして、これ幸いとばかりに戦線を離脱。

 ……

 あいつ、絶対に許さん!


 もう、マハトールを当てにするのはやめだ。

 完全にマハトールを居ないものとして、俺がフルカスに連撃を繰り出す。


「くっ、いきなり出て来て、お前も人間じゃ無いのか!」

「?」


 確かに関節を無視したかのような、変幻自在の斬撃を見てフルカスが少し焦っている。

 しかも俺の攻撃に気を取られたら、蟻や蜂が攻撃を仕掛ける。

 悪いな……わざわざ1対1で相手して、しなくてもいい苦労をするつもりはないんでね。


 次から次へと繰り出される俺と虫達のコンビネーションに、徐々にフルカスの化けの皮が剥がれてくる。

 というか……


 鎧のメッキが剥がれて、むき出しの人の部分も剥がれていくにしたがって露わになる真の姿。

 黒い甲冑に、黒い肌……


 黒騎士以上に黒騎士だ!


「調子に乗るなぁっ!」


 突如その兜の部分から放たれる【闇の咆哮(イビル・ロア)】。

 身体をグニャリと曲げて、それを躱す。


「気持ち悪い動きを!」


 だがその隙を見逃すような間抜けは、俺の周りには居ない。

 大きく開かれた口目がけて蜂達が突っ込む。

 慌てて口を閉じるフルカスに対して、右手から糸を飛ばして口を塞ぐ。

 勿論、聖水を染みこませた糸だ。


「グッ!」

 

 闇の咆哮(イビル・ロア)を封じる事が出来たため、一気に距離を詰める俺と虫達。

 が……


 次の瞬間に地面が爆ぜて、巨大な影がフルカスと俺達を寸断する。


 青い鱗に身を包んだ巨大な蛇。

 身体から白い霧のようなものが立ち込めている。

 徐々に周囲の気温が下がっているようだ。

 

 冷気?


「グアアアッ!」


 そしてその冷気によって、聖水が凍ったのか。

 固くなった糸を、爪で引き裂くフルカス。


「くそどもがっ! 助かった冷蛇(レイダ)!」

「油断し過ぎです」


 レイダと呼ばれた蛇が、文字通り冷たい視線をフルカスに送っている。


「チッ!」


 そしてレイダの方を向いた一瞬の隙をついた、闇の砲撃がフルカスに襲い掛かる。

 間一髪、腕を交差してそれを受け止めるフルカス。


「他にも悪魔が居たのか……アークデーモンか?」

「リザベルだよ」

「リザベルだと? あのヴィネの手先か!」


 不意打ちに失敗したリザベルが、悪びれた様子もなく後ろで手を組んで微笑みかける。

 後ろに組んだ手の平に、闇の魔力を集めているあたり抜け目がない。


「元ね? いまは、違う人に仕えているけど……ねっ!」

「くっ、相変わらず狡い真似を!」


 そして、両手に集めた闇の魔力を球体にしてフルカスに向かって放つ。

 先の一撃で体勢を崩しているフルカスが、少し焦った様子で相殺しようと魔力を集める。

 が、それよりも先に青い巨体が割って入る。

 闇の球体はその身体に当たると、弾けて消える。


「硬いー、蛇さん」

「私が硬いんじゃなくて、貴方の攻撃が軽いだけですよ」


 チロチロと舌を出して、興味が無いと言った様子で目を細めるレイダ。


「そして、それで隠れたつもりですか?」


 一連のやり取りの間に、こっそりと蚯蚓が掘った穴に飛び込んで背後に回ろうとしていた俺目がけて、白い光が放たれる。

 周囲の空気を凍らせながら、迫ってくるそれ。

 光の周りにキラキラとダイアモンドダストが輝いている。

 それだけで、その攻撃がいかにヤバいかが分かる。


 流石に虫達も冷気には弱い。

 虫を盾に使う事も出来ず、やむなく地面から飛び出す俺。


「丁度いいところに居るじゃねーか!」


 場所が悪くフルカスの目の前に飛び出してしまい、俺を捕まえようとフルカスが手を伸ばしてくる。


「マサキ様っ!」

「貴方の相手は、私ですよ?」


 リザベルが焦った様子で飛び出すが、レイダの尻尾に弾き飛ばされている。

 なかなかに、反応が早い。


「くそっ」

 

 吹き飛ばされながらも、翼を使って体勢を整えるリザベル。

 そしてフルカスが俺の身体を掴み……


「ガキが捕まえたぞ! お前が主の言っていた面白い奴か?」


 地面に叩きつけられる。

 激しい勢いで打ち付けられた俺の身体が、激しく波打つ。

 そして、身体の前面が弾け地面が真っ赤に染まる。


「やべっ、つい力を込め過ぎたか」


 フルカスがちょっと焦った表情を浮かべているが、別に構わないかといった様子でニヤニヤと笑みを浮かべている。


――――――

「あーあ、やっちゃいましたか」

 

 上空で一連の流れを見ていたローブ姿の人物が、溜息を吐く。

 

「殺すなと言ったのに」


 首を横に振ると、がっくりと項垂れている。

 そんなに俺と遊びたかったのか?


 だったら……


「あんな勢いで叩きつけられたら、普通の子供だったら死んじゃうわな」

「っ!」


 背後からローブの人物に声を掛ける。

 慌てて距離を取ろうとするそいつのローブに手を掛け、一気に引きはがす。


「なんで?」

「なんで? 良く見てみろよ」


 こっちに向かって驚愕の表情を……って。

 顔が見えない。 

 というか、顔が無い。


 そこには真っ白なのっぺりとした、顔としての凹凸がある何かが。

 そして、身体はキラキラと小さな光を内側に閉じ込めた人の形をした真黒な空間。

 かなり異質な存在だという事が分かる。

 

 思わず、冷や汗が流れそうになるくらいに。

 だが、どうにか平常心を装って下を指さす。


 その先では、地面に叩きつけられた俺の身体が液化して広がってフルカスの身体に纏わりついている。


「スライム?」

「ああ、擬態に特化したスライムだ」


 やべー……

 正面から見ると、あまりに奇怪な見た目に心臓がバクバクだ。

 いきなり見るもんじゃない。

 まるで、ブラクラを踏んだ気分だ。


「いや、それよりもどうやって? 貴方の視線も気配も……」

「ああ、こいつらにちょっとね」


 こちらに向かって剣呑な眼差し……目が無い。

 まあ、いいや。

 目の前の異形の上からゆっくりと降りてくる蛾の群れ。

 

 その蛾の羽から降り注がれる透明の鱗粉から、様々な魔力が放たれている。

 その魔力の質は、目の前の異形のものに寄せてある。

 

 ようは、こいつの魔力を帯びた粉を周囲に振りまいてバリケードとしたわけだが。

 思った以上に効果的だったようだ。


「初めましてじゃないよな? お前誰だ?」

「ふふふ……そうですね、今まで何度かお会いしてますよ。誰だと言われても困りますが」

「分かった、質問を変えよう。俺に何の用だ?」


 俺の質問に対して、そいつはちょっと困ったように首を傾げて、溜息を吐く。


「そうですね……しいて言うなら、あの方達の新しいおもちゃに興味を持ったってところですかね?」

「あの方達? ってことは」

「ええ、2柱の神が新たに選んだ人材である貴方を知ってみたいと思っただけですよ」


 うわぁ……

 俺じゃ無くて、あの2人のお客さんか。

 っていうか、楽に異世界ライフを楽しめみたいな事を言っておいて、思いっきり神様絡みの厄介事が居るんじゃん。

 詐欺だ。


「私の事は……そうですね、ノーフェイスとでも名乗っておきましょうか」

「ノーフェイス? それはなんとも捻りのない」

「と言っても、顔はあるんですけどね」

 

 そう言って、ノーフェイスが顔を手で覆うと中々にハンサムな男の顔が現れる。


「あー、そっちの方がまだ見られるかな」

「これはどうかしら?」


 さらに手を覆うと、綺麗な女性の顔に。


「うん、結構好みかと」

「あら嬉しい、これでも?」


 そして、次に手を覆うと老婆の顔に。

 ノーフェイスというよりは、サムフェイス?

 いや、エニーフェイス?


「ほっほ、まあ顔なんてあって無いようなものじゃな」


 そしてまたさっきののっぺりとした顔に戻る。

 どれでも良いが、出来ればこれ以外が良い。


「しかし、あの人達が選んだだけのことはある。なかなかに優秀じゃ無いですか」

「有難う、あまり嬉しくないけど」


 お互いジッと見つめある。

 気持ち悪い。


「けど、私の前に立つにはまだ早いですね」

「っ!」


 そう呟いたノーフェイスが消えたかと思うと、目の前に一瞬で現れる。

 まるで、移動した時間を切り取ったかのような気持の悪い転移。


 こっちも転移でノーフェイスの背後に回り込み、姿を見失う。


「まだまだ、遅いですね」

「これでも自信があったんだけどな」


 背後から声を掛けられたことで心臓が大きく跳ね上がったが、冷静を装う。

 これは、本気出してもたぶん相手にならないだろう。

 絶望的な力の差に、泣けてくる。


 今すぐ俺に危害を加えるような気配がないことだけが救い。


「それよりも、あっちは放っておいて良いんですか?」


 ノーフェイスが指した先で、レイダにリザベルがグルグル巻きにされている。

 そして視線を向けた瞬間に、ノーフェイスの気配が消えるのを感じる。


「逃げられたか」


 完全に周囲に他の気配を感じない。

 かなり厄介な相手だということだけは分かった。


 そして、下のお祭り騒ぎもどうにかしないと。

 まずはこっちを片付けないと、落ち着いて考えを纏める事も出来そうにない。

 フルカスを取り込んでいたスライムが凍らされて、弾け飛ぶ。

 とはいえ、核が無事だから溶けたらまた復活するだろうから、あっちは心配無いけど。


 取りあえず、リザベルの救出から向かうか。

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