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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第131話:冒険の終わり

取り敢えず趣味回は終了です。

「特に問題無く終わったわね」

「そうですね」


 ジャジャの森を抜けて、ベルモントの街に向かう道すがらフレイとケイがそんなやり取りをしている。

 ケイの元にわざわざフレイが近付いて来て、話しかけた形だ。

 ケイが勝手に隊列を乱すような事はするはずもなし。


「殿下、冒険は街に着くまでが冒険ですよ」


 そんなフレイに対して、ジャッカスが注意している。

 うん、遠足は家に帰るまでが遠足。

 こっちの世界でも、名言としてよく使われる言葉だな。


「申し訳ありません」


 意外や意外、フレイは素直に謝ってすぐに先頭の持ち場に戻る。

 存外思った以上に聞き分けの良い人物のようだ。


 セリシオだったら……何かしら言い返しそうなもんだが。

 まあ、きっちりジャッカスがフレイに対して実力を示したからだろうな。


 そしてまあ、虫達が警備をする街道で魔物が急遽襲い掛かって来る訳も無し。

 物語とかだったら、ベルモントに戻るとスタンビートやら災害級の魔物が襲っていて街が壊滅状態だったり……なんてこともない。


 もしそんな予兆があれば、すぐに俺の耳に入るはずだし。


 のんびりと昼下がりの街道を街に向かって、ハイキング。

 あっちにフラフラ、こっちにフラフラと落ち着きのないフレイが何度かジャッカスに注意されている。

 箱入り娘ってわけでも無さそうだが、こうやって子供達だけで王家の護衛を連れずに歩くのは新鮮で楽しいのかもしれない。


 背後からこっそりと護衛の騎士達が付いて来ているし、フレイもそれには気付いているが敢えて居ない者として扱っている。

 折角の非日常を邪魔されたくないのだろう。

 騎士達もそれが分かっているからか、必要以上には近づかない。

 代わりに哨戒に力を入れている。


 無駄な事だけど。


 マルコは特に気負った様子もなくキアリーに王都での様子を話しながら、盛り上がっている。

 完全に子守に見えなくもないけど、珍しい話が聞けて本心から楽しそうで良かった。


 後ろのケイは100株近いヒール草を鞄に詰めてずっしりと重くなったそれを、微塵も感じさせることなく行きと同じく軽快な足取りで歩いている。


 初クエストだというのに、緊張感の欠片もないのは頂けない。

 が、水を差すのも違う気がしたので放置することにした。


「おかえりなさませ」

「ただいま、戻りました」


 門のところで衛兵さんに、入場の手続きを取ってもらう。

 それぞれがきちんとした身分証を持っているのだが、フレイは手にしたばかりの冒険者証を自慢げに見せつけている。


「クエストは問題ありませんでしたか?」

「ええ、ばっちりよ」


 微笑ましい姿に相好を崩した衛兵が冒険者証をフレイに手渡しながら問いかけると、フレイがピースサインを作って答える。

 冒険者としての依頼を達成できたことで、かなり上機嫌だ。


「それは良かったです。これからも頑張ってくださいね」

「勿論! 有難う」


 王女相手でも一歩も引くことなく立派に職務をこなした衛兵は、本当に優秀だと思う。

 気付いているのか、いないのかってところで疑問は残るが。


 それから一行はズンズンと街を進んで、ギルドへと向かう。

 たかが薬草採取しかしてないくせに、胸を張ってやり切った顔で街を歩く姿はまるで凱旋だ。

 マルコは平常運行だが、ケイも満更ではない様子。

 なんだかんだで13、4の子供。

 日本でいったら中学2年生くらいだもんな。

 中学2年生?

 ……中2?

 厨二……あぁ。

 しかもリアだ。

 そりゃドヤ顔で、街を歩けるのもちょっと納得。


 異世界にその概念があるかどうかは、分からないが。


 そのままギルドに到着すると、受付に完了報告に向かう。


「しめて94株集めて来ました! まあ、4株はオマケってことで」

「もう少し頑張って100株にすれば宜しかったのに」

「!!!」


 自慢気に1人30株のノルマを達成したことを報告するフレイに、受付嬢が残念そうに答える。

 その答えを聞いたフレイが、それだ! といった表情を浮かべているが時すでにお寿司だ。


 折角いい気分で戻って来たの、さっそく水を差されてガッカリした様子でケイを促してヒール草を提供させる。

 なんというか……この娘はたぶん詰めが甘いタイプだな。

 こうして俯瞰の視点で見ていると、子供達の個性が良く分かってなかなか楽しい。

 良い暇潰しになる。


「今日は1日中たぶれっとを見てますね。目が悪くなりますよ?」

「あはは、そんな心配はいらないよ。マルコのちっちゃな大冒険を観察してただけだし」


 洗濯ものを取り込んで籠に入れたトトが声を掛けてくる。

 この子の敬語も、物凄くスムーズになってるし。

 日に日に成長していく子供達に、少し寂しくもある。


 というか、最近では普通に色々と口を出してくることも増えた。

 本当の娘のようだ。

 娘どころか、子供を持ったことも無いけど。


 6人はちょっと遅めの昼食を取りに出かけた。

 依頼料が入った事で、フレイが私が驕るとかって言い出しているけど。

 うんうん……

 

 小遣いが入ったらすぐに使うタイプと。

 いやいや、お世話になったからその恩返しかも。

 後者だったら、これまでの言動も含めて傲慢な感じも無いしかなり好印象。

 前者で、お金が入ると気が大きくなるタイプなら……


 うん、彼女の嫁ぎ先は大変だろうな。

 いや、そうじゃなくても大変そうだ。


 キアリーは丁重に辞退しようとしていたようだが、マルコのこの時間からじゃ大した依頼も無いんだから、どうせ暇でしょ? の一言で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 30半ばにして独り身の男性の、悲しい性だ。

 キアリーは浮いた話も無く、仕事が恋人の人だ。

 仕事が無ければ基本暇で、昼間っから呑みに出ちゃうようなタイプ。


 B級冒険者だから、それなりに収入はあるのだが。

 危険と隣り合わせの冒険者は、思った程モテない。

 アバンチュールなひと時を楽しむ相手としては、良いらしい。

 鍛え込まれた肉体に、ワイルドな出で立ち。

 ところ変われど、筋肉フェチは少なからずいる。

 というか、隠れ筋肉フェチを入れたらかなりの需要が。


 恋人には良いけど、結婚相手としてはといった相手。

 ただ、この世界の女性は両極端。

 生涯を添い遂げる相手にしか身体を許さないタイプか、気に入った相手なら誰にでも股を開いちゃうタイプ。

 この2タイプが6割を占めているとか。

 比率は言わないが、身持ちが堅い方が多いと。


 そんな下世話な話は置いておこう。

 ちなみにローズも自分はマルコ様の護衛だからと断っていたが、今日はケイの先生だからという理由でご相伴に。


 なんだかんだで大人3人が子供に奢ってもらうという、傍からみたらなんとも体裁の悪いことに。

 ただ王族と侯爵と領主子息に逆らえる訳もなく。

 遠慮はしても、強く言われたら断ることが失礼に当たる。


 ジャッカスは特に気にした様子も無いが。

 本人は授業料として割り切っている様子。

 元々、彼等の驕りで食事に行くとなった時点で、断る事は不可能だと理解している。

 遠慮せずに、素直に喜んで甘える事が依頼達成の賛辞になることも知っている。


 こうやって自分の稼いだ金でお世話になった人に恩返し出来ることを、子供が誇らしく感じることはこれまでの経験で知っている。

 そして……


「その代わり夜の予定が無ければ依頼達成のお祝いに、夜は私がもたせてもらいましょう。美味しいお肉を出す良いお店を知ってますので」

「やった!」

「楽しみにしてます」


 子供達の喜ばせ方も。

 ジャッカスの返しにキアリーが感心したように、頷いている。

 ローズはその手があったか! といった表情だ。

 きっと、マルコにご飯を御馳走したくなったのだろう。


「私達も出します!」

「勿論俺も出すからな、夜は豪勢に行こうか!」

「じゃあ、昼は軽めに美味しいランチを出すお店にでも」


 ローズが慌てて追従すると、キアリーもそれに乗っかる。

 それから、ジャッカスが子供達の出費を抑えるべく、軽食のランチサービスをやっているお店を提案。


「うん、夜が楽しみになっちゃった」

「昼は食べすぎないようにしないと」


 フレイとケイはすっかりその気になっている。

 子供のあしらいも上手いじゃないかジャッカス。

 見直す……ところだが、よく考えた昔からよく気の回る奴だった。


 ジャッカスなら、このくらい普通か。


 飯の話を聞いていたら、小腹が空いた気がしてきたな。

 さっき昼飯食べたばっかりだが……


 と思ったら、横から大顎が皿を差し出してくる。

 

「土蜘蛛様からの差し入れです」

「おっ……おおう」


 タイミングを見計らったかのように、ポテトチップスもどきが出てくる。

 厚切りで完全に揚げきってないやつ。

 中にほくほくのジャガイモ部分を残しつつ、周りはカラっと揚がっている。

 クレイジーソルトが振ってあって、なんとも食欲をそそる。

 こういうのがあると……


「飲み物はコーヒーよりも、こちらが宜しいかなと」

「気が利き過ぎる」


 そして、大顎が差し出してきたのはビール。

 昼間っからビールを飲むのも、どうかと思うが。

 まあ、時間なんて概念あってないようなものだし。


 今日は一日、マルコ達の様子を見ようと決めていたから別に良いか。

 そもそも、お酒を飲んだら支障が出るような事は何一つやってないわけだし。


 ~だし、~だしと自分に言い訳しつつ、グイッといっとく。

 美味い。

 それから、半ポテトチップスを摘む。

 うん、割とボリューム感があって美味しい。

 ビールも進むし、ポテチも進む。


「まあ、昼間っから呑んで。大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。今日は特に外出する予定もないし」

 

 洗濯物をそれぞれの部屋の箪笥に、綺麗にしまい終わったトトに見つかって呆れられる。

 あー……

 子供が働いているのに、昼間っから酒を飲む俺……

 駄目親父だ。


 反省……

 しないけどね。


「トトもこっちにおいで。土蜘蛛が作ってくれたんだ、美味いぞ」

「はぁ……まだ表の掃き掃除が残っているのですが?」

「あ……分かった……手伝うよ」


 仕事中の子供をサボりに誘う大人。

 そして、しっかりと断られる大人。

 自己嫌悪。


「いえ、主人を働かせる訳にはいきませんので」

「すまん……終わったらおいで、それまで俺も我慢するから」

「ふふ……本当に変わった人ですね。普通はマサキ様のような立場なら、そんな事気にしないのに」

「いやぁ……娘達が働いているのに、こんなところでマルコを肴に酒を飲むのは流石になぁ」

「じゃあ、クコの勉強を見てやってくださいお父様」

「ああ、任せろ!」


 最近では冗談めかしてだが、たまにこうやって父親扱いしてくれる。

 ものすっごい嬉しい。

 つい頬が緩んでニマニマしてしまう。

 

 トトが呼んで来たクコを膝に乗せて、一緒にお勉強をする。

 クコがポテチを欲しがったが2枚だけあげて、あとはトトとマコが来てからなと止める。

 名残惜しそうに皿を見つめながらも、クコが頷く。


 ちなみにマルコ達は武器屋喫茶でランチを食べていた。

 野菜たっぷりのサンドイッチと、炙ったベーコン。

 食後にコーヒーか、紅茶か、ジュースがついてくる。

 それで大銅貨3枚。

 1人当たりの依頼達成報酬の10分の1。

 妥当な金額か。


――――――

「ここ?」

「ええ、ここまで冒険者体験ですよ」


 ジャッカスが連れて来たのは、地元の冒険者が贔屓にしている居酒屋。

 様々なランクの冒険者が利用しているだけあって、料理の値段も質もピンキリ。

 それこそ初級冒険者の財布でお腹いっぱい食べられる量が重視の料理から、上級冒険者向けの高級食材を使った料理まで。


 お店はかなり大きく、厨房には料理人が5人も居る。

 まあ出資は冒険者ギルドだし、いってみれば冒険者共済の飯屋みたいなものだ。


 先輩が後輩を連れて来て驕ったりなんて光景もよくみられる。

 本物の美味しい料理を食べて、いつか自分達もあれを後輩に奢れるようにと向上心を煽る事にも一役買っている。

 まあ、冒険者共済システム自体は俺がマルコの身体を借りて提案したわけだが。


 ベルモントの冒険者ギルドは、他の街に比べて少しだけ依頼手数料が高かったりもする。

 が、こういった部分への投資を行って、冒険者に還元もしている。

 勿論、だからといって依頼もこなさずに、おこぼれに預かるような不公平も見逃さない。


 冒険者カードに月毎の依頼達成件数が記載されていて、会計の時に冒険者カードを提出してその貢献度に見合った割引が受けられたり。

 勿論、冒険者ランクによるバランスもとってある。

 冒険者ランクが上がるほど、割引の条件が厳しくなってくる。

 が、真面目に仕事をこなしていれば大差無いレベル。

 それ以前に、上級冒険者はお金に困っていない。

 だから、それでも全然問題無い。


 ベルモントでは殆ど見ないA級冒険者。

 そんなジャッカスが、子供を引き連れて冒険者御用達の居酒屋にくれば、嫌でも視線を集める。

 が、視線の先にはただものじゃない子供達。

 加えて、B級冒険者のキアリー、ベルモント護衛のローズだ。

  

 すぐに視線を逸らすものが大半。


 お店は夕方ということもあって、かなり賑わっている。

 それでも席に余裕をもって作られていることもあり、待たずに座る事が出来た。

 かりに満員でもB級冒険者以上は、特別席があってそっちが埋まることは殆ど無い。


 上級冒険者オススメの料理に舌鼓を打つ一行。


「これ美味しい!」

「ああ、ベルモントディアの肝の塩漬けですね」


 ベルモントの固有種の鹿の肝だ。

 ヘラジカのように太く雄々しい角が特徴的で、サイズとしては普通の鹿を2回りくらい大きくしたくらい。

 力強いタックルを得意としおり、毎年少なくない被害が報告されている。

 が、こうして皿に乗せられると、普通に美味しい食材だったり。


「このソースは?」

「ヒール草のゲル状の部分を使ったドレッシングですね」

「甘くて美味しいね」

「こうお城とか高級店で出されるものとは、一味違った美味しさが」


 次々と運ばれてくる料理が、どんどん胃の中に納まっていく。

 おもに、フレイのだが。

 あの細身で、この食欲。

 どれだけ、属性があるのだろうか?


 いずれにしろ、味も王女と侯爵家子息を唸らせるには十分のものだったらしい。

 うん、俺も食べてみたい……が、たぶん土蜘蛛の作った料理の方が美味しいんだろうな。


 子供達を連れているということもあって、大人たちは酒を自重していた。

 うん……

 立派ダナー……


 結局、トトの仕事が終わってみんなで集まった時、やっぱりビールを飲んでしまった。

 でもさ、働かずに昼間っから飲むビールって美味いよね?

 分かるよね?

 俺は、悪くないよね?

 

 というか、働く時はしっかりと働いているわけだし、たまには良いよね?

 誰に言い訳しているのか……主に自分だな。


 そして今度、鹿の肝を土蜘蛛にリクエストしよう。

 そろそろ、ごはんどきだし。


「マサキおにい、ごはんだよ!」


 と思ったらクコが、呼びに来た。

 盛大にタックルをかましてきたので、そのまま抱き上げて一緒に食堂に向かう。

 クルリと勢いを殺すように回転して持ち上げたのが楽しかったのか、クコがキャッキャとはしゃいでいる。


 そして、机の上には鹿の肝の塩漬けを炙ったものが。

 さっき、タブレットで見た一品。


 土蜘蛛分かってるじゃないか……

 というか、分かり過ぎ。


「まだ、飲むのですか?」

「今日は、そういう気分なんだ」


 そして何も言わずに、お取り寄せの日本酒を注いでくれる大顎。

 こいつも分かっている。

 トトにジトっとした目で見つめられたが、大人にはそういう気分の日があるんだ。

 いつか、分かるさ。

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