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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第130話:しょ……初級冒険者パーティ?

「今回集めて貰うのは、これを1人30株ずつだな」

「へえ、割と可愛い見た目してるのね」


 ジャッカスが道すがら採取したヒール草を、マルコ達に見せている。

 ヒール草。

 見た目はアロエに近いが、ちょっと色味が青紫がかっている。

 ぱっと見毒草に見えなくもない。


 肉厚な葉っぱの中には、しっかりと葉肉が詰まっている。

 多肉植物と呼ばれるだけあって、プニプニと柔らかそうだ。

 これだけ特徴的なのだから、見つけるのも簡単だろう。

 

 そう言えば、多肉植物って葉っぱから栽培出来たんだっけ?

 確か葉を根元に近い部分から切って、切り口を乾燥させてから植えるとか。


 まあ、そんな事しなくても初級者向けのジャジャの森の入り口でも取れるから、そっちの方が楽か。


「うわあ、結構大きいね。これ30株って……」


 一株が大体3枚から4枚の葉からなっている。

 葉の大きさが5cmくらいしかないが、それでも成人男性の拳くらいはあるのでそれが30株ともなると3kg分くらいはあるだろう。


 入り口付近から入っていって、アロエっぽいヒール草を探しながら歩く。


「この葉肉部分の液体を抽出したものが初級ポーションにも使われている。そしてゲル状の葉肉部分は軟膏として出回っているな。液体部分よりは治癒能力が大幅に落ちるけど、ただ軟膏なので少量で事足りるのが大きいな」


 ジャッカスの薬草講座を聞きながら、森の入り口から道沿いに進んでいく。 

 しっかりと勉強しているようで、感心感心。


 夏の照り付けるような日差しも、森の中では木々に遮られそれなりに涼しく感じる。

 そう遠くない場所から川のせせらぎも聞こえて来て、一行はピクニック気分で歩いているように見える。


「ジャッカス様、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「今日は、その子達の研修ですか?」

「ええ、まあ体験ツアーですね」


 早朝から採取に出ていただろう同じ初級冒険者パーティが、ジャッカスを見つけて挨拶をしてくる。

 やっぱりA級冒険者ってのは、有名なんだな。

 街でも色んな人に声を掛けられていたし。


 ただ、これはなんていうか。

 ハイカー同士がすれ違い様に挨拶をしているような光景に見えなくもない。


「ふふ、まさか一緒に居るのがこの国の王女様だとは思わないだろうね」

「まあ、俺もいまだに現実感が湧いてこないくらいだしな」


 真ん中を歩いているマルコとキアリーがそんなやり取りをしている。

 最後尾はローズとケイだ。


 ケイが護衛として後ろを守りたいと言い出したことと、ローズも同じ意見だったためこの並びになっている。


 最高戦力が真ん中というのも……ありなのか?

 いや、3人パーティと考えるとどの並びでもメリット、デメリットはあるだろうし。


 先頭をいくフレイは、流石にもうジャッカスに不意打ちをしかけるつもりはないらしい。

 すでにジャッカスの実力に関しては、疑うところは無いという結論に至ったのだろう。


 素直にジャッカスの話を聞いている。

 まあ、比較対象がスレイズじゃあ、そこらの人間相手だと侮ってしまったりしても仕方ないか?

 そんなはずはない。

 比較対象がスレイズだからじゃなくて、師事したのがスレイズだからだな。


 それから20分程で開けた場所に出る。

 離れた位置で歩いていた騎士達の気配が森の中に溶け込むように消えていく。

 どうやら、茂みの中からこっそりと覗き見るつもりなのだろう。


 蚊に刺されても知らんぞ。

 

「それではここで3組に分かれましょうか。本来ならば固まって1人、もしくは2人が薬草採取。残った人員で周辺の警戒を行うのですが」

「まあ、何が起こるか分からないから全員で探すよりは安全ね」

「ええ、ただ今回採取と警戒の両方を同時に行う訓練をしましょう。ですので、ソロで薬草を採取するつもりでやりましょう! キアリー殿とローズさんはなるべく口も手も出さないようにお願いします」


 口も手も出さないようにのところで、茂みにチラリと目をやるジャッカス。

 こっそりと付いて来ている護衛達にも釘を刺したのだろう。

 静かに頷くような気配の乱れが、ジャッカスには届いて……いるのやらいないのやら。

 なんとなく分かった感じで、頷いているから届いているのかもしれない。


 ジャッカスも確実に進歩しているようで、いよいよもって重要な配下になりえると評価を上方修正。

 虫の力を借りなくても気配探知が出来るようになったのは、かなり大きなポイントだ。


――――――

「ふふん、これがヒール草ね。さっき道具屋でチラリと読んだ本には、1つあると大体その周囲にあるらしいわね」


 ヒール草は葉のサイズが5cmしかない。

 集めて運ぶ分には大きく感じるが、森の中では他の草に埋もれてしまっている。

 その草を掻き分けながら、1つ見つけたフレイが嬉しそうに周囲の草を手で避けて追加を探す。


 徐々にスライムが隠れている草むらに近づいている。

 そしてそこに到達するや否や、まるで邪魔だといわんばかりにスライムを左手の甲で遠くに弾き飛ばして採取を続ける。

 草に隠れて怯えつつも、攻撃を加えようと身構えていたスライムは突然襲い掛かってきた拳に対応しきれずに憐れ川の中に。


「気付いていたのですか?」

「勿論。まあ、気付いていなくてもあの程度なら、見た瞬間に対処可能ですし」

 

 先程のスライムのサイズは30cmほど。

 ほぼ液体と考えると、4kg~5kgくらいはあったかもしれない。

 1.5kgのペットボトル3本分のサイズと考えればもう少しあってもおかしくない。


 5kgのゲル状の球体が、瞬間時速30kmくらいで突っ込んでくると考えてみたら、馬鹿にならない衝撃だというのは分かる。

 意外とスライムのタックルは痛いのだ。


 逆に言えば5kgの液体の塊を、10m近く吹き飛ばして川に叩き込むフレイの膂力も馬鹿にできない。

 なるほど……流石は、マルコやセリシオの姉弟子なだけのことはある。


――――――

「ふう、なかなか見つからないものですね……少し視界を広げましょうか」

「えっ?」

「先生、ちょっと離れて貰って良いですか?」

「ええ」


 なかなかヒール草を見つけられないケイが、ローズに距離を取らせると鉄の剣の柄に手を添える。


「使い慣れない安物の数打ちですが……いけるでしょう」


 そして一閃。

 ケイが鞘から抜いて、その場で一回転すると地面と平行に切られた草が宙を舞う。

 高さが丁度6~7cmくらいに切りそろえられた草々。


 ただ、おかしいのは剣のリーチ80cmくらいに対して斬られた範囲。

 どう考えても半径2mくらいの範囲に渡って、斬り飛ばされている。


「へえ、その歳でもうなんらかのスキルを覚えてらっしゃるのですね」

「ええ、祖父に習いました(さざなみ)です。剣から小波のような斬撃を飛ばすスキルですね」


 剣を鞘にしまったケイが、見通しの良くなった場所を念入りに探す。


「ありました」


 そして、お目当てのヒール草を丁寧に根元から抜いて、ローズに見せる。


「剣速による真空波? にしては切り口が荒い……魔力を剣に流し込んだのか?」

「先生?」

「ああ、すみません。それであってますよ」


 先ほどのスキルについて考察していたローズは、ケイに改めて声を掛けられてようやく反応する。

 それから、ケイの手に持つ草を見て笑顔で頷く。


「ちなみに祖父は、私の倍以上の範囲を斬る事ができますが……威力はそこまで高くないので、鎧を切り裂いたりということはできませんけどね」

「へえ……」


 斬る事は出来なくても、見た目以上のリーチを持つ攻撃というのは中々に厄介だったりする。

 分かっていても、慣れていないと目測との差がずれることも多い。

 13歳でその領域に達していることに、少しばかり寒気を覚える。


――――――

「取りあえず、30株集まったから他の2人を見学しましょうか」

「早すぎだ。何かコツでもあるのか?」

「え? いや、たまたま?」


 マルコは蟻を上手に使っていた。

 蟻がヒール草を見つけるとマルコにコンタクトを飛ばして、マルコが回収に向かうと。

 完全に作業だった。


 見ていたマサキも、思わず目が据わる。

 折角の訓練でズルをする……いや、ケイもスキルを使っていたし、自分の能力を使ったと考えればありか。

 

 そもそも、いつだって虫達の手助けが受けられる訳だ。

 虫に頼らない方法を訓練しても、あまり意味が無いのは事実。

 だが、モヤっとする。


「珍しいって事もないけど、フォレストウルフの群れがこっちに来ているね。手負いの個体もいるところを見ると、狩組の打ち漏らしかな?」

「へえ、気配探知も並外れたもんだ。てっきり気付いていないかと思った」

「まあ、まだちょっと距離があるからね。どうするの? イレギュラーだけど、僕たちで?」

「そうだな、これも訓練の一環って事で」


 こっちは自力で発見したっぽい。

 虫達は敢えて、何も伝えている様子は無かったし。


 群れの数は7頭……

 本当の意味での初クエストの初級冒険者なら、確実にただじゃすまない。

 下手したら、全滅だな。


 草むらに隠れていた護衛達も、少しだけ腰を浮かせていた。

 が、キアリーとジャッカスが、それを視線だけで制す。

 2人とも自分の得物を手で叩いて、何かあったら任せろと合図。


「2人とも」

「ええ、勿論気付いてるわよ」

「なんだ、マルコもやっぱりスレイズ様の弟子か」


 マルコがフレイとケイに声を掛けると、2人ともヒール草を採取しつつも狼の接近に気付いていた様子。

 お互い顔を見合わせて頷く。


「私の見立てだと、1分以内にはここに来るわね」

「向こうは必死だな。ようやくこっちに気付いたようだ」

「何かに追われているっぽいけど、多分他の冒険者だと思う」

「私も、同じ考えよ」


 3人が薬草採取を中断して、一カ所に集まる。

 ジャッカス、キアリー、ローズは少し離れたところに移動。

 完全に3人に任せるつもりらしい。

 

 といっても初級冒険者の選択肢としては、進路から外れて草むらに隠れるのが正解だが。

 いくら獣とはいえ追われている状態で、わざわざ隠れた獲物を狩ろうなんて考えないはずだし。


 しかも他の冒険者の獲物と気付いたならなおさら。

 横取りだのなんだのと、言い掛かりを付けられたら溜まったもんじゃない。


「逃げられる方が間抜けだな……」


 ケイが剣を抜いて、狼たちの方に視線を送る。

 ジャッカスが溜息を吐く。

 3人とも、討伐を選らんだらしい。


 初級冒険者としては、完全にアウトな判断だった。

 ローズとキアリーも苦笑いだ。


 とはいえ……


「来た!」

「お先!」


 マルコが先頭の狼を確認して、2人に注意を促した頃には既にフレイが飛び込んでいた。

 

「キャン!」


 そして突っ込んで来た狼に額に、正拳を叩き込む。

 2mを越える狼が小さく悲鳴をあげて、その場で縦に一回転して地面に叩きつけられる。

 攻撃の打点を中心に一回転する……

 その光景だけで、フレイの一撃がどれほどまでに強力かが分かる。


 続いて森から飛び出してきた2頭に、マルコとケイが剣で斬りかかる。

 2頭とも1瞬で首を跳ね飛ばされる。

 

 残りの4頭は、飛び出すや否や殺された3頭の仲間を見て思わず急ブレーキを掛ける。

 完全に悪手だ。

 ここは、横に広がってやり過ごすのが正解だろう。


 足を止めた事で完全に的となった狼に向かって、3人が同時に飛び掛かる。

 フレイは空中で一回転して両足を広げ、2頭同時に顎を蹴り抜く。

 ゴキリっという鈍い音がして、首が一回転している。

 恐ろしい威力だ。


 その姿を横目チラリと見たケイは、何とも言い難い表情を浮かべている。

 が、すでに1頭は処理済み。

 マルコの方も、普通に喉元に剣を突き立てていた。


 一瞬で7頭もの狼が、物言わぬ躯になる。

 強いとは思っていたが、初心者離れした胆力と動きに、3人の指導員達も困ったように笑う。


「うわっ」

「えっ?」

「マジか」

 

 狼7頭の死骸を集めていると、森から冒険者風の恰好をした3人組が飛び出してくる。

 

「待ってよ!」

「早いって!」


 それから、遅れてもう2人。

 男性3人に女性2人。

 遅れて来たのは2人とも男だ。


 歳は17~18歳くらいか?

 息を切らして、7頭の狼の死骸を見つけて驚いている。

 そして、それを集めていた者達が子供という事に気付いて、余計に困惑した様子だ。


「えっと、これは君たちが?」


 先頭で飛び出してきた男の子が、武器をしまって声を掛けてくる。

 皮の鎧に、鉄の盾。

 盾はバックラーと呼ばれる、片手で扱うものだ。


 武器は鉄の短槍。

 槍士なのだろう。

 そして、このパーティのリーダーっぽい。


「ええ、まさか横取りだなんて言わないわよね」

「貴方達が仕損じたから、襲われた。返り討ちにしたが」


 フレイとケイが挑発的に返事を返している。

 うん、いきなり喧嘩腰になる意味が分からない。

 もしかしたら、手柄が横取りされると?


 別に敢えて戦わなくても良い相手を、横から掠め取ったのに?

 マルコは既に興味を無くした様子で、退屈そうに2人の後ろで手を組んで静観している。


「いや、助かった。追い詰めたのはいいが逃げられてしまってね……初級の子達が穴場にしている薬草採取のスポットに向かって行ったから肝を冷やした」


 おお、なかなかに好青年。

 2人とも、少しは見習ったどうだ?


「ああ、そういう事ね。だったら、残念手遅れ」

「えっ?」

「私は今日登録したばっかりの初心者だし、連れは仮冒険者と、年齢制限で登録すらしてない子よ」

「はっ?」


 フレイの答えに対して、リーダーの青年がようやく3人にしっかりと目を向ける。

 どう見ても10歳くらいの男の子と、まだ冒険者になれるような年齢じゃない子達。

 というか……どことなく、常人離れした雰囲気を纏っている。


「あっ!」


 そして、マルコを見た他のメンバーが声をあげる。


「領主のお坊ちゃん」

「えっ?」

「マルコ様?」


 そして、口から出た言葉にリーダーと、女の子の1人が反応する。

 そりゃそうか。

 ベルモントのギルドの冒険者だろうし。

 知らないはずはない。


「ああ……」


 そして、首を綺麗にスパッと切られた狼を見て、もう一度マルコを見て納得したかのように頷く。


「あの太刀筋は、相当に鍛錬を積んだものだろうけど、ベルモント家の御子息ならまあ」

「他の2名の方も、やんごとなき身分の方?」


 王女と、侯爵家子息だ。

 やんごとないどころの騒ぎじゃない。


「ていうか、今日登録でフォレストウルフ7頭を瞬殺?」

「初級?」

「えっ? てか、初依頼?」

「ああ、なんだ薬草採取か……良かった」

「こっちの2頭、首をへし折られてる」


 5人が改めて状況を再確認した結果……混乱してしまった。

 暫くして落ち着いた後で、お互い自己紹介をして別れたが。

 狼の素材の必要部位は、それなりの金額でお買い上げ頂いた。

 お陰で、フレイがちょっと上機嫌。


 その後何事も無かったかのように、ヒール草の採取を再開。

 うん……

 こいつら、全然初級冒険者の体験する気無いだろう。

 



眠いので寝ます(´ぅω・`)


ブクマ剥がれませんように(; ・`д・´)

下の方から評価してくれる人が現れますように|д゜)

(-_-)zzz

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