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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第126話:忘却

「ただいま、戻りました」

「お帰りなさいませ、奥様、マルコ様、テトラ様」


 ベルモントの馬車で、ようやく実家に戻って来た。

 街に入った時から、すでにお触れが出ていたようで歓迎ムード。

 陰に隠れて見守っていた虫達もどこか、誇らし気だ。

 

 ちなみに今年も、エドガーおじいさまのところに寄って、例の温泉宿場町で一泊してからの帰郷。

 本心では、1人でのんびり気ままに帰りたかった。


 まあ、従兄達に会うのも楽しいから良いけどね。


 着いたその日は、特にこれといってやることもなく食事をして寝るだけ。

 そして、翌朝。


「おにいさま!」


 ベッドの上に飛び込んでくる天使。

 テトラだ。


 すでに着替えている。


「きょうからくんれんです」

「あー、そういえば約束してたね」


 寝ぼけた(まなこ)を擦りながら、テトラの頭を優しく撫でてやる。

 サラサラの髪の毛が心地良い。


 外を見る。

 薄っすらと明るくなっている。

 夏だし……ちょっと早すぎじゃないかな?

 とも思ったけど、本人がやる気だから頑張って起きる。

 

 けど、一応一言釘をさしておく。


「いいかいテトラ? 寝る事も身体を強くするためには必要だからね? 無理に早起きしなくても良いんだよ」

「はいっ!」


 分かってるのか、分かっていないのか。

 満面の笑みがこっちを見上げてくる弟のお尻にもし尻尾が生えていたら、きっとブンブン振られているだろう。


 おかっぱに切りそろえられた綺麗な金髪。

 クリッとした曇りなき、大きな瞳。

 まだあどけなさが残る、お餅のようなぷっくりほっぺ。

 

 うんうん、どこに出しても恥ずかしくない愛い弟だ。


 誰に似たのだろう。


「あらあら、おはようございます。昨日の旅の疲れもあるでしょうに随分早いのですね? 若いって素晴らしいですねぇ……それにしても、こうして並んでみるとテトラ様はマルコ様にほんにそっくりですわ」

「あはは、おはようマリー。テトラに剣を教える約束をしてたからさ」


 乳母のマリーと廊下で出会った。

 従者の中で一番早起きの彼女は、こうして館内の清掃チェックを毎朝しているのだ。

 彼女の勤務は夕方までだから、最後の清掃を担当する家人達の仕事の抜けが無いかの確認。


 そうか、テトラは僕にそっくりなのか。

 こんな可愛いテトラと似ている僕って、もしかしたら同じくらい天使?


 とちょっと調子に乗ってみたが、うんうん……天使だな。

 流石にマサキと違って産まれた時からこの身体と付き合ってきているけど、改めて外人の子供って天使みたいに可愛い。

 アシュリーやエマ、ソフィアも。

 まあ……ヘンリーやジョシュアだってね。


 ベントレーは……すでにカッコいいけどさ。

 僕もあっちサイドの顔の作りが良かった。


「おにいさま?」

「ああ、ごめんごめん」


 ちょっと変な表情をしてしまっていたのか、テトラが心配そうに顔を見上げていた。

 なんでも無いよと、手を振っておく。

 それにしても、うちも変わらないな。


 あの壺とかずっとあそこに飾ってあるけど。

 あの絵も。

 まあ、日本とは違うのかな?


 でも、あの絵はみたことない。

 廊下に飾ってある調度品を眺めながら、帰って来たことを実感する。

 

 マサキに元の人格の大半を持っていかれているからか、身体に精神が馴染んでいるからか彼ほど日本の事について考えることはないが、ふとした拍子に思い出すことはある。


 いまも廊下の調度品を眺めながら、そういえば祖母が季節毎に仏間の床の間に掛け軸を掛け替えていたな。

 背の高い僕に頼むことが多かったけど。

 そんな祖母も痴呆が来てからは、掛け軸の事なんてなんにも言わなくなったけど。

 うーん、ちょっとセンチメンタルな気分。


 いやいや、僕の家族はここの人達で、おばあさまはエリーゼおばあさまとメリッサおばあさまだ。

 

 それから30分程テトラに剣の基礎を教えたあと、お父様を加えての本格的な訓練を1時間。

 といっても、いつも通りだけど。

 冬よりは成長しているみたいで、大分打ち合う事が出来た。

 満足。


――――――

 真面目に剣の訓練をしているマルコを見て、実家に帰ったからといって気が緩んでいないことを確認。

 大分成長しているのを感じる。

 自分の事だが、嬉しい。


 そういえばこの半年で大きく変わった事がある。

 なんとジャッカスがA級冒険者にランクアップした。

 A級冒険者といえば、ミスリルさんの塔であった人の話を聞かないジジイしか知らないけど。


 凄いじゃないかジャッカス。

 

「これも全て、マサキ様のお陰です」

「本当にな」


 本当にそうだ。

 彼の戦闘力の大半は俺の虫の助力に寄るところが大きい。

 とはいえ人命救助や、冒険者としての模範的行動は彼の根幹に根付いた人の良さだろう。

 道は間違えたとはいえ、その中で少しでもターゲットを労わろうと気を遣って来たチグハグな元チンピラだけなことはある。

 

 今となっては、後進の育成にまで力を注いでいるのだ。

 A級に上がれない訳がない。

 

 彼のクランの初心者の館も、大分知名度が上がって来た。

 時には変なのも来るらしいが。


 いわゆる揶揄い目的の中堅冒険者。

 といっても、他領からの流れ者。

 ベルモントの息の掛かった冒険者に手を出すような愚か者は、この街には居ない。


 そして、何故かそういった流れ者達は通りすがりの蜂に刺されたり。

 うんうん……偶然って怖いね。


 違う違う。

 大きな変化は彼がA級冒険者に上がったことじゃない。

 それによって、付随してきた特権。


 なんとマルコと懇意にしていることもあり、マルコが帰郷している間は臨時の護衛として認められた。

 何が言いたいかというと、ジャッカスと2人なら自由に出歩いても良いとの事。

 A級冒険者ともなると、盗賊団ですら手を出せないレベルらしい。

 まあ、こっちは虫団だけどな。


 100人の盗賊団が来たら、10000匹の強化蟻と10000匹の強化蜂で対応してやろう。

 そんな輩は居ないだろうけど。


 これで、こっちでの行動が大きく広がる。

 と思ったけど、目下の予定はフレイ殿下のお相手。

 トホホだな。


 せっかく、俺も色々と楽しめると思ったのに。


 まあ良いか。

 

 一通りの訓練を終えたマルコは、街を見て歩くらしい。

 例に漏れずアシュリーがキャンプに参加していて、暇なのもあるとか。

 お決まりのコースだけど。


 武器屋喫茶でマスターとおしゃべりしてからの、冒険者ギルドで訓練。

 早速ジャッカスが迎えに来たというのに、目的地が冒険者ギルドと聞いてファーマも着いてくるらしい。

 あー、気を付けないと今後もそういう事が起こりそうだ。

 どうにか、この帰郷の間だけでもファーマに自由に動いて貰いたい。 

 というか、マルコを自由にしてもらいたい。


 マルコ個人を信用してもらうには、もう少し時間が掛かるのかな。

 真面目か!

 なんで、こんな人が……

 いや、よくよく考えたらスレイズベルモント家の家人は当主以外は全員真面目だった。

 むしろ当主がぶっ飛んでいるからこそ、周りが真面目になるのか。

 ただ、それぞれの戦闘力はおかしい事になっているらしいが。


 ベルモント領でもそれなりの腕を見せるローズ……が、手も足も出ないファーマ……が、自分より強いと認めている庭師や料理人達……


 いかに規格外な館か嫌でも理解してしまう。

 まあ良い。

 

 マルコの行動は普段通りだから、別にこれ以上は見ていても面白く無さそうだな。


 画面を閉じて、管理者の空間で色々と作業をしようと思った時に視界の端にそれが映る。

 ちょっと離れた路地の角で、マルコを見つめるフードを被った人物。


 どこかで見た気がする。

 いや、かなり重要な……


 何故か頭に靄が掛かったように、記憶があやふやになる。

 フード付きのマント?

 どこにでも居るだろう。

 いやいや、あいつはどこかで……

 他人の空似?


 思い出そうとすると、否定的な意見が自然と脳裏を過る。

 異常な事態でありながら、その思考が正常だと思ってしまう。

 客観的に捉えつつも、主観が邪魔をしてきてそっちに引っ張られる。


 何を言っているのか自分でも分からない。


「っ!」


 ……が、これだけは異常だということがはっきりと分かった。

 フードの人物を見ながらスッキリしない頭を振っていたその時……奴がこっちを向いた。

 顔はフードに隠れていたが、確実に目が合った気がする。

 もしかして、画面側に誰か居るのではという可能性も考えられたが、確実に俺を見ている。


 それから、人差し指を立ててチッチッチという風に左右に振ると、壁の中に溶けるように消えて……


 うん、マルコはいつも通りだな。

 取りあえず、トト達とちょっと遅いけど朝食でも頂こうかな。


 そういえば、なんで俺はタブレットでマルコじゃなくて壁を見ていたんだろう?

 まあ、気にするほどのことじゃないか。


 朝練を終えたマコを洗ってやって、皆で朝食を頂きに食堂へと向かう。

 さて、今日は何をするかな。

 取りあえず、フレイが去るまでは大人しくしておくか。


起承転結の起ですね(*´▽`*)



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