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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第123話:眼があっ!

「カイザーさん、カイザーさん」

「なんだ、馴れ馴れしいな……別に構わんが」


 魔王城の廊下で、1人で歩いていた魔王を捕まえる。

 最近では、魔王も俺が居る事に特に気にしなくなった。

 まあ、こっちは魔王が1人で居る時間帯しか狙って話しかけていないけど。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「ああ、なんだ?」


 魔王の執務室に一緒に向かう。

 今日は魔族一同、畑で収穫作業をしているらしく城内には雑務をこなすものしかいない。

 まあ清掃員や、調理担当の者。

 調理担当も収穫に向かっている?


 そっか。

 まあ、城内で使う食料だからね。

 自分の目で見る事が、大事か。


 魔王の執務室で、向かい合って机に座る。

 相変わらず、魔族とはなんぞやな部屋である。

 

 とくに禍々しい装飾とかってのは見当たらない。

 それと、本棚の一角に並べられた家庭菜園関係の本が妙に浮いている。

 角が無ければ、魔王が読む分にはそこまで違和感ないか。


「紅茶で良いか?」

「ありがとう」


 魔王が魔法で、紅茶を用意する。

 チャド学園長といい、魔法を極めたら色々と駄目になりそうだな。


「で、聞きたこととは?」

「悪魔って何?」

「なんだ、今度は悪魔をからかっているのか?」


 俺が悪魔をからかっていること前提らしい。

 俺をなんだと思っているのか。


 失礼な話だ。


「いま現在、自分が何をしているか胸に手を当てて考えてもらいたいものだ」

「あはは」


 魔王がジトっとした目を向けて来たので、顔を背けて目を逸らす。

 それよりも、悪魔の事だ。


「悪魔ってのは……まあ、人の悪意の塊だな」

「そういう種族じゃ無いのか?」

「あれは……負の感情が集まっていくと生まれる存在とされている。人というかまあ魔族や人族、エルフや獣人などの人型の生物の他に、知恵ある魔物の悪意からも産まれる」


 なるほど……

 良く分からん。

 悪霊みたいなものだろうか?


「悪霊は悪霊でいるぞ? あれは個の感情というか無念を抱えた魂が魔力に当てられて、実体を得たものだな」

「実体なのか? じゃあ、触れる事とか出来るのか?」

「あー……厳密にいうと物理的な体は無い。意識と魔力の融合体というべきか……」


 うんうん……そういうことね。

 

「本当に分かっておるのか?」

「なんとなく?」

「その限りでも無いが、逆に正の感情に振り切れた存在もいるわけだし。魂と心と魔力の集まりが霊体で、悪意のみが寄り添って、肉体を顕現させたのが悪魔ということだ」

「その、どうして悪意だけで肉体が産まれるんだ?」


 がっつり黒板まで使って説明されたが、よくわからなかった。

 というか途中で飽きて来て話半分だったり。

 でも、一生懸命説明してくれる魔王に対して、あー、もう良いよとは言えない雰囲気だったし。


 似た負の感情が集まりやすいらしいが、混ざりあう事もあるとか。

 妬みが集まったら、人を陥れて立場や地位を落とすことを楽しむ悪魔。

 怒りが集まったら、人をひたすら害する悪魔。

 悪意があつまったら、人に対して意味も無く意地悪をする悪魔などなど……


 その集まった感情によって、悪魔の目的意識が変わるらしい。


 それはレッサーデーモンまで。

 デーモン以上になると、完全に自我が産まれる。

 アークデーモンや、デーモンロードになって初めて1つの種族として扱われる。

 

 そこら辺は悪魔族として、人との付き合いもあるとか。

 自分の感情を抑えて、利害を考える事が出来るらしい。


 ちなみにデーモンロードは、公爵、侯爵、伯爵、騎士の4階級。

 ややこしいことに、伯爵でもなんらかの王だったりするとか。

 王だから、一番強い悪魔というわけでもないと。


 デーモンロードまで行くと、人も討伐を諦めているとか。

 ただ、あっちはあっちで、正体を隠して好き勝手に動いているらしい。


 良く分からんけど、まあ見つけたら取りあえず交渉くらいは出来るかもしれない。


「いやあ、地元にデーモンロードが現れてね、取り敢えず核を手に入れてはみたものの、こいつらなんなのかなと」


 マハトールはあれだな……完全に出世欲というか。

 身分に対する悪感情の集まりぽかったな。

 格差社会が生んだ、悪魔ってとこか?


 人から崇拝されることを、喜びとしてたみたいだし。


 そういえば……


「なんで、聖水とか聖なるものに弱いんだ?」

「あれは、正の物質だからな。ほら、なんていうんだろう……あれだ、良い景色とか見てたら、小さなことで悩んでたのがアホらしくなったりしないか?」

「あー」

「あんな感じで、心をリラックスさせる効果があって負の感情を和らげるわけだ」

「なるほど」

「で、奴らの身体の形成物質にはその負の感情を具現化させている部分があるから、そこがダメージを受けると」

「なんとなく分かった」


 おお、なんか……悪魔を使って面白い実験が色々と出来そうだ。

 マハトールはたぶん崩れた身体を、違う物質で補っているか……もしくは正の感情も取り込み始めたのか?


 いやいや、不思議だ。


「と……学者たちは言っているが。詳しい事は解明されておらん」

「なるほど、じゃあこっちでも実験してみよう」

「やっぱりか」


 俺が悪魔に対して、何かすると思われてたが。

 語るに落ちてしまった。

 別に気にしないけど。


「魔王様、今日は白菜とキャベツが取れました」

「ほう、なかなか青々としていて、美味しそうじゃないか」


 牛が収穫の報告に来たので、見つかる前にドロンする。

 最近では、その事については魔王も完全に諦めたらしい。


 溜息を吐くだけだ。


――――――

 それにしても……漬物を作る魔族とか。

 うん、どうなんだろう?


 別に良いけどさ。

 亜人というくくりだし。


 そんな事より、重大な出来事。

 バルログさん、ついに開眼。


 大会議室に魔王城に駐在しているそれなりの魔族を集めての発表会。

 魔王に頼まれて、俺も参加。

 タブレット越しに。


「見えます! 四角い何かが!」


 ついにバルログさんも魔王が教えずとも、俺の居場所を把握できるようになったらしい。

 まあ、覗いている視点のある場所というか。

 良かったね。

 これで、グッスリと眠れそうだね。

 目がギョロギョロと血走ってる上に窪んでるし、加えて目の下の隈も凄いし。


 ただ、それほどまでに努力したのに四角い枠の中まではまだ見えないと。

 漠然と、四角く空間が歪んで見えているらしい。

 それでも快挙には間違いない。

 魔王がニンマリと笑みを浮かべる。

 バルログも、笑顔で頷く。


「本当か! ようやくか!」

「ええ、魔力ともまた違いますね。なにやら、神々しい雰囲気の空間というか」

「ああ恐ろしいスキルだが、向こうから手出し出来ないから害は無いがな」


 魔王が物凄く喜んでいる。

 牛達は微妙な表情だが。


「あれ、マジかな?」

「もしかして、バルログさんもおかしくなっちゃったとか?」

「いや、真面目が服を着て歩いているような人だから、そんなことは無いだろう」

「魔王様に気を遣って」

「それもないだろう、完全に視線の動きが一致しているぜ?」


 半信半疑らしい。


「もしかして……魔眼を鍛えたことで、魔王様の行動を先読み出来るようになったとか?」

「それだ!」


 いや、それだ!

 じゃないから。


 ちゃんと、認めてあげなよ。

 まあ、バルログがようやく俺の事が見られるようになったわけだし、いつか堂々と現れてみるか。


「すげーな、努力したらきちんと見えるようになるもんなんだな」

「なっ!」

「えっ? これま?」


 と思ったので、そのままバルログさんの後ろに立ってみた。

 いきなり現れた俺に対して、牛達が動揺している。

 が……バルログさんは何やらプルプル。


「貴様が! 魔王様を悩ませた元凶かあああああ!」

「うわっ!」


 顔を見上げて、こっちを睨んだかと思ったらいきなり魔眼からビーム撃って来た。

 びっくりして、つい左手で吸収しちゃったけど。


 なかなかに威力が高そうだったので、取りあえず管理者の空間の使って無い部屋に回収。

 あー……これ、鏡張りの部屋とかにマハトールかクロウニさんと一緒に突っ込んだら色々と捗りそうだな。

 

「いきなり何しやがる!」

「くそっ! 何をした!」

「いや、こっちのセリフだし」

「まあまあ、2人とも落ち着くのじゃ」


 バルログさんブチ切れで殴りかかって来たので、慌てて逃げる。

 魔王が、困ったような嬉しそうな表情で仲介に入ってくる。


「そうか、貴様が!」

「お前のせいか!」


 うわっ、身体がデカいから丁度いい盾だと思って牛の魔族の影に隠れたら、驚き固まっていた彼等まで俺に襲い掛かって来た。


「なんだよ! 魔族って十分野蛮じゃねーか! 魔王の嘘吐き!」

「魔王様だろうが!」

「生意気な!」

「これこれ……狭いところで走り回るな」


 やばい、このままじゃマジで怪我する。

 魔王が……なんか、呑気なおじいちゃんみたいになってるけど。

 魔王以外、普通に野蛮人だった件。


「私達は野蛮なのではない! 貴様は黙って殺されるほどの無礼を我が王に働いたんだぞ!」

「不敬罪だ! 国家反逆罪だ!」

「いや、国民じゃなければ、部下でも無いし!」

「国際問題だ!」


 国際問題も何も、ほぼすべての国と国交断絶してるのにどうやるつもりだろう?

 というか、どっかの人の国と揉めたら連合軍にボコボコにされそうだけど?


「皆楽しそうじゃのう」

「いやいや、止めろよ!」

「また、生意気な口を!」


 埒が明かないので、まずは牛の魔族を黙らせる。

 延髄に身体強化した状態で、思いっきり蹴りを放つ。

 硬い……


「いま、何かしたか?」


 そして、全然効いてない。

 強いじゃないか、魔族。


「捕まえろ!」

「おっと!」


 すぐに腕が伸びて来たので、肩を蹴って宙に逃げる。


「馬鹿め! 飛んだな」


 上空の俺に向かって、バルログさんがまたもレーザーを撃って来た。

 取りあえず、転移で回避。

 魔王の横に移動。


「あーっ!」


 すると同時に、ガッシャーンという音がしてシャンデリアが落ちてくる。

 粉々に砕け散る装飾やら、魔石やらなんやら。

 俺が叫ぶと、辺りに気まずい空気が。


 牛達はさっさとバルログからはなれて、後ろで手を組んで知らんぷりしている。

 

 バルログが周囲を見回している。

 そして、俺と目が合う。

 こっちに向かって指を差してきたので、逆に指を突きつける。


「あーあ、いけないんだー! たっかそーこれ、っていうか、掃除とか大変そうじゃね? どんだけの出費だろうね? 掃除の人の仕事も増やしちゃって」

「キッ! キサッ!」


 そして、バルログさんの背後に移動。

 耳元で囁きかける。


「はしゃぎすぎだって」

「くっ! くそっ!」


 魔王を見ると、魔王は特に気にした様子もなく微笑んでいる。

 が……扉が開いて、中に入って来た馴染みの魔族が会議室の惨状を見て、血管を浮かび上がらせている。


「誰がやったね?」


 えっと……

 トクマさん?

 ミスリルの塔以外も清掃してるのかな?


「こっ! これは、そこのガキが!」

「あら、マサキちゃんね! 珍しいとこで会うね」

「顔見知りか?」


 トクマが手を振って来たので、笑顔でやっほと手を振り返す。

 バルログさんが、トクマに質問している。


「質問しているのはこっちね。マサキちゃんがやるわけないね、誰がやったね?」

「いや、その……そいつが、私の攻撃を避けたからで」

「攻撃を避けたね? マサキちゃんに攻撃したね?」

「えっと……」

「しかも、避けたら照明落ちたね? 避けて照明が落ちる訳無いね……照明に攻撃をぶつけたね?」

「ひっ」


 トクマさんが箒を逆さに持って、ゆっくりとバルログさんを追い詰めていく。

 うわお、結構怒ると怖いんだな。


「良いから、とっとと掃除するね!」


 トクマさんに追い詰められたバルログさんが、涙目で掃除をしている。

 いやいや、超絶眼精疲労状態で泣くとか。

 眼を酷使しすぎ。

 こんど、ロートの目薬でも差し入れしよう。


「終わったら、昨日収穫した野菜でチーズフォンデュをするぞ! そこのマサキが差し入れてくれたチーズだぞ」

「おお! お前良い奴だな」

「なかなか、見どころがあるじゃねーか」

「ちょっ、お前達! 関係ないフリするな!」

「手が止まってるね!」


 牛達の掌返しが酷い。

 好きだぞ、お前ら。


 そして、バルログさんはちゃんと掃除しないとね。


 本当なら左手で破片全部集めちゃえばすぐ済むけど、トクマさんにもこの能力はばらしてないから。

 頑張って、地道に箒と塵取りで対応してもらおう。


――――――

「マサキおにい、どうしたの、そのおやさい?」

「うん、知り合いにチーズを差し入れしたら、お返しに貰ったんだぞ?」

「紫色の白菜ですか? もう白菜じゃないですねそれ」

「ちょっと、変わった土地で出来たものだからな。魔力がふんだんに込められているとか」


 魔王が野菜をお裾分けしてくれた。  

 まあ、うちの()達も派遣して手伝わせてるしね。

 その話をしたら、牛達は俺の頭を撫でて料理を分けてくれた。

 

 バルログさんは微妙な顔してたけど。

 魔王と楽しそうに農業談義してたら、悔しそうにこっちを見ていた。


「植物によって水を多く好むものと、そうじゃないものがあるからな。その辺りは、魔王の部屋にあった植物図鑑に書いてあったりするよ」

「なるほど……」

「日当たりに関しては、ちょっと難しいよな」

「確かに」


 土地の特性上、適した形に植物を進化させる以外に方法は無さそうだけど。


「ビニールハウスとか、あれだったら冬でも中は割と暖かいぞ」

「ビニールとはなんだ?」

「あっ、そっか……ガラス張りの部屋を作ってやって、そこで植物を育てたり」

「ふむふむ」

「鏡を上手く使ったら、日の光集められないかな?」

「燃えないか?」


 日当たり最悪、年中基本的に寒い。

 空気悪い。

 魔力多い。

 とにかく、野菜にとって良い事の無い土地だからな。


「あの、取り合えず水を大量に与えておいて、火魔法で」

「馬鹿か? 今言っただろう? 水は与えりゃ良いってもんじゃない。それに火と日は違うから……取りあえず、魔王に本借りて勉強して出直せ」

「くっ」


 頑張って話しかけてくるけど、バルログさんの意見に建設的なものは無い。


「そうだぞ。水がはけないうちに、どんどん水をやっていたら地面に菌が繁殖して、根腐れの原因になったりするんだぞ?」

「そうそう、同じ場所、同じ水量で水はけに変化があったりしたら要注意だ」

「果樹とかだと、根っこの先が黒くなったり」

「そうそう、幹や茎がブニブニし始めたら要注意だ」

「ああ、ネギが「それは、そういう野菜だ!」

 

 バルログさん、そっち関係はポンコツだった。

 まあ、ずっと魔眼の訓練してたら仕方ないよね?


 バルログさんの切なそうな表情を思い出したら、ちょと笑えてきた。


「たのしそう!」

「ああ、今度クコも連れて行ってやろう!」

「俺も! 俺も!」

「ああ、マコもな! 勿論、トトもだぞ」

「大丈夫なのですか?」

「……大丈夫」

「なんですか、その間は……」

「ちょっと、人じゃない人達が住んでるところだから……」


 大丈夫だよね?

 たぶん……

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