第121話:論功行賞
今回はジャッカスを始め、多くの配下達がマルコの為に頑張ってくれた。
ひいては、俺の為と言ってくれているが……
とはいえ、危ない場面もあったわけだし。
痛い思いをさせた事もある。
なので、今までやったことないが今回は論功行賞を行おうと思う。
配下の者達にそれを伝えたら、ワッと盛り上がった。
マハトールだけが……
虫達は、そのために仕えているのです。
褒められるほどの事ではないですね。
強いて言うなら、今後も変わらぬ忠誠を認めて頂ければと……あらやだ、奥ゆかしい。
可愛い事を言ってくれたので、遠慮せずにじっくりと考えるように伝える。
次いでジャッカスは……
「我が母国の危機なれば、主の指示なくとも動く所存でしたゆえ……褒美は謹んで辞退させていただきます」
との事。
うんうん……でも、知ってるからね?
ジャッカスがいま、一生懸命お金を貯めている事は。
何に使うかも。
だから、それとなく援助を申し出ておこう。
そもそも、もう十分なお金はあると言っても上納金を収めてくるから、お金は割と余っている。
余っている分、全部渡してしまっても良いだろう。
クロウニのサポートに動いた、元邪神教の皆さんも。
「そうですね……貰えるものは頂きましょう。今度、新たに孤児院を増やすのですが、流石に各孤児院で勉強を教えるには人材が不足してしまうので、孤児院の子供達を一カ所に集めて勉強を教えるような施設を作りたいのですが?」
「いや、そういったものは、勝手に作れば良いと思うけど」
「そうなのですが、一度是非マルコ様にご友人の方々を連れてきていただければと」
「何故だ?」
彼等がいうには、家庭環境が恵まれなくても才能に恵まれた子は多くいるとのこと。
その子達が埋もれてしまうのはあまりに勿体ないので、それなりに立場ある方々と顔を合わせる機会とチャンスだけでもとの事だった。
あとは、本人の能力と運次第だがそのくらいなら良いか。
マルコにとっても、広い見識を持つ機会になるだろうし。
「分かった、前向きに検討しよう」
クロウニの希望は……
なんにも無いと言っていたので、一度パドラと管理者の空間で合わせる事にした。
勿論、ダニー達に頼んでパドラを眠らせたあとで、管理者の空間に運んで交流させる。
で、また寝かせて布団に戻す。
一応、リアルな夢って扱いになるかなと。
「さてと、えらくはしゃいでいたが、望みを言ってみろマハトール」
「えっ? あっ……はい……」
虫や他の人達の視線を一手に受けて、途端に気まずそうな表情で顔を伏せるマハトール。
「マハトールに褒美は不要かと……主様を真っ先に庇い建てするべき場面で、自分に酔うほどの大バカ者ですので」
白蟻が進言してくる。
あー、別にそのことは本当に気にしてないんだけどね。
なんか、さらに一回り小さくなるマハトール。
こいつは面白悪魔の捕獲にも成功しているから、本当に叶えられる望みなら叶えてやっても良いんだけどな。
「あの……申し上げにくいのですが。出来ればいいのですが……」
「ああ、出来る事しかするつもりないぞ?」
「うっ……」
聞かれた事にそのまま答えたら、マハトールが言葉を詰まらせた。
いやいや、別に言うだけならタダなのに。
まあ、内容次第じゃタダじゃすまない可能性もあるが。
俺から何かするつもりは無いけど。
「その、100年で聖属性を操るという課題ですが……300年くらいに延長できたりとか?」
「えっ? そんな事で良いのか?」
「宜しいのですか?」
思ったよりも、大した望みじゃなかった。
解放してくれとかでも無ければ、言うなれば300年は務めさせてくれっていう宣言とも取れるし。
良いんじゃないかな?
「猶予は300年になっても、訓練は軽くなりませんよ?」
「ええ、大丈夫です! これで、訓練の手を抜いたら結果、延長してもらった意味がなくなる可能性もありますからね」
白蟻がしっかりと釘を刺していたが、マハトールは喜色満面で頷いていた。
良いのか?
なんか、出会った当初よりストイックになってるけど。
性格反転したら、存在意義が無くなって消滅したりしないよな?
取りあえず、表面上の論功行賞は終了。
どうせ、本心からの希望は言わないだろうと思っていたし。
だから、こっちで勝手に行う。
審査委員は蜂と蝶と蜘蛛と蟻。
御三家は今回ノータッチなので、監査役として意見を聞くだけ。
あまりな事で無ければ、口を挟まないとの事。
虫達もなんだかんだで、ジャッカス達と仲良くしていることが良く分かる会議だった。
蟻は割とマハトールを評価していたのには、少し驚かされた。
うんうん、文字通り死に物狂いで聖属性と付き合っていたしな。
今回は、結果も残したし。
そんな彼等の提案した褒賞は、今回手に入ったヴィネの核。
完全に俺の支配下にあるので、これ自体が悪さすることはない。
これがあればマハトールも進化出来るだろうし。
といってもこの核は俺の命令も聞くので、マハトールが何かしでかしたら核を休眠させて退化させることも出来ると。
うん、何も問題無い。
取りあえず渡すだけ、渡しておこう。
あとは、あいつ次第という事で。
クロウニの事に関しては蜂達も色々と考えてくれていた。
集団でベニス領に移住して、草花の受粉に貢献し緑化運動をすると。
あとは、水魔法を駆使して水やりがしたいとのこと。
数匹ほど、水の魔石を合成しておこう。
風はすでに扱えるので、問題無し。
土壌改善の為に、土魔法が得意な蟻と蚯蚓も数匹。
蜂蜜を定期的に提供して、特産品に?
頑張るっす?
えらく気合が入っている。
良い事だ。
スーパーコロニーから、2匹の女王蜂が分蜂するとのこと。
1500匹ずつ連れて、出張しますと。
うん、そうだね。
出張って感覚だね。
ちなみに管理者の空間の白蟻達は、お菓子の城を与えておいた。
空間内にある限りは、腐る事も無いし。
割とテンション高く喜んでくれていた。
蝶や蜂達もちゃっかりと、お相伴に預かっていたし。
蜘蛛たちは、甘い物にはあまり興味が無いらしい。
果実の甘いのは大丈夫?
なるほど。
取りあえず果樹エリアを作っておこう。
他の虫達も需要あるだろうし。
さてとあとは、ほぼ全ての虫達の一押しのジャッカス君だな。
虫との付き合いが長いというか、基本的に虫の助けを受けて生きているような男なので、放っておけないのだろう。
虫達の父性や母性が、全開解放されているかもしれない。
何故かちょっとだけ、甘い気もするし。
なんとなく、理由は分かるけど。
そんなジャッカスへのご褒美。
それは、ベルモントに大きな屋敷を用意すること。
ジャッカスもついに結婚?
いやいや、違う。
ジャッカスのやつ、クランを作りたいらしい。
クランっていったら、あれだ……
ギルド加盟組合員の、大きな集まりだな。
冒険者ギルドに限らず、そういった互助集団的なものはある。
もしくは、雇用者と労働者的な立場のものもあるが。
英雄の下に集まった、同士というのもある。
冒険者でいうパーティより、大きな集まりという事だ。
商業組合でいったら、チェーン店か?
まあ、そんな感じだ。
ジャッカスの奴、色気出しやがって!
というわけでもない。
彼は初心者パーティを集めたクランを設立したいと、頑張ってお金を溜めている。
初心者相手にするわけだから、開始当初に必要な備品も多いし初期投資は半端ない。
何人か、ジャッカスに共感して協力してくれているとのこと。
武器屋や道具屋の援助も取り付けていると。
一応、クラン名は初心者の館にするとか。
うんうん……チュートリアルが受けられそうな組織名だね。
意外と収益あげてるのか、巨大な屋敷に職員がきっちり3人居るってイメージだし。
色々とルールは決まっているとか。
1年ごとに契約更新を行い、実力測定を行うと。
一定基準を超えた者は、その時点で卒業。
そうじゃないものは、もう1年継続。
ただし、3年目で基準に満たなければ、冒険者を諦める事と……
代わりの仕事を斡旋できるように、色々なところにコネを結びに行ってる?
なんだろう……
元チンピラから、偉い変わりようだ。
ジャッカスは、良い拾い物だったと思う。
ずっと身綺麗にして、礼儀正しく振る舞わせていたら、それなりの気品も身に着けているようだし。
もしかして、気品ってスキルだったりするのか?
一定のCPが溜まると、習得出来たり?
んなわけないか。
そういう事なら、俺が協力しない訳にはいかない。
むしろ、全力で援助しても良い。
未来ある若者への先行投資。
彼等が立派な冒険者になったとき、ベルモントの冒険者ギルドの評価はうなぎのぼりだろうな。
加えて、ベルモントの評価も。
ベルモント出身の冒険者か……
だったら、問題無い! と他領の人から言われたならきっと気持ち良いだろう。
ということで貯蓄や、蚕が作り出した反物などを売ってお金を工面。
色付きの絹ってバカみたいに高いんだな。
m単位で金貨10枚とか。
100万円か?
取りあえず土地と箱は用意できたので、あとはひたすら改装だけど。
その辺りは、職人さんに任せておこう。
ちなみに第一期の加盟希望者は……
「龍装獄炎煉獄陣」や「天降地昇黒騎士団」などと香ばしい名前のパーティ名ばかりだった。
こういった、ちょっと斜めに突き抜けたパーティ名ってのは新人が必ず通る道らしい。
中には、一周回ってギャグでそんな名前のパーティを付けるベテランも居るらしいが。
中でも目を引いたのは「西スラム第二区画出身組合」とかっていう、なんか……
色々とこう背景が読み取れるというか、助けてあげたいって思えるような新人パーティだった。
いずれにしても、どれも不安になる名前のパーティばかりだ。
「地を這う魔に絶望を振りまく軍団」を名乗るパーティなんか、絶賛メンバー募集中で立ち上げたばかりとか。
軍団とはなんぞや?
まあ、こんな彼等も中級冒険者になるころにはきっと……
盾の誓いとか、風の使いみたいな簡単な名前になるんだろうな。
最終的には、天剣とか、地槍みたいななんかリーダーが得意とする属性と武器名の集まりみたいな、パッと見で分かり易いパーティ名に。
そもそも書類を書く際に、こういったのは短い方が楽で良いのは当たり前だし。
冒険者になったばかりで、気合が入るのは分かるけどね。
さてさて……
そんな子達が、立派な冒険者になれるようにとジャッカスは初心者の館というクランを作ったらしい。
よくもまあ、あれな名前のパーティ名を好んでつけるような子達が、集まったものだ。
それだけ、ジャッカスのネームバリューが凄いって事だろうけど。
ジャッカス以外にも、ベテラン勢は3人くらい参加してくれるらしい。
武術訓練や、魔法の授業に加えて、冒険の基礎講座を教えるらしい。
3人とも若い女性というのが、ちょっと気になるけど。
「どうしても、手伝いたいとおっしゃられるので……ええ、一度お助けしたことのある方ばかりですが?」
「ふーん」
くそっ……主を差し置いて、元小悪党の冒険者がハーレム形成とか。
おかしいだろっ!
「いやあ、皆さん一度危機を体験しているだけあって、そんな思いを新人の子達にさせないようにと必死な様子が伝わってきます。3人とも競いあうようにいかに新人の子達に大事なことを伝えたか私にアピールされるのですよ……見習わないと」
「フーン……」
「あれ? 何か気に障る事でも?」
「フンッ!」
しかも、鈍感系の主人公か……
まあ、良いさ……
いつか、俺だって……
――――――
「ついに完成ですね」
ジャッカスが真新しい建物を前に、感慨深く溜息を吐く。
マサキに仕えて冒険者になり、志半ばで倒れる冒険者を何度も見て来た彼。
そんな彼は、特に若い子達が犠牲になるのを良しとしなかった。
新人の子達が入ってきたら、それとなくどのような依頼を受けるのか情報を集めたり。
難しい依頼なら、そっと他の依頼を勧めたりと。
陰ながら見守っていた。
「これで、また多くの子達の命が救われますね」
そう言って、ジャッカスの手を横からそっと握った女性。
レンジャーの恰好をしている彼女は、冒険のイロハを教える教員としてパーティに加わる事を希望していた。
名前はエンラ……そう、元受付嬢だ。
冒険者出身の彼女は豊富な知識を、ギルドで受付をしながらさらに磨き。
野営や行軍に関しては、ギルド職員の中で彼女の知識の右に出るものは居ないとまで言わせしめた。
そんな彼女は、ジャッカスがクランを立ち上げたいと相談した時に、あっさりと職員という安定した地位を投げ捨てた。
そして、ずっとそばでサポートをしていたのだ。
「そうですね」
キラキラとした瞳で見上げてくるエンラに、返事をしつつも見惚れるジャッカス。
まさか、子供達を救える事にここまでの曇りなき眼を携える事が出来るとは。
その慈愛の姿は、何よりも美しい……
私も見習って、子供達に出来る限りの援助を惜しまずしないと……
言い出しっぺが、このような年下の女性に後れを取るなどあってはなりませんからね。
エンラの視線を明後日の方向に解釈したジャッカスが、決意を新たに振り返る。
面白く無さそうな表情を浮かべている魔法使いの女性と、エンラを睨み付けている戦士風の女性に向かって手を広げる。
「さあ、中に入りましょうか? 私達の新しい城ですよ」
「ええ……ここまできたなら、あとはもう一押しですね」
「そうですね……ここでしっかりと子供達を育て上げれれば、後進の育成に彼等も尽力してくれるでしょうし」
いずれ、私とジャッカス様の子供もここで育てあげれれば……
そんなエンラの想いなど気にせずに、部屋の確認を続けるジャッカス。
「これで、より一層……」
「ええ、より一層の技術の継承が行っていけますね。彼等が育つことは、ベルモントにとっても有益な事ですし……何より、人にとっても喜ばしいことですから! いずれは、ここから英雄が産まれると良いですね」
「ええ……」
そして、私とあなたの子供も産まれると良いなと、魔法使いの女性は頬を赤らめている。
が、尖がり帽子に隠された表情は、ジャッカスに気付かれることなどなくスルーされてしまう。
「出来れば、初日から先手をとっときてーな」
「ほうほう、やる気は十分ですね! 武器の扱いはとても重要ですからね。魔力が尽きてしまえば、最後は手に持った物をいかに上手く扱えるかで結果が代わりますから。魔法職の子達でも面倒臭がらずに身体を鍛えて逞しく成長してもらいたいですね」
「ああ……私は、ヤル気十分だぜ!」
何やらヤル気のニュアンスが異なっていることなど、ジャッカスは露程にも思わず戦士の女性がドーンと張った胸を、頼もしそうに見て頷く。
そんな期待の籠った目で私の胸を見つめて、照れるじゃねーか……
私とジャッカスの子なら、きっと逞しく成長するだろうし。
まだ見ぬ二人の子供に対して、夢と希望に想いを馳せらせる戦士の女性と同じように、いずれ成長してここから巣立っていくだろう新人の子達に対して夢と希望に想いを馳せらせるジャッカス。
奇しくも似たような表情でお互い顔を見合わせる。
これは期待しちゃうぜと目を閉じて唇を突き出す戦士の女性。
がジャッカスは、すでに他の部屋の見学へと向かっていた。
「皆さん、気合十分でとても頼もしいです」
そんな事を考えながら。
「マサキ様には、感謝してもしたりないですね……今度、街の職人さんに彫像でも作ってもらいましょうか」
そんな事を呟く。
――――――
「本当にありがとう」
「いや、無事でよかったよ」
「ていうか、マルコ強すぎでしょ」
後日リコに呼び出されたマルコは、お礼の品としてクッキーを貰っていた。
手作りらしい……彼女の家の使用人の。
彼女が作る訳無いか。
作られたとしても、微妙な気が。
「何か、失礼な事考えてない?」
「いや、そんな事ないよ」
「マルコ先輩! 有難うな!」
カールも、嬉しそうにお礼を言ってくる。
彼は完全にマルコに心を開いてくれたらしい。
そんなカールの頭を優しく撫でると、リコがちょっと羨ましそうにしている。
その時、リコが何かを思い出したようにマルコの耳に唇を寄せて、ひそひそと耳打ちをする。
「マルコが魔法を使える事は、黙っておいてあげる」
「えっ? ああ、うん……有難う」
命を救ったはずなのに、弱みを握られた感じで微妙な表情を浮かべるマルコ。
お礼を言われる為にあったのに、なんか素直に安心できない感じだ。
それでも、リコの態度はかなり軟化した。
ソフィアの幼馴染にようやく認めてもらえたことで、まあ良いかなと思いつつ。
先輩とは呼んでくれそうにないなと、溜息を吐く。
「なあなあ、リコなんの話してたんだ?」
「ふふ、私とマルコの秘密よ」
「えー、ズルいぞ! 教えてよ!」
「いやよ! ずっと内緒にしてるんだから」
2人だけの秘密ということでカールが不満そうにリコに詰め寄っているが、軽くあしらわれていた。
ただ、2人ともこうやってまた一緒に、並んでいるところを見られて本当に良かった。
そう思うと、思わず2人とも抱き寄せてしまったマルコ。
「ちょっと!」
「なんだよ!」
「いやっ、2人がこうやって笑顔で過ごせて、本当に良かったなって」
「ちょっと、助けたからって気安いですわよ!」
そう言いながらも、頬が緩んでいるリコは本気で引きはがすつもりは無いらしい。
「うん、マルコ先輩のお陰だ!」
カールはやっぱり、思った事を素直に口にする子供らしい子だった。





