第119話:マルコVSヴィネ(前編)
書きながら寝落ちしそうなので、とりま予約投稿しつつ編集保存で対応してます(;^_^A
中途半端なら、力尽きたと思って下さいm(__)m
脳内でマサキの声が響く。
強引に意識を割り込ませようとしてきているのも。
なんだっけ?
何が起きたんだっけ?
たしか、目の前のビルド……いや、ヴィネだ。
悪魔だ……
こいつが、ビルドの身体を人質に取ってて……
それを解放するために、白蟻を2匹ほど向かわせて……
何が起きた?
頬を何かが通り過ぎたかと思うと、2匹のうち1匹が消えていた。
「殺せたのは1体だけでしたか……」
1体?
誰を?
ああ……あああああ……うわああああ!
くそがあっ!
死んだ!
そうだ、配下の蟻が一匹……消えたんだ。
「絶対に許さない!」
「ああ、怖い……どうぞ、お好きなように攻撃してください」
頭の中でマサキが交代しろと喚いている。
意識が乗っ取られそうになるのを、強引に押しとどめる。
ふわりと暖かい空気が降って来る。
少しだけ冷静になる。
すぐ横に、心配そうにこちらを見つめる蝶が、ヒーリングスケイルを振りまいてくれていた。
「ありがとう……ちょっとだけ、冷静になれた」
目の前のヴィネをぶん殴ろうかと思ったけど、よく考えたらあれを殴ってもビルドを殴ったことにしかならない。
確かにヴィネは僕より強いかもしれない。
でもその依代のビルドは?
彼が管理者の空間で意識を取り戻したら、色々と面倒だが。
それよりも、うまくビルドだけを吸収できるかな?
あれは、ヴィネでもあるわけだし。
でも、出来る気がする……
さっきから、左手に力が漲ってるような気がするし……
「来ないのですか?」
いまのうちに笑ってろ……
お前だけは絶対に許さない!
「うるさい! ぶん殴ってやる!」
地面を蹴って、ヴィネに殴り掛かる。
「ふふん、どうぞどうぞ!」
「じゃあ遠慮なく!」
左手でヴィネの身体を吸収しながら、思いっきり殴り飛ばす。
頬殴られた銀眼の悪魔が、こっちを睨み付ける。
「何を?」
目論見通り。
ビルドの身体は吸収出来たが、ヴィネの身体はそこに残ったわけだ。
結果、僕の左拳はヴィネの頬を思いっきり殴り飛ばす事が出来た。
さっきまで五月蠅かったマサキも、少しだけ静かになる。
「ごめんマサキ……どうしても、こいつだけは僕が殺してやりたい」
「俺も同じだ……」
「僕には責任がある」
「俺にもある!」
マサキも譲る気はないらしい。
だけど不満そうに「フンッ」と鼻を鳴らすと、静かになった。
「身体を奪えないってことは、お前の方が気持ちが強いって事だ……やらせてやる! が、不甲斐ない姿見せてみろ! すぐに変わってやる」
「うん……」
納得したわけじゃないかもしれない。
でも、任せて貰えてホッとした。
僕が仇を取らなかったら、僕は一生彼等の主に戻ることは出来ない。
無配慮に配下を殺してしまった……
それも忠臣と呼べるレベルの。
もっと相手の事を警戒していれば、やりようは他にもあった。
完全に考えが浅かった。
デーモンロードという聞きなれない存在に、戦闘力を見誤った部分もある。
リコにしても、ビルド先輩の身体にしても全てが後手に回っていたことによる、焦りも。
ビルド先輩の身体に傷をつけて、タイムリミットまで設けて。
完全に、思考することを妨害された。
でも、それが悪魔の戦い方。
卑怯だなんて言えない。
悪魔にとって卑怯というのは、邪道ではなく正道……
僕の実力不足。
思慮不足。
知識不足。
そして、心構えまで不足していた。
それに気づかされた代償は……大きすぎる。
何度となく反省してきて、それでもまだ足りない。
嫌になる……
でも、こいつを倒せば何かが変わる。
それ以前に、大切な友達を殺したこいつだけは絶対に許さない。
「どうしたの? 随分とかっこよくなったね?」
「何をした! 俺の身体をどこにやった!」
「お前のじゃないだろっ!」
目の前に詰め寄って、剣を取り出して斬りかかる。
片手で簡単に止められる。
「ちっ、まあ良いか……久しぶりに運動するのも悪くない」
「くそっ! 離せ!」
「ほらっ」
片手で受け止められた剣をそのまま押し返される。
勢いあまってかなり後方にまで飛ばされたが、どうにか受け身をとる。
「駄目だな……人間1人犠牲に出来ないとか、全然ダメ……生身の人間に、私の攻撃が耐えられるわけないですからね? あのビルドとかって子供の身体の中にいるうちに、どうにかするのが唯一の手段でしたが……」
「そんなこと、出来るわけない!」
「その結果、大事なペットが死ぬことになったんですけどね」
吹き飛ばされたことで、かなり距離が空いたのだが一瞬で目の前まで詰め寄られる。
そして、顔を真下から覗き込まれる。
ニタァっという笑みを張り付けた顔がウザい。
銀眼、銀髪でかなり長い。
顔はどこか獅子のような雰囲気を感じさせる。
「ペットじゃない! 友達だ!」
「それは、泣かせますね……余計に、悲惨だ!」
「五月蠅い!」
右手で水球を放つと、左手で電撃も放つ。
水と電気の合わせ技だ。
「ほう、なかなかに容赦ない」
振るわれた右手で簡単に水が消されると、電撃もその掌に吸い込まれていく。
想定のはるか上をいく、手強さ。
今までの、敵とは段違い過ぎる。
「マルコ!」
リコが心配そうに、こっちを見つめている。
「心配いらない! 結界をしっかり張って!」
残った白蟻達が、全力で聖域結界を張っているのを感じる。
これなら、あっちに攻撃が行くこともないと思う。
目の前の悪魔に集中できる。
「ふむ……まるっきり、期待外れですね」
当の本人はそんな事をほざいているが。
「そういうお前だって、何も出来ていないじゃないか!」
「ふふふ、出来ないのではなく、しないだけですよ……」
相手が動けば、どこか攻撃の隙が出来るかと思ったが。
簡単に挑発には乗って来ない。
それにしても、防御が硬すぎる。
全て、片手で弾かれてしまう。
「ならっ!」
ベルモントらしく、剣主体へと切り替える。
「流石に剣の練度は桁違いですね……」
それでも長い爪で、全て受け止められる。
「というか……弱すぎませんか?」
「ぐうっ……」
そのまま爪で斬りつけられる。
とっさに剣を当てることは出来たが、脇腹を掠めて少しだけ切れる。
血がツーッと流れ出る。
地味にズキズキとする。
「これなら!」
すぐに攻撃方法を変える。
右手で聖光石を取り出し、ヴィネに向かって投げつける。
「甘いですよ……」
それをあっさりと躱したヴィネを見て、石を受け止めなかったことは効果があると実感出来た。
ならば、絶対にぶつけるのみ。
「鬱陶しいですよ!」
いくつか石を取り出して、纏めて投げたら尻尾で一蹴された。
コロコロと地面に聖光石が落ちる。
「一度、本気で痛い目を見た方が良さそうですね」
「なっ!」
そして、尻尾の先がこっちに向いたと思った瞬間に、真黒な巨大な筋が僕の真横を通り抜ける。
嫌な予感がして、間一髪で横に飛び退くことが出来たが。
「それが、白蟻を殺した技か!」
「ええ、【闇の砲攻】です……まあ、デーモンロードクラスになると、それぞれが固有の技を持っているので、種族スキルというわけではないですが」
文字通り、闇の魔力を集めて放つものらしく、破壊力特化の攻撃っぽい。
こんなもの、喰らったら一たまりもない。
「当たらなければ、意味ないし」
「わざと外したんですよ」
しかし、恐ろしすぎる。
一発でも喰らう訳にはいかないが、ヴィネの尻尾は器用に動き回っている。
今は、僕の攻撃を全て尻尾で受け止めている。
時折、こっちに尻尾の先を向けて牽制してくる。
ただ、なかなか先の攻撃が放たれる事はない。
ということは、溜めが必要なのか?
いや、そう思わせる事が狙いだろう。
連発が出来てもおかしくない。
悪魔と戦うのに、先入観に捉われるのはまずい。
さっき、すでに学習した。
ただ、それに対してこっちは致命打が無いのもまた、事実。
ダメ―ジすら、まともに入れられていない。
ほぼ、ほぼ手詰まりのように感じる。
ただ、僕には配下の虫達のスキルを借りる事も出来るし。
何より、魔法だってある。
聖属性魔法も使える訳だし。
秘策も用意してある。
その秘策に関してもある程度の準備は、戦いながらしている。
「これ以上やっても無駄じゃないですか? 貴方に私を傷つける事は出来そうにないですし」
「出来るかどうかは、やってみないと分からないじゃないか!」
「またそれですか……というか、さっきからずっとやってるじゃないですか」
ヴィネに向かって聖光石を投げつける。
すぐに躱され、代わりに爪が襲い掛かってくる。
それを、手に持った剣で受け止める。
「チッ!」
ヴィネがすぐに距離を取る。
彼の手から、蒸気が上がっている。
「聖水もどうやら苦手みたいだね。この剣にもたっぷり含ませたから」
そうだ。
聖光石に注意を向けつつ、その隙に剣に聖水を振りかけておいた。
その剣を使って、ヴィネの攻撃を受け止めた訳だ。
効果は覿面だった。
微々たるものだが、ヴィネの肌に傷を付けることが出来た。
「生意気な」
ヴィネが苦々しい表情でこっちを睨み付けてくる。
ビルド先輩の身体を手放してから、初めてのダメージ。
それも、悪魔退治の初歩の手法。
武器に聖水を振りまくという。