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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第111話:進級そして……

ついに進級w

「これからも、宜しくおねがい致します」


 新入生代表の挨拶が終わり、皆で整列して教室に戻る。

 長かった1年も終わり、ようやく2年生へと進級できた。

 思い返してみると、本当に色々とあった1年だった……本当に。

 

 教室に帰る道すがら、思わずため息が漏れる。

 嬉しくないことに第二王女、第一王子に懐かれ、親友は恋心を拗らせ危ない奴に転職からの、脳筋にジョブチェンジ。

 まあ、幼馴染と将来を約束出来たのは、良い思い出だけど。

 旅行の楽しい思い出もある……けど、最後に味噌つけられてちょっと苦い思い出。


 教室に入ると、周囲を見渡す。

 見慣れたメンバーだが、1人だけ欠員が出ている。

 ヘンリーだ。

 彼は、結局2年での復帰は無理だった。

 当然だけど。


 本人も……


「総合上級科も悪くねーぜ! ハハハ!」 


 などと能天気に笑っていたが。


「今年もよろしくしてもらいたいが、あまり問題を起こさないように。貴族科としては前代未聞の、トラブルの1年だったからな」


 担任は変わらず、マーク先生。

 去年は色々と胃が痛い思いをしたからか、真剣な眼差しで1人1人の顔を見てそう告げる。

 特にセリシオ、僕、エマのところで止まった時間が長い。

 

 いやいや、殿下にその対応はどうなのと思ったが、生徒の特別扱いはしないらしい。

 流石侯爵家の御子息であらせられる。


「また、同じクラスだったな!」

「当たり前でしょ」


 ホームルームが終わると同時に、セリシオが僕の横に来て肩を叩いてそんな事を言っている。

 勿論、冗談だ。

 貴族科の生徒がクラスから別れるのは、親か本人に問題があった時くらいだし。

 そもそも、セリシオがうちやラーハットに来たいと言わなければ、問題も起きなかったしヘンリーもあそこまで拗らせる事は無かったと思う。


「相変わらず、俺には冷たいな」

「へえ……不満なら、きちんと対応しましょうか殿下?」

「いや、そういう訳じゃないが」


 自分から軽い扱いを受けるような振る舞いをしておいて、不満とか。

 それでいて、王子としての特別扱いは嫌だなどと、我儘が過ぎる。


「殿下、私も一緒です!」

「当たり前だろ?」


 さっきの自分の言葉を2重の意味で振り返って欲しい。

 嬉しそうに話しかけて来たクリスに、鼻で笑って冷たくあしらう。

 

「俺が貴族科に居なかったら、国が無くなってるってことだ! お前が居なかったら、死んだってことだな」

「そうですね! それはありえませんね」


 それで良いのかクリス?

 そんなだから、いつまでたっても3列目なんだよ。


 最前列の席次は、ディーン、フィフス、ソフィア、僕、エマだ。

 進級能力テストで本気で頑張ったが、ソフィアの壁が意外と高い。

 とはいえ、貴族科全体的に学年順位は上がってきているので、良い事だとは思う。


 2列目はセリシオ、ベントレー、セレナ、ジョシュア、とベントレー、ジョシュアが順位を伸ばしてきている。

 セレナは……あまりしゃべったことないけど、モルダフ伯爵家の末っ子らしい。

 大人しい性格なのか、友達と一緒に居ても喋るところをあまりみない。

 思ったよりも良い成績だったのか、仲良しの子と離れて少し挙動不審だ。


「マルコは、この後どうする?」


 適当にセリシオをあしらいつつ、荷物をロッカーに入れて軽くなった鞄に新しく配布された教科書を突っ込んで立ち上がると、ベントレーが話しかけて来た。

 エマとソフィア、ジョシュアも集まって来る。

 ディーンは、何やら予定があるのかいそいそと出て行ってしまったが。


「真っすぐ帰るよ。今日はおじいさま達と食事に出かける予定があるから。お母様とテトラも来てるし。皆はどこか行くの?」


 入学式後の進級式にはお母様がテトラを連れて来ていた。

 わざわざ進級式は来なくて良いって言ったんだけどね。

 お父様は忙しいらしくお留守番。

 で折角だから、おばあさまが美味しいものでも食べに行こうと提案してくれた。


「私とソフィアも直帰かな? うちの両親が珍しく来てるから、ソフィアのご両親と一緒に食事会」

「それは豪勢だね」


 エマの両親か。

 次期辺境伯ってことだ。

 ソフィアの家も何名もの聖女を輩出した、伯爵家でも名家。

 この2組での食事会なら、それなりに煌びやかなものだろう。


「オホホ」

「ウフフ」

 

 な世界だな、きっと。


「ベントレーは?」

「あー、うちの親父は最近忙しいらしくて、特に家族での用事は無いからジョシュアと一緒に街に行こうかと」

「良いね、それも楽しそうだ」

「実際は、寂しいもんさ」


 ベントレーとジョシュアは2人で進級祝いだとか。

 正直、僕もそっちに参加したい。

 お母様の前でそんな事を言ったら、きっと泣かれるだろうから絶対に言えないけど。


「ところでディーンはあんなに慌ててどうしたの?」

「ああ、今年の新入生に許嫁が居るらしくて、そっちのお祝いに向かったみたい」

「へえ……えっ? あの子、許嫁が居たの?」


 慌てて出て言ったディーンの事を聞いたら、エマからビックリ発言が。

 どうやら、ディーンには幼馴染が居たらしい。


「本人は許嫁というよりも妹みたいなもんだって言ってたけど。親同士が勝手に決めたことだから、まあ無理に結婚とまでは考えて無いってさ。相手に良い人が現れたら、それとなく婚約破棄の方向に持っていくつもりらしい。あっ、自分に落ち度がある風に仕向けてね」

「ドライだね」

「ディーンらしいな」


 エマの追加情報に、ベントレーと顔を見合わせて肩をすくめる。

 まあ、ディーンならどう転がっても、上手くやりそうだし。


 それから皆と別れて、家に向かう。


「お帰りなさい! マルコ! なんで、一緒に帰ってくれなかったのですか? 母とテトラだけ先に帰れとはあんまりです」


 帰るなりお母様に抱き着かれて、頬ずりされる。

 周りに誰も居ないから、正直お母様の暖かく柔らかい頬に素直にされるがままに対応する。

 正直、嫌じゃないし。


「ええ? 2年生にもなるとオリエンテーションに、ホームルームも長いからテトラが疲れちゃうよ」

「まあ、優しいお兄ちゃんに育ってくれて、母は嬉しいですよ」

「おにいさま、しんきゅうおめでとうございます」


 テトラが大分ハキハキと喋れるようになってきた。

 舌っ足らずの弟も可愛かったので、ちょっと寂しい。

 それからおめかしして、一家で外食。


 王都でも1番人気の高級店。

 ともなると当然……


「マルコ」

「マルコ君! テトラ君!」

「エマ、ソフィア!」


 同じように入学や進級の祝いに来ている貴族も多い訳で。

 知り合いに会う確率も高い。

 お店に入ると、丁度同じタイミングでちょっと早く入っていたエマとソフィアの一家と鉢合わせになる。

 

 ソフィアがテトラを見て、嬉しそうに破顔する。


「これはこれは、マスタースレイズ御無沙汰しております」

「うむうむ、ジャン殿か。久しいのう? どうじゃ、お父上は息災かな?」

「ええ、まだまだ私が領地を継ぐのは、先になりそうですよ……喜ばしいことですが」


 どうやら、エマのお父様とおじいさまは知り合いらしい。


「エリーゼ様もご健勝のようで、喜ばしい限りです」

「ふふふ、楽になさってください。そう畏まられては、返って気を遣ってしまうわ」

「はっ」


 そして、おばあさまとも。

 楽しそうに談笑をしていたが、すぐに案内されて別々の席に向かう。


 それから食事を楽しんでいると、エマとソフィアがやってくる。


「どうしたの?」

「ん? そっちももうそろそろ食事が終わる頃かなと、ちょっとテラスに行ってみない? お父様方もお母様方もお酒が入って楽しそうだから、長引きそうだし」

「うーん、そうだね。おじいさま、ちょっとエマ達と2階のテラスに行っても宜しいですか?」

「ああ、構わんよ」

「ええ……」


 おじいさまに許可を得て立ち上がったら、お母さまが残念そうな声を漏らす。

 

「マリア様もご一緒しませんか? テトラ君と一緒に」

「そうですね、子供達だけだと何かあったら大変ですもんね」


 ソフィアがすぐにフォローを入れると、お母様が嬉しそうに胸の前で手を組んで立ち上がる。


「ふふふ、私達は少しお酒でも飲みながら胃を休めますので、デザートはテラスに運ばせましょう。食べ終えたら降りてくるのですよ」


 おばあさまの計らいで、2階のテラスでデザートを食べる事になった。

 

「どうされました?」


 ちょっと距離を取って歩いていると、ソフィアが首を傾げる。

 いや、一緒に過ごすのは良いけど、正直あんまり並んで歩きたくないというか……


 この1年で変わった事。

 エマとソフィアの背がスクスクと伸びて、かなり身長差をつけられてしまった。

 僕も背は伸びたけど、彼女たちはそれ以上に伸びている。

 とはいえ、女の子の方が成長早いのは仕方ないことだし。


 将来的には、僕の方がきっと高くなる。

 けど、いまは負けてるからね。


 春になって暖かくなってきたこともあってか、レストランのテラスはとても心地よかった。

 これからの1年間の希望をあれこれ話しながら、デザートを頂いているとテトラがウトウトしはじめた。


「可愛い……」

「当然ですわ! マルコの弟ですもの」

「お母様……」


 流石に、いくら親馬鹿とはいえ友達の前では自重してほしい。


「マルコも小さいときは、こんなに可愛いかったのですか?」

「今も可愛いですけどね。そうですね……初めて見た時は、天使が産まれたのかと思いましたよ」

「「うわぁ!」」


 ちっちゃな僕を想像したのか2人が何やら笑顔で好意的な言葉を並べているようだけど、僕はお母様の発言に心の中で「うわぁ……」とドン引きしていたので、あまり内容が入って来なかった。


 半刻程過ごしてから、それぞれの席に戻ると丁度おじいさまとおばあさまもデザートを食べ終えていて、コーヒーを飲んでいるところだった。


 その後、家に帰ってお母様と一緒に眠る。

 すでに眠ってしまっていたテトラはお母様の左隣に。

 僕はお母様の右隣。


 愛息子2人に挟まれたお母様は……


「ああ……どっちを向いても天使が居る、どうして私の頭は1つしかないの? どちらか1人の方を向いてしか眠れないなんて、神は何故こんな残酷な試練を……」

「お母様、早く寝てください」


 さっきから、ずっとこんなことを呟いている。

 五月蠅くて眠れない。


 無言になったと思ったら、枕が擦れる音がしょっちゅう聞こえてくる。

 どうやら一定間隔で右を向いたり、左を向いたりしているらしい。

 どっちにしろ、五月蠅かった。


 朝目を覚ますと、お母さまは僕を抱いて寝ていた。

 そして僕とお母様の間、僕の顔の下にテトラの顔が来るように。

 酷い欲張りを見た。


 まあ本人は幸せそうに涎を垂らして寝ているから良いけど、可哀想なのはテトラだ。

 いくらまだ少し寒さが残る初春とはいえ、お母様と僕に挟まれて髪が汗で額に張り付いている。

 ただでさえ、子供は汗をかきやすいというのに。

 

 そっとお母様の手を振りほど……けなかった。

 結構鍛えたつもりだけど、母の包容力はその上をいっていたようだ。

 恐るべし母の愛。


――――――

「おお、3人とも結構背が伸びたな」

「やったー!」

「俺も、マサキ様みたいに背が高くなるかな?」

「宜しいのですか?」


 この子達がうちに来て、約10ヶ月くらいか?

 神殿の柱に、大分線が増えて来た。

 うちに来た時から、毎月こうやって背比べをして柱に傷をつけて記録を残している。


 まあ身長計も取り寄せているので、書面でも記録は残しているが。

 こうやってパッと見で成長が図れるのは、目に見えて分かるので俺も楽しいし。

 なにより、子供達も楽しそうだ。


 無邪気に喜ぶクコとマコと違って、トトだけは高級そうな柱に傷を付けることに遠慮しているようだが。


「良いんだよ。家の柱に子供の成長の証を残すのは、親としても楽しみの1つだし」

「ふふ、本当にマサキ様に拾って貰って良かったです」

「拾ったとか言うなよ、物じゃ無いんだから。精々、出会ったくらいにしてくれないか? まあ、俺からしたら来てもらって本当に良かったと思ってるし」


 この子達のお陰で、毎日が楽しくなったのは確かだし。

 ただ、他に一緒に遊べる子供達が居ないってのは、ちょっと可哀想だな。

 とはいえ、虫達がいつも相手してくれているから本人達も楽しそうだし。

 もう少しマルコが自由に動けるようなったら、外の世界にも連れて行ってやりたいな。

 うん、連れて行ってやろう。


 たまにはマルコが学校が休みの日は、3人を連れて世界のどこかを旅してみるのも悪くないか。

 今年も、たくさん3人と思い出を重ねて、良い1年にしたいな。

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