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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
123/304

第109話:ミスリルさんとトクマ

「なあ、お前から頼んでくれないか?」

「いやね」

「何故だ? お前に懐いてるっぽいじゃないか」


 ミスリルの塔……ともう名目上変わってしまったが、黒騎士の塔の最上階を黒騎士もといミスリルさんとトクマが並んで歩いている。

 相変わらず、トクマの手には箒が握られているが。


「マサキちゃんはいつ来るか分からないし、それは私と関係無いことね」

「冷たい奴だな」

「カインが間抜けなのが悪いね」


 そういえば、そんな名前だったな。

 まあ、ミスリルさんで十分か。

 メッキの黒騎士なんて。

 まあ、金メッキならぬ黒メッキだけど。


「いや、風呂の中まで持ち込めないだろう」

「だったら、鍵付きの金庫でも用意しとくね。それかお風呂行く前に脱いで、部屋に結界でもはった収納を用意しとくね」

「通路で誰かにあったら、この醜い姿が見られちゃうだろ?」


 そう言って背中と頭を撫でるミスリルさん。

 そういえば、魔王の息子……まだ会った事ないけど、その息子を守るために角と翼を犠牲にしたんだっけ?

 魔王に魔王子のことをそれとなく聞いたら、人間のフリして諸国漫遊の旅に出てるとか。

 良い身分だな。


 とはいえ次期魔王になるまで百年単位とかだったら、それもさもありなんか。

 人型の魔族は人化の術が角と翼を隠して、人の世界に紛れ込んでいる者も少なくないとか。

 バレても飛んで逃げれば、見つかる事もまず無いし。


 それにバレたからといって、必ずしも排除される訳じゃないらしい。

 魔族と人族との関係性を知らない、部落的な場所では割と優秀な魔術師として頼られる事も多いとか。

 勿論、正体がバレるまで。


 正体がバレたところで追い出されたりはしないが、やはり見る目はガラリと変わるらしい。

 それで失恋した魔族も居るとか。

 異種族間結婚はハードルが高いらしい。

 閉鎖的な集落ではなおさら。

 外の血を入れる事に、忌避感があるのだろう。

 

 優秀な子が生まれそう……いや、劣化魔族が生まれるだけかな?

 この世界のハーフというものが、どういったものなのかいまいち分かってないけど。


 そういえば、エルフも見た事無いな。

 居る事は居るらしいけど。


 人の街に紛れ込む場合は、魔族以上に上手に変化するとか。

 耳を魔法で隠すか変化させるだけだもんな。

 そして、敢えてちょっとブチャな顔にしているとの事。

 エルフ特有の美貌を隠すとは勿体ない。


 いや、そういう事じゃないらしい。

 エルフは皆、顔がかなり似通っているから見る人が見たら、耳を隠しててもすぐにバレるからだとか。

 でもって、目立たないようにちょいブチャにしているとか。

 

 それでもエルフと人の恋の話はあるらしく、内面に惚れた相手が思いがけず人間離れした美貌と魔力の持ち主でかつ精霊に愛されている優良物件だったみたいな童話もあったり。

 逆に気後れして相手の性格が変わってしまって、別れたり。

 他にはB専と呼ばれる人種に「詐欺」扱いされて、失恋したり。


 この世界ならではの、リアルな話だな。

 地球だったら、確実に美談になりそうだが。


 ドワーフは穴倉から出てこないから、まず会う事は無さそうだし。

 とはいえドワーフ謹製の装備品が世に出回っているということは、どこかしら伝手を持った街か国があるのだろう。

 地下にはそれはそれは男臭い楽園が広がっていると、まことしやかに噂が流れていてその筋の人達からは理想郷(エルドラド)と呼ばれているとか。

 どの筋かは、敢えて言及しないが。


「しつこいね! そんなに返して欲しかったら直接本人に頼むね」

「いやなんか、俺嫌われてるっぽいし」

「そんな事無いよ」

「うわっ!」


 取りあえず転移で、ミスリルさんの背後に移動すると背中をツンツンする。

 背骨をツツツと指でなぞったら、ビクッとなってた。

 硬い鎧を着てるくせに。

 意外と敏感だな。


「貴様!」

「子供相手に、いきなり威圧するとか何考えてるね」

「どけっ、トクマ!」

「いやね」


 こっちに向かって怒鳴りつけてきたので、トクマの影に慌てて隠れる。

 ミスリルさんがトクマの肩に手を掛けてどかそうとしてきたが、箒でその手を払われている。

 部下の取る行動じゃない。


「遊びに来た」

「はあ……子供が簡単に来られるような場所じゃないはずなんだがな」


 ミスリルさんもすぐに落ち着きを取り戻して、額に手を当てて首を横に振って溜息を吐いている。

 

「まあ、小さい事は気にしない」

「そうね。カインは本当に器が小さいね」

「ぐっ、貴様ら好き勝手言いおって!」


 あっ、折角落ち着いたミスリルさんが、また怒り出した。

 よっぽど忙しいんだろう。

 こんな、ちっちゃな事にイライラするなんて。


「まあまあ、怒らない怒らない」

「短気は損気ね。そんな態度じゃ、いつまでたっても鎧は戻ってこないね」

「ねー?」

「ねー!」

「貴様らが、怒らせてるんだろう!」


 2人でミスリルさんを宥めつつ、顔を見合わせて首を傾げて微笑み合う。

 本当に良い性格してるよ、トクマは。

 余計に火に油を注いだだけだったみたいだけど。


「ミスリルさんは、本当に気が短いね」

「なんだ、そのミスリルさんというのは!」

「え? だって、それミスリルでしょ?」


 ミスリルさんが身に着けている鎧を指さして、ケタケタと笑ってあげる。


「もう怒ったぞ! 貴様だけは絶対に許さん!」

「さっきから、ずっと怒ってるじゃん」

「おかしな事言う人ね」


 拳を振り上げたミスリルさんを、2人で指さして馬鹿にしたように笑う。

 あっ、キレた。

 そのまま振り上げた拳を振り下ろそうとしてきて、トクマに箒の柄で止められる。

 と同時に俺もミスリルさんの、肩の上に移動。

 うん、肩幅もしっかりしてて、わりとしっくりくる。


「なっ! 降りろ!」

「うわあ、高い高い!」

「良かったね!」


 いわゆる肩車の形で、ミスリルさんの頭をポンポンと叩いてはしゃいでみる。

 トクマが微笑ましいものを見るような視線を送って来る。

 それに対して、ミスリルさんは上半身を左右前後に振っている。


「その箒随分頑丈だね、何で出来てるの?」

「うん? ミスリル製ね!」

「わーお! 素材の無駄遣い」

「いつでも、戦えるようにね」


 仕込み杖ならぬ、仕込み箒か。

 先を外すと、直槍とかになりそう。


「くそっ、普通に会話してるんじゃない!」


 さらにミスリルさんの動きが激しさを増す。

 でもそんな重い鎧着て……ああ、ミスリルって軽いのね。

 腰がグキってなったりするのかなとかって、思ってたけど。


「うっ!」


 と思ったら、なったのかな? 

 そういえばギックリ腰とかって、軽い物の方がなりやすいらしいし。


「皮挟んだ……」

「馬鹿ね」

「うわぁ……」


 違った……

 鎧の継ぎ目に、皮膚を挟んだらしい。

 やっぱり魔族でも、こういう地味なのは痛いらしい。


「はあ……もう良い。で、何をしに来た?」

「言ったじゃん、遊びに来たって」


 俺を振り下ろす事を諦めたミスリルさんが、普通に足を持って歩き出す。

 ふっ……お人好しめ。

 さっきも怒りながらも、武器じゃ無くて拳骨で済ませようとするあたり、子供に対する扱いの最低限は心得ているらしい。


「ミスリルは忙しいね。私が相手するね」

「トクマッ!」


 トクマにミスリルと言われたミスリルさん……合ってるけど、そのミスリルさんがわーわー言ってる。

 実はもう一つ。


「てか、折角のミスリルを黒くするなんて、勿体ない」

「えっ?」


 左手でミスリルさんの鎧の着色料を貰う。

 ちょっと変わった素材の顔料っぽいので、合成用に拝借しに来たのだ。

 淡い緑色の混ざった銀に、鎧が戻る。


「何をした!」

「え? 色を盗っただけだよ?」

「色を取っただと! 本当に、何者だお前は!」

「ただの子供だし」


 用事は済んだので、ミスリルさんの肩からするりと降りる。


「部屋に着いたんじゃないの?」

「何故、お前が俺の執務室の場所を知っている?」

「トクマさんに聞いたから」

「私が教えてあげたね!」

「……はあ」


 ミスリルさんがガックリと肩を落として、溜息を吐いた。

 本当に気苦労が絶え無さそうな人だ。

 うちの、苦労人代表国王とどっちが辛いかな。

 この2人も、時代が時代なら気が合いそうだな。


「じゃあ、あっちで遊ぶね」

「掃除は良いの?」

「良いね! これは仕事じゃ無くて、趣味ね!」

「趣味?」

「そうね、掃除って大事ね」


 別に清掃員って訳じゃ無いのね。

 ただの清掃員にしては、あり得ない力を持ってそうだし。


「それじゃあ、お仕事頑張ってね!」

「キリキリ働くね!」

「お前ら……分かった、後でお茶でも届けさせる」

「有難う!」

「毒とか入れちゃだめね」

「そんな事、するか!」


 なんだかんだで、魔族って普通の良い人多いよな。

 打算的じゃない感じの、面倒見が良いタイプっていうか。

 自然とおもてなしが出来るあたり。


 あー……まあ、邪神様よりの人種と思えば、さもありなんか。

 怒らせたら怖そう……というか、どっかの馬鹿領主が怒らせたから戦争になったんだっけ?

 怒ったら、容赦しない感じかな?


 トクマが怒ったところとか、興味あるけど。


 それから、屋上に移動する。

 

「ここは?」

「私の部屋ね」


 なんと……天井も壁も無いけど?

 最上階といえば聞こえは良いけど、野ざらしともいえる。


「見るね」

「おおっ!」


 トクマが手を翳すと、大きくはないが立派な家が現れる。

 凄いな。


 中に入ると、3LDKくらいの広さはあった。


「凄いところに住んでるね」

「勝手に作ったね。カインに内緒で」


 本当に自由な人だな。


「この部屋の事は誰も知らないね。マサキちゃんが初めて入るね」

「それは、嬉しい!」


 トクマに案内されて中に入る。

 うわぁ……普通。


 入り口から中に入ると、廊下があってその先がリビングダイニングっぽい。

 途中扉が6つあったけどトイレと風呂と、書斎と寝室らしい。

 余った2つが収納とか。

 いや、滅茶苦茶いいところ住んでるなおいっ!


 リビングにはソファとテーブルが置かれていて、大きな鏡が壁に掛けてある。


「これで、地上の様子が見られるね」


 トクマが鏡に手を翳すと、この塔のある街の映像が映し出される。

 おお、俺のタブレットと似たような機能が。


「といっても、映像をイメージで送信してくれる媒体が要るね。適当に動物や人の眼球に薄い膜上の転写魔法を張ってるけど、遠くまで行くと霧散するね。それと、一度に3つまでが限界ね」

「十分凄いよ!」

「うんうん、分かってくれるね!」


 制限はかなり多いが、それでもこの魔法がかなり優れているという事は理解できる。

 これを使って地上を覗き見してるわけか。


「たまに変な人をターゲットにしちゃうときもあるね」

「変な人?」

「送って来る映像が、女の子ばっかりね」

「子供好きなんじゃないの?」

「いや、家まで追いかけてたりしてたね」


 ……

 ガチのそっちの人か。

 ヤバそう……いや、奴隷商人の線もあるから、一概には。


「はあはあという息遣いまで聞こえて来たね」

「アウトーっ!」

「衛兵さんにこの人ねって、伝えてあげたね」


 なるほど、おまわりさんこいつですをリアルにやった訳ね。

 良い事したな。


「他には女性の水浴びばかり探す人とか、最後に見たのは画面いっぱいの木のたらいの底ね」

「そっちは、自己解決出来たんだ」


 いまお気に入りは、猛禽類の瞳に付けた転写魔法らしい。

 割と高いところから、街を見渡したり出来て楽しい。

 タブレットと違って、動物の視点だから自在に動き回っててこれはこれでありだな。

 

「この子は、私の指示も聞いてくれるね」

「そっか、これ楽しいね」

「あっ、マサキちゃんこっちに来るね」


 映像を楽しんでいたらトクマに引っ張られる。

 それから、リビングの隣の部屋に連れ込まれる。

 中にはベッドとテーブルと椅子。

 凄く簡素な部屋だ。

 こんなところに連れ込んでどうするつもりだ?


 何かカチッとダイヤルを回す音も聞こえたし。

 鍵掛けられた!

 ミスリルさん! こいつです!

 と思ったら、扉がコンコンコンとノックされる。


「入るね」

「お茶をお持ちしました」


 トクマが扉を開けると、メイドさんがお盆を持って立っていた。

 扉の隙間から見えるのは、塔内の通路。


 メイドさんがお茶とお菓子を置いている間に、コソッと教えてくれた。


「この部屋は、本来の私の部屋ね。扉に転移魔法陣を埋め込んでいて、こうやって本来の場所と繋げることが出来るね」

「凄い!」


 凄いぞトクマさん。

 聞いたら、各塔と魔王城を繋ぐ転移魔法陣の応用らしい。

 ダイヤルと回す事で、扉に魔石から魔力が流れて魔法陣が効果を発揮するらしい。

 ちなみに扉の内部に魔法陣は設置してあるらしくて、外からも中からも見えない。


「これの力ね」


 そう言って、親指と人差し指で円を作るトクマ。

 どうやら金に物を言わせて、魔国の魔道具職人に作らせたらしい。


「口止め料含めて相当な額払ったね」

「まあ、便利だからその価値はあるね」


 そして何故か部屋に居座って、俺の左横をキープする以前もお会いしたサキュバスさんを交えて、会話に花を咲かせた。

 彼女の名前はミレイさん。

 ふむふむ、覚えておこう。

 年齢は81歳。

 サキュバス換算で21歳らしい。

 

「あと15年もすれば、丁度よくなりそうですね」

「えっ?」


 ちょっと俺を見る目が、なまめかしい。

 15年か……長いな。


「そうなったら私が仲人ね?」

「是非、宜しくお願いします」

 

 勝手にミレイさんとトクマの間で話が進んでいく。

 まあ、冗談だろうけど。

 冗談だよね?


 いや、悪い気はしないけど。

 この世界で、俺と釣り合いが取れる見た目の知り合いの女性の中では断トツで好みだし。

 そもそも、他の女性陣は子供マルコに興味無さそうだし。


 あー……連れて帰りたい。

 俺専属メイドとして、ご飯の支度を……何か悪寒を感じた。

 4つの目でジッと見つめられるような。


 他には抱き枕係とか……また、寒気が。

 複眼をギョロリとさせて顎を鳴らしながら、針を研いでる姿が脳裏を過る。

 

 そのあと、何故か疲れた顔をしたミスリルさんも乱入してきた。


「くそっ! 今年は妙に水の魔石の消耗が激しいと思っていたら、塔の地下の奴等の巣にパイプが繋いであった! 慌てて工事業者を呼んだが、それでも数日掛かるとか」

「その間に、他のルートを開拓されそうだね」

「光る素材も、ちょいちょい削り取られてるらしいし。修繕費だけで、今年の収益全部飛ぶぞ」

「そういえば、どうやって収入を稼いでいるの?」

「言える訳無いだろう!」

「私達が、この塔で倒れた冒険者の装備とかを売り歩いているね。それと魔道具を買って来て魔力を追加で込めて、起動魔法陣を改変したものをこっそり売りに行ってるね」

「おいっ!」


 なんだ、意外とちゃんと金を稼ぐ手段は持ってるんじゃないか。

 ミスリルさんがまたワーワー言ってた。

 本当に五月蠅いなこの人。


――――――

「さてと」

「随分と熱のこもった視線を送ってましたね」


 管理者の空間に戻る。

 土蜘蛛がジトっとした視線を向けてくる。

 柱の影では、ジーっとジョウオウがこっちを見ている。

 6本ある肢をワキワキさせながら。


 まっ、取りあえずこいつらは無視して。

 大顎の眷族の1人を引き連れて、合成の間に向かう。


 取り出したるは、トンボの羽。

 このトンボの羽は、色々な想いが詰まった重い一品だ。


 あれは先月のことだ。

 ラダマンティスが、数匹の羽虫と蝶を引き連れて俺の前にやってきた。


「主、良い事を思いつきました」

「ほうっ?」

「羽を持たない虫達が居るのですが、それらを解決する方法です」

「あー、生きてる者同士は合成しないぞ?」


 俺の言葉に、ラダマンティスがニヤリと笑う。

 そのラダマンティスの横に、トンボが飛んできて地面に着陸する。


「是非、使って頂きたい物があります」

「なんだ?」


 ちょっとだけ、嫌な予感がしないでも無かった。

 でもまあ、ラダマンティスに限って変な事はしないだろう。

 御三家はみんな、常識人だし。

 そして、ラダマンティスから発動されるスキル。


「おいっ!」

 

 切り落とれる2対の羽。

 即座に蝶が飛んできて、それを回復する。

 

 目の前には羽が4枚。

 それと、先ほどと変わらない姿で飛び上がり、無事をアピールするトンボ。


「こうすれば、私達の身体の一部を合成することが出来ます!」

「……もう二度とするな]

「何故ですか?」


 少しだけイラッとした。

 その気持ちが伝わったのか、目の前の虫達がビクッとなる。

 ラダマンティスも遠慮がちに、問いかけてくる。


「お前らに痛覚は無いかもしれん」

「はいっ、我らは痛みを感じる事などありません」

「だが、それでも大事な子達が目の前で傷付く姿を見せられた俺の心は、今の一瞬のやり取りだけでも酷く痛んだぞ?」

「っ!」


 俺の言葉に、虫達が固まる。

 それから、平伏する。

 いや、形的に難しい虫も居るが……気持ちは伝わってくる。

 だから、無理に首を曲げようとするなナナフシさん。

 それ以上曲げると、落ちるぞ?


「もっ、申し訳ございません! まさか、我らのような虫にそこまでの想いを向けて頂いているなど」

「主様の心を慮る事が出来なかった我らを、どうかお許しください」

「そして……勿体ないお言葉、誠にありがとうございます」


 御三家の中じゃ断トツで忠誠心が振り切れているラダマンティスは、土蜘蛛やカブトのように諫言や小言を言う事は無い。

 常に俺にとって利になる行動を心がけてくれている。

 が、たまにこうやってやり過ぎるところが玉に瑕だな。


「この羽は使って頂けないのでしょうか?」

 

 うっ……

 涙なんて流れるはずないのに、何故かトンボの目が潤んでいるように見える。

 

「折角の気持ちだ、これだけは有り難く使わせてもらう。が、これだけだ! 今後、このような手段で持ち込まれた物は絶対に使わんぞ?」

「はっ……」


 トンボの羽を蟻達に丁寧に運ばせる。

 なんか、このままいったら戦闘中にわざと欠損するような攻撃受けそうだな。

 命令は、無傷で勝てっていうようにしよう。


 そして、合成の間。

 連れて来たのは中サイズの百足。

 この世界でだが。


 それでも余裕の80cm超え。

 でかい。


 素材はトンボの羽と、風の魔石、それから竜の骨。

 物凄く強くなりそう。

 ワクワクしてきた。


 器に素材を全部乗せる。

 魔法陣には百足。

 

 全幅の信頼を寄せているのが分かるくらいに、落ち着いている。

 ワクワクするでもなく、不安げな表情を浮かべるでもなく。

 平常だ。

 放っておいたら、眠ってしまいそうなレベルで。


 まあいい、宝玉に魔力を込める。

 そして光る魔法陣と器。

 器の中の素材がドロリと溶けて、台座と魔法陣を繋ぐ回路を流れていく。

 そして、眩い光り。


 どうも本人達曰く、かなり進化の過程はグロイらしい。

 身体がボコボコと膨らんで、一部が裂けたりもするとか。

 痛みは感じないし、なんの違和感も無いらしいけど。

 傍から見ると、拷問だとか。


 何か細工が施してあるのかそれらの過程で彼等は、痒い所を適度な力で掻いてもらいつつ、身体を優しくマッサージしているような至福の時間を味わっているらしいが。

 俺に対する優しい嘘かとも思ったが、そうじゃないらしい。

 嘘を吐いたかどうか、分かり易い連中も居るし。

 カブトとか。

 あと、ラダマンティスは基本嘘は吐かない。

 

 この光はそういったグロ画像を見せないための、邪神様の心遣いだろう。

 善神様から抗議のメッセージが来るが、じゃあ善神様ですか? と聞いたら。


「違うけど……」


 っと、不貞腐れた感じの返事が聞こえて来た。

 じゃあ、黙ってろと言いたい。


 そして現れる、新生百足。

 

――――――

名前:NO NAME

種族:竜百足蟲(ドラゴンイーター)(真・大百足)

スキル:【風神】

    【飛翔】

    【龍鱗砕き】

    【超硬化】

    【魔力無効】


 なんというか……竜の骨のせいで、予想以上に強化されている。

 体長も余裕の4m超え。

 大百足か……

 元々、大百足だったけど。


 あれだ、神話に出てくる感じの大百足だ。

 武士とかに、よく討伐されている彼。

 神話では龍神の天敵とされ、1対1なら龍よりも強いあれ。

 神通力無効と、超強力な外皮でその地位を確立した彼だね。


 顎は凶悪な程に肥大しているお陰で、口の真ん前に立ったら俺が噛み切られる事は……そうだね。

 上下交差させて、がっちしり蟻の入る隙間もないくらいピッタリに閉じるんだね。

 鋏だね。

 それなら、竜の鱗も砕けそう。


 尻尾にも鋏があるのね。

 うん、うん?

 要るかそれ?


 まあ、いいや。

 でもって、色は赤黒い感じと。

 目が割と後ろの方にまで長く伸びたお陰で、視野は大きく広がったと。

 しかも飛べる。

 

 ゆっくりと飛翔。

 身体が重いからか、ゆったりとした動き。

 2対の羽を合成したのに、背中には6対のとんぼの羽が。 

 その羽も体と同じくらいに硬い?


 やばい……

 御三家に食い込む強さだ。

 これは、早急に御三家と大顎にも竜の骨の合成が必要かも。


 えっ? 

 ああ、竜の鱗より硬いものはいっぱいある?

 でもって、ラダマンティスとカブトはそれすら破壊できる?

 そうですか。

 土蜘蛛に至っては、糸があるから硬い敵なんて関係無いと。

 なるほど。

 牙を突き立てて、毒を流し込むくらいは……


 凄く3匹を持ち上げるね。

 どうした?


 百足が俺の背後をチラチラ見る。

 そこには、カブトと土蜘蛛と、ラダマンティスがこっちをジっと見ていた。

 あー……


 うん、そうだね。

 3匹揃うと、結構な迫力だもんね。


 新しい百足を優しくなでてやる。

 ツルツルしてて、ヒンヤリしてて気持ちいい。


 背中も平だし、ゆっくりと上空を飛ぶときは……

 いや、やっぱりカブトが一番だな。


 そこだけは、譲る気がないらしい。

 ちなみに【風神】は割としょぼかった。

 暴風を巻き起こすだけで、魔力消費も激しいし。


 なになに、その暴風の中に武器や魔法を打ち込めば?

 なるほど!

 それなら、使える。

 それ自体が攻撃魔法と思っていたらそうじゃなかった。

 俺の攻撃手段の補助魔法的な立ち回りか。


 本人が望んだことが、スキルに反映されたらしい。


 ちなみに魔力無効は、文字通り魔法を通さない外皮の事らしい。

 これは、真・大百足種の種族特性とか。

 じゃあ、大顎にも付けてやりたいから、彼には龍の骨確定だな。

 これ以上大きくなってもらっても困るけど。

 まあ、サイズは変えられるから、問題無いだろうし。


 その後、空を飛ぶ百足を見たクコが、私も羽が欲しいと駄々を捏ねて大変だった。

 結局、管理者の空間では百足がクコをたまに、空の旅に連れて行くことで収まったが。

 周りには蜂達が大量に待機。


 百足の飛行速度じゃ、うっかりクコが落ちた場合助けられないもんな。


 上下に急降下、急上昇を繰り返したり、蜂の手助けを借りて一回転したり……

 クコがめっちゃ笑っているけど。

 あれか、ちょっと遅めのジェットコースターか。


 マコが羨ましそうに見ていたから、マコも乗せるように指示。


 トトが呆れていた。

 

「乗ってみたいのか?」

「いえ、私はゆっくりと下を眺めるのが好きなので」


 絶叫系は得意じゃないらしい。


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