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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第105話:虫達が余所余所しい

 蝶達が編隊を組んで飛んでいる。

 そして空中でビシッと止まる。

 蝶の羽の文様が綺麗に、並んでアートのように見える。

 まるでリピテーションの布のようだ。


 そして、また一斉に飛び始める。

 今度は蟻達が布を背負って集団行動。


 時折ピタリと静止。

 平面で見たらよく分からない。

 きっと上空から見たら何かの模様になるのかな?


 そして少し高い所で土蜘蛛がタクトを振るっている。

 

 うん……


 うん?


「何してるんだ?」


 後ろから声を掛けたら土蜘蛛が思わず固まった。

 それからゆっくりと首を振り返る土蜘蛛から、ギギギと音が聞こえるような錯覚を受ける。


 ボンッ! という音が聞こえたかと思うと、タクトを大きく振って虫達が解散する。

 そして、蟻に運ばれて凄い速さで土蜘蛛も消えて行った。


「うん?」


 首を傾げて神殿に戻る。

 カブトがたまたま通り掛かったので、声を掛ける。


「さっき、土蜘蛛がそこで蟻と蝶を集めてなんかやってたんだけど、知ってる?」

「あー……」

「知ってるんだ」

「聞かないでやってください」


 カブトが若干気まずそうに、それだけ言って離れていく。

 なんだったんだろう。


 それにしても、蝶が空中で静止したのは凄いな。

 どういうトリックだろう。


 あれからしばらく土蜘蛛が、姿を現さない。


――――――


 最近生産系の虫達が、あまり外を出歩いていない。

 神殿を出てプラプラと歩くが、空には蜻蛉や蠅、庭にはバッタの他に蚯蚓や蛞蝓などが歩いているくらい。

 そういえば、蜉蝣の姿も見ない。


 大顎やラダマンティスは普通に過ごしているが。


 カブトは相変わらずマコとの訓練に精を出している様子。


 時折、疲れたマハトールを見るくらいかな?


 そういえば久しぶりに顔を出した土蜘蛛が、蛍を取って来てくれと頼んで来た。

 無茶を言う。

 という訳でも無かった。


 この世界には普通に冬蛍という種類も居た。

 マルコに協力してもらって、100匹ほど捕まえてくる。


「ありがとうございました」


 簡単に礼を言うと、土蜘蛛はそのまま蛍を連れてどこかに消えて行った。


 うん……何してるんだろう。

 まあ、秘密にしたいってことだから敢えて探さない。


 仕方ないから家で細々としたことをしていたら、クコと遊ぶ時間が増えた。


 この世界の本を読んでみたりもしたが、いまいち感性の違いが高い壁となって立ちはだかって来る。

 なんというか……センスが古い。


 日本の漫画とか取り寄せられないかな?

 続きが気になる物が多数ある。


 今度善神様にでも相談してみるかな?

 こういうことは、善神様の方が緩いし。


 それから1週間経った。


 ますます、虫達が最後の追い込みに入っているっぽい。


 ご飯も手抜きになってきてるし。

 というか、殆どトトとクコが作っている。

 まあ、娘達の手料理と思えば感慨深い。


 うん、そう考えると嬉しい生活だ。


――――――

 さらに1週間。

 朝から、虫達が姿を見せない。

 クコとマコも。


 トトと2人で首を傾げる。


「皆どこに行ったのかな?」


 そんな事を思っていたら、一匹の蝶がフラフラと近づいて来る。

 まるで着いて来てと言わんばかりに、一定の距離を保って止まる。


 まあ、何か企んでいる事は知っていたが。

 なんとなく、俺も理由が分かってしまったし。


 ここは、俺も協力してやろう。


「トト、蝶が呼んでいるぞ? 一緒に行こう」

「えっ? あっ、はい」


 よく分かっていないだろうトトが、俺の後をゆっくりと付いて来たので背中を押して前を歩かせる。


 蝶を追いかけていくと、森の中に入って行く。

 気が付いたら、横を蟻達が並んで歩いている。


「久しぶりだな」

「……」


 笑顔で声を掛けたのに無視された。

 ちょっと、寂しい。


 そして森の開けた場所、湖のある広場に到着。


「わぁ……」

「凄いな」


 そこには木で作ったテーブルが置いてあり、所狭しと料理が並べられていた。


「お誕生日おめでとう!」


 そして、蜂達が色とりどりの火魔法を放つ。

 どういう仕組みだろう……

 ああ、金属の粉を噴射しつつ、火魔法を放っていると。

 なるほど……


 賢いな。


 前にチラッと話に出たが、トトは1月の22日生まれ。

 そう、今日が誕生日なのだ。

 

 その事に気付いたのは一昨日。

 土蜘蛛の料理小屋に生クリームの入ったボウルが置いてあるのを、偶然見つけたから。


「さあ、マスター! トト、こちらへ!」


 土蜘蛛がトトを、大顎が俺を木で組まれた小さな小屋のような場所へ連れて行く。

 中に入ると、小さな蜘蛛たちが纏わりついてきて、一瞬で早着替え。


 俺は黒のタキシードを着せられていた。

 最後に大顎が沢山ある足で、器用にネクタイを結んでくれる。


「よし」


 そして一言漏らして、満足そうに首を縦に振っている。

 何がよしか分からない。

 そして、今日の主役はトトじゃないのか?


「わぁ……」


 そう思っていたら、隣の小屋から溜息が漏れるのが聞こえる。

 ふむ……

 あっちも、着替えが済んだのかな?


 小屋から出ると、トトと鉢合わせる。

 綺麗な淡いパステルグリーンのドレスを着せられている。

 そして、頭には金属をベースに緑の糸を使って草のように見立てて編んだティアラが。


 勝手に持ち出しただろう、魔石も宝石代わりにちりばめられている。

 属性によって色の違う魔石が、光を反射させてまるで花が咲いているようだ。


 魔石の効果込みで、そこそこ良い値段で売れそうなレベルの逸品。


 見ればクコとマコも、ちゃんとおめかししてもらっている。


「綺麗……」


 背中にはレースで編んだ羽が付けられている。

 まるで、森の妖精。

 熊の耳と、狼の尻尾が生えているが。


 自分で自分の恰好を見て、思わず呟いた後で恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。

 ただ耳はピコピコ、尻尾はブンブン振られているが。


「マスター、今日の主役をエスコートしてください」


 サーッとテーブルに向かって、レッドカーペットが敷かれる。

 新緑の背の低い草原の中を伸びる、赤い一本の道。

 中々に、洒落た演出だと思う。


 跪いてトトに手を差し出す。


「えっ?」

「行こうか、皆が待っているよ」

「はいっ!」


 トトが遠慮がちに俺の手に、指先をちょんと乗せる。

 その手をしっかりと握って、歩き出す。

 うん……ヴァージンロードみたいだ。


 お父さんと娘っぽい。

 いつか来るであろうその時の為の、予行練習かな?


 ちょっと、切ない。


「これね、クコが作ったの!」

「こっちは、俺が作ったんだ!」


 机の横を歩いていると、まだ座っても居ないのにクコとマコが近付いて来て、それぞれが作った料理を指さしている。


「はは、有難うね」


 トトが本当に嬉しそうに笑っている。

 そして、ようやく席に着く。


「代表して、マスターからお言葉と乾杯の合図を」

「トト、12歳の誕生日おめでとう。皆がお前の誕生日を祝う為に準備したみたいだ。精一杯楽しんであげて欲しい」

「……はい。有難うございます」


 トトが俯いて、震える声でお礼を言ってくる。

 感極まってしまったようだ。


「トト姉泣いてるの?」


 マコが空気を読まずに、ビシッと突っ込む。

 どうして、このくらいの子というのは。

 まあ、仕方ない事ではあるが。


「ふふ、これは嬉しい涙よ」

 

 トトが目の端を指で拭って、笑顔を向ける。


「皆、有難うございます」


 立ち上がって、トトが深く頭を下げる。

 そして、始まった誕生会。


 どんな催し物が出てくるのか、今から楽しみだ。

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