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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第94話:脳筋力測定

マサキ……地球大人主人公

マルコ……現地子供主人公

セリシオ……同級生、友人、王子

ヘンリー……幼馴染兼親友、エマに執着するメンヘラからオラオラ系に転職

ベントレー……友達、エマに固執したヘンリーを苛める危ない奴からサトリ系に転職

フィフス……成績優秀系モブ、ヘミング家の子供

ブンド……面倒見が良い大人系子供、元ヘンリーいじめっ子部隊だったが早々に卒業

エヴァン……国王陛下、セリシオの父

スレイズ……マルコ祖父、脳筋、剣鬼

エリーゼ……マルコ祖母、謎の実力者

ディーン……セリシオの保護者、マルコの友達、

メルト……ディーンの祖父

クリス……セリシオ親衛隊、マルコの同級生、マルコに冷たい

ウィード……クリスの父

エマ……モテモテ、マルコの友達、でも2次に恋している

ソフィア……エマの親友でマルコの友達、まだ目立ってない

クロウニ……苦労人、パドラの父、人格し……苦労人……王子誘拐の首謀者

パドラ……マルコの友達を苛めた子。マルコと同学年……学校は夏休み中に退学。

ロナウド……マサキの操り金ばらまき人形。ひたすら善行を積んで、罪を滅ぼすマシン。王子誘拐の影の首謀者

「それでは、一斉に攻撃開始」

「「「「はいっ!」」」」


 戦闘能力試験は20人ずつ行われる。

 10人ずつ背中合わせに立って、正面の藁人形に攻撃をしかける。


 魔力を持つ者は、空気の塊を放つ指輪を借りての試験だ。

 

 攻撃の正確さと速度、威力を測る。


「おおっ!」


 どよめきがあがる。

 周囲の視線を集めているのは、貴族科の隠すつもりもないのに隠れた実力者のフィフス君。


 身体を低くして地面を駆け抜け藁人形の支柱を切り払ってからの、流れるような胸への斬り上げからの首への回転切り。

 そして最後に唐竹で、木剣が首の中央まで切り込まれている。


「すげーな」

「速いし、綺麗だ」

「誰、あの子?」

「たぶん服装からして貴族科の子だと思うんだけど」

「ヘミング伯爵家の?」


 おお、初めて注目を浴びたんじゃないのか?

 当の本人は、目を隠す程に伸びた前髪を指で整えて、試験官に一礼して戻っていったけど。

 一瞬だけ顔が見えたような気がしたけど、よくわからなかった。


「おおっ、流石は殿下!」

「素晴らしい」


 セリシオはおじいさまの剣を習っているので、元々実力自体は悪くない。

 怒涛の連撃でみるみるうちに藁人形の藁が散らされて、最後は支柱だけになっていた。

 その支柱を袈裟切りで叩き折ると、応援に来ていたエヴァン陛下に向かって手をあげてアピールする。


「あやつは……」


 子供らしくはしゃぐ王子に、額に手を置いて溜息を吐く。


 その後も、次々と歓声があがり、それなりの実力を示す子供達。


「おおっ、ヘンリーって言ったか? 総合上級科に落とされたって聞いたけどなかなかどうして」

「でも、地味じゃないか?」


 ヘンリーは普通に心臓を一突きしていた。

 

「ふんっ、動かない獲物になんか興味無い。急所を一撃で突くデモンストレーション以外に意味は無いだろう! それよりも俺は今日、お前を越えてこの学校でトップに立つ!」

「あっ、別に僕がトップってわけじゃないし。あと次の次が僕の番だから、先に行くね」


 こっちにビシッと木剣を突きつけて来たヘンリーに一声かけて、順番に並ぶ。


 他にはクリスとベントレー、ブンドが場を沸かせていた。


「あれがスレイズ様の……」

「ベルモントの孫か……」

「どれほどか、お手並み拝見といきましょうか?」

「かっこ良く言ってるが、お主は文官じゃないか……武術の心得も無いくせに」

「なに? メルト様!」

「ほうほう、マルコ君の番か」

「陛下まで! こんなところまで降りてきて、危険です」


 なんか、やたらと注目されている。

 主にスレイズの孫、ベルモントの孫ってことだけど。


 やりにくい。

 王様とディーンのおじいさままで、前の方に出て来てるし。

 横にはクリスの父であるウィードまで。


 このテストも満点を狙ってるから、手を抜くつもりはないけど。


「それでは、開始!」


 しかし無情なもので、試験の心準備をする間もなく時間が訪れる。


「はぁ……」


 溜息を吐いて、一閃。


「えっ?」

「終わり?」


 藁人形が少し震えただけ。

 

「袈裟切りから横一線の薙ぎ払いか……」

「恐ろしく速い……」


 ウィードさんと陛下には見えたらしい。

 それと、教官の先生にも。


「凄いな……流石はスレイズ様の孫だ……」


 そう言いながら藁人形に近づいて行き、チョンと触れる。

 斜めにズレて行った藁人形がそのままスルリと地面に落ちると、上下真っ二つに斬り分かれる。


「おおっ!」

「木剣で支柱ごと切ったのか!」

「流石は、ベルモント!」


 遅れて歓声が沸き上がるけど、恥ずかしいのでおじいさまにピースサインだけ送ってそそくさとクラスメイトに溶け込むように逃げる。


「ふふ、やるじゃん」

「やはり、マルコは別格か」

「あの程度なら、私にもできます!」

「じゃあ、やっとけよ!」

「まあまあ、クリスならきっと出来るでしょうから」


 エマやセリシオが褒めてくれる。

 クリスが張り合って来たが、セリシオにバッサリと切り捨てられていた。

 さっきの試験より、切れ味のいい突っ込みだ。


 そして、ディーンが庇ってあげている。

 何気にディーンって、2人の面倒をよく見てるよね。


 その後、全員の試験が終わったので、一応は大運動テストは終了だ。


 あとはクラス対抗の模擬戦だが、これは代表選で各クラス5名が選出されての勝ち抜き戦。


 戦闘能力試験の様子を見てなお貴族科相手に、まともにやり合おうという人たちは居ないだろうけど。


「じゃあ、代表は?」

「僕、パス」

「ええっ、マルコ出ないの?」

「うん、セリシオを先鋒にしておいたら、全試合楽勝で勝ち抜けると思うし」

「お前、なんだかんだで俺のことそこまで買っていたのか?」


 僕の言葉に、セリシオが嬉しそうに笑みを浮かべてこっちに近づいて来る。


「いや、わざわざ王太子殿下の恨みを買おうなんて馬鹿は居ないと思うから」

「……お前」

「確かに、一番楽に優勝できそうですね」

「ディーンまで……」

「一応の露払いで先鋒はクリスで。まあどうしても大将が良いっていうなら、殿下に大将をお願いしますが?」

「他のメンバーは? エマとソフィア、それから……まあ、私でしょうね」

「えっ、私?」

「なんでですか?」

「まさか、女性を先に戦わせたりなんかしませんよね? 殿下?」

「……ディーン」


 ディーンがそそくさと代表名簿を作って提出してしまった。

 一応男性陣は代表者の中での成績順で、先鋒クリス、次鋒セリシオ、中堅ディーンになったけど。

 そして副将にソフィア、大将がエマだったがエマが逆にしようと提案して大将がソフィアに。


「絶対に負けられない戦いがそこにある」

「マルコ、お前人ごとだと思って」


 結局、貴族科の戦いは盛り上がる事なくクリスが殆ど1人で勝ち抜いて行ってしまったが。

 優勝は貴族科、2位が戦闘学科だ。

 まあ、その後は総合上級、魔法学科、総合普通、経済学科とイメージ通りの順位。


 ヘンリーが獅子奮迅の働きを見せたが、戦闘学科ではクリスの従弟に負けてしまった。

 強敵揃いの戦闘学科の面々との連戦の後だから、仕方もない。


 ちなみにその後は希望者による、親子騎馬戦が行われた。

 はっちゃけたおじいさまに無理やり肩に担がれての参戦。

 横を見たら陛下がセリシオを担いでいた。


 この瞬間、親子騎馬戦も貴族科の優勝が決定した。

 

 おじいさまが両手を広げると、軽く手を握る。

 いや、足を掴んでくれないかな?


 ルールは簡単。

 上に乗った子供同士で、ハチマキの取り合い。

 ……のはずだったのに。


 おじいさまが軽く握った手には、なんだろう幻覚かな?

 右手に剣、左手に槍が見える。


 試しに僕の顔の横にまで伸びている槍を掴もうと試してみる。

 確かに、そこには何もなく手は虚空を切るばかり。


「さてと……たまには、馬の気持ちになってみるも悪くない」

「マスターもか。わしも、子供を担ぐなんていつ以来だろうな」


 2人は和やかに会話をしているが、周囲の人たちはピリピリとしている。


「えっと……開始しても宜しいでしょうか?」

「うむ」

「始めてくれたまえ」


 審判を務める教官が恐縮しながらも、陛下とおじいさまに開始の許可を取っている。

 ごめんなさい、名前も知らない先生。

 心の中で、そっと手を合わせる。


「マルコ! どっちが多くはちまき取れるか勝負だ!」

「勝負になるかな?」

「ほうっ、自信満々じゃないか」

「いや、そういう意味じゃなくて」


 セリシオが呑気にそんな事を言っているが。

 勝負にすらならないと思う。

 正直にそう答えたら、陛下まで乗っかって来た。

 いや、そういう意味じゃなくて。


 そもそもハチマキが取れる取れない以前の問題で……


「死にたい奴から前に出ろ!」

「いや、殺しちゃ駄目だから!」


 おじいさまが、殺る気満々……いや、やる気満々だ。

 取りあえず、貴方は孫の足をしっかりと掴んでくれませんか。


「シッ!」

「うわっ!」

「えっ? 斬られた?」

「血がっ……出てない?」


 おじいさまが軽く手を振っただけで、数人の親御さんが子供の足から手を放して胸や首を押さえてその場に蹲ってしまった。


「おじいさま! だめっ!」

「なっ! 何を! ぐっ!」


 そして、僕の騎馬もその場で膝から崩れ落ちる。

 流石にガチの死傷者が出そうだったので、強化と筋力強化を掛けて三角締めでおじいさまを締め落とした。


「わしの意識を1.3秒も落とすとはやるでないか!」

「騎馬が崩れたから、僕たち退場だけどね?」


 1.3秒で自力で復活するのも凄いと思うけど。

 まあ、どちらにしても陛下に近づける人がいる訳もなく。

 ひたすら王様が国民を追い回す悲惨なゲームと化していた。


「マルコ、よくやりました! それに引き換え、あなた……分かってますね?」

「な! 何故怒っているのだ! エリーゼ!」


 そこが分からないから、駄目なんだよ。

 いや、それが分からないからこの2人は上手く行ってるのかな?


「陛下も、随分と楽しそうでしたわね」

「エッ! エリーゼ殿? もしかして、機嫌悪いのか?」

「ふふふ……とおっても機嫌は良いですよ?」

「マスター! エリーゼ殿が怒っておるぞ?」

「陛下! 調子に乗ってはしゃぎすぎたのではありませんか?」

「いや、マスターこそ楽しそうだったではないか」


 何故か陛下にまで気を使われるおばあさまに頭を撫でて貰いながら、久しぶりに膝に乗せて貰った。

 僕の頭を優しく撫でているおばあさまは、こんなに優しそうなのに。

 2人とも、なんでそんなに怯えているんだろう。


 腰から上はしっかりとしてるけど、膝がプルプルしてる。


 運動能力テストは恐らく満点で終えたはずだから、あとは筆記だけか。

 出来れば、今回で最前列に行けたらいいな。


「帰りますよ、マルコ」

「ああ、エリーゼ。わしは、陛下に呼ばれたのでお前らだけで先に帰ってくれ」

「マスター? そんな約束してないが?」


 そそくさと逃げようとしたおじいさまの退路を、陛下があっさりと塞ぐ。


「……エヴァン、お主は空気を読むという事をまだ覚えぬのか……」

「我が身が一番可愛いですからね」


 どうやら、おじいさまは陛下に蜥蜴の尻尾よろしく切り捨てられてしまったらしい。

 

「どこへでも行ってらしてください。私はマルコが頑張ったので、ご褒美に王都にあるレストランで食事をして戻りますので」

「……」


 凄く冷たい視線をおじいさまに向けたあと、おばあさまが僕の手を引いてファーマさんの待つ馬車へと向かった。


 後ろでおじいさまと陛下が何やら言い争っていたが、結局おじいさまは王城に向かうつもりらしい。

 どうやら、王太后陛下と王妃様に仲を取り持ってもらうよう頼むつもりらしい。


 頼む相手のスケールがデカすぎてなんとも言えないが、そもそも人任せにするのはどうかと思う。


――――――

「今頃、大運動テストが行われているのかな?」


 パドラがベニス邸から窓の外を眺めながら、ボソッと呟く。

 一応、ベニスにある学校に編入する事となったが、今日は土曜日なので学校は休みだ。


 父親が謀反を起こしたというのに、準男爵としてまだ領地を任せて貰えるという破格の処置に、国に多大な感謝の気持ちは抱いている。

 とはいえ、ふとした瞬間に王立シビリアディア総合学園に通っていた頃のことを思い出して、寂しくなる。


 大罪人である父、クロウニ元男爵の肖像画は全て燃やされ、彼の絵を飾る事は国によって禁止されたため思い出すのは記憶の中の父親の笑顔だけ。


 最後に見た幻の光景。


 とはいえ、彼女と支えとなるには十分な物だった。


 ふとした瞬間に背後で父に見られている気配を感じる事もある。


 暖かく優しく包み込んでくれる、優しい眼差し。

 全てを許してくれる、聖者のような微笑み。

 その全てが、傷付いた彼女を癒してくれる。

  

 とはいえ、父を失ってまだ2ヶ月。

 彼女の頬を涙が伝う。


 その涙を拭って手元の資料に目を落とす。

 父親が残した、この領地の財政状況の記録の写し。

 そしてもう1枚はマホッド商会の介入による、領民の生活改善の報告書。


 正直、経済状況の資料は見てもチンプンカンプンだ。

 経済に強い家庭教師も付けてもらって、その見方を目下勉強中だ。

 

 そして、知れば知る程苦しかった我が家の……領内の台所。

 これで、よく餓死者も出さずに乗り切ったものだと、先生も驚いているほどに絶望的な数字が並んでいたらしい。


 最初はベニス家の蓄えを放出していたがそれだけでは手に負えなくなり、その後は様々なものを担保にお金を借りてそれで食料支援を行っていたとのこと。

 加えて自身の学費と、王都内での生活費。


 自分が情けなく、薄汚れて見える。

 父親が影でこんなに苦労していたというのに、なにが新しい服が欲しいだ。

 王都で友達と美味しいお菓子を食べて、お茶を飲んで……

 そのお金があれば、普通の家庭で家族4人が慎ましいながらも2回は食事が取れる。


「なんで! なんでもっと早くに……」


 言ってくれなかったのか! と呟きかけて止める。


「気付けなかったんだろう」


 そして、自分を責める言葉に変えて漏らす。

 自分が戻っている間も、それなりに美味しい食事が出て来た。

 でも、食べるのはいつも母と2人。


 父は仕事があるからと、時間をずらして食べていた。

 いまとなっては、それも食べていたかすら怪しい。


 母も、少しだけ手を付けて、お腹いっぱいだからと言って、自分に差し出してくれた。


 その料理に対しても、これは美味しい、これは嫌いなどと偉そうに好き嫌いまでして。


 街に出ると、領民の人達皆が優しい声を掛けてくれる。

 学校でも人気者だ。


 雨が降ってようやく成長の早い作物が実った事もあり、街にも大分活気が出て来た。

 1番に収穫されたものがベニス家に届けられ、食卓に並んだ時も母は感涙にむせび泣きながらも食べていた。


 父の苦労を知る母のそういった心情は痛い程理解が出来る。

 出来るのだが……


 どこか自分が責められているような感覚に陥る。


 領内の誰もが、自分を責めない。

 皆が苦労をしてた時に、自分は王都で贅沢をしていたというのに。


 一度感情が爆発して、収穫した果実を手渡してくれた女性に怒鳴った事があった。


「私に優しくしないで! 私は、貴女達が苦労している時に、王都で何もしらずに美味しい物を食べて! 綺麗な服を着て! 友達と買い物までしてたんです! それなのに……」

「お嬢様……」

「貴族の娘だからって、同じ学校に通う庶民の子を苛めたりもしたんです……だから、もっと! もっと冷たくして……」

「辛かったんですね……」


 私の独白に、果物を差し出して来た女性は肩を抱くように抱きしめて来た。


「私に……私に優しくされる資格なんて……まだ、何も領地の為に出来ない……無駄に浪費しただけ……」

「貴女は……それだけ領主様に愛されて居たんですよ? 私達の為に……命を掛けてまで普通の生活を取り戻させようと頑張った領主様……その結果がこれです!」


 そう言って手を広げた先には果物を詰んだ籠や、穀物を運ぶ荷馬車、そして生気を取り戻した領民の顔があった。

 皆がこっちを注目していた。


 そして……皆が優しい笑みを浮かべていた。


「確かに生活は苦しかったです……ですが、領主様のお陰で誰も死んでません……それどころか、街に雨を呼ぶ奇跡まで……」

「そうですよ、お嬢様! 領主様のお陰で、今じゃ以前のようにしっかりと朝晩食べられるんですから」

「皆、感謝してますよ!」


 皆がお父様を褒めてくれる。

 とても嬉しい……嬉しいけど、お前は領主の娘だから許してやってるって言う風に聞こえて、いやそんな風にとらえてしまう自分が嫌になる。


「その領主様が、王都で恥を掻かないようにと気を遣ったんです。愛されているのですよ……それに、私達だって同じですよ」

「あの演説の日まで、皆少なからず不満は抱いてましたから……こんなに皆苦しんでいるのに、娘を王都の学校に送り込むなんてと」

「きっと領主様は、こんな状況でも美味しいものを食べて、生活に余裕があるから施し迄出来るのだと……」

「だったら、もっと援助してくれても良いじゃないかなんて不満を、集まっては口にしてました……」


 周りに集まった人たちが口々に、当時の生活を振り返って、当時の想いを口にする。


「お嬢様は生活に余裕があって気付かなかったんでしょう? 私達は生活に余裕が無くて気付かなかった……領主様があんなに苦しんで、自身の生活を切り詰めてまで援助してたことに」

「それほどまでに気高く……そして孤独に戦っておられた領主様を一瞬でも恨んだ私達は……どうやって罪滅ぼししたら良いのですか?」


 本当に後悔しているといった表情を浮かべる領民の人達の顔を見て、思わず涙がこぼれそうになるのをグッと堪える。

 だからって、私がそのお礼を受け取る訳にはいかない。

 私にはそんな資格は無い!


「だからって、私を利用しないで! 優しくされるほど、辛いのよ!」

「良いじゃないですか……私達は貴女と奥方様に尽くす事でしか罪滅ぼし出来ないのです。もし何も知らずに贅沢をしていたことを悪いと思っているなら、辛くても私達の心遣いを受け取ってもらう事をお嬢様の罪滅ぼしすれば」

「そうやって、自分の行動が到らないのに優しくされることが辛いと思うならば……お嬢様は立派な領主様になられる素質があります!」

「貴方のお父様のように」


 なんてズルい言い方をする人達なんだろう……

 こんな薄汚れた私を、さらに追い詰める。

 まさか、優しくされる事が辛いと思うなんて……

 でも……


「分かったわよ! 一生懸命勉強して、少しでも早く堂々と! 貴方達の優しさが受け取れるように、頑張るから……頑張るから……」

「お嬢様……」


 また泣きだしてしまった私を、最初に声を掛けてくれた女性がギュッと抱きしめてくれた。

 お父様は皆の心に罪悪感という爪痕を残し……人を思いやるという贈り物を残して逝った。

 死んでもなお、私を……領民を育ててくれるお父様。

 

 凄く、誇らしい。

 と同時に、自分が情けない……いや、情けなかった。

 でも、今の私は違う!


 この人達の心の声が聞けたいま、私はお父様のようになるために変わる事を決心した。


「でも、友達は苛めちゃ駄目ですよ」

「うう……分かってるわ。その後、酷い目にあったし」

「まあ! お嬢様程の方が?」

「王都の学校には、上には上が居るのよ……でも平民の娘の為に、怒れる子だった……」


 マルコ……

 いまなら、なんとなく貴方の怒った気持ちが分かる。

 きっと貴方も、領民の人達を愛していたんでしょ?


 私のお父様と、同じように……


 総合学園の事を思い出していたら、自分が何故勉強しているのかを再確認出来た。

 そして、ちょっとおかしな貴族の子の事も……


 今じゃ、彼がいかに正しい人格者だったかって事が良く分かる。


 領民が自身の生活を支えてくれている。

 彼等の笑顔が、私達の心を癒してくれる。


 今まで見てきてなかったものに目を向ける。

 それだけで、世界が変わって見える。


 いつかちゃんと出来たら……謝りに行かないと。


――――――


まさかのおふざけほのぼのパートからの、パドラ回w

次は……また、学校から離れた話になりそうですm(__)m


前書きの件ですが、キャラが5人以上出たらざっくりとした人物紹介をたまに入れようかなと……

邪魔なら邪魔って言って下さい。

いや、たまにしか載せないけど。

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