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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第92話:カブトと土蜘蛛

スランプ

「へっへっへ、親父殿はやっぱり強かったぜ」

 

 謹慎明けの翌日、顔をボッコボコに腫らしたヘンリーが僕とおじいさまの訓練の直前にやってきた。

 ガンバトールさんと一緒に。


 一昨日キャンプから戻ると、家で鬼の形相のガンバトールさんが待ち構えてたらしい。

 学校から息子の奇行の知らせと、一般生徒に暴行を行った事で謹慎が下ったことを聞いて慌てて向かったとのこと。


 ついたのは4日前。

 おじいさまのキャンプの真っ只中。


 矯正に剣鬼スレイズ・フォン・ベルモントがついているということに恐縮しつつも、ならば安心かと家で待つことにしたと。

 ところがどっこい、戻って来たヘンリーは反省するどころか大言壮語を吐くたわけになっていて焦るガンバトールさん。

 

「俺は親父殿を越えて、ラーハットを王国の台所にしてみせるぜ!」


 とキラキラとした笑顔でのたまう息子を、無理やり庭に引っ張り出して木剣でボコボコにしたらしい。

 いや勿論ヘンリーも木剣を握っての訓練という形だが。


 ただそのヘンリーの剣筋に確かな成長を見たため、暫く様子見となった。

 が、それはそれ、これはこれ。


「ほうひはへ、はひはへんへひは」

「う……うん、人間誰でも一時の気の迷いって、あ、あるわよね? ははは、反省してくれたならそれで良いよ」


 再度エマのところに連れていかれたヘンリーは、袖の無い貫頭衣を着せられて罪人のような扱いでエマの前に放り出されたとのこと。


 立ち上がることもできずにガタガタと震えて頭を下げるヘンリーに、エマも苦笑いで許したとのこと。


「この度は、愚息が本当に申し訳ない事をしました。よく、教育をしなおしますので」

「い……いや、すでに変な事になってるし、もう、これ以上は良いのではないでしょうか?」

「エマ・フォン・トリスタお嬢様の寛大な御処置に、ガンバトール・フォン・ラーハット心よりの感謝を申し上げると共に、今後子々孫々この御恩を返し続ける事をお約束致します」

「あはは……」


 末代まで恩義に感じてくれる義理堅さは有り難いが、その気位を拗らせた結果ストーカー気質のヘンリーが生まれたのではという疑問がエマに浮かんだ。


 ただ、こんな小娘に本当に申し訳なさそうに頭を下げる壮年の男性に、返って不憫になってしまい全面的に和解。


――――――

「ふへいはほほひひ、ほうひはへはひはへん」

「なんて言ってるか分からんが、気にするな。あとガンバトール子爵からの侘びは不要です。子供の喧嘩に親を引っ張り出す気はないですのでご安心を」

「さすがは、クーデル家の御子息! 中々に器が大きい」

 

 息子に次いで頭を下げようとしたガンバトールさんを、事前に制したのはベントレー。

 元々自分が通って来た道でもあるので、どちらかというとヘンリーに同情的で最も理解を示していたところはあるし。


 その後ヘンリーが怪我をさせた子の家に謝りに行ったときは、相当になじられ怒鳴られ、陛下に訴えるとまで言われたらしい。


「申し訳ない。明日はどうなるか分からないけど、今はまだ私達の同級生なのだ。一緒に頭を下げるから許してやってはいただけないか」

「うっ……」

「子供のやったことですし、親の責任もあるかもしれませんが、そういった事も学校に居る間しか学べないと思いませんか? 彼の成長の芽をつぶさないでやって欲しい」

「ま……まあ、確かに」

「本人も反省していることですし、今後の彼の成長を見るということで上訴は一旦保留にしてもらえないでしょうか?」

「分かりました……」


 ヘンリーから暴行を受けた被害者3人の家の謝罪には、ベントレーも付き添っていた。

 ブンドを巻き添えにして。

 横にはアルトが所在無さげに立っているだけ。


 被害者はそれぞれ子爵家の子が2人と男爵家の子が1人。

 

 それに対して、国内有数の経済力を持つクーデル家の子であるベントレーと、王城の財務局長を任されている祖父を持つブンドに、副財務局長の孫であるアルトに一緒に頭を下げられると許さざるを得ない。


 ベントレーがブンドに真摯に頭を下げたのだが、元々面倒見の良いブンド。

 ヘンリーの事が気に入らない時期もあったが、少し前までのヘンリーには一目置いていた。

 

 それに、なにより自分から疎遠になってしまった友人が、自分を頼ってきたのだ。

 それが嬉しくて、彼も協力を快諾した。

 アルトはちょっと微妙な表情を浮かべていたが、基本彼はブンドの言いなりだ。


 本人には嫌ならついてこなくていいと言われたが、そうもいかない。


「本当にすまねー、こんな俺なんかの為に」

「貴様! もっとちゃんと謝らんか!」

「痛い!」


 どこで覚えたのか分からないが、変な言葉遣いで感謝を述べるヘンリーにガンバトールさんの拳骨が落ちる。


「あー……今のヘンリーの方がまだマシなので、あまり厳しくしてやらないでください」

「そ……そんなに酷かったのか?」


 今の息子の方が問題を起こした時よりマシと言われて微妙な表情を浮かべるガンバトールさんに、ベントレーもブンドも困ったように笑みを浮かべて誤魔化す。


 次の日学校に謝罪に行ったらしいが、結局処分は総合上級科への転級だった。

 退学は免れたようだ。


 今後様子を見て更生が確認出来たら復帰も有り得ると。

 ただ、次に問題を起こしたら退学と言われて、ガンバトールさんはチャド学園長に心から感謝の気持ちを述べていたらしい。


 そして、おじいさまの訓練は継続して受けることになった。

 ガンバトールさんは明日には領地に向かわないといけないらしく、今日はキャンプのお礼と訓練の見学に来たらしい。


「マスター、御無沙汰しております」

「ふぉっふぉ、中々に面白い子を持ったのう」

「面目次第もございません」


 ガンバトールさんが困ったような表情を浮かべて、おじいさまに謝っていた。

 

「まあ、お主もシルビアといったか? あの女子と結婚するときはそれは「マスター……その話は、今は関係ないかと」

「そうか?」


 シルビアさんっていったら、ガンバトールさんの奥さんでヘンリーのお母さんだ。

 なにやら面白い話が聞けそうだったが、ガンバトールさんが慌てておじいさまの口を塞いでいた。


 それから少し雑談をして訓練を始める。


「では、まずは基礎から」

「「はいっ」」


 基礎と言われた瞬間に、2人とも木剣をしっかりと構えておじいさまの動きに注視する。

 

「うわっ!」

「ちょっ!」


 おじいさまが地面を蹴ったと思ったら、ヘンリーが思いっきり吹き飛ばされていた。

 剣でしっかりとガードしていたお陰で、木剣によるダメージは無さそうだが。


 問題は僕。

 急に横から聞こえたヘンリーの悲鳴に一瞬ビクッとなった瞬間に、背中を思いっきり木剣で叩かれた。

 まあ、そんな事で気を抜いた僕が悪いんだけど。


 1人だったらまずありえない失態。

 ヘンリーめ。


 30分後……


「なるほど……これなら、安心して任せられそうです」


 いまの訓練の中のどこに安心出来る要素があったのですか?

 教えて貰えませんか、ガンバトールさん?


 全身痣だらけで、膝もガクガクしているヘンリーを見て嬉しそうに頷くガンバトールさんに、安心できないんですけど?


 これから僕たち学校だというのに、見学者(ギャラリー)が居るということで張り切ってしまったおじいさま。


 そして屋敷の窓の方からギギギギという、爪でガラスを引っ搔くような嫌な音が聞こえてくる。


「エリーゼ……」


 おばあさまが、僕とヘンリーを見ておじいさまに微笑みを向けていた。

 

「あなた? この子達はこれから学校が始まるのですよ?」

「ははは……ちょっと、張り切ってしもうたかなー」

「そうですか、ならば私も今日は張り切りましょうか?」

「……はは、おばあさんが年甲斐もなく、そんな事を言うもんじゃ「スレイズ?」

「ひっ!」


 おじいさまが、小さく悲鳴をあげた。

 これは、貴重な光景かもしれない。

 あれ?

 ガンバトールさんは?


「ガンバトール? どこにいくのかしら?」

「ええっと、訓練も終わったみたいですし、これ以上邪魔しちゃ悪いかなっと……」

「貴方にも色々と聞きたい事があるのですよ? 主に子どもの教育方針について」

「あはは……エリーゼ様ほどの方にはお耳汚しになってしまいそうですので、このあたりで「まあ、ゆっくりしていきなさいな」

「ひいっ!」


 今度はガンバトールさんが悲鳴をあげる。

 それもそうか……


 さっきまで屋敷の窓越しで話してたおばあさまが、いまは庭に居るガンバトールさんの横に立って肩をしっかりと掴んでいるわけだし。

 誰だって、ビビる。


「きょっ! 今日は、わしが送って行こうか? なっ? マルコも、たまにはじいじと一緒に学校行きたいよな?」


 おじいさまが僕の肩を掴んで、後ろに隠れると良い考えだとばかりにおばあさまから目を反らして呟いている。

 じいじとか……おじいさまの口から、1回も聞いたことない言葉まで出て来たし。


「あら、それは良い考えですわね。そしたら、その時間に色々と準備できそうですわ」

「マルコ……すまん。今日も、ファーマと行ってくれ」


 後回しにした方が不利益だと判断したらしい。

 なるほど……

 

 もう好きにしてほしい。

 それよりも、誰か早く僕とヘンリーの怪我を治してくれないかな……


――――――

 ヘンリーがある意味斜めに元気になったのを管理者の空間で眺めて、ふうっと溜息を吐く。


「溜息を吐くと幸せが逃げますよ?」

「そうやってトトが心配してくれていることで、幸せな気分を味わえるからそんなの迷信だな」

「まあ、マサキ様ったら」


 そもそも悩みのある溜息じゃなくて、安堵の溜息だから元から意味が違うと思いつつ、取りあえず頭を撫でておく。


 それにしても、ミスリルさんとこのサキュバス可愛いかったな。

 彼女がここに来たら、もっと花が出るのに。


 意外だったのが、サキュバスが1人の男に操を立てるという事実。

 色々な男を誘惑するイメージがあったが、基本的に夫は1人らしい。

 淫夢を見させて精気を貪るらしいが、現実の身体は許さないらしい。

 しかも、相手が望む女性を夢に登場させる事が多いと。


 その方が、精気がいっぱい吸えるらしい。

 誰情報かって?


 魔王が教えてくれた。

 サキュバスを登用した当初、彼女たちがエロい事が好きだと思ってつい手を出す魔族が結構いたらしい。

 当時の魔王の元に相当数のセクハラ案件があがったらしくて、淫魔族の調査が行われて発覚した。


 ちなみにインキュバスはガチのすけべえ。

 女ならなんでも良いと。

 ターゲットの女性たちの好みの容姿になって夢でエロいことをさせつつ、現実でも魔法で起きないことを良い事にやりたい放題。

 

 こっちは強姦で、相当数が実刑に。

 なので、インキュバスの数はサキュバスに比べて圧倒的に少ないと。


 どうでも良い……


 ついサキュバスさんの事を思い出して、現実逃避。

 彼女の名前くらい聞いておくべきだった。


 こんどミスリルさんに聞いてみよう。

 黒い鎧の籠手を手土産に。


 籠手だけあったって事にして。


「もう一度言ってみろ、若造」

「ふんっ! お主のような甘い考えでは、マルコ様の成長の妨げになる。黙って料理人でも目指せ。その方がよほど役に立つ!」


 目の前の2匹を見て、溜息。

 今度こそ、本当の溜息。

 

 いま、目の前で土蜘蛛とカブトがバチバチにガンを付け合っている。

 どうしてこうなった……


 さっきまで仲良くおしゃべりしてたはずなのに。


「ほうっ? 身体が硬いくらいしか能の無い虫が囀りおるわ!」

「抜かせ、獲物が巣に掛からないとろくに攻撃も出来ぬ臆病者が!」

「なにぃ?」

「一度どちらが上か、はっきりさせた方が良いみたいだな?」

「望むところよ!」

「待て待て!」


 とうとう殴り合いに発展しそうな2匹の間に割って入る。


「マサキ様?」

「邪魔をしないでいただきたい。これから、この糸車に信念と覚悟の差を教えてやるところです」

「糸車だと? 黙れ黒炭!」

「きさま!」

「やめろっつってんだろ!」


 2匹ともかなり本気で頭に来ているらしい。

 最初はラダマンティスも交えて、俺やマルコの良い所を言い合っていたらしい。


 が、次第にマルコびいきの土蜘蛛と、俺びいきのカブトの間で不穏な空気が流れ始めたと。

 俺をごり推ししてマルコは管理者としてまだまだ実力不足と言ったカブトに、土蜘蛛がこれから成長を重ねて俺を踏み台に立派な王になると主張する土蜘蛛。


 2匹とも上手に言葉を選んで俺やマルコを貶めないようにしつつ、お互いの推しをぶつけあっていった結果こうなったと。


 そして、雲行きが怪しくなって慌てて俺を呼びにきたラダマンティス。

 俺に任せた事で安心したのか、横で呑気に鎌を嘗めているが。

 いや、確かにその仕草は蟷螂っぽいけど。


 なんでこんな面倒くさい事を俺にと恨みがましく視線を送ると、首をくいっと傾げる。

 いや、確かにその仕草は蟷螂そのもだけど……


「どっちも俺なんだから、そんな事で争うな」

「でも、こいつはマサキ様よりマルコ様の方が優れていると」

「そ! そうは言うておらぬ! マサキ様がマルコ様を大事に育てているのだから、いずれはマサキ様を凌駕する逸材になりうるという可能性の話であって」


 おお……

 マルコ派の土蜘蛛が、本人を前にしては流石に正直に言いにくいのか慌てている。

 でも普段の態度から、それとなく土蜘蛛は俺よりもマルコが好きなんだろうなという事は分かっていたし。


 今更、そんな事は気にしない。


「いや、まあどうでも良いよ。もしマルコが俺を越えたら、その分俺が楽出来るし」

「ほれ見ろ! マサキ様も、マルコ様が自身を越えられることを望んでおられるご様子」

「よく言葉を聞け。もしと言っておられるだろう。マサキ様はそうならない可能性も考えておられるのだ」


 うわあ……

 ちょっと喋っただけで、2人とも裏を読んだような事を言い出した。

 いや、本当にどうでも良いと思ってるんだけど……


 マルコが俺を越える保証は無いし、そんなの関係無しにマルコが成長したら俺が楽出来るから頑張れ程度にしか考えて無いのに。


「マサキ様はどうお考えで?」

「マサキ様!」


 そして、俺に振るな。

 さっき答えただろう。

 どうでも良いと。


「マルコと俺、2人で1人なんだからどっちが上とか、そんな意味の無い事で争うな」

「まあ……確かにそうですが」

「おっしゃることは分かるのですが、マサキ様を軽んじるような発言は私は許せないですね」


 カブト……

 俺が好きなのは分かったから、少しは譲歩してくれよ……

 当事者が意味が無いって言ってるんだから。


「ちょっと週末まで待ってろ」

「えっ?」

「何故ですか?」

「お前らの疑問がいかに無意味か、教えてやるから」

「はあ」

「分かりました」


 取りあえず今は2匹を落ち着かせて、時間を稼ぐ。

 こういったのは時間が経てば、多少は気持ちが落ち着くだろうし。


――――――

「なにこれ? どういう状況?」

「いや、こいつらが俺とマルコどっちが上かみたいな事で揉めたらしいからさ」


 管理者の空間にある平原で微妙に距離を空けて前に立つカブトと土蜘蛛を前に、マルコが首を傾げる。

 例によってベントレーに連れ出して貰って、管理者の空間で2人揃ってカブトと土蜘蛛に対面する。


「2人で1人っていうのを証明するから、お前らまとめて掛かってこい」

「えっ?」

「はっ?」

「ほうっ!」


 突然の俺の発言に1人と2匹が首を傾げる。

 カブトだけが面白そうなものを見るような視線を向けてくるが。


 手っ取り早く、俺とマルコでこの2匹を下せばいいかなと。


 ベルモントらしく力で解決。


「無理だよ!」

(大丈夫だ、俺の指示通り動け)


 マルコが不安そうにこっちを見上げてきたので、直接感情を送り込む。

 これなら、2匹にやり取りを聞かれる心配も無いし。


「本当に大丈夫なの?」

「ああ、問題無い。たぶん、なんとかなる」

 

 マルコの言葉に、力強く頷く。


「たぶんってやめてよ」

「はは、勝負に絶対なんかないからな」


 そして、戦闘開始。


「……馬鹿な」

「うそ……でしょ?」

「嘘とはなんだ! お前らは俺達の方がお前らより弱いと思っていたのか?」


 10分後、糸でぐるぐる巻きになったカブトと、石で作った箱から首だけだした土蜘蛛が驚愕の表情を浮かべている。


「本当に勝っちゃった……」

「マルコまで……」


 当のマルコまで、驚いた様子だ。

 スキルありなら、当然の結果としか言いようがないが。


 割と大変だったけど、想定通り。


 まずは土蜘蛛の糸をマルコに左手で吸収させつつ、カブトの触覚に蜂の【超音波(ウルトラソニック)】をぶつけ感覚を狂わせつつ翻弄。

 

 カブトが目標を見誤って体当たりが外れたところで、散々吸収させた土蜘蛛の糸をマルコに放出させる。

 その間、土蜘蛛はひたすら俺が抑える。


 わざと糸を喰らって全身をグルグル巻きにさせ土蜘蛛の油断を誘う。

 慎重な土蜘蛛だから、きっと頭までグルグル巻きにすると思っていたが想定通り。


 これで俺が行動不能になったと思い込んだ土蜘蛛が、嬉しそうにマルコの方へとにじり寄る。

 その間に中の俺だけマルコに回収してもらい、土蜘蛛の上に移動すると土魔法で地面を陥没させる。

 慌てた土蜘蛛が上空の俺を発見し飛び掛かって来たところで、マルコに空間内の湖から大量の水を召喚してもらい魚のスキルで操作して土蜘蛛の真上から落とす。


 大きく穴の開いた地面に、水ごと落とされる土蜘蛛。

 身体は浮くが足場を無くして速度が著しく落ちた土蜘蛛に対して避けた土を固めて覆わせる。

 首だけ出した状態で。


 土を固めて出来た石の棺の中は大量の水。

 大きな抵抗があり、棺を破壊できずに脱出も出来ない土蜘蛛。


「ほらな」

「いや、でもこれってマサキ様の作戦ですよね? マサキ様の方が」

「マルコ様だって頑張ってました」

「うーん……殆どマサキの指示で動いていたし……」


 確かに過程だけみたら、俺だけの力だな。

 でも、それはこの戦闘の過程の話であって……


「いや現実にマルコが成長したから俺もここまでの力が発揮できるわけだから、マルコが成長しないとこんなに戦えなかったぞ?」

「じゃあ、マルコ様が強くなった分、マサキ様も強くなると? それなら、やはりいつまでたってもマサキ様の方が上ということですよね?」


 目をキラキラと輝かせて俺を見つめるカブトに、俺が首を横に振る。


「そうだな……でも、俺の考えをトレースさせればマルコも同じことが出来るんだから、どっちが強いなんて一概には言えないだろ?」

「トレースさせなければ、マサキ様の方が強いです」


 あー……完全に間違えた。

 これじゃ、いつまで経ってもマルコより俺が強いって言ってるようなもんだ。


「いつまでも馬鹿な事をやってないで、土蜘蛛様は早く調理に戻ってください」

「んっ?」


 そこにトトが手を叩きながらやってきた。


「マサキ様が強いのなんて当たり前なんですから」

「トトもそう思うか?」

「トト……」


 カブトが嬉しそうにトトを見る。

 反対に土蜘蛛は少し寂しそうだ。


「でも、マルコ様だってこれからどんどん強くなってマサキ様のようになるんですから、2人とも1番で良いじゃないですか」

「ま……まあ」

「いや、でも」

「本人が2人とも同じ人と言ってるんだったら、どっちが上とか意味の無いことを言ってないで、土蜘蛛様は早くこっちを手伝ってください。それと、カブト様もクロウニさんの訓練があるんですから、そっちに行ってください」

「う……うーん」

「そ……そうだな」


 なんか釈然としない様子でそれぞれ別の方向に向かう2匹に溜息を吐く。


「また、溜息」

「あ……ああ、ただ、どうしたもんかと思って」

「どうもしなくて良いですよ。将来の事なんて、その時になってみないと分からないですから」

「そ……そうだな」

「あの……僕、なんで呼ばれたの?」


 訳も分からず俺が失敗して、トトが誤魔化して、結局今回の模擬戦が大して意味の無かったことに気付くと同時に、マルコが心底不思議そうにこっちを見上げてくる。


 そんな目で見ないでくれ。

 やり方を間違えただけだ。


 相反する考えに対して、どっちも立てるという誤魔化し方はとても難しい事が分かった。

 良い教訓になったな……


「ねえ、なんで僕を呼んだの?」

「あー、飯でも食ってくか?」

「ねえ?」

「……飯でも食ってけ」

「……」


 不満そうにしてたマルコだったが、飯を食ったら機嫌を直してくれた。

 うんうん……他にも俺派とマルコ派の虫達が居そうだな。


 今後の課題として、考えておこう。


「どっちも大事です」

「うん? 私達は主にとって最善を考えて動くだけです」

「大人のマサキ様も、子供のマルコ様も好きですわ」

「怪我した方を助けるだけです」


 ラダマンティスや、蟻に蜂、蝶たちは別に気にしてなかった。

 そっか……

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