第1話:転生のお約束
「あれ……ここは? 確か、車に乗ってたはずなんだけど」
凄い衝撃を感じ、一瞬意識が暗転したかと思うと部屋の半分が黒く塗りつぶされた白い部屋に居た。
目の前にはひな壇があり、その一番上にカーテンのようなものが掛かった場所がある。
丁度二人分。
左側は黒いカーテン。
右側は白いカーテン。
なんとなく中が空けて見えているが。
左側の黒いカーテンの方も、中が透けて見えている。
頭に角の生えているような人が座っているように見える。
どこ?
「目を覚ましたか」
右側のカーテンの奥の人物が話しかけてくる。
お爺さんのようにも、少年のようにも、お婆さんのようにも、少女のようにも聞こえる不思議な声。
『今回はスマンかったな……と言っても分かるまい』
そして左側の人も話しかけてくる。
こっちはボイスチェンジャーを通したような声。
悪戯だったとしたら、かなり手が込んでいて悪質だ。
「よく確認したつもりだったのだが、まさかお主の車が突っ込んでくるとは思わなんだでな」
『ふっふっふ、善のそのような説明では分かるまい。あれだ、交通事故だ』
いや、車が何かにぶつかったならそれを普通は交通事故と言うんじゃ。
「あの、良く分からないのですが」
「たまたまじゃ……たまたま、わしが転移した先にお主の車が突っ込んできたのじゃ」
えっ?
俺、この人はねたの?
「いや、こっちこそすみません。大丈夫ですか?」
『フフフ……車の前に転移するなぞ、ただの飛び出しより悪質な不注意じゃからのう。気にするな! あと、善は気にしろ』
「反省しておる」
凄く嘘くさいけど、2人から感じるオーラが信じざるを得ない雰囲気を放っている。
「それで、その両手をじゃな……というか車のフロントというのか? 前半分をわしの神力で消して衝撃をやり過ごそうと思ったのじゃが、ハンドルごとお主の手まで消してしまったあげく車から飛び出してしもうて頭から……」
頭からなんでしょう?
あまり聞きたくありません。
「まあ、わしが殺してしまったようなもんじゃが……魂と意識、残った体はどうにか拾い上げることはできた」
『たまたま、お主の神気に取り込まれただけじゃろう』
しんきって?
新規? 辛気? いや、あれか……ラノベとかでよく聞く神気か?
「肉体も欠損が酷くてのう……元の世界ではすでにお主はおらんことになっておるし」
『それは、お前がこいつの残滓に気付いたのがあっちの世界で2年も経った後じゃからじゃろうが』
えっ?
いや、ちょっと頭がこんがらがってきた。
とりあえず、俺はこの謎の人物を撥ね飛ばしたと。
でもって、咄嗟に衝撃を消そうとしたこの人にうっかり殺されて、この人のオーラ的なものに取り込まれた。
……のが2年前ってこと?
さっき気付いたくらいの勢いだけど、2年も?
「悠久を生きるわしらからしたら、ついさっきの事程度のもんじゃ」
『いや、2年は長いと思うぞ』
どうやら、黒い人の方が常識人っぽいな。
白い人は良くも悪くも大雑把なイメージだ。
「でじゃ、わしらが管理する世界で人生をやり直す機会を与えようと思う。これをもって謝罪としたい」
『恩着せがましいな。2年も経過して元の世界に戻すと面倒だから、赤ちゃんからやり直してって事だろ』
「身も蓋も無い言い方をするでない。邪の」
じゃの? いや違うな。
邪か?
じゃあ、黒い人は邪神的な何かなのかな?
「あー、自己紹介をせずとも分かるかと思うたが、そちの世界はすでに神に頼る事はあまり無いのじゃったのう。わしは善神と呼ばれている。数多ある世界の正を司る存在じゃ」
『そして、わしは邪神……まあ、負を司る存在じゃな。陰陽揃って世界は上手く回るから、わしらは常に一緒におる』
世紀の大発見だ。
善神と邪神って仲良しだったんですね。
ていうか、転生させてやるから水に流せって事か?
「えっと、元居た世界の日本でやり直しって事ですか?」
「あー、それも良いのじゃが、折角だから神の加護を受けられる世界とかどうじゃ?」
『お主の居た世界では、神の加護なんて不便なだけじゃからのう。精々金持ちの家の子に転生させるとかならできるが……記憶を消さねば色々と面倒なことになるし。そうなると転生しても面白くないじゃろ』
まあ、それはそうなんですけど。
でも、となると剣と魔法の世界でチートを貰えたりって事?
『というか、実は行ってもらいたい世界はもう決まっておる』
「ベベルという世界じゃ。そこの世界が魔王を名乗るちょっと考えがおかしな連中に滅ぼされかけておっての」
『わしらが直接関与しようにも、その後の管理ができる者が現れなければまた第二の魔王が現れるのは目にみえておるからのう』
えっと、これって慰謝料的なもんですよね?
なんか、体よく手伝えって聞こえるのですが。
「勿論、そのために必要な力は授けるし、人の人生1回分くらいは普通に楽しみながら仕事すればいい」
『ある意味、チート好きなお前らからしたら、仕事が趣味みたいな感じになると思うが』
まあ、チートのある世界とか憧れるけどね。
一つ気になる言葉がある。
人の人生1回分ってどういう事?
その後も働けって事?
人生2周目があるのか?
「あー、全て終わって満足したら、そこの管理者になってもらいたい」
『そのために必要な知識や、能力は1回目の人生で獲得してもらおうという事じゃ』
そのお仕事に終わりはあるのでしょうか?
「大体30億年くらいでその星の寿命が尽きると思う。いま12億年くらい経ってるからあと20億年弱かのう」
長すぎだろ。
20億年もその世界に接してきて、どんな気持ちで星が滅びるのを見ろと。
「大丈夫じゃ。滅びる2億年前くらいには生命も活動できなくなるはずじゃから、気に入ったものは自分の管理する場所に引き込めばよかろう」
『お主らの世界でいう、ノアの箱舟的な場所じゃの』
「流石に、20億年も神紛いの立場に居たなら、星と世界を一つ作り出すくらいの特典は与えてやるから」
20億年も働いたあげくに、新会社立ち上げてまた億年単位で運営とかどこのブラックだよ。
「まあ、20億年云々は抜きにしても、チートを貰ってやり直しというのは惹かれますね」
「じゃろうが? ちなみ、お主の両手はすでに再生が不可能じゃからわしらが新たに創り出したものを与える」
『ブラックホール的な力を持った左手と』
「まあ、厳密に言うと全く違うが、イメージで分かりやすく言うとホワイトホール的な力を持った右手じゃな」
なんだか、不穏な両手過ぎてあまり欲しくないかも。
『制限はあるが左手で吸い込んだものは、将来お主が住むであろう管理者の空間に送られる』
「右手からはその管理者の空間から、任意のものを出現させられる」
ああ、早い話がマジックバッグですか。
定番ですね。
『ちなみに、管理者の空間内部では肉体の時間は止まっておるからな。成長したり劣化することもないが……普通に行動はできる。歳を取らない空間みたいなもんじゃ』
「管理者の空間内では普通に生活できる空間があるから、彼等はそこで過ごすことになるがのう。まあ何も無いのも寂しいじゃろうから、一応疑似的に普通の生活が送れるようにはなっておる。ようは、食事も取れるし、睡眠も取れる空間じゃな」
『他には……素材や吸い込んだものを合成する場所もあるが、生物同士はオススメせぬな……精々が知能の低い生物と素材の掛け合わせとかかのう』
ほうほう……やっぱりちょっとチートなマジックバッグだった。
『左手の力でお主も自由に行き来できるし並列思考で疑似的に両方に存在できるようにもしておくからの?』
「管理者の空間にある地図と右手の力で世界の好きな場所に、戻る事もできるし」
おう……転移魔法のオマケ付き。
ただ自分の左手自分を吸収するのかな?
で、何もない空間から右手が現れて俺が出てくるの?
それって、ネイティブな発音の方のバニラアイスじゃね?
でもこれは、ちょっと嬉しいかも。
いや、それ以前に適当に気に入った奴集めて、その世界でゴロゴロしとくのも悪くないかもと思ったり。
それはすぐ飽きそうだから、やめとこう。
それよりも、いきなり転移魔法が使えるとかかなりのチートかも。
でも、うっかり転移した先に馬車が突っ込んでこないように気をつけないと。
『クックック……そうじゃのう。一応、地図に触れれば周囲の状況は見られるからのう。大事なことじゃ』
「お主……意外と性格悪いのう。わし、一応最高神なのじゃが? まあ……日本人とはこういうものか」
だって、しょうがないじゃん。
うっかりで殺されちゃったら、毒の1つも吐きたくなるってもんだよ。
あー……俺の家族は……
「一応この条件を受けてくれるなら、家族には連絡しておくが」
『神託という奴じゃな』
「それって、うちの親相手だと夢で片付けられないかな? あと、姉ちゃんとかめっちゃはしゃぎそう」
「お主の家はいま息子、弟が亡くなってどんよりしてるからのう……」
ちょっ、先に説明だけしといて。
というか、どうなのそれ?
「地球と管理者の空間は繋いでおくから、電話くらいできるようにしておいてやるわい。テレビ電話も可能じゃから」
『その空間におる間だけなら、元の姿を再現できるから信用してもらえるじゃろう』
至れり尽くせりだった。
やっぱり、悪いと思ってくれていたらしい。
感謝。
「っと、大事な事じゃがその両手のスキルじゃが……」
「吸い取るのと、吐き出すのだけじゃないんですか?」
まだまだ、特典があるらしい。
貰えるものは貰っとこう。
「あー、チートスキルとやらが好きなんじゃろ? まあ、神ほどチートではないが、左手で吸収したものは所有権がお主のものとなる」
「はあ……それって、たとえ人の物でも吸収したら俺の物になるって事ですか? それなんてジャイ○ン?」
『まあ、大きく言うとそうなのじゃが、生物であればお主の従者になるって事じゃ』
最近流行りの隷属のなんちゃらとか、奴隷のなんたらとかより悪質だった。
下手したら、王様吸収したら国乗っ取れるって事じゃん。
「吸い込めるのはお主より、弱っている者……もしくは弱い者という条件じゃが」
『総合的にな? 国王とかじゃと国力もそのままその者の力になるからの?』
じゃあ、王子様の子供あたりを吸収すれば将来的には……
これは、チート過ぎる。
「従属関係の解除もできるようにしとこう。これはわしらでもできるように設定しようか」
『そうじゃのう……口では言ってもまさかせぬとは思うが、保険は必要じゃろう』
あっ、監視されるんですね。
一応、悪質だとこの二人に精査されて解放されちゃうと。
まあ、流石に独裁政権があっという間に築けそうともなると、そうなるわな。
黙っとけば良かった。
「吸収したもののスキルは、管理者の空間で記憶分析されるからどういった能力か分かるはずじゃ」
『普通に呼び出すこともできるが、右手でその者の分身を作り出してスキルだけをぶつける事もできる』
おお!
ゲームの、召喚魔法みたいだ。
あっ、最近はちゃんと召喚獣も戦ってくれるんだった。
一昔前の召喚魔法だな。
「あとはまあ、普通に暮らしていけるだけの家庭に転生させてやろう」
『オススメは冒険者稼業じゃぞ? チートを育てるのに良いし、完全実力主義で立場も収入も上は青天井じゃからの?』
「まあ、どこかで王になって国を運営して色に溺れるのも悪くないじゃろうが」
あいあい。
とりあえず、冒険者オススメってのは分かった。
うんうん、で肝心のお仕事の方は?
「忘れとった。魔王とその側近を倒す事じゃ」
『側近は四天王と呼ばれ四方に塔型のダンジョンを作っておるからの。魔王は北の大陸のさらに北におる』
「中心じゃないんですね……」
『流石に中心は人が多すぎて断念したらしい。いま四方からジワジワと攻め込む準備をしてるようじゃが、四方の塔にもひっきりなしに冒険者や兵士が来るらしくて捗ってないとか』
「魔王の居る場所は極寒の場所じゃから、かろうじて侵攻は受けてないが」
『まあ、お主らのようなこの世界の転生好きの為に用意されたようなシナリオじゃの』
シナリオとか言い出したし。
それにしても、あんまり危機的状況じゃないと聞いて安心。
「ゆっくりで良いぞ? 無理なら老衰で死んだふりして、2周目か3周目で魔王を御しても良いし」
割と長いスパンで見てくれているらしい。
うん、とりあえず神様たちの言い分は分かった。
「だが断る!」
……
……
……
気まずい空気になってしまった。
「なんじゃと!」
『なにっ!』
「嘘です。言ってみたかっただけです。謹んでお受けいたします」
一瞬ポカンとなってたけど、ちょっと遅れて我を取り返した神様達に一瞬で体が木っ端みじんになりそうなオーラを当てられた。
無理……
初期RPGなみに、選択肢いいえが存在しなかったわ。
この作品を開いて頂き有難うございますm(__)m
途中ですが是非、最後までお読み頂きブクマ、評価、感想等頂けると嬉しいです。
幼少編→学園編→冒険者編→のんびり領地運営しつつ魔王対策編へと進んでいく予定です。