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恋なんて

 そんな回想に耽りながら、私はカフェ「ORANGE(オレンジ) HOUSE(ハウス)」まで来ていた。


 このカフェは、この冬休みに入ってから初めてお杏と一緒に入ったカフェだ。

 ここは、(かみ)通りから一筋入った路地の一角にあるロックカフェで、デュークボックスから、80年代に遡り現在に至るまでの様々な洋楽が流れている。


 その重く黒い鉄の扉を開けたその時────── 


 私は、その正に予期せぬ出来事に遭遇してしまった。


 私は、店を出ようとしている守屋君にでくわしたのだ……!


 彼は、あの彼女を連れていた。

 彼女は、その茶色い長い髪を綺麗に結い上げ、ピンク色の地に御所車の実に見事な大振り袖を着ている。


「あなた」


 彼女は、敵意を剝き出しにした目で、おもむろに言った。

「そんな()をしても無駄よ。浩人は私とつきあってるんだから」

「よせよ。冴枝」

 彼は、落ち着いて彼女を制する。


「何よ、浩人!このは玲美の身代わりなんでしょ!?」


 彼女は、人目も構わず、大声で叫んだ。

 彼女の茶色の大きな瞳には、大粒の涙が溢れている。


 守屋君……

 私達は一瞬、見つめあう。

 彼は、やはり目を細め、実に微妙な表情(かお)をした。


 しかし。


「行くぞ」

 それだけ言うと、彼は彼女の肩を抱き、店を出て行った。


守屋君……


 私は、呆然とその場に立ち尽くしていたが、

「お客様?」

と、黒いソムリエエプロンを着たやけにスレンダーなウェイトレスにそう声を掛けられ、慌てて彼女が案内する席へと座った。


「カプチーノとブルーベリーの生マシュマロムースケーキ」


 そうオーダーを告げる。

 それは、この前来た時にオーダーした品だ。

 私はカフェで、夏はアイスコーヒー、冬は大抵カプチーノをオーダーすることが多い。

 そして、そのムースケーキは、生クリームや卵白不使用で、ブルーベリー独特の甘酸っぱく、さっぱりとした味のするとても美味しいムースだ。


 オーダーの品を待ちながら、先程の修羅場が私の脳裏を駆け巡る。


守屋君の彼女。

 激しい女性(ひと)……


 人目も構わず、あれ程の激情を剝き出しにする程。

 本気で彼を愛しているんだ。


羨ましい。

 そう思う。


「愛すること」にあんなに素直になれるなんて。

 何て素敵なことだろう……!


 私は今。

 彼への想いを否定しようとしているのに……

 

 その時、オーダーした品が運ばれてきた。

 カプチーノは、とてもきめ細やかな泡立ちで、ハート型のカフェアートが施されている。

 そのカプチーノに口をつける。

 それは、とても舌に熱かった。

 そして、ブルーベリーのムースケーキを頂いた時。

 

 そのひんやりとした冷たい感触で。

 不意に────── 


 守屋君とのあの夜の口づけを思い出したのだ。


 彼には、玲美さんがいるのに。

 私は身代わりでしかないのに。


私の黒い両の瞳から涙が零れ落ち、頬を伝い始める。


 私は彼を愛している────── 


 それはもう、抑えきれない想いだった。


 自分の心に嘘はつけない。

 あの夜の口づけを忘れることなんて出来ない。


 泣きながら、ムースケーキをもう一口頂く。

 それは、あの夜の冷たい彼の口唇を思い出させるばかりで、私の胸は息苦しくなる。


 こんなに。

 こんなに辛い初めての口づけなら。


 どうして恋なんてしてしまったんだろう……




                      了











本作は、「十七歳は御多忙申し上げます」本編には載ってないエピです。

色々綻び・矛盾点のある作品ですが、大目に見て頂けたら嬉しいです。

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