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うまい水を飲む。
そのことが、こんなにも身に染みるものだと思い出したのは、何かの意味があるのだろうか。
いつの記憶だろう。
記憶?
いままで使っていない言葉も頭に浮かぶようになっている。
水をすくう手を見る。
手だ。
前足じゃない。
思いついたのか、思い出したのか。
それはわからないが、今の自分の体を見渡した。
小さきものに、似ている。
つまり、人、なのか。
自分は、人の姿になっている。
それにつれて、なぜか言葉を思い出している。
湧き水を手ですくいながら、飲み続ける。
森の縁にいる「奴」が動く気配はない。
さて、どうしたものか。
どうしようか。
前の状態だったなら、自分の居場所を守るためだけに動けた。
迷う。
前に進むか。
後ろに下がるか。
右に行くか。
左に行くか。
いや、そんなことじゃない。
自分は今、何をすべきなんだろうか。
気になる。
森の縁にいる「奴」が気になる。
会いに行こうか。
行ってどうなるかはわからない。
前のように「喰え」ばいいのだろうか?
とりあえず、会おう。
何かわかるかもしれない。
立ち上がると、裸のままの自分を思い出す。
なにかないかと思いめぐらす。
そういえば、小粒なやつらがいたな。
小粒のやつらがいたところに向かえば、何か残っているかもしれない。
足は既にそこに向かっていた。
しばらく歩きながら、森の縁にいる「奴」の位置を探る。
動いてはいないようだ。
それとも、こちらを気にしているのだろうか。
もともとの感覚で「あて」にいく。
やはり、反応がない。
気配を消してこちらを見ているのに違いない。
そう確信できた。
間違いない、「奴」はこちらに来る。
記憶にある小粒なやつらのいたところに着いた。
わずかにその痕跡が見て取れた。
屋根だったかもしれないものの下をのぞいても、身に付けるようなものは何も残っていなかった。
思い出してみれば、周りの樹がこれだけ育っているのなら、相当の年を重ねているに違いない。
残っているわけはないな。
しばらくは裸のままか。