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森の中は、歩きにくかった。
身体が大きいときは軽々と跳んで走っていたところだ。
ひとつひとつ藪を越えて、木の根を越えていかなくてはならない。
跳んでいこうとしても、いまの体の大きさの感じと身についていた体の大きさの感じに差がありすぎてうまく跳ぶことができなかった。
痛い思いも嫌だったので、おとなしく地を這っているというわけだ。
たまに木に登りながら、陽に向かって歩いていると、あたりまえに日が暮れてきた。
目指す的がないと動くこともできなかったので、風の当たらないところを探して横になる。
何がいいのかわからないが、腹が減ってこないのは助かった。
それでも途中で木の実などあればとって食べていたから、それほど喰わなくてもよかったのかもしれない。
そんなことを何回か繰り返したころのことだった。
すっかり寝ていると、何者かの気配を感じて目が覚めた。
あたりはまだ暗かった。
探ろうとすると、はるか遠くにそれを感じた。
森の外れあたりか
それも逆の
向こうもこちらを感じたらしく、隠れてしまったので、詳しい位置はわかりにくかった。
前の体躯なら、何度か跳べば取り抑えられる間合いだった。
地を這う身体が疎ましく思った。
向こうも動きを見せないのならば、こちらも隠れてるしかない。
見張る感じを残しつつ、体を休める。
そうして陽が出るのを待った。
明るさを感じるようになったが、まだ陽が見えない。
なので、身体の感じを馴染ませようと、少し体を動かしてみる。
何度か空に向かって跳んでみたが、前ほど高くは跳べなかった。
もっと高く跳べないのかと、身体の感じを見ていると体の流れと違う、ぬめっとした感じがあった。
このぬぐい切れないぬめっとした感じが、いつまでたっても取れなかった。
体の中をぬるぬると動く何かがいることを、だんだんと感じ取れるようになってきた。
こいつはなんだろうな
体の中の隅々にあったものを、身体の前に集めるようにした。
正体の分からないものであったが、取り出しさえしてしまえば、気が済んだ。
だけれども、ぬめっとした感じというものが少しづつであったが、体の中のどこからか湧いてくるように思われた。
その大本がどこかと探ると、どうやら自分にもあるだろう、あの光る石らしいことがわかった。
そうか
石は力の源であり、想いを現すものであると思ったとき、なにかの眼が開いた。
そうすると、取り出されていたぬめっとしたものが森中に広がった。
森の中にいたあらゆるものを感じ取ることができた。
いきなり感覚が拡がったことで混乱したが、気配を感じるということは今までやってきたものだと思えば、少し落ち着いた。
動くものに絞ったが、まだ多い。
風になびく草木や落ちた葉っぱも引っかかってしまう。
いらないものを落としていくと、残ったものが生き物となる。
山の生き物は、その大きさや動き方で見当がつく。
それらにあたらない生き物が、昨夜の奴だろう。
いた
そいつは、森の縁あたりで動いているようだった。
こちらに向かってはこないようだったので、気にする程度にとどめておく。
それとほかに分かったことがあった。
元いたねぐらからそれほど動いていないことだった。
いくら体が小さくなったからといって、森の外に出るのにこれほどかかるわけがなかったのだ。
どうやら、似たようなところを歩いていたらしい。
それから、いつも使っていた水場が近くにあることもわかったので、そこに寄ることにした。
そこまでは樹を避けながらだったが、ほぼまっすぐに進むことができた。
とはいえ、小さくなっているおかげで、2回行き来できるくらいの時間はかかったようだった。
水飲み場につく。
いつ以来になるかわからないが、水を体に満たした。
体の中に冷たい水がいきわたるのを感じる。
うまいな
前にはなかった。
うまいとかまずいとかいう感じは、いままでに持っていなかった。
ひたすら喰らうことだけを考えてきた。
そんなとき「うまい」などと思いもしなかった。
オレは何者になったのだろう