オオカミ王子は過去を振り返る 04
それから現在に至るまで、クラウディアとの関係は好転することはなかった。
クラウディアが仲直りの機会を窺っていたのは知っていた。でもそうさせないために、イザークはクラウディアと二人きりになるのを避けた。
会話をしても、わざと怒らせる言葉を選んだ。それこそ取り付く島もないほど不愛想な対応をしたこともある。
最低だった。その一言に尽きた。
そういったことの顛末を、詳細と自らの気持ちは隠したうえでラルフに聞かせた。
ランペルツ家の応接室のソファで足を組んでくつろぎながら、ラルフは憐れむような眼差しをイザークに向けてきた。
「お前、なんというか……。わかってはいたが、本当にガキなんだなあ」
「…………」
ラルフの正面に座るイザークはそれを否定出来ず、顔を逸らしてチッと舌打ちをした。
「まあ、とにかく。お前がクラウディアを大好きなのはわかった」
「何でそうなるんだよ。オレはただ約束を守れなかったって言っただけだ」
「この状況で、まだ自分の気持ちを隠せると思っているとしたら、本気でお前が心配だ」
「…………」
「お前、クラウディアが好きだから、今の今まで全部の縁談を断ってきたんだろう」
「あーもう、ちょっと黙れ」
「良くディートハルト様が許したものだ。嫡男だというのに」
「無視かよ」
イザークは諦めたように大きく息をつくと、呟くように答えた。
「あの人は、オレに負い目を感じてる」
「……ああ、一時とはいえ手を離したからか。だからお前の我儘も許すのだな」
「オレが王位を継ぎたいと言ってみろ。継母の立場がなくなる」
するとラルフは、ふっと口元を緩める。
「お前は優しいな」
「……面倒なだけだ」
「だがその優しさも、伝わらなければ意味がないぞ。とにかく、素直になるところからはじめるんだな。お膳立てはしてやったが、クラウディアの気持ちが変わるかどうかは、お前次第だ」
痛いところを突かれて、イザークは投げ出すように背中をソファに預けると、天井を仰いだ。
自業自得ではあるが、クラウディアからの好意はゼロに等しい。いや、ゼロどころか。
「……マイナスからのスタートだってことくらい、わかってるよ」
はぁ、とイザークは思わず息を漏らした。それから頭を掻きながら姿勢を戻せば、片肘をつきながらにやにやしているラルフの視線とぶつかった。
「……何だよ。その顔、本気で殴りたくなるからやめろ」
「いやちょっと気になってな。お前、我が家から縁談の話がなかったら、どうするつもりだった? 他所と縁談がまとまったら、諦めたか?」
「…………」
(アレクだから、諦めるしかないと思った。他の男に渡すなんて。……ごめんだ)
「……そんなわけ、ねーだろ」
不機嫌に答えると、ラルフは愉快そうに笑う。
「そうだろうな。どうやら俺は余計なことをしてしまったようだ。どうせなら、お前がクラウディアの婚約者の座をどう勝ち取るか、じっくり見物すれば良かった」
「……お前もう帰れ」
イザークは立ちあがり、ラルフの座るソファを怒りを込めて蹴った。ラルフはその場から動くどころか姿勢も変えず、相変わらずの表情でイザークを見上げるだけだ。
「お前、アレクの代わりの遠征に全部入っているって聞いたぞ」
「仕方がねーだろ。半分代われよ」
「そうだな、ここはクラウディアとの時間を作ってやろう。何と優しい義兄だろうな。兄上と呼んでいいぞ」
「……やっぱいい。自分で行く」