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オオカミ王子に恋をする 02

 ローエンベルグ中央宮殿は、この国の政治の場でもあり、今宵は舞踏会の会場にもなっていた。


 大回廊を彩るクリスタル製のシャンデリアが煌々(こうこう)と輝いて、会場は幻想的な雰囲気に包まれている。

 心地よい音楽や、人々が歓談するざわめきの中で、しかしクラウディアは共にきたイザークと離れてしまっていた。


 風にあたろうと、クラウディアがテラスに出たところで、聞きなれた声に呼び止められた。


「イザーク様ったら、すっかり人に取り囲まれてしまったわね」

「……ヒルデ様。今日もとてもお綺麗ですね」

「あなたこそ、クラウディア。そのドレス、とても素敵な色ね」


 クラウディアは思わず口元をほころばせる。が、すぐに小さくため息をついた。


「さっき一曲踊ったきりで、ずっとあんな調子です」

「滅多に顔を出さないイザーク様がいらっしゃったのだから、お話をしたい方が沢山いらっしゃるのね」

「……意外です。イザークも、愛想良く、とはとても言えないけど、それなりに会話してるし」

「あら、なんだか不満そうね」


 小首をかしげたヒルデガルトに、クラウディアは小さく眉を寄せた。


「不満ってわけじゃ……。ただ、私が知ってるイザークと違ったから」

「あなたが知ってる? つまり、学院にいた時のイザーク様?」


 言い当てられて頷くと、ヒルデガルトはくすりと笑う。


「学院ではラルフ様やアレクシス様以外とはほとんどお話されてなかったものね」

「はい」

「いつまでも子供じゃないもの。社交性だって必要だとわかっていらっしゃるのよ」

「それはそうですけど。でも……」

「でも?」

「あんな風に女性と話したりして」


 さっき見た光景を思い浮かべて、クラウディアは眉間の皺を深くした。

 ダンスの後、イザークの側には何人かの人が集まってきた。中には女性もいたので、なんとなく胸がざわついてクラウディアはそっと側を離れたのだ。


 無意識に唇を噛んで少し頬を膨らませていると、ヒルデガルトがまじまじとクラウディアを見つめてきた。


「……クラウディア」

「はい?」

「アレクシス様とはよく舞踏会に来ていたわね」


 突然アレクシスの話になって、クラウディアはきょとんとする。


「ええ、そうですね」

「アレクシス様の周りには、いつも人がたくさんいらしたわ」

「はい。アレクシス様は、どなたからも好かれていましたから」


 人望のあるアレクシスの姿を、クラウディアは自分のことのように誇らしく思っていたものだった。


「アレクシス様のまわりにも、女性はいたと思うわ。それこそイザーク様の何倍も」

「…………」


 クラウディアの表情が固まる。言われてみれば、確かにそうだった。


(……あれ?)


 よくわからなくて、小首をかしげたクラウディアに、ヒルデガルトはやれやれという様子でため息をついた。


「気づいていないようだから、教えてあげます」

「……はい」

「世間ではそれを嫉妬、というのよ」

「…………」


 クラウディアは今度こそ本当に固まった。ヒルデガルトの言葉を、すぐには理解できない。


「……えっ? ええ?」

「もう、困った子ね」

「ヒルデ!」


 呼ばれてヒルデガルトは振り返る。現れた自身の婚約者の姿を確かめて、嬉しそうににっこりと破顔した。


「ラルフ様。みなさまとのお話はおわりまして?」

「ああ。きみはクラウディアといたのか」

「ええ」

「……クラウディア、どうした?」

「…………」

「クラウディア?」

「ラルフ様、今はそっとしておいてあげましょう」


 と、ヒルデガルトはラルフの腕に手をかけて、舞踏会の会場へと戻ろうと促す。

 ラルフはどうしても気になった様子で何度もクラウディアを振り返っていた。


「……一体、どうしたんだ?」

「秘密です。言えばきっとラルフ様はクラウディアをからかうんですから」


 二人の声などもう、クラウディアの耳に入らなかった。

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