オオカミ王子に恋をする 01
兄からイザークが目覚めたと聞いて、クラウディアはすぐにでもランペルツ家に向かいたかった。
しかし、イザークはまだ本調子ではないから彼の方から訪ねてくるのを待てとラルフに制されて、はやる気持ちをぐっとおさえた。
翌日、学院から急いで帰宅するクラウディアは、馬車の窓からずっと外に視線を送っていた。ローゼンハイム邸が見えてきて、停車場にランペルツ家の馬車があるのが目に入った時、クラウディアは声を上げた。
「急いで! 早く!」
出迎えた使用人たちを無視して、クラウディアはぱたぱたと応接室に走る。
ノックもしないで扉を開けはなったとき、びくりと肩を揺らしたイザークがぎょっとした顔をしてこちらをみていた。
「イザーク!」
全力で走ったせいでクラウディアが息を切らしていると、イザークはあきれたような声を出した。
「……お前な、仮にも王女なんだから、屋敷の中を走るな。そして突然入ってくるな」
そんな台詞が聞けることが逆に嬉しくて、クラウディアは喜びをかみしめる。
「イザーク、もう大丈夫なのね。良かった……」
ソファに座っていたイザークは立ちあがり、クラウディアの前に大きなミモザの花束を差し出した。
「心配かけたな」
「これ……」
「お前から貰ったのとは違う。ちゃんと取り寄せた」
「……うん」
クラウディアは花束を受け取り、抱きしめるようにしてその香りを楽しんだ。
「花束ひとつ分しか用意できなかった。誰かさんが王都のミモザをほとんど買い占めたみたいだったからな」
「いい香りに包まれて、イザークが早く目を覚ましたらいいなって思ったの」
「お陰様で、目覚めは良かった」
「ほんとう? 良かった」
「起きた時にいたのがラルフだから最悪だったけどな」
それにくすくすと笑い、クラウディアはもう一度ミモザの香りを確かめようと顔を近づける。
「イザークから花をもらうなんてはじめて」
「……アレクの婚約者だったのに、オレが花贈ったら問題だろ」
「それもそうね。……そういえば兄様が何か言ってたわ。花の意味がどうとか」
「あー……。あいつの言うことは気にするな」
それより、とイザークは慌てた様子で話を変えた。
「三日後から、また遠征が入ってる」
クラウディアは思わず眉を寄せた。
「イザーク、大怪我をしたばかりなのに」
「時間をかけて準備した遠征だから、オレの都合で変えられない。だいいち怪我ならもう治ってる」
「……それってどれくらい行くの?」
「二週間」
「…………」
時間をかけて準備をした、というからには長期の遠征であることは覚悟していた。しかし思った以上に長くて、クラウディアの胸中は重く沈んだ。
「……嫌とは、言えないものね」
「嫌なのか?」
イザークが驚いたような顔をしたので、クラウディアは反射的に答えた。
「当り前じゃない、寂しいわ!」
「さ――」
イザークが面食らったように言葉を失ったので、クラウディアははっとする。
(私、いま何て言った? 寂しい? 寂しいって言ったの?)
口元を押さえて視線をそらしたイザーク。いつになくうろたえているその様子を見て、クラウディアは顔を真っ赤にした。
「ち、違う!」
「……いや違うって何が」
「何がってその、だって私」
自分で自分がよくわからなくて混乱していると、イザークは小さく咳払いをして話を変えた。
「さっき、お前が戻ってくる前、テオドール様と話したんだ」
深く追求されなかったことに安心してから、クラウディアは頷く。
「遠征に行く前に、ちょうど舞踏会があるから出席しろって」
「えっ。舞踏会って明日よ?」
「らしいな」
「そんな急に、いいの?」
「別に。お前がいいんなら。行くか?」
「行く!」
前回は行けなかったから、これがイザークと行くはじめての舞踏会になる。
目の前のミモザのような、新しいドレスを用意してもらおうと考えて、クラウディアは瞳を輝かせた。




