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8 金髪くん(騎士コンビ)のひとりごと

金髪くん(ルーク)視点です。

内容を少し変更しました。よろしくお願いします。

 昨日ドランが王子を襲ったと聞いた時は驚いたなと、ルークは思った。

 隊長の怒鳴り声で慌てて駆けつけてみれば、騎士隊員たちに囲まれたドランが激しく吠えていた。今までなかったほど緊迫した状況に息を呑み、今まで見た事がないようなアスランのぼう然とした表情に、さらに息を呑んだ。


(やっぱり凶暴なドラゴンなんだ)


 まるで人間みたいで、わかりあえたと思った事は間違いだったんだと苦い思いを飲み下し、どう猛な鳴き声を放ちながら抵抗するドランを何とか檻に入れた。


 そして気付いた。


 刺されて血を流しながらも、ドランは決してルークたちに攻撃してこなかった。

 騎士隊の誰も、率先して剣を向けていた隊長でさえ傷一つ負っていないではないか。


「やっぱり、そうだよな」


 トウマが真剣な顔でルークを見た。

 さっそく隊長に訴えに行ったが全く聞き入れてもらえなかった。あの頑固親父め。


「どうする?」

「証拠がいるんじゃないか。隊長が納得できるくらいの」


 ドランがアスランを襲った場所へ行ってみたら、すでにアスランがいた。原因は蜂ではないかと言うアスランは、やぶの中へと分け入り必死で蜂の巣を探している。


 この方、本当にドランが好きだよな。ドランもアスラン様になついているし相思相愛ってやつか? ドラゴンだけど。

 いくらドランを助けるつもりだったとはいえ妻にすると言い切ったと聞いたし。夜も同じ部屋で寝ているし。いやいや、ドラゴンだぞ。

 ……まさかだよな。


「おい」


 突然アスランが振り向いて、ルークはひどく驚いた。


「余計なことを考えずに探そうな」


 美形なのに笑顔が黒い。思っていることを全て見透かされているんじゃないかと、ルークはたまに思う。


「あった! 蜂の巣がありましたよ! ……うわあ!?」

「おい、何をしている!?」

「こっちへ来るなって!」


 一斉に蜂が飛んできて、ルークたちは慌てて逃げ出した。


 その後、無事に蜂の巣を取り除いてルークたちは隊長に見せたが、隊長は眉を寄せて顔をしかめただけだった。


「蜂の巣があった事はわかった。しかし、これのせいでドラゴンがアスラン様を襲ったとは限らないだろう」

「でもドランはいい奴なんです!」

「お前たちの、そのドラゴンへの信頼はどこからくるんだ!?」


 後ろで見ていたアスランが、隊長と言い合うルークたちの肩をポンッと叩いた。


「俺に任せろ」


 ひどく、さわやかな笑顔で。

 翌朝には隊長が檻の鍵を渡してきた。顔色が真っ青で、その背後ではアスランがニコニコしていた。

 気の毒すぎてルークは思わず隊長に同情した。



 そして今朝、檻から出されたばかりのドランは台所でさっそく何かを作っている。

 小さいエプロンを引っかけて、生乳から取り出したクリームを小枝をひもで束ねたもので一生懸命かき混ぜている。生クリームを作っているようだ。ルークは姉が作っているのを見た事がある。姉はものすごく時間がかかっていたけど、さすがはドラゴン。力があるので、あっという間だ。

 今、満足げにニヤリと笑った。怖い。


 そして今度はその生クリームを器に入れてふたをして上下に振りだした。バターを作っているのだ。これも以前に姉のを見た事がある。姉はものすごく時間がかかって、もう嫌だと投げ出していたけれどドラゴンの力はすさまじい。やはり、あっという間だ。

 満足げなニヤリ笑いがさらに深くなった。すげー怖い。


 そこに卵を割って……あ、つぶれた。からが入ってしまい、ドランがショックに固まった。ドラゴンの手では細かいからは取り除けないようで落ち込んでいる。丸まった背中に哀愁がただよう。哀愁ただようドラゴンって何なんだ。

 仕方なくルークがからを取り除いてやると、ドランはヘコヘコと何度も礼をした。


(ドラゴンって凶暴……なはずだよなあ)


 砂糖や小麦粉も混ぜて、ドランが焼く。

 しばらくすると甘い香りがただよってきた。途端に光に吸い寄せられる虫みたいに騎士隊員たちがわらわらと集まってきた。でもケーキを焼いているのがドラゴンだとわかって皆ギョッとした顔で逃げていく。そりゃ、そうだろうな。


 そしてドランはてっきりアスランのために作っているのかと思ったら、切り分けた大きなかたまりをルークとトウマに差し出してきた。

 トウマがぽかんとした顔で聞いた。


「――ひょっとして、蜂の巣を探した事への礼なのか?」


 ドランが「ギャ」と嬉しそうにうなずいた。

 ルークはトウマと顔を見合わせて、思わず笑った。本当にいい奴だ。ドラゴンだけど。

 作業台の簡素な椅子に座って、まだ温かいケーキをフォークでつつく。


「「うまい」」


 ケーキは不格好だけど本当においしかった。ドラゴンなのにどうしてケーキの作り方を知っているのか。


「なあ、王都にいるドラゴンってすげーよな」


 ルークは生まれ育った田舎でも時々ドラゴンを見たが、ケーキなどは作っていなかった。土地柄というやつだろうか。

 トウマがかわいそうな子を見る目になった。時々トウマはこういう顔でルークを見る。そのたびに失礼な奴だとルークは憤慨する。


 最初ここに来た時はドラゴンが放し飼いにしてあると知って、ルークは不安にかられたものだ。アスランが自らドラゴンを檻から放したと聞いたときは、ルークたち騎士の命なんてどうでもいいと思っているんだなと憤った。

 でもアスランはドランの性格を見抜いていたようだ。


 執務室にいるアスランに持って行くのだろう、ドランがケーキの小さなかたまりを皿に盛っている。

 ルークはふといい事を思いついた。


「なあ、これ、もらってもいいか?」


 ルークがまだ残っているケーキを指すと、ドランが「もちろん」というように大きくうなずいた。


 ルークとトウマは隊長にケーキを持っていった。

 隊長は怖い顔をしているが実は甘いもの好きだ。鋭い目つきは変わらないが若干、頬がゆるんでいる。隊員たちが良い動きをしたりした時よくこういう顔をする。本来は面倒見が良いのだ。


「うまいな。どこかで買ってきたのか?」

「いえ。作ったんです」

「誰がだ?」

「ドランです」


 ぶほっ! と隊長が口の中のケーキをふき出した。


「私はドラゴンが作ったものなど食わないからな!」


 しかめ面で皿を押しやる。

 しかし部屋を出てから、ルークたちがこっそりと開いた扉の端からのぞくと、隊長が残りのケーキを食べ始めるところだった。


 台所に戻るとドランが皿洗いをしていた。「ギシャギシャー」とご機嫌に鼻歌のようなものをうたいながら、太いしっぽも歌にあわせて揺れている。

 恐ろしいドラゴンのはずなのに、やけに親しみがわくのはこういうところなんだろう。

 しばらく聞いた後


「音痴だな」


 トウマがぽつりとつぶやいた。

 確かに。ドラゴンなんだから人間の基準とは違うのかもしれないが、ものすごく調子が外れている。ルークはトウマと顔を見合わせて笑った。


 ドランが振り向いて「いたのか?」というように大きく目を見開いた。そしてワタワタと慌てたように左右に体を動かした。わかりにくいが顔が赤くなっている気がする。

 ドラゴンが驚く姿も恥ずかしがる姿も、見たのはドランが初めてだ。


 いかつい顔とたくましい体つきをしているのに、反応がまるで若い女性のようで、改めて変なドラゴンだなと思った。

 しかし――ルークはこんなドランがけっこう気に入っている。

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