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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

司祭の国と白の国(小話)

閑話休題:勝手な誤解

作者: まよにこぴ

 シャンクレイス城、セラフィデル家の三男坊サキト王子の部屋。彼の部屋は長兄のルーヴィルがプレゼントした薔薇の花や、次兄のフランドルが持ち寄った巨大な動物の角が飾られ、豪華な家具があちこちに並べられている。

 使用人は毎日定期的に掃除をしにやって来ていたが、今日は違った。サキトは部屋に籠りきりで、まだ外には出ていない。その代わりのように専属の護衛剣士であるヒタカが出入りし、しばらく出てこなかったり慌ただしく出てきたりを繰り返していた。

 城内を警備する剣士達にも、今日はクロスレイを借りるからねと予め宣言した上での事で、彼らが一体室内で何をしているのかは謎に包まれていた。

「変だと思わねーか?二人で何してんだよ」

 あまりの外出量の少なさに、アルザスは不審がっていた。それは他の詰所の剣士らも同じで、様子を見てはもどって「おかしい」と口々に溢す。

 床を利用して腕立て伏せをするフランドルは「まだ出てこないのか」と廊下で様子見をしに行ったアーダルヴェルトに問う。彼は首を振り、出ませんっすねと返した。

「怪しいっすよ。暇だ暇だってごねるサキト様が出てこないんすよ。まさかクロスレイの奴、変な事をしてるんじゃないっすか」

 アーダルヴェルトは兄のフランドルが居るにも関わらず失礼な事を口走ると、アルザスはつい吹き出した。

「ははっ!!あのクロスレイがぁ?あり得ねぇあり得ねぇ!あんなヘタレに何が出来るんだよ」

「下品だよ、アーダルヴェルト。それはサキト様やフランドル様に失礼だ」

 レオニエルは相変わらずキノコに夢中。

 だって出てこねーじゃん、と頬を膨らませるアーダルヴェルトは、再び廊下に出て様子を見ていた。

「…てかさぁ、クロスレイ、思い詰めすぎて暴走しそうじゃねえっすか。俺あいつの見た事あるっすけどかーなーり凄いっすよ。あんな顔して、なかなかのもんを」

「アーダルヴェルト!!口を慎みなさい!何という破廉恥な!!」

 直接言葉は発していないのに、イルマリネはすぐに理解して反応する。破廉恥なのは彼なのではないかと思えてくる程だ。レオニエルは大きなケースに入っていた巨大なキノコをこれ見よがしに机から出すと、「この位な」と意味深に呟いた。

 アルザスはでけえな!と大爆笑する始末。

「…様子を近くまで行って探ってくるよ」

「ふっ…よろしく、頼むっ、ふうっ!!」

 腹筋をこなすフランドルは、下品過ぎる仲間に頭を抱えるイルマリネに言った。彼はどうにも身体を動かさないと気が済まないらしい。

 詰所から出て、サキトの部屋の近くまで足音を立てないように近付くイルマリネ。自分でも情けない行為をしているのを自覚し、嫌になりそうだった。しかし気になったのは仕方がない。

 あまりにも籠りきりで、部屋に居るサキトは大丈夫なのか、ヒタカがもし暴走していたらどうしようかと不安になるのだ。あの気弱な護衛剣士が暴走するのは考えにくいが、もしそうなれば全体的な大事になる。それだけは避けないと…。

 分厚い扉の奥から、声が聞こえてきた。

「…あっ、ああっ…サキト様」

「ふふ、まだ早いよクロスレイ。もっと沢山欲しいんだから」

「しっ…しかし、もう限界です」

 何だこの会話!?

 イルマリネは息を飲んだ。いつもの強気なサキトの声と、焦るヒタカの声が耳に届く。苦悩するヒタカの声はかなり切羽詰まっていた。

「ああん、まだそれは早いよ」

「ですが零れてしまいます、サキト様!」

「落ちたら僕が舐めたげるからもっとちょうだい」

 イルマリネは頭を抱えた。嘘だ、嘘だ!!そんな事許される訳がない!!といつもの冷静さを失いかけていく。

 まさか、あのクロスレイに限ってふしだらな行動など!

「ああぁっ…もうここまでです、漏れてしまう!」

「ひゃあ!あぁ…クロスレイったら焦り過ぎだよ!もう…不器用なんだから…べたべたするよ…」

 これ以上は聞き捨てならぬとばかりに、イルマリネは部屋の扉を大きく開け放った。

「な、な、な、何をしているんですかぁああああ!!!」

 真っ赤な顔で、突然乱入してきたイルマリネにサキトとヒタカはポカーンとする。間を開け、サキトは巨大なパフェグラスに目をやった。

 ヒタカは生クリームが入ったビニールを手にしている。

「え?あ、あのう…」

「は…?!何をして…」

 パフェグラスの周りには、アイスやらフルーツやらケーキやらが沢山並べられていた。しかも大量。そして、具が溢れんばかりのパフェグラス…。イルマリネは顔をひくつかせた。

 誤解を生み出す言葉に、変に解釈してしまった自分に恥ずかしさを覚える。

「おっきなパフェ作ってたの。ジャンボパフェ!ね、美味しそうでしょ?」

 ぐらぐらする具材に、ヒタカは悲痛な声を上げた。

「ああっ、サキト様!もう溢れそうですよ!」

「えー?まだいけるよぉ…」

 ゆらゆら震える生クリーム。どこをどう注意したらいいのか、イルマリネは分からなくなる。ただ、かろうじて言えるのは。

「食べ物で遊ばないようになさい…」

 グラスに差されたミニサイズのケーキを見て、絞り出すように二人に言った。

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