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エターナル  作者: 樫 あひる
王都 ベルニカ編
7/12

出会い

気付くと空は満天の蒼がひろがっている。鼻で息を吸うと緑の匂いが、そして地面は石タイルの道が続く。建物は道と同じく、石を主流とした造りとなっており、遠くにそびえるお城は正に石造りの象徴とさえ思える。


日本でも、ましてや外国にはない場所だと思う。


――これが、エターナルの世界・・・。


先程まで着ていた服ではなく、ボロボロの無地の服を着込んでいる。これがゲームの世界の服装か。


手足を動かしてみるが、別にどうってことはない。むしろ、軽やかに動く。


「久し振りにやってみるか」


思い切り跳躍しながら、腰を捻り、蹴りを思い切り繰り出してみる。


『ビュン』と、鋭い風の切る音。


久し振りの回し蹴りではあったが、昔に鍛えていた時のような身体の切れだった。絶対に鍛えていないと、ここまで回転のある蹴りは出来ない。


完全に五感と共感していたが、それ以上の身体能力となっていた。


しかし、どうすればいいんだ――。


辺りを見渡すと、周りは芸楽団や、道に一面と立ち並ぶ市場の数を見ると、とても賑やかな活気の姿にここが大都市だと感じられる。しかしこの絶賛大盛況な状況は、逆にどっちに行けばいいか解らない。


「そこの君、困っているみたいだね?」


「えっ?」


後ろから声が聞こえた方を見ると、二人の男が笑みを浮かべて立っていた。二人の格好は大剣を背に全身鎧を纏った男と、全身黒いローブを着込んだ男がいた。幻想世界の出立ちに見えるが、妙にこの街の景色に似合っていた。


「見たところ『第三勢力』だろ?」


「第三勢力ってなんですか?」


初めて聞く言葉だった。


「君たちみたいな借金がある人たちのことだよ。そしてゲームに精通している人たちが『第一勢力』で、やくざみたいに何をしでかすかわからない人の事を『第二勢力』って呼んでいるんだよ」


だから『第三号室』に集められたのか・・・。


「あっ、もちろん、僕たちは『第二勢力』のようなタチの悪い奴らじゃなく、『第一勢力』と言われている只のゲーム好きだから」


自分で言うほどだから、確かに人相は悪くなく、常にニコニコしている。


「何で自分に話しかけてきたのですか?」


辺りにはちらほらと自分と似た服の人もいる。


「君は100万ベルンを持っているからね。やっぱりこちらも最初から戦力になる人を勧誘していかないとね」


「勧誘って、どういうことですか?」


「そのままの意味さ、君はゲームをしたことはあるかい?」


コクりと頷く。


「いいかい?こういうRPGロール・プレイング・ゲームっていうのは、強い攻撃をする者、サポートする者、回復する者といった具合に、パーティーを作らないと生き残れない。だから、君みたいなベルンを持っている人を勧誘しているんだよ、『タチバナ トシヤ』君」


「なんで俺の名前を知っているんですか!?」


誰にも名前は教えていない。なぜ、分かったんだ?


「簡単だよ。メニュー画面と五感は共感しているんだ。だから僕のステータスを見たいと強く念じてごらん」


そういわれた通りに二人のステータスを分かるように強く念じると、案外簡単にそれは出た。


頭上にはHP、MP、そしてローマ字で書かれた名前が分かり、その横にはステータス画面が出ていた。ステータス画面にはお金の金額も記載されていた。


「わかったかい?」


「分かりました。こんな大事なことを教えていただき、有り難うございます」


「なに、少しでも仲間を作っておいた方が生き残りやすいからだよ」


終始、この人は常に微笑みながら教えてくれた。この人なら信用できそうだ。


「おい、早くしようぜ」


すると今まで無言で俺たちの話しを聞いていた戦士の男の人が話しに割って入ってきた。


「そうだね、よし、タチバナ君、今からこの街の事を教えてあげるから今から行こうか?それに装備や職業選択もしないといけないしね」


「えっ、良いんですか?」


何をしたらいいのかわからなかったので、この話しは願ってもないことだった。


「何度も言っているだろ?」


そう言い、手招きしながら歩き出す。俺はこの人たちの後をついていく。


歩きながらこの街並みを見ながら思うことは、


「ここって何なんですか?凄い中世の街並みっていうか、なんていうか・・・」


「ここは『王都 ベルニカ』。ちょっとこの街の事を調べたんだけど、ここって王様が治めているらしいんだ。だからそれもあって、この街は兵士が治安を守っているんだ。兵士って言ってもNPCなんだけどね。だから、この街の中では、プレイヤー同士の戦闘は隠れてしなくてはならないんだ」


「という事は、喧嘩両成敗みたいな感じで両方に攻撃してくるんですか?」


「いや、そういう訳ではないらしいんだ。一番悪い奴、つまり、先にプレイヤーに攻撃を加えた者に攻撃をするらしいんだ。しかもその兵士たちは一人一人のレベルが最低でも三十以上あって、今の状態じゃあ誰も倒せないんだ」


もちろん、俺はレベル1だし、さっき教えてもらった通りに二人のステータスを見たが、レベル3だった。現状、チートキャラは名もない兵士達という事か・・・。


「だからこの街で、いわゆる『人間同士の殺し合い』っていうのは出来ないってことだよ。あっ、こっち、暗いけど近道だから」


広い表通りから建物の間の路地裏へと入る。言われたようにその道は太陽の明かりはあまり透らなく、三人並んで歩けるほどがやっとだった。


「そうそう、さっきの話しの続きなんだけどね・・・」


先頭を行く愛想の良い魔術師のお兄さんが歩きながら話しかけてくる。そして不愛想の剣士は俺の後ろを歩いていた。


「NPCも食事もすれば、仕事もするし、ケンカもする。つまりこの世界で、NPCも僕たちと同じ意志の元で行動し、生活しているんだよ。ここまではわかるかな?」


「つまり人間の意志をもったコンピューターってことでいいんですか?」


「解りやすく言えばそんな感じ。それでだ、ここからが本題なんだけどね、当然兵士も感情を持っているんだよ。真面目な兵士や、やる気のない兵士とか、それと・・・」


立ち止まり、こちらを振り向いた。


「金にがめつい兵士とかね」


直後、背中から強烈な力が俺を襲った。その圧倒的な力は自分の体を勢いよく壁に叩きつけた。


な、なにが、起こったんだ。――


「簡単に知らない人についていったらだめだよ、タチバナ君」


その声にやっと、自分がどんな状況に置かれているのか理解できた。


前を歩いていた魔術師のお兄さんは嫌な笑みを浮かべこちらを見据え、剣士の男は俺の体を力の限り動きを抑制していた。その場から振りほどこうにもびくともしないその力は、様々な人と武術の試合をしていたが初めての体験だった。


「無駄に決まっているだろ。たかが何の職業ジョブについていないお前と戦士とじゃ、圧倒的に力の能力ステータスが違うんだよ」


ゲームの世界とはいえ、完全に掌握された自分の体に絶望が募っていく。


「な、ぜ・・・?」


「君のお金を奪うからに決まっているじゃないか。だからこんな路地裏に連れてきたんだよ。もちろんこの辺りに巡回している兵士は、お金にがめつい奴だったからうまくこちらになびいてくれたよ。だから今僕たちは、この地区辺りは平民に見られない限り、何をしても大丈夫なのさ」

淡々と説明する言葉に憤りを感じると共に、どうするか考えるが何も思い浮かばない。


「考えても無駄だよ。だから、とっとと・・・」


魔術師は豹変する。


「金よこせや!」


その罵声に気が動転してしまう。


金を渡さなくては。――


「早く、メニュー画面のトレードを選んで、金を俺に渡す様にしろ。断った瞬間、お前のHPが尽きるまで攻撃を加える」


戦士の力が一層、強くなる。


「わ、わか・・・った」


そういうと、メニュー画面からトレードを開けようと、右手を画面に近づけようとした瞬間、僅かに太陽の光が灯していた場所だったが、その光が遮断される。


「諦めちゃダメだ、少年」


その声の主は顔を布で顔を隠し、空から颯爽と現れた。正にその登場場面は『正義』そのものだった。地に着く前に、ナイフを悪漢共に投げつける。


「ぐあっ」


「なんだ、か、体が動かないぞ」


ナイフが二人に突き刺さり、俺を抑えていた男の力が弱まった。


「時間がない、私について来い、少年!」


その声の主に従うように、自分の行動を抑え込んでいた男の腕を振りほどき、その後に続く様に逃げる。



「まて、コラ!」


後ろから怒声が聞こえてきたが、構わず走り駆ける。前に走る人を良く見ると、身長が自分の胸ぐらいしかなかった。こんな小さいからだで自分を助けたのかと思うと、感謝よりも尊敬の心の方が大きかった。そんなことを考えてながら走っていたら、もう少しで明るい光が見えてきた。


もうすぐで出口・・・。


やっと裏路地に逃げられたが、その先は出店が立ち並んでおり、人が肉壁となって移動するのができないほどだった。


「どうするんですか?」助けてくれた人に尋ねる。


「・・・・・・・」


無言のまま、その場に立ち尽くしていた。恐らくこの場をどう乗り切るればいいのか、深く考えているのだろう。


その姿を見て、何も思い浮かばない情けない自分が嫌になる・・・。


「手を貸そうか?」


「えっ?」


その方を見ると、タバコを咥え、住宅の壁にもたれかかっている男がいた。


「一部始終は見させてもらったが、そこのちっこいのが使った盗賊シーフの攻撃スキル、麻痺剣ボルト・ダガーの硬化時間は3秒間、早く決めないとここに来るぞ」


小さな英雄ヒーローが決断する。


「・・・いくらだ?」


突如、二人の交渉が始まる。


「五千でどうだ」


「高い、3つだ」


「まあいいや、ここに入りな」


指さした木箱の中に入る。中に入ったは良いが、感じたことは、


「・・・・狭いね」


「・・・・狭い」


「あっ、こんな所でなんだけど助けてくれてありがとう。俺の名前は、タチバナ トシヤっていうんだ。君の名前は?」


「トオヤマ ユキホ。気にすることはないさ」


「ユキホって、君、おんなのこなの?!」


女の子で、しかも自分の胸ぐらいしかない身長しかない年齢の子に助けられた俺って一体・・・。


「静かにしないか」


しかも怒られたし・・・。


「あいつら、どこ行きやがった」


外から声が聞こえてくる。あの人は本当に言いくるめてくれるのか・・・?



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