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早朝、三輪さんが迎えに来た。
「場所を特定されてはいけませんのでこの目隠しで着用をお願い致します」
黒一色の目隠しで目を覆い隠し、車に乗り込む。
「本当に挨拶をしなくてよろしいのですか?」
「昨日、済ませましたので…。それより例の件は大丈夫だったでしょうか?」
ゲームに参加するに至って一つの条件を付けた。条件とは事前に1億円貸し付けることだった。もしもダメだったとしても参加していたのだが、どうしても早く手術を受けさしてやりたかった」
「そのことならご安心ください。既に九千五百万円はドイツの病院に振り込んでおきました」
そのことを聞いて安堵した。これでもう思い残すことはない…。目隠しが仄かに濡れてくる。
「しかし、これで逃げは出来なくなりましたよ」
「覚悟の上です」
拳をギュッと握りしめる。
「……よいですね」
「何か?」
「いえ、何も。朝、早かったでしょう。少しでも眠ってください」
三輪さんは仕事で俺に優しくしてくれているのは仕事だからなのか?そう考えながら三輪さんの優しさに甘えて眠りにつく。
体を揺さぶられる。
「起きてください、立花様。着きましたよ」
目隠しを取ると、三輪さんが運転を止めて、体ごとこちらを向いていた。
「長い距離の運転、ありがとうございました。おかげでよく眠れました」
「それはよかったです。では、こちらです」
三輪さんは笑顔を見せると後部座席のドアを開けてくれる。その開けてくれたドアから車から出ると、外を見渡す。
何かの建物だった。三輪さんが歩き出す方へ向かうと、自分と同じようにいろんな人がぞろぞろと同じ方へと歩いていた。しばらく進むと、前方に大きな楕円形の形をし、薄暗い夕焼け色が灯っている出口が見えた。その出口へと人が吸い込まれていく。外へ出る。
眼前にまず捉えたのは、大きなドーム型の建物が見えた。後ろを振り返ると、自分たちがいた場所はフェリーのような大型船だった。つまりここは、島だとすぐに直感してしまう。
「あれが今回のゲーム会場です。さっ、いきましょう」
三輪さんは動じず、歩き出すが自分は、都市に平然と立っていそうな建物がこんな人気がなさそうな島にポツンとある光景に不快感が募る。それだけ『神代グループ』は資金が潤沢にあるに違いない。
建物の前まで進むと何人かの人がいて、検問が出来ていた。
「参加証は?」
警備の格好をした大男が近寄ってきた。三輪さんはスーツケースから紙を取り出し手渡す。
「よし、行っていい」
警備員は首で差した。
「立花様、私はこれまでです」
「三輪さんどうもありがとうございました」
「いえ、私は何も。これからは立花様が良い未来を勝ち取るのを祈っております」
「はい、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。
「では失礼致します。何かあれば電話を頂ければいつでもお話しをお聞きしますので」
三輪さんは来た道を戻っていく。その背中にもう一度、頭を下げる。
前方の入り口をもう一度見る。これからは一人で行かなくてはならなかった。
扉の中を見ると、建物の中は白を基調としており、所々に観葉植物、休憩場所、飲食類の自販機があり、最先端の娯楽施設のような雰囲気だった。
先程、三輪さんに渡らせた紙には、『第三号室にお入りください』とその下にはその場所の地図が書かれていた。その場所に向かう途中に第一、第二号室があったが、その扉は大きく、両部屋に入っていく人はとても多かった。その人の中には、女の人や自分よりも年齢が低そうな子供もいた。
色々な人が参加するんだとこの時は、軽い気持ちでいた。よく考えていれば、何故こんな簡単に金を貸してくれたのだろうとよく考えてもよかったと思う。