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エターナル  作者: 樫 あひる
nai
2/12

立花 俊哉の十年間の人生はとても裕福だった。貸しビルに空手の道場を経営していた父の影響もあり、気づいた時には空手を習っていた。


母と妹は体が弱く、父から、『俺がいなくなったら母さんと杏の事をしっかりと守れるようになれ』そう言われて必死に鍛錬を重ねて、十歳の時には全国大会に優勝してしまう実力者になっていた。


『息子さんの所はとても強いですね』


父親を取り巻く人たちはとても俊哉の事を褒めたが父だけは一切褒めなかった。ただ寡黙に練習に付き合うだけであった。


褒めてもらえないが自分が強くなっている。母や妹を守れるような男に近づいている。父に言われた所まで来ている。そう思えて嬉しかった。


何不自由ない家族。しかし、それも長くは続かなかった。あとの五年間は地獄だった。


きっかけは母の死だった。


心臓の弱かった母の死に、父は覇気を無くした。酒に逃げる毎日。あれだけ大きかった父の背中はすっかりと小さくなっていた。


 そんな父を見ているのが嫌だった。俊哉は辞めさせようと罵倒したが、父は暴力でそれを抑制した。

 

 所詮、子供は子供、父を止めることが出来なかった。


 情けない。無力な自分。


 情けない。弱い父親。


 ある日突然、その父が止まった。

 

 転落事故だった。いつものように酒に酔っている父が歩道橋の階段を昇っている最中、足を滑らして地面に叩き付けられた。


 即死だった。


 あれだけ強かった父はあっけなく逝った。


 二人残された俊哉と妹の杏は話し合いの結果、親戚が別々に引き取ることになった。


 『やれやれ、面倒くさいのを残して逝きよったわい』


 『生命保険で金は有るが、学校に通わせるとなると損するじゃないか』


 そんな親戚の陰口が聞こえてくる。


 悔しかった…。俊哉が空手で優勝していたころは笑顔を向けて、こちらに寄ってきたのに今は何だ…。


 人とはこんなにも醜いものなのか…。俊哉の心に悲しみが募る。


 そんな時、ある言葉を思い出す。


 『俺がいなくなったら、母さんと杏を守れる男になれ』


 ――杏と二人、一緒に暮らします。


 周りは出来ないといった。しかしやり遂げたいと思った。父と交わした約束を全うしようと決意した。


 二人の生活は大変だったが、父と母の保険金とバイトなどで何とかやっていけた。


 しかし長くは続かなかった。杏が心臓の病で倒れた。


 医者から治すにはドイツにいる人しか治せないといわれた。


そして金は一億必要だと……。


その為にはどうしても金がいる。心を修羅になり犯罪に染めようかと何回も思っていた。そのたびに思い浮かぶのは妹の笑顔と父の言葉、そして自分が決めた決意。


だからできなかった。思い悩んだ時にきた、あの誘い。


 やるしかない。そう心に誓っていた。


「どうしたの、おにいちゃん」


 そう考え込んでいるときに、病室のベッドに横になっている少女が、俊哉の顔を覗き込む。妹の杏だった。


「ああ、すまん、杏、ちょっと考え事していた」


「それってあしたのこと?」


「ああ、そうだよ。ちょっと明日は早いからな」


 俊哉は妹の杏には他県で就職するから、なかなか会うことが出来ないといっていた。最初は凄くわーわー駄々こねていた。しかし自分の為だと知っているので、最後は了承していた。


 しかし就職の話しは嘘だった。本当は『ゲーム』に参加する為だった。だから最後にと妹に会いに来たのだ。


 「杏」


 俊哉は妹の名前を呼ぶ。


「なあに、おにいちゃん?」


当分、返してはくれない返事を心に刻む。


「必ず帰ってくるからな」


そして絶対に助けてやるからな。心の中で決意を込める。


真面目な顔で話す俊哉に杏はおかしいなと思うが、しかしいつも助けてくれる兄の言葉に心が和んだ。


「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」


少女の心は兄を信じていた。




 


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